SEA.IF 追憶のエトランジェ   作:宿木ミル

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2.『彼女』と私の遭遇

 ヴォータンに連れられて道を歩いていく。

 ミストルティンが暮らしているという家は山や森に覆われた静かな空間にあると聞いた。

 

「大丈夫か? 足は痛くなってないか」

「平気ですよ。こういう行動には慣れてますので」

 

 森林を動くことは嫌いではないし、好みな方だ。

 ぼんやり旅をしている時は山道を通ることも多いくらいだ。

 それでも、夏の日差しというものは暑いもので、ヴォータンの額からは汗が流れていた。

 

「お茶、飲みますか?」

 

 普段持ち歩いているお茶を彼女に手渡す。

 すると目を輝かせてヴォータンは頷いた。

 

「ありがたい! お前、物持ちいいんだな!」

「水分不足による体調不良などはトラブルの原因になりますので、意識して持ち合わせてるだけです。……味は大丈夫ですか?」

 

 少しの間お茶を嗜むヴォータン。

 お茶を飲み終わった後、彼女の表情は明るくなっていた。

 

「うまいぞ!」

「それはよかったです」

「これは、お前が作ったのか? ミストルティン」

「えぇ、そうなります。作ったお茶を冷たくして運んでるんです」

 

 臨時の拠点は自然さえあればドリュアスの力でなんとかできる。

 ただ、食料や水というものは旅には欠かせないものなのだ。

 だからこそ、ちゃんとしたものを用意してある。

 

「なんていうか、素直な味だな。麦茶……みたいなやつだよな!」

「そうですね、麦茶です」

「私の友達のミストルティンは紅茶が好きだけど、お前はこういうお茶が好きなのか?」

「……特に優劣はないですね。両方とも好みです」

「なるほどな」

 

 山道はまだまだ続く。

 そんな中、ヴォータンとの会話も不思議と続いていた。

 私はそこまで対人コミュニケーションが得意というわけではない。そんな私に会話の歩幅を合わせているのは彼女の話術といえるだろう。

 

「ミストルティンはティータイムをしていたりすることはありますか?」

「ティータイム?」

「3時のおやつみたいなものです」

「あぁ、お嬢様っぽいやつ。あれなら見たことあるな!」

「そうなのですか?」

「そうだな……この前家に遊びに来たときは、ケーキと赤い紅茶を食べてた」

「優雅な生活ですね」

「お前はそれについてどう思うんだ?」

「……ちょっとうらやましいと思います」

 

 時間を忘れて静かにお茶を嗜む時間がある。とてもいいと思う。

 一か所に留まることのない生活をしている身からすると特にそれを感じさせられる。

 

「お前の方が、あっちのミストルティンはより大人っぽいからなぁ」

「どういうところがですか?」

「雰囲気というか、うーん、ミステリアスな感じか?」

「……そこまで秘密は持ち合わせてないつもりではありますし、大人って言えるほど精神が成熟してるわけでもありませんよ」

「そういう言い回しが大人っぽいんだよな」

「……そうですか」

 

 そう言われるとなんとも言えなくなる。

 身体的に大人だと言われるのならそれなりには納得はできる。ドリュアスの影響があるという説明ができるからだ。

 とはいえ、精神性や雰囲気をそう言われるのは素直に肯定しにくい部分がある。

 自分の稚拙な部分が自分でわかるからだ。

 

「ま、みんな違ってみんないいってやつだ! 気にしすぎるなよ、ミストルティン!」

「随分すっきりした考え方ですね」

「考えの強要なんてやる方がよくないからな! いい部分を尊重する! それがいいんだ!」

「……眩しいですね」

 

 こうして話をしてみると、彼女はひとつの問題を乗り越えた後の存在であることが伺える。

 ミストルティンと友人になっているのも、そういった彼女たちだけの事情があるからなのかもしれない。

 それを考えると、ちょっと羨ましく思った。

 

「なにが眩しいんだ?」

「日差し、ですよ」

「本当に暑いよなー……あ、私は大丈夫だからな! ミストルティンは無理するなよ!」

「お気遣い、感謝します」

 

 そうして歩いていると、木でできた一軒家まで到着した。

 案内の足が止まる。……そうなると、ここがそうなのだろう。

 

「着いたぞ。ここがミストルティンの家だ」

「『彼女』の家、ですね」

「雰囲気はどうだ?」

「『私』」好みな家に思えますね」

 

 静かな立地条件。

 自然に囲まれた空間。

 他人と関わらないで、ひとりでのびのび暮らすにはちょうどいい環境だ。

 近くには畑も用意されている。農作物も行っているのだろうか。

 井戸水もあり、自給自足が整っている環境といえる。

 

「ちょっと待ってるんだぞ。今、私が呼ぶから」

 

 そう言ってヴォータンは家の扉を叩いた。

 

「ミストルティン、いるかー?」

「は、はい。それなりに元気です」

「よし、いるな。今日はお客さんを呼んできたんだ! お前に会いたいっていってたから案内した」

「え、私に会いたい方……!?」

 

 声からも驚愕の様子が伺えた。

 それもそうだろう。私だって同じ状況になったら驚く。自分に会いに来る人がいるなんて想像もできないくらいだ。

 だからこそ、不安に感じるのもなんとなくわかっていた。

 

「そ、その、変な方……じゃないですよね……?」

「大丈夫だ。むしろ、お前もよく知ってる人だと思うぞ」

「私も知ってる人……?」

「あぁ、そうだ。入れてもいいか?」

「ちょっ、ちょっと待ってください。今、私が案内しますので……!」

 

 そう言って彼女は急いだ様子で音を立てた。

 戻ってきたのはすぐのことだった。

 扉を開けて、ミストルティンが出てきた。

 

「お、お待たせしました……! お客様というのは……」

「そっちのミストルティンだ」

「……はい?」

 

 首を一瞬傾げながら、私の方を見つめるミストルティン。

 そして、ぼんやり見つめたのちに、彼女は……

 

「い、イミテーション……!?」

 

 再び驚いた。

 

「どうだ、ミストルティン。なにか変化は」

 

 驚く彼女を見つめながら、私はなにか変化が訪れてないか確認する。

 淘汰があった世界では、マスターがいないキル姫が巡り合うと、淘汰が始まっていた。今の世界、そして獣刻された私と彼女ではどうなるのか。

 沈黙の時間が一瞬。

 そして、確認する。

 

「大丈夫です、淘汰は発生しないみたいです」

「不思議ですが……そういうことにはならなかったみたいです……」

「そうか、よかったな! ふたりとも!」

「は、はい……?」

「……そうですね、これでお話ができます」

 

 いまいち状況が掴めないという雰囲気で、ぼんやりとした様子で首を傾げるミストルティン。

 そして私は、ほっとしていた。

 彼女の落ち着いた暮らしの邪魔にならないか心配だったのだ。とりあえず、彼女と統合してしまうようなことにならなくてよかった。

 

「と、とりあえず、中でお話しますか……? 外は暑いので……」

「大丈夫でしたら、お願いします」

「は、はい。では案内しますね」

 

 そうして私たちは彼女の家へと足を踏み入れていった。

 本来の『私』と別の私がいる。そんな不思議な状況も、悪くはないのかもしれない。そう思いながら。

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