まだ君のことを愛してる   作:桜霧島

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無料10連が爆死中なので供養のため投稿



Make debut

 

 

 

 実家に紹介してもらった名トレーナーはまさに『流石』の手腕だった。アドバイヤベガ先輩から伝言を受け取った翌日、私は早速彼にアポイントを取り、彼に割り当てられたトレーナー室を訪れていた。

 

「―――失礼します」

「どちらさん?」

 

 ニコニコとした顔ではあるが、この人もまたアイツみたいに目が笑っていない。私を値踏みする眼だ。

 

「あの、実家から連絡があったと思うのですが……アドマイヤグルーヴといいます」

「あぁ、アドマイヤグルーヴね。話は聞いてるよ、ティアラ路線を走るんだったね。君、誕生日はいつ?」

 

 はぁ、最初の質問が誕生日ですか。

 

「4月30日ですが……」

「そうなんだ、ウマ娘としては遅めだね。じゃあ今年デビューするとして、11月辺りかな。それまでは体を作った方が良い」

「はぁ」

「エアグルーヴは入学した時にはほとんど体が完成していたから7月にデビューさせたけどね。君はそこまで体は強くなさそうだ」

「はぁ」

「とりあえず練習メニューを渡しておくね。夏まではこのメニューでやって欲しい」

 

 そう言って彼はドサリと私に紙束を渡した。ちらっと見える限り、週単位で練習メニューが組まれているようだ。

 トントン拍子に話が進んでいる。トレーナーとウマ娘って、何というか、こう、もう少しジットリとしていると思ったんだけど。

 

「トレーニングのやり方がわからなくなったらバレット―――サブトレがこの部屋にいると思うから、いつでも聞きに来るといいよ。今は一人しかいないけど、もう一人いるから」

 

 脇に居たバレットと呼ばれた女性のサブトレがにこりと会釈をする。この人は普通の人のようだ。普通とは言ってもトレーナー資格を持っているだろうから、一般人の中では一握りの優秀者である。

 

「……わかりました。その後は?」

「成長具合を見て決めるから、一学期が終わるころにまた来て欲しいな。まぁ、時間はあるからゆっくりと学生生活を楽しみながらやってくれ」

「わかりました。今後とも、よろしくお願いします」

「はは、固いね。こちらこそよろしく」

 

 私たちは軽く握手を交わし、トレーナー室を後にした。

 

 何というか思ってたのとは違った。だけど考えてみたらそりゃそうだ。マンツーマン指導が出来るほど、彼に時間の余裕は無いんだ。

 

 退室するときにすれ違った鹿毛のウマ娘は同級生だろうか。廊下の何もないところでべちゃりとこけていたけど、何となくリンと気が合いそうな気がした。

 

 それからというものの、私は授業とトレーニング漬けの毎日だった。もちろん、リンやクラスメイトと一緒に出掛けたりすることもあったけど、明確に晩秋のデビューという目標が出来たので、それに向けてやるべきことをやるだけだった。

 

 トレーニングの内容自体は凡そ普通だ。だけど明らかに私の長所/短所を理解したメニューであり、準備期間も短い中でこれだけの中身を作ったあのトレーナーに少なからず恐怖を抱いた。

 高等部で有名なエイシンフラッシュさんのように分刻みとは言わないまでも1時間単位で管理されている練習メニューは、やればやるだけ自分の身についた。これだけやっていて楽しいメニューは今までのウマ娘生でも無かった経験だった。

 

 

 そして季節は春を過ぎ、夏を過ぎ、秋を過ぎようとしていた。

 

 

 全ては順調であったが、相も変わらず私を見て静かに笑みを浮かべている隣席のアイツだけが不気味であった。

 

 

 

 

 ▼20A2年11月10日 アドマイヤグルーヴ 京都レース場 天候:晴

 

 

「さて、アドマイヤグルーヴ。とうとうデビューだ」

「……そうですね」

 

 自分が緊張していることはわかっている。多少、筋肉の『おこり』が固い。

 一番人気ではあるが、パドックでは少ししくじったかもしれない。明らかに笑顔が固かっただろうな。

 

「緊張しているようだね。僕が見たところ、緊張具合は周りも似たようなものだ。だけどね―――」

「だけど?」

「君が普通にゲートから出て、走ったら、もう勝負は決まったようなものだよ。圧勝だ」

「……そうでしょうか?」

「そうだよ。君は8枠13番。外から周囲を観察しながら中団に控え、直線で抜けようとする。だけど周囲のウマ娘は京都の坂を超えられない。ズルズルと下がっていき、第3コーナーを曲がるころには君はいつの間にか先団に居る。坂をゆっくりと降りてあとは直線、競り合おうとするウマ娘を最後の坂でさばいて―――はい、お終い」

 

 やけに具体的なレース展開だ。彼がそう断言するなら、私をその気にさせるには十分だろう。

 

「どうして僕が京都レース場をメイクデビューに選んだと思う? どうして坂路練習を中心にさせたと思う? 君の得意な右回りコース、坂を苦にしない脚力づくりをやった、外を回っても苦にしない体力づくりをやった、多少の失敗をしても取り返しのつく1800mの距離を選んだ。その先には―――勝利しかありえない」

 

 彼がどうして天才の名を恣にするのか少しわかったかもしれない。勝つべくして勝つ。当たり前のことを当たり前にやる。奇跡や偶然をあてにしない。そしてそのための努力を怠らない。

 やり口が、話し口が本当に私の好みだ。この時ばかりはこのトレーナーを準備した実家に感謝しようと思った。

 

「わかりました―――いってきます」

「いってらっしゃい」

 

 にこやかに見送る彼の眼は、いつか見た笑っていない眼ではなく本当に笑っている眼であった。既に彼は心の底から私の勝利を確信しているのだ。

 であれば、私がやるべきことはただ一つ。普通にゲートを出て、走って、ゴールするだけだ。

 

 

 

 そして私がこの日、驚いたことは2つ。

 1つは彼がそう言ったその20分後、レースは彼が予言した通りの展開になり、私は2着に1バ身半の差をつけて勝利したこと。

 2つめは、この日12レースあったうち、その内彼が契約しているウマ娘が8レースに出走し、その内の半分が勝ち、その内の一つがエリザベス女王杯だったことだ。

 

 化物め。

 

 

 

・・・・・・Ω・・・・・・Ω・・・・・・

 

 

 

 

 ▼20A2年11月12日 アドマイヤグルーヴ トレセン学園

 

 

 京都でメイクデビューを果たした翌々日、私はトレーナー室へと向かい、彼に面会を求めた。次のレースについて打合せをするために呼ばれていたのだ。さすがの彼も、走り、踊り疲れた私とその日のうちに打ち合わせをする時間的な余裕は無かったのである。

 

 ―――同日に担当する4人を勝たせるなんてことをしてなければ出来たんだろうけどね。

 

「改めておめでとう、アドマイヤグルーヴ」

「ありがとうございました。これもトレーナーの指導のおかげです」

「僕は指導なんてしていないよ。ただ君に合ったメニューを渡しただけ。レースも走っていないし、ライブの準備を手伝ったりもしてない。どうやら僕には()()()()()()()()()()

 

 寒いダジャレを挟みながら謙遜しているが、どうすればいいのだろうか。

 とりあえずお礼だけは言って流しておこう。彼にはダジャレのセンスも無いらしい。

 

《アドマイヤグルーヴのやる気が下がった!》

 

「―――ありがとうございます」

「うん。さて、アドマイヤグルーヴ、次の目標なんだけど―――」

「やはり阪神ジュベナイルフィリーズは厳しいでしょうか」

「そうだね、賞金が足りないからどうしても抽選になってしまうね。僕はあまり気にしていないけど、君の実家の意向もあるから登録だけはしてみるよ。抽選で漏れたらゴメンね」

「いえ」

「ま、漏れたら翌週のエリカ賞だね。2000mと少し長いけど君なら大丈夫だろう。だから向こう2週間は阪神レース場を想定して練習するんだ。メニューは変わらず、渡してある通りにね」

「わかりました」

「ちなみにその次のローテーションは未だ決まってないから、何か希望があったら言ってね」

「はい」

「うん、じゃあ頑張って」

 

 

 

 

・・・・・・Ω・・・・・・Ω・・・・・・

 

 

 

 

 ▼20A2年11月30日(土) アドマイヤグルーヴ 阪神レース場

 

 

 阪神ジュベナイルフィリーズはティアラ路線の登竜門である。残念ながら私は抽選で漏れてしまったので出走できなかったけど、将来のライバルを観察するにはこの上ないレースだ。

 私はエリカ賞に勝てたら次をチューリップ賞かフィリーズレビューを想定しているものの、その辺の時期はおそらく他バを観察している余裕なんてない。だからこそ、こうして仁川まで足を運んだのだ。

 

「マイ、たこ焼き食べよ~」

「何をしに来たと思ってるのよ、リン」

「食い倒れ」

 

 バシン、とリンの頭をはたく。

 

「何するのよ! だいたい、阪神ジュベナイルフィリーズは明日じゃない。何で前日からレース場に来なきゃいけないのよ。せっかくの土曜日なのに早起きさせられるし」

「あなただって早く未勝利を抜けたいからレース場を見ておきたいとか言ってたじゃないの!」

「それとこれとは別!」

 

 同室であり従妹でもあるリンカーンは入学早々にカノープスへ入部したので、私よりも早くメイクデビューをしていた。が、勝ちきれないレースが続いていた。

 デビュー戦は1着と0.1秒差、2戦目もスタートで不利を受けてから追い込んだものの先行バを捕まえきれず2着、12月の阪神レース場で行われる3戦目でも勝てなければ相当実家から怒られるらしい。

 実力はあるのに、イマイチ運の無いやつだ。

 

 リン曰く、彼女の目指すクラシック三冠路線では『ヤバいの』が何人か居るらしい。特に私と同時期にデビューしたネオユニヴァースという金髪の子と、ゼンノロブロイという子は未デビューながらも目立つ存在だそうだ。私も彼女たちは『ヤバい』と思うけど、リンもその『ヤバいの』に含まれているだろうことは言ってあげない。

 

「―――それで、マイのお目当ては誰なのよ」

 

 少しばかり不貞腐れた様子でリンは私に語り掛けた。

 

「スティルインラブ」

「ああ、あの『ヤバいの』ね」

 

 彼女の事はしばしば部屋でも話題に挙げていたし、クラスの中でも目端の利く人はかなり警戒していた。だけど皆に共通している印象として「スティルインラブの実力が見えない」というものがあった。

 

 彼女はどこかのチームに入ることは無く、そして有名なトレーナーと契約するでもなく、新人トレーナーと契約したというのだ。その結果、『実力はありそうなのに何故新人トレーナーと?』という疑問が私を含む警戒していた連中の警戒をさらに引き上げさせたのだ。

 

 それもこれも、あと数分でわかる。

 天候は曇り、バ場状態は良。少し肌寒いが、実力を見るにはこれ以上ない状況だろう。

 

 

 

 阪神3R、メイクデビュー阪神。京都・阪神に特有の軽快なファンファーレが鳴る。

 





独自設定

バレット:元はレースの合間、鞍の準備や着替えを手伝ったりする人。人気ジョッキーはレースの前後、検量や馬体のチェックなどで忙しい。本作ではサブトレーナーという立ち位置で、メイントレーナーのマネージャーを務めているという設定。
沖トレはレースが重ならない限りそれほど忙しくないし、おハナさんは超人なので一人で何でもできる。
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