まだ君のことを愛してる   作:桜霧島

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4周年こそマイちゃんが実装されると信じてる。
オルフェ? ビリーブ? デュランダル? 知らない子ですね……。
あ、スティルインラブは1天で完凸しました。やはり二次創作が徳を積むには最高だね。




刀折れ矢尽き

 

▼20A3年10月19日 アドマイヤグルーヴ 京都レース場 天候:晴れ 良

 

 

「―――いいかい、アドマイヤグルーヴ。君の勝機は最後の直線に入ってから。下り坂の勢いをそのままに、多少外を回ってもいい。バ場の真ん中どころの状態が良いところをズドンとぶち抜く、これしか無い。スティルインラブはこれまでのどの状態よりも仕上がっているぞ」

「はい、わかっています」

「じゃあ、頑張っておいで」

 

 トレーナーのアドバイスを聞き、控室を出る。カツカツと廊下を歩く音が響く。

 

 ティアラ三冠の、最後のチャンス……。調子は絶好調。先月のローズステークスの出来を上回っている……と自分では思う。走るメンバーも、有力な人気バは一通り一緒に走っているので、手の内も読めている。逆に私の手の内も読まれているということでもあるが。

 

 

トーセンリリー
ピースオブワールド
オースミハルカ
メイショウバトラー
マイネサマンサ
レマーズガール
ヤマニンスフィアー
レンドフェリーチェ
チューニー
10アドマイヤグルーヴ
11メモリーキアヌ
12ミルフィオリ
13スターリーヘヴン

14ヤマカツリリー
15タンザナイト
16ベストアルバム
17スティルインラブ
18タイムウィルテル

 

 

 

《―――10番、アドマイヤグルーヴ。一番人気です。》

《良いバ体、良い表情をしています。ローズステークスと変わらない出来栄えです。好成績は間違いないでしょう》

 

 

 好成績ではダメなんだ。何としてもここでG1勝利を……!

 

 

《―――17番、スティルインラブ。注目のティアラ二冠バですが、二番人気となりました》

《前走の調整ミスが人気に響いているのでしょうが、侮れないですよ。前走ローズステークスとは打って変わって、調整は万全のように見えます。メジロラモーヌ以来のティアラ三冠へ向けて果たしてどうか》

 

 

 図式はまさに1vs1vs16。私をマークするウマ娘、アイツをマークするウマ娘、それぞれの思惑がパドックから交差している。

 私とアイツを睨みつけるような視線が煩わしい。

 

 大衆の視線から逃げるようにパドックを終え地下バ道に移動すると、私を待つように静かに笑みをたたえたアイツが立っていた。昏く澱んだ瞳に一筋の光が差している。

 

「……今日こそはお前に勝つ。エアグルーヴ先輩でさえ出来なかった三冠など、お前に獲らせるものか……!」

「『嫉妬すら追いつかない。憧れすら届かない』」

「―――!?」

「今日、私は貴女に勝ちます。世代最強は貴女ではありません。確かに受け継いだ才能、背負った期待は貴女の方が大きいのでしょう。ですが、私の”愛”の大きさには追いつかせない、届かせない」

「”愛”……?」

「そう、レースへの愛、私自身への愛、貴女たちライバルへの愛、そして私を見出してくれたトレーナーさんへの愛……」

「私だって負けない、女王の座に就くのは私だ! 桜花賞の借りを、オークスの借りを、まとめて返してやる!」

「それでこそ私が目標と定めた唯一のライバル(獲物)ですわ……。しかし私も研鑽を重ねてきました。あの方と共に、いくつもの愛を重ねてきました―――」

 

 お互いの視線が交差する。こうやって視線を合わせるのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 私は負けることが怖かったのだ。そして彼女に負い目を感じていたのだ。ずっと、ずっと、私が一番人気だった。負けることでファンから見放されることが怖かったのだ。

 だけど前回、二番人気になりつつも彼女に勝ったことで――彼女は調子が悪かったと言えども――ようやく彼女と正対できる程度には、自信をつけることが出来たのだ。

 

 だからこそ、彼女の狂気を目に収めることが出来る。出来てしまう。それはそれで恐ろしいものなのだ。

 

 普段は感じることの出来ない彼女()の気配が、存在感が、どんどんと大きくなっていく。

 

「―――そしてこの愛を! 積み重ねた栄光を! 私を見出してくれたトレーナーさんに捧げて! ―――私はターフを去るの」

「何をバカな。お前はまだ―――」

「―――げほッ! げェほッ!」

「おい、どうした!? しっかりしろ!」

 

 いきなり彼女が咳き込んだ。喘鳴症というウマ娘特有の病気があるが、それとは違う。血こそ吐いていないが、一目見て命の輝きを削る咳だとわかる。

 

「おい、医者を……!」

「ふふ。問題ないわ……。兎も角、今日、私はティアラ最強に至る。そしてあの人にも、貴女たちにも一生忘れられない傷をつけるの! ……私が生きた証を残すために」

「まさか、お前……!」

「早々諦めるつもりはないわ。でも仕方ないのよ」

 

 『仕方ない』とは言いつつも彼女の目には、諦めたウマ娘のそれとは違う微かな光が灯っている。

 

「きっと、私は貴女と違って”血”を残せない。誰かを導くことも出来ない。でもあの人や貴女たちに今日これから付ける傷は、一生残る。そしてティアラ三冠という称号は永遠にURAに残る……!」

 

 狂気を孕んだ目である。

 

 だが彼女は本当に狂っているのだろうか? 私と彼女、何も違いがありはしない。目的は違えど私も彼女も同じくレースで結果を残すことに狂っているのだ。

 

 私はようやく彼女が苦手な理由に気が付いた。同族嫌悪なのだ、これは。

 

「―――良いレースにしましょう、愛しいアナタ」

 

 そして私は彼女のことが少し羨ましくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阪神京都の軽快なG1ファンファーレが淀の水面に乱反射し、青く高い空に吸い込まれていく。

 その音を聞き届けると、誘導員に促されスティルインラブを含む奇数枠の子がゲートの中に入っていった。

 

(相変わらずゲートは苦手だ……)

 

 枠入りは順調に進み、続いて偶数番のウマ娘がゲートに進む。私は一つかぶりを振って大きく息を吐き、ゲートに進んでいった。

 どうやらハルカがゲートを嫌がっているようだ。救いようがないが、他バが失敗しているところを見ると逆に落ち着ける。

 

 

 ―――アド姉はこの程度で終わらないと私は知っているからです。

 

 

 あの子はそう私を信じてくれている。なら、私が私を信じられなくてどうする!

 

 

《―――少々トラブルがありましたが、各バ、ゲートインが完了。誘導員が離れて―――スタートしました! アドマイヤグルーヴも出ています! アドマイヤグルーヴも出ています! 各バ、揃ったスタートでこれからメインスタンド前を通過していきます》

 

 

(うるさいっ! 二度も強調するな! それが普通なんだよ!)

 

 頭の中で実況を怒鳴りつける。今日もリリーが先頭をかけていくと思いきや、今日は他の子に先手を譲るようだ。ローズステークスと同じ展開―――私やアイツに差し切られることを懸念しての温存策だろう。私は少し前を行くスティルインラブの背後から虎視眈々と隙を伺っていく。

 

 

《ローズステークスとは打って変わって、ヤマカツリリー、今日は先頭集団の中で控えます。第1コーナーを回って先頭はマイネサマンサが引っ張る形。その2バ身後ろにチューニー、ヤマカツリリーが続きます。注目のスティルインラブは中団やや前目でしょうか。その後ろ、一番人気のアドマイヤグルーヴと同じような位置を走っています》

 

 

 実況は淡々としているが、バ群の中は牽制が飛び交っている。主に私とスティルインラブに向かって。

 領域を出してくる子はいないけど、位置取り、視線、息遣い、その全てが意味を持っている。私たちの前を行くリリーだって時折振り返りながら私たちの消耗具合を確認している。

 

 そんな私もまた淡々と奴の背後につけながら足音を使ってプレッシャーを与えていくが、スティルインラブは薄い笑みを浮かべながら怯むことなく流れに乗っている。

 こういうのを膠着状態と言うのだろう。これは些か無視できない、良くない状況だ。

 

 また問題はもう一つある。先頭を行くマイネサマンサに鈴をつける子がいないのだ。このままでは気持ち良く逃げ切られてしまう可能性さえある。スティルインラブは―――

 

 

「喰ラウ、喰ラウ、喰ライ尽クシテヤル……!」

 

「!?」

 

 

《各バ、向正面に入って隊列変わりません。間もなく第3コーナーを回って……いや、スティルインラブが仕掛けたか!? 坂の下りで一気に加速! バ群の外を回って加速していきます!》

 

 

 しまった―――コーナーに差し掛かり意識が先頭に向いた瞬間、奴に先手を奪われた……!

 

「チッ……はぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 気炎万丈。私もまたコーナーでスピードを上げ、下り坂を利用して差し切り体制に入る。

 

 

《第4コーナーを回って直線向いた! 先頭はマイネサマンサが粘り込みを図る! しかし大外からスティルインラブが来た! スティルインラブが来た! そして、そしてアドマイヤグルーヴが追走! やはりこの2人なのか!?》

 

 

 奴の燃え盛るような領域が辺りを包み込む。敵も、自分も、全てを燃やし尽くして輝く光。

 私も対抗するように自身の領域を繰り出す。

 

 アイツの赤と、私の青がぶつかり合う。

 

 熱く、冷たく、光と、影と。

 

 一歩ずつ……いや、半歩ずつ奴との距離が縮まる。

 

 あと少し。

 

 あと少し。

 

 あと少し。

 

 あと―――

 

 

《坂の頂上、スティルインラブ、完全に先頭を捉えた! アドマイヤグルーヴが差を詰める! しかし! あと1バ身が縮まらない! スティルインラブ先頭! スティルインラブ先頭! アドマイヤグルーヴ2番手! スティルインラブ、見事牝馬三冠を達成しましたぁぁぁッ!》

 

 

 私の影が奴に並びかけようとした瞬間、そこがゴール板の前だった。

 

 

 

「ウフフフフ……食らって、食らって、食らい尽くしてやりましたわ……」

 

 

 

 どこか遠くでケモノが哭いている。

 

 

 

 

 そして私は光を失った。

 

 

 

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