「ミストルティン、準備はできた~?」
借りていた宿屋の部屋から出てくるピサール。
昨日はあれだけ飲んでいたのに、そこまで酔いが回ってないように見える。
「問題ないですよ、いつでもいけます」
私も荷物を纏めていたので移動する準備はできている。
次はどこに行くのか。
行先も考えてない旅だけれども、友人と共に歩めるようになった。
「じゃあ、どこに行く?」
「……旅のお土産を用意するなんてどうでしょう」
「いいかも~。でも、誰にお土産を渡すの?」
「ミストルティンに、ですよ」
「自分に?」
「……本来の『私』というべきですかね」
「あぁ、なるほどね。お世話になったから」
「そういうことです。なにかしら、紅茶とか用意したいですね」
宿屋を抜け出して、前に歩き出す。
行先はわからない。だけれども、目標は少しずつ増えていた。
「紅茶、詳しくないかも?」
「私が詳しいから大丈夫です。ピサールにも検討してもらいますよ」
「じゃあ、交換条件でお酒の飲み比べとかもやってほしいな~」
「……善処しておきましょう」
生きている意味を探す旅だった。
それは今でもまだ変わらないだろう。
だけれども、少しずつその旅の目的は変化している。
「ミストルティンって野菜とか食べるときいい表情になるわよね~」
「鮮度がいいものはおいしいですからね」
「今度わたしもシャキシャキのサラダ食べようかな~」
「いいと思いますよ。健康的で」
「普段が健康的じゃないような言い回し~」
「さぁ、どうでしょう」
世界の素敵な一面を見つめて、自分を見つめなおす。
新しい生きている意味を考える時間。
それは前向きな未来を描く物語。
「今度、紫苑を模ったアクセサリーを作ろうと思うんです」
「理由が気になるかも?」
「強いていうなら花言葉でしょうか」
「んー、忍耐?」
「違います」
「もし『君を忘れない』が作りたい理由だったらミストルティン、重いよ?」
「重くないです」
「恋人が大変そうなタイプ」
「誰が」
「ミストルティン」
「……嫌味を聞けて安心してますよ、私は」
「でも、なんで『君を忘れない』っていうアクセサリーを作りたいと思ったの?」
「それは……」
『あの、心優しい普通の私……ミストルティンが描いた物語を忘れない』
『ピサールと過ごした日々を、過去の世界の出来事を忘れない』
「おまじないです」
「そっか、わかった」
ピサールは深く聞くことはなかった。
けれども、彼女もわかっていたのかもしれない。なぜならば……
「わたしも作ろうかな、紫苑のアクセサリー」
「ピサールもですか?」
「ちょっと重いくらいが愛嬌になるかもだから~」
「……ふたりの印みたいですね」
「ふふっ、そうかも?」
きっと彼女も私と過ごした日々、過去の世界を忘れない。
そう誓っているからだ。
合縁奇縁の腐れ縁。それが紡いだ物語。
隠された『その後いつまでも』の世界。
私たちは、私たちの歩幅で前を向いて歩いていこう。
目の前に続く青空はどこまでも透き通った色をしていた。