ウマ娘―――。
彼女たちは走るために生まれてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。
それが彼女たちの
だが、この世界に生きる彼女たちの未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。
▼20XX年6月XX日(日) 阪神レース場 第11R
『タイトルホルダー先頭だ! タイトルホルダーが先頭に立った! ヒシイグアスが二番手追い込んでくるが差が縮まらない! 三番手争いはディープボンド、外からデアリングタクト! マイネルファンロン! しかしタイトルホルダー先頭だ! タイトルホルダー先頭で今、ゴールイン! 競バ界のエースは私だッッッ! タイトルホルダー!!』
私はいつの間にか固く握りしめた両手を解きながら、スタンドからバカ弟子の勝利を見届けた。かつて私が惨敗したレースを呆気なく快勝した彼女の姿は、かつて切磋琢磨した友人の輝きを思い出させるほどに眩い限りだった。
いつまでもバカだ弟子だと言っておきながら、実績は既に彼女のほうが上であることには自分も彼女も気づいている。だがこの関係が崩れないのは、一重に彼女の明るさと純粋さに甘えているのだろうと確信している。
「―――よお、アンタも来てたのかい」
「アマさん……」
振り返るとかつて美浦寮長であった『アマさん』ことヒシアマゾンが腰に手を当ててこちらを向いていた。
「いやーイグも良い勝負したんだけどねえ、菊花賞、有マ記念、春天、ノリにノッてるレース界のエース様には届かなかったよ」
「今日は高速展開に持ち込めたタイホが一枚上手でした。スロー展開からの末脚勝負になっていたら、わからなかったですよ」
「そうさせなかったのが、強いってことさ―――。ヒェッ……こいつぁとんでもないタイムが出たねえ」
赤い『レコード』という文字とともに“2:09:7”という数字が電光掲示板に表示されると、観客席から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
ヒシアマゾンは感嘆と呆れを交えた溜息を一つつきながら、こちらへ問いかけてくる。
「――これでタイホは唯一無二、誰もが認める日本総大将だ。次走は決まってるのかい?」
「凱旋門を目指す、と。“お母さん”が叶えられなかった夢は私が叶えるんだ、と言っていました」
「想いを乗せて走るウマ娘は強い、か―――。じゃあ私はイグを慰めに行ってくるよ。アンタも控室まで行くかい?」
「いえ、私は帰ります。後は彼女のトレーナーの領分ですので」
「そうかい……。あばよ、
「ええ、また」
私はアマさんの快活な後ろ姿が雑踏の中に消えていくのを見送る。既にレースを引退して指導者となった私であるが、引退してからというものの体調を崩すことが多くなった。先年などいきなり血を吐いて死にかけた程だ。
幸いなことにバカ妹が咄嗟に駆けつけてくれたから助かったものの、いつものように出遅れ癖をかましていたら今頃私は死んでいただろうということは担当してくれた医師から聞いた。
その後病室でエアグルーヴ先輩からの説教を聞くことができたのもアイツのお陰と思うと腹が立つが、こうして最後の弟子の晴れ姿を見ることが出来たことについては少しばかり感謝している。
何ガロンものウマ娘の血と汗と涙が染み込んだターフは、初夏の日差しを受け青々と茂っている。そのターフの上では緑と黄色を基調とした勝負服に身を包んだバカ弟子が観客席に手を振りながら地下バ道へ消えていこうとしている。あの地下道は『行きはよいよい帰りは怖い』、まさに地獄の門への通り道だ。私は秋華賞の後、京都レース場のあそこを通った記憶が今でも思い出せない。
今日、わざわざ阪神レース場に来たのはバカ弟子のこともあるが、もう一人気になる子が居たことも理由にある。
デアリングタクト。一昨年、無敗でティアラ三冠を達成したウマ娘だ。
彼女は無敗三冠を達成した翌年、怪我で一年間療養せざるを得なくなったのだ。先月開催された怪我明けのヴィクトリアマイルでは、嘗ての輝きの燃え殻を努力と根性で無理やり火を点けたような走りで6着となっていた。今回の宝塚記念も最後、粘るプボを根性で躱して三着に滑り込んでおり、周囲の古参とみられる彼女のファン達は感動でむせび泣いている。
ティアラ三冠は彼女で6人目である。メジロラモーヌ先輩が達成してから暫くは達成する子が出なかったものの、あの子が取ってからはアパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ、そしてデアリングタクトと傑出したウマ娘が続いたが、無敗で達成したのはデアリングタクト、彼女ただ一人だ。
ティアラ路線を走る子は比較的直ぐにドリームに上がったり指導者になったりすることが多い。ケガなんかがあれば酷くならないうちに引退することも稀ではないが、彼女はこれからも走り続けるらしい。大胆で、気高い彼女によく似合っていると思う。
どうか、彼女にもあの子の祝福がありますように。
私の同期で、ライバルで、親友であったティアラ三冠ウマ娘。
誰よりもレースを愛し、人を愛し、そして誰からも愛され、虹の橋を渡ってしまったあの子―――
スティルインラブのご加護がありますように―――
アドマイヤグルーヴのトレーナーは……
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ユタカさんでしょ
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おハナさんでしょ
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沖トレでしょ
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桐生院さんでしょ
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オリトレでしょ