SEA.IF 追憶のエトランジェ   作:宿木ミル

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プロローグ 立ち止まり、生きている意味を考える

 『争い』と『淘汰』が消えた『その後の世界』。

 その中で私は実在していた。

 

「……本来はいなくなるべき存在なはずなのですが」

 

 とあるキル姫を訪ねてみたところ、ロストラグナロクの記憶を持っているという姫がいた。

 獣刻された記憶を持っている普通のキル姫だって存在している。

 それなのに。

 

「私はなぜ、存在しているのでしょうか」

 

 ミストルティン・獣刻・ドリュアス。それが私の名前だ。

 本来のミストルティンとは異なるひねくれ者。愛を求める寂しがり屋。そして、苛烈な一面を持つ存在。

 

「……自分の記憶を辿ると、ろくでもない物語が多いと感じます」

 

 自分が認められることを求めて、必死になっていた世界。

 他者を陥れてでも生き残ろうとした世界。

 自分勝手に行動していたような世界。

 ほとんどの記憶がろくでなしのような印象を感じさせる。

 

「私が生きているということは、本来のミストルティンに記憶が受け継がれてないことになりますが……」

 

 その本人にまだ会えていないから、その憶測がどうなのかはわからない。

 自分の存在価値すら把握できない私は、ただ平和な世界を放浪していた。

 理由はない。

 ただ、自分の存在を確立したかっただけだ。

 

「旅をすれば、なにかがわかるかなんてわかりませんが」

 

 気になることはいくつかあった。

 記憶の中でも関わりが強かったあの『ピサール』に会えるかどうかとか、ミストルティンと巡り合えるかどうか。

 それらだけが気がかりだったのだ。

 町を助け、村の困難を救って褒められても、漠然とした不安が残る私の心残り。

 彼女たちにもし会うことができたのであれば、なにかが変わるのだろうか。

 

「この広い世界で求める方が夢物語なような気がしますが」

 

 歩いていく。

 争いが消えた世界を、私はただ漠然と、不安を抱えながら。

 私がこの世界で生きているということにはきっとなにか意味があるはずだ。

 そう、願いながら私は歩いた。

 春の桜を見つめ、夏の日差しを凌ぎ、秋の紅葉を見届け、冬の寒さに耐える。

 繰り返し、季節を過ごしたある夏の日。

 私の放浪の旅に、新しい風が吹き込んだ。

 

「私と似た少女に出会った……?」

「あぁ、嬢ちゃんによく似た少女が最近までここらへんにいたな。今はどこにいるかわからないが……」

「……居場所がわからないとしても、存在は掴めましたか」

「どうしたんだい?」

「会ってみたいと思っただけです」

「持っている情報はなかなか少ないけれど、お嬢さんの旅が有意義なことになることを願うよ」

「……ありがとうございます」

 

 とある街で掴んだ情報。それは旅の目的に会えるかもしれないという吉報だった。

 本来の自分、ミストルティン。

 彼女に会うことができれば、新しいなにかを掴むことができるかもしれない。

 そう思い、男性と出会った街を離れていく。

 『私』ならどういう生活を送りたいか。それを考えると街にはいないように感じられたのだ。

 落ち着いた自然の空間。

 静かな森のような場所。

 そんな、他人と関わることが少ないような空間に『私』なら行くだろう。

 それを考えた上で、再び足を動かす。

 どこに行くべきか、その行先はわからない。

 だけれども、動き続けた成果はあったように思える。

 

「あら、ミストルティン?」

 

 足を運んだ村。

 そこで、知っているような口ぶりで話す主婦の人がいた。

 

「……『彼女』ではありませんよ」

「そうだったの。似てたからつい、勘違いしちゃったわ」

 

 気さくに笑う主婦。

 その姿から察するに、ミストルティンとは悪い関係ではないみたいだ。

 

「ミストルティンさんとはどういう関係で?」

「私は野菜を売っている農家なんだけれど、よく彼女にお世話になっててね。おまけしたりしてるのよ」

「なるほど。彼女はどこに暮らしているのかわかりますか?」

「それはわからないねぇ、ひっそりやってきて村の外に帰っていっちゃうから、気にしてなかったわ」

 

 この村には暮らしていないものの、近くにいるということになる。

 これはありがたい情報だ。

 

「この付近にいるということですね」

「そうなるねぇ。貴女もミストルティンに会いたいの?」

「そうですね、会ってみたいです」

「貴女もいい人っぽいからきっと会えるさ!」

「……ありがとうございます、頑張って探してみますね」

 

 自分が『いい人』であるかはわからない。

 だけれども、受け取った善意を無下にするほど腐っているわけではない。

 私なりに誠意を示して、主婦の人と離れていく。

 

「さて、やれることはやってみましょうか」

 

 私の知らない村。

 『私』がお世話になっている、村。

 ここなら手がかりが見つかるかもしれない。

 淡い期待を胸に、私は動くことにした。

 私の存在意義を知るきっかけになると信じて。

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