SEA.IF 追憶のエトランジェ   作:宿木ミル

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1.『彼女』の友達

 村で手伝いをしながら、彼女……ミストルティンを探している時間が数日続いた。

 放浪の旅をしているとはいえ、こういう時間も慣れている。失望されないように私なりの誠実さで他者と関わることはできていた。

 しかしながら、ミストルティン本人と出会うことはできていなかった。

 

「食料の備蓄などをしっかり行っていたということなのでしょうか」

 

 少なくとも私ならば、あまり他人と会話するのが好きでないので、必要不可欠なコミュニケーションをするように意識するだろう。

 偶然、私がいまいるタイミングが悪かったという可能性も低くはない。

 村の広場、日陰に入りながら、水分を取る。

 暑い日だ。こういう日をピサールは嫌っていた。

 

「……追憶を重ねるのは簡単ですね」

 

 昔懐かしむのはぼんやりしている時ならいつだってできる。

 夜、眠れない時に考えることもあれば、漠然とした孤独を感じた時に思い出すこともあった。

 この世界になる前の私たちの暮らしは、ろくでもないものが多かったとは思う。だけれども、その中でも安らぎがなかったわけでもない。

 そして、こういう時間を過ごしていると、ふと戦いの記憶が多く存在する私は、存在していいのかという考えにも至る。

 

「我ながらめんどくさいですね」

 

 苦笑しながら、立ち上がろうとする。

 漠然とした不安を考えすぎると動けなくなってしまいそうだったからだ。

 再び行動を再開しようとしたその時だった。

 

「な、ミストルティン!? 村でよく見かけるようになったというのは聞いていたが、まさかここで会うとはな」

 

 キル姫に声を掛けられた。

 通常のキル姫と遭遇することが少なかった私は、彼女のことをすぐに把握することはできなかったものの、ミストルティンのことを知っているというのは態度でわかった。

 

「『彼女』ではありませんよ、私もミストルティンですが違う存在。ミストルティン・獣刻・ドリュアスです」

「獣刻……!? ロストラグナロクのミストルティンってことなのか!?」

「そうなりますね」

「私も身に覚えがあるが……まさかそっちのミストルティンが存在してたなんてな」

「えぇ、私も驚いてます」

 

 獣刻という言葉に反応したということは彼女も同じ技術を使っている存在ということなのだろう。

 他人に興味を示してこなかった私は、獣刻された彼女のことを思い出す。

 彼女はたしか……

 

「ヴォータンさん、ですか?」

「あぁ、そうだ。ヴォータンだ。ここの傭兵をやっている」

「なるほど。……貴女は獣刻の記憶は持ってますか?」

「持っているな。スレイプニルを獣刻されていた」

「そうですか……」

 

 普通はこうなのだろう。

 私の方が珍しい存在なのだ。

 こうなると、あのピサールと合流するのも難しいかもしれない。

 少しだけ気が落ち込んでしまう。

 それでも、立ち止まってはいられないだろう。ヴォータンはミストルティンを知っている様子だった。

 本来の私に会う手がかりになるかもしれない。

 

「ヴォータンさんは、本来の私と知人のように見受けられますが、どういった関係なのでしょうか」

「友人みたいなものだな! 色々あったが、お互いに考えを把握しあえるようになった」

「……友人」

 

 『私』にそういう存在ができるなんて驚きだ。

 他人とコミュニケーションを取ったり、人と話したりするのに迷惑ではないかと考えてしまいがちなのに、友達ができている。

 もしかしたら、今の私よりもしっかりものなのかもしれない。

 

「まぁ、ひとりの時間の方が好きらしいから私はそこまで話し込んだりはしないけどな」

「それでも、ミストルティンと交流が深められているというのはすごいことだと思いますよ」

「自分のことのように言うな、お前」

「分かたれた存在とは言え、自分でもありますから」

 

 苦笑しながらそう言葉にする。

 ひねくれ者の私がミストルティンだというのはなかなか複雑な気持ちだ。

 なぜならば、彼女はもっと素直な人格をしているからだ。私よりもずっと優しい性格をしている。

 

「……彼女に会いたいのですが」

「それは……どうするべきなんだろうな」

 

 ヴォータンが考え込む。

 過去の世界に存在した、淘汰のことを考えているのだろう。

 片方の存在が消える淘汰。それがもし発生してしまうのでれば、それはそれで問題だ。

 私の記憶が彼女に入ってしまうのは申し訳ない。

 

「ひとつの賭けみたいになりそうですね」

「もし、淘汰が始まってしまったらどうするんだ?」

「甘んじて受け入れますよ。私は本来いるべきではない存在ですので」

「……その言い方は複雑な気持ちになるな」

「どうしてですか?」

「姿や生きていた世界が違うとはいえ、お前もミストルティンだろう? そこまで卑下する必要もないんじゃないか?」

「……ヴォータンさんは優しいんですね」

 

 卑下するのは癖みたいなものだ。

 だけれども、その言葉も受け止めるように返答するヴォータン。

 かなりのしっかりものだ。

 

「性分みたいなもんだ!」

「性分?」

「しゃきっとしてない相手を見るとなんていうか、むずむずする? みたいな感じでさ」

「なるほど、それでミストルティンも元気になったりしたんですね」

「あぁ! ……ま、まぁ、失敗したことも多かったがな」

「悪くない関係だと思います」

 

 少なくとも彼女とミストルティンの関係を崩したくはない。そう思った。

 

「……案内、してくれますか?」

「もしものことは保証しないぞ」

「構いません。もし淘汰が発生してしまったら彼女の心の支えをお願いする形になってしまいますが……」

「……大丈夫だ! お前も無事になんとかなる!」

「そうなるといいですね」

 

 少しの不安を抱えたまま、私たちはミストルティンが暮らしている家まで移動することにした。

 何も起きないことを願いながら。

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