まだ君のことを愛してる   作:桜霧島

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 アヤベさんのキャラソンが一番好き



“アドマイヤ”

 

▼20A2年4月2日 アドマイヤグルーヴ

 

 

 今日から通常授業が始まった。リンとは別クラスになってしまったから一抹の心細さはあったけど、学校でもあの顔を拝むとなれば四六時中一緒に居ることとなってしまうので、それはそれで良かったのかもしれない。

 

 授業としては初日ということもあり、はじめはホームルームだった。ここでは各種委員会に所属したり学級委員長を選んだりするんだけど、何故だか私はウチのクラスの学級委員長に任命されてしまった。こんなコミュ障に片足突っ込んだウマ娘に対して何の罰ゲームだとは思うけど、クラスメイト曰く『うちのクラスで唯一の名家出身で、幼少期から賞レースでも優勝している実力あるウマ娘。これで学級委員長じゃないなら誰がなるっていうのよ』だそうだ。

 

 そういう彼女―――『リリー』ことヤマカツリリーもそこそこの家の出身だと思うし、何より私よりずっとコミュ力が高い。彼女こそやるべきではないだろうか。

 あるいはあそこで物憂げにじっと座っている鹿毛のウマ娘だって―――名前は忘れたけど―――確かお姉さんが『和製ラムタラ』と呼ばれたダービーウマ娘であり、実力ある一族だったはずだ。

 

 そんな抗議の声はリリーによって一蹴された。

 

「はぁ? 悔しいけど、あたしたちよりコミュ障に片足突っ込んだアンタの方が人望あるって言ってるのよ。いいから黙って受けときなさい。それに、学級委員長なら生徒会とだって近いはずよ。アンタ、エアグルーヴ先輩に憧れてるんでしょ? 仲良くするにも研究するにもちょうど良いじゃない」

 

 そんなものなのか。というか、私の事を良く知っているね。

 

「だーかーらー! この中ではジュニアでアンタに勝ったことのあるウマ娘なんていないのよ! いい加減、一般人面は止めてよね! アンタ、同級生の中では狙われる側の方なんだから」

 

 わかったよ。しかしリリーは気は強いし口も悪いが、面倒見が良いというか、何というか『お母さん』味があるね。

 

 でもさ、一言だけ言いたいんだ。

 

 私以上に一般人を装っているのは、私の隣席でニコニコとこちらを見ている『コイツ』なんだ。『私、楽しんでます』みたいな顔してるけど、目の奥が笑っていないのよ『コイツ』。

 

「ふぅ―――何をニヤニヤと見てるのよ、スティルインラブ」

「私のことは『スティル』って呼んでよ、『マイ』ちゃん♪」

 

 そう、『コイツ』ことスティルインラブ―――何の因果でこうなってしまったんだ。

 

「気軽に呼びすぎなんじゃない? 昨日会ったところでしょ」

「あら、マイと私の仲じゃない」

「出会って24時間で進展するなんてどんな仲よ。それに昨日はほとんど貴女がしゃべってたじゃない」

「うふふ、いいツッコミね♪ でもダメよ。『貴女』じゃなくて『スティル』って呼んで」

「―――気が向けばね」

「向けさせてあげるわ」

 

 昨日初めて会ったくせになんなのよ、この距離の詰め方は。このクラスに席替えがあるのかどうか知らないけど、どうか早く席替えをして欲しい。

 

「―――というか、何で私なのよ。ヤマカツリリーだって、あそこの席の娘だって、多分結構実力ある子でしょ」

「『ハルカ』ちゃんね。彼女も美味しそうだけど、そうねぇ―――総合的に見てマイが一番美味しそうなのよ」

 

 周囲に紛れてニコリと笑う彼女だが、目の奥底には昨日見た黒い情念が渦巻いているのが見て取れる。

 

 『深淵を覗くとき、深淵もまた此方を見ているのだ』とはニーチェの言葉であるが、少なくとも今この状況においては正しいだろう。

 

 でも私は彼女の奥底を覗きたいなんて、これっぽっちも思っていない。

 

 

 

 

▼ 20A2年4月8日 アドマイヤグルーヴ

 

 

 

 昨日の桜花賞では地方出身のアローキャリーさんが勝った。地方出身のウマ娘がクラシックを勝つのは非常に珍しい。そもそも昔はオグリキャップさんのように出走することすら困難であった。

 

 地方出身のウマ娘に共通する悩みとしては、実家の支援が受けられないというものがある。

 そもそも地方出身の裕福な家庭というのは非常に稀であるし、経済基盤が地方であるため中央への影響力が限定されてしまうのだ。

 

 世間では『実家とウマ娘の脚は太ければ太いほうが良い』などと冗談めかして話されることもあるが、そんな実家のパワーを私が思い知ったのはチーム&トレーナー選びの時だった。

 無論、実家が太いせいで学級委員長という面倒くさそうな仕事に推薦されることになったのだけど、そういうデメリットを踏まえてもメリットはある。

 私が実家をあまり好きでは無いということを除けば。

 

 この日、私は高等部にいるアドマイヤベガ先輩に呼び止められた。彼女は私が小さなころから所属していたレーシングチームの先輩であり、同じアドマイヤということもあって身近に感じていたが、今や押しも押されぬダービーウマ娘だ。

 菊花賞の時に判明した怪我が治ってから、彼女はオペラオーさんを待つようにドリームリーグに移籍した。トプロさんも年末にはドリームに上がるらしいし、またこの世代の3強対決が見れるかと思うとワクワクする。

 

「アヤベ先輩!」

「―――久しぶりね」

「先輩こそ、どうされたんですか?」

 

 私が訊ねると、彼女は少し言いにくそうな顔をしてから言葉を口にした。

 

「貴女の実家から貴女へ伝えるように連絡があったの―――貴女のトレーナーが決まったわ」

「は? 実家から? 私のトレーナーが? 決まった?」

()()()を指導していたトレーナーよ」

「なんと」

 

 私のトレーナーになったのは、アヤベ先輩やスズカ先輩、そしてエアグルーヴ先輩を指導したこともあるあの名トレーナーだというのだ。

 

 直接私に連絡しなかったのは、まぁ色々と事情があったのだろう。

 あの変人であることでも有名なトレーナーは特定のチームに所属していない。所謂助っ人のような形で様々なチームで指導しているのだ。

 年齢は30代半ばとトレーナー界隈では若手ながら、スピカだとスズカさんにメジロマックイーンさん、食いしん坊先輩を指導したこともあるが、専属というわけでは無い。チームのトレーナーやウマ娘からトレーニングの相談を持ち掛けられる形で都度契約する、ある意味ビジネスライクなトレーナーのハシリと言える存在だろう。

 だけどその実績は圧倒的だ。おそらく殆どのG1勝利を掴んでいるんじゃないだろうか。スズカさんのような逃げ、マックイーンさんのような先行、エアグルーヴさんのような差し、ナリタタイシンさんのような追込、どんな脚質でも指導できる。まさに天才。隙が無い。だからこそ指導依頼が絶えないのだ。

 

 そんな多忙を極める彼は今年の2月に交通事故に遭い、休養も兼ねて入院していたはずだ。私に直接連絡が無かったのは恐らくその辺りの事情が絡んでいるのだろう。実家が彼と交渉したと思うと癪ではあるけど。

 

「でもあのトレーナー、事故で骨折して入院していたのではないですか?」

「彼なら病院を抜け出して第一練習場に居るわよ」

「頭沸いてるんじゃないですかね」

 

 頭沸いてるんじゃないですかね。

 

 そりゃあ、ウマ娘は金になる。G1を勝てば億に近い金が入るし、その一部がトレーナーに流れる。でも彼は既に億万長者の立場に居るし、名声も十分にある。一体何がそんなに彼をターフに駆り立てるのだろう。

 

「うん、多分バカなんだと思う。―――いいえ、絶対にバカ」

 

 やっぱりね。元担当ウマ娘が言うんだから間違いない。

 

「あー……元々変人で有名でしたからね」

「それともう一つ」

 

 言葉を濁しつつ彼女に返答すると、これもまた彼女は苦虫を10匹ほどまとめて噛み潰したかのような顔で言葉を発した。

 

「?」

「貴女の実家からの伝言よ。―――『ここまでやったからにはティアラ三冠のうち一つは必ず獲れ』」

「チッ―――」

「ごめんなさいね」

「いえ、先輩は何も悪くなど」

 

 悪いのはあのクソ親父だ。ええ、ええ、わかったわよ。やってやろうじゃないの。

 あの死神もどきが最大の障害だけど。

 

 アイツ―――スティルインラブの実力は早いうちに見極めないといけない。だけどアイツがターフで走っているところは見たことが無い。授業でも真面目に走っているようには見えないし、相手の実力が見えないというのは本当に恐ろしいものだ。

 

「じゃあ、伝えたから」

「はい、ありがとうございました、アヤベ先輩。先輩もドリーム、頑張ってください」

「―――ありがと」

 

 ほう。

 

 さっきから思ってたけど、アヤベ先輩はかなり丸くなっている。

 

 私がジュニアの勝てなかった一時期、無茶苦茶な走りをしていたのはアヤベ先輩を習った部分がある。あの頃の彼女はもうすぐトレセン学園に入学しようという頃だったと思う。鬼気として身も心も削るかのように誰よりも遅くまで走っていたアヤベ先輩。そんな彼女はもういない。

 

 それはライバルのおかげなのだろうか。それとも、これから私が会うあのトレーナーのおかげなのだろうか。

 

 それとも―――

 

 

 

 答えは夜空の一等星のみが知る。

 





 この世代、リリーってもう一人いるんだよね

 息抜きに書いてるだけなのでアプリのウマ娘ストーリーくらいサクサク進めたい。
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