灰色のルフを創始する者   作:ヤン・デ・レェ

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真相

白龍元年

 

白龍帝が即位後、最初に下した勅命は自身の兄皇子二人の死の真相究明であった。調査のために刑部尚書を秀徳の指揮下に置き、首謀者の捕縛、背後関係の抽出、遺品の整理などが行われた。これは臨時の措置であったが、以後司法並びに警察権の分野における秀徳の影響力は拡大した。

 

調査の結果、首謀者は先帝練紅徳であると判明し、その死の数年前から画策されていた暗殺計画が、秀徳の帰還を機に実行に移されたものであった。事件の背景には練家内部の白氏と紅氏の権勢闘争が存在したが、それに留まらず先帝紅徳の私怨も含まれていることが書簡の文面から判明した。紅徳は配下の暗殺者を賊に変装させ、白徳帝の屋敷に火を放ったうえで襲撃、白雄・白蓮の両皇子を殺害した咎により、諡及びその皇帝号を剝奪され庶人に堕とされ、更に墓は暴かれた後で徹底的に破砕された。

 

実行犯はほとんどが両皇子の手によって返り討ちにあっていたものの存在していたため、帝都洛昌の広場で斬首に処された。

 

白雄・白蓮の遺体、遺品は剣を除いて発見されず、その全てが燃え尽きてしまっていたことが早い段階で判明していた。改めて調査した結果も、既存の判断が覆ることは無く、皇子の剣のみが白龍帝に献上された。

 

白龍は一族郎党へも累が及ぶことを主張したが、これを秀徳が諫めたことで、練家紅氏の存続は保たれた。

 

政情不安定はもとより、皇帝が即位したばかりの状況で兵や貴種からの覚えめでたい練紅炎を始めとした、紅氏の若鷲達を追い詰めてその翼を捥ぐことは、帝国の未来を担う人材を失うという点でも、また国家朝廷を二つに割りかねないという点でも百害あって一利なしとの秀徳の意見が採用されたのだ。

 

これに対して、一部では秀徳による自作自演ではないかとの声も上がったが、他ならぬ白龍帝と、練紅炎・紅明の連名による秀得の関与はあり得ないという公文書により、事件の真相は究明されたとして幕を閉じた。

 

 

 

 

果たして、真相は如何なるものだったのだろう?

 

結論から言えば、秀徳は関与していなかった。

 

否、言い方を変えれば、彼は何もしなかったのである。そして、何もできなかったのである。

 

 

 

 

あの日より早い段階で、秀徳は既に紅徳による皇子たちへの害意に勘づいてはいた。しかし、今後王と成る者を見極めるうえで、彼は敢えて何もしなかった。紅徳にもまた同様である。

 

しかし、結果から言って紅徳の死後、その計画が実行に移されたことは全くの予想であった。

 

秀徳は白氏と紅氏の権力闘争になど興味がなかったが、紅徳による覇道に対しては明確な反意を抱いていた。その為、忠臣玉艶ことアルバに命じて毒殺、影武者を立てて政務を継続させたのである。

 

国内の安定と紅氏への調服策が実行に移せる段階に達すれば、然るべき時に皇帝の世代交代を計る、そのように予定していた。が、実際は紅徳派閥の貴種の独断専行により、暴発的に皇子暗殺事件が起きてしまった。禁軍掌握以前に勃発したこの事件に対応したのは秀徳ではなく、紅徳派閥の将官であり、無論この協力者の援けもあって暗殺事件は起きたという背景があった。

 

このような状況下で、秀徳の判断は明白であった。

 

練家白氏と紅氏、双方の血を遺すことが先決である、そのように彼は判断した。早速、ありとあらゆる証拠を隠滅する為に腹心閻技に命じて皇子達の亡骸を灰にし、またその際に息があり、助けられるようならば助け、助からぬようだったら疾く介錯せよと命じていた。顛末は先の通りであるが、この後の展開は秀徳が予め構想していたものとは大きく異なる。

 

というのも、秀徳としては白氏と紅氏の統合による和解を考えていたのであって、この際、皇位継承権を持つ直系の男児を生かしておくことはその方針と対立するものであった。であればこそ、秀徳は自らの手で引導を渡すべく屋敷へと向かったのであるが…しかし、彼は白龍を殺せなかった。

 

秀徳の思想は単純で、それすなわち安寧を齎すことである。運命の救済の為にも、彼は手始めに煌帝国を先進的な飽食国家に育てることを考えていた。その傍らで抑止力たる武力を蓄積し、魔法技術と非魔法技術の研究開発、そして行く行くはこれら諸技術に支えられた地方分権システムの構築まで視野に入れていた。

 

冷徹な秀徳であれば容赦なく首をとることも出来たかもしれないが、論うなかれ、秀徳は白龍に懐かれていたが故に、手に掛けることを戸惑ってしまったのである。この寸暇の迷いによって、秀徳は目的を果たすことが出来ず、代わりに全身に生涯消えない火傷を負うことになった。

 

何かをしたというよりも、何もしなかったことの報いであると納得し、秀徳に後悔はなかった。一方で、彼の選択によって齢七つにして帝に即位した練白龍の存在が、この世界史に与える影響は日に日に大きくなっていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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