シャン・フォール
(1741~1794)
6/27。今日は中間試験の結果が返ってくる日だ。
一限が始まる前のホームルーム中、星之宮先生が各教科の点数に加えて総合点まで含めた、クラス全員の結果をまとめた紙をホワイトボードに貼り出す。
まとめてデータとかで送られてくるもんだとばかり思っていたが、こういうところは普通の学校らしい。
名前順ではなく点数順で並べられているため、いちいち自分の名前を探すのが面倒だったが。まとめるとこんな感じだ。
比企谷八幡 中間試験結果
英語 95
数学 69
国語 98
理科 72
社会 91
総合 425
案外高得点。そりゃそうか。ここ二週間は、いつもと違って放課後毎日勉強していたんだからな。中学の時と比べたら大きな進歩だ。まぁ、俺が自発的にやりだしたことじゃないから進歩と言っていいのかはわからないが。
クラスは喜びの空気に包まれている。全員が高得点をとったこともそうだが、何より一人も赤点が出なかったことが大きいだろう。
クラスの女子が抱き合い、うれしー!とか、ありがとー!とか、いいながらゆるゆりしている。男子がそれに交わるわけにはいかないので、俺を含めた残りの男子はそれを見ているだけだが、なんとなく癒された気分になる。なんつーか、目の保養?
次の授業が始まってしまうまではしゃぎ続けていたBクラスの女子たちだが、メリハリはついているようで、一限の授業はいままでにないくらいのぴしっとした雰囲気で授業を受けていた。
ポイントが支給される日までは手を抜かないようにしよう、という心がけなのだろう。
そして6/30。試験結果の発表から一週間と経たずに各クラスの来月のクラスポイントが発表されることとなった。星之宮先生がふらふらとした足取りで教壇まで移動し、そのまま倒れるように教壇によりかかった。
「一年Bクラスのみなさ…うぷ。今日も元気に…行ってみましょう…」
「うっ…お酒臭いですよ?先生」
一列目にいる女子の一人が二日酔いの星之宮先生に文句を垂らす。お酒が好きで飲むことが趣味だというのなら、それを止める権利は俺達にはないのだが、少なくとも教師という役職についているものとして、最低限のモラルとマナーを守ってもらいたいもんだ。前の列の奴らがかわいそうではないか。
見ろ神崎を。いかに紳士的なあの神崎ですら、眉間にしわを寄せて先生から顔をそらしているではないか。
「昨日飲みすぎちゃって…あ!今月の各クラスのポイントを発表します!」
そういって星之宮先生はホワイトボードにポイントを書き出した。その結果は…
一学年クラスポイント
Aクラス 1004pt
Bクラス 675pt
Cクラス 600pt
Dクラス 87pt
「みんなのプライベートポイントは、明日振り込まれます…うっ」
そういって口元に手を当て、教壇に突っ伏す星之宮先生を顧みることなく、Bクラスの面々はホワイトボードに注目している。
「私たちのポイントあがってる!」
「テストの成績よかったもんね!」
「勉強会でみんな点数あがったし、これも企画してくれた一之瀬さんのおかげだね!」
女子はポイントが上がったことに喜び、次々と一之瀬に賛辞の言葉を投げかけ、男子は男子でワイワイと喜び、肩を組んだりしている。そして俺はそれを自分の席から遠巻きに眺めていた。
ポイントが上がったことは素直にうれしい。だがクラスメイトとあんな風にワイワイと喜んで讃えあったりするような親しい間柄でもないのだから、ただ遠くでぼーっとしているのが今俺にできる最大限の感情表現だろう。
「そんな、みんなが勉強頑張ったからだよ~」
一之瀬は一之瀬で喜びを感じていそうだが、あくまでもクラスメンバーの努力の結果だと主張するつもりらしい。まぁお世辞かもしんないけど。いや、一之瀬なら本気でそう思ってそうだな。知らんけど。
そんなこんなで迎えた7/1の朝。
ホームルームが始まる30秒前くらいに教室の扉を開けると、クラスメイトが何人か集まって不安そうな表情を浮かべている。
その集団の中から一人、俺に気づいて近づいてくる
「比企谷君!今日ポイント振り込まれた!?」
「見てないからわからん。振り込まれてなかったのか?」
「うん…クラスのみんなも振り込まれてないみたいだし、AやDの子たちに聞いても振り込まれてないって…」
学年でポイントが振り込まれていないというわけか。なら、少なくとも俺の落ち度ではないな。そして、おそらくだがこれは学校の落ち度だろう。実力主義の学校が聞いてあきれる。お前ら教師陣の実力ももう少しあげなさい。
一応俺の端末を確認すると、確かに昨日から1ポイントも増えてはいない。いくら学校側の不手際とはいえ、2、3日なら生徒たちに問題も起きないだろうが、1週間くらい長引けばどうなるかわからない。面倒ごとにならないことを祈るばかりだ。
ホームルームが始まり、星之宮先生に対して質問しようとして手を挙げる生徒たちがちらほらと現れる。先陣を切って挙手をしたのはやはり一之瀬だ。
「先生!今日、私たちの端末にポイントが振り込まれていませんでした。これは…私たちの落ち度でこうなってしまったのでしょうか?」
「ごめんね~それに関しては詳しいことは今はまだ言えなくて…いろいろあってポイントの支給が学年全体で遅れてるみたいなの。数日たてば問題なく支給されるはずなんだけど…」
星之宮先生は困ったように指先でポリポリと頬を掻き、教室には少なくない不満の声が上がる。
そりゃそうだ。これが俺達の落ち度だというならまだしも、いろいろあって、ではわからない。俺達の行動やミスには厳しく当たっているにもかかわらず、
「先生。数日、というのは具体的に何日ほどを指すのでしょうか?」
今度手を挙げたのは神崎。その質問の内容がどうでもよさそうなことであったばかりに、クラスメイトは不思議そうな視線を向ける。
だが俺と神崎は知ってしまっている。この学校の教師が濁したり、変な言い回しをするときにはこちらに不都合が発生しうる時だと。であるなら、気になったところはすぐさま指摘しなければ、大きな爆弾になりかねない。
「俺達Bクラスは多少ポイントの支給が遅れても問題はないでしょうが、他のクラスはどうかわかりません。特にDクラスは先月の支給額が0であるうえ、入学時のポイントはほぼ使い切っており、他のクラスからポイントを借りている生徒も少なくありません。俺達も例外なく、何人かはDクラスにポイントを貸しています。長引けばその分、Dクラスの借金返済が遅れるばかりか、さらにポイントの借用を求められることもあるでしょう。最大でも何日支給が遅れる可能性があるかの目途が立たなければ、今後うかつにポイントを貸せません」
…やるなぁ神崎の奴。狙ってやったかどうかは知らないが、質問という呈でクラスメイト全員にくぎを刺しやがった。
ポイントを簡単に貸すと痛い目を見るぞ、というのを放課後にクラスの前で発言したところで、お人よし連中のこいつらは話半分に聞き入れるだろう。中には余計なお世話だ、と、忠告されたことに対して怒りを向ける者もいるだろう。
しかしこういった場で発言することで、しかも納得のいく不安を吐露することでクラスメイトは真面目に聞き入れる。それに忠告しているわけではなく、あくまで自分の考えを話しているだけだからヘイトを買うこともない。
「う~ん…私も詳しくは知らないんだけど、多分長くても2週間くらいかな?遅れてる原因については、明日の朝には伝えられると思うから、待っててくれる?」
「わかりました」
「他に質問のある子はいる?いないなら今日の伝達事項を話し始めちゃうけど…」
一之瀬と神崎が質問したことで、他の生徒はポイントに関して納得したのか、手を挙げているクラスメイトはいなかった。
「興味なさそうにそっぽ向いてる比企谷君は、特に質問とかない?」
おい。なんで俺に振るんだよ。めっちゃ視線集まっちゃってんだろうが。つーかこの人、質問が特にないことわかってやってんだろ。性格悪。
「なんで俺に振るんですか…特にないですよ」
「ほんとに~?恥ずかしくて手を挙げられてないだけじゃなくて~?」
「信号が青でも手を挙げて横断歩道を渡るくらいには、手を挙げるという行為に対して羞恥心はありませんでしたね」
子供八幡はピュアだったからなぁ。恥ずかしさとか考えてもなかったと思うわ。ちなみに今は無理。
それと、正直に言えば、もしも2週間オーバーになったら補填とか追加してくれるんですか?とか言ってやりたかったが、原因がわからなかったのでやめた。それ次第では確実に2週間以内に終わる可能性もあるしな。
俺も含めた全員が質問したいことがないと分かると、星之宮先生は一度うなずき、話を変える。
「そう?じゃあ伝達事項を伝えます。まず今日は体育館の利用が…」
放課後。クラスメイトがちらほらと部活に行く中、俺はいつも通り鞄片手に席を立つ。まさに自由。誰にも束縛されないって素晴らしい。
何か予定があるわけでもないのに足早にクラスを抜け、昇降口へと急ぐ。この時間帯なら、部活をやっている奴と多少すれ違うくらいで、ウェイ系のチャラい奴と出くわして面倒ごとに巻き込まれる心配もない。
そういや今日はスーパーで特売があったな…たしかレタスと玉ねぎが安くなるっていってたっけ。専業主夫を目指すものとしては、こういった
特売の時間には少し早いが、スーパーに向かっておこう。もしかしたら他にも安くなってるかもしれないし。
そんなことを考えてスーパーへと足を向けた俺は、余りにも愚かだった。
理由は二つ。一つは向かっている途中に一之瀬から連絡が来たことだ。なんでも、「図書室で待ってる」んだと。もうちょっと早く送ってくれれば戻る羽目にならなくて済んだのになぁ…
だがこれに関しては一之瀬を責めるのはお門違いというものだ。俺は今日一之瀬どころかクラスの誰よりも早く教室を出たし、そもそもあんまりクラスの中で話をかけるなと忠告をしてある。一緒に図書室に向かうという選択肢がない以上、これが最善であったことは間違いないのだから、致し方ない。
…それにしても珍しい。いつもの一之瀬ならまずは「予定ある?」とか、「今大丈夫かな?」とかいう相手を気遣うような枕詞を付けそうなもんだが、それがないもんだから今回はシンプルに「来い」という意味合いが強いように感じる。
まぁ考えすぎだろう。実際予定なんぞないのだから、シンプルでいいじゃないか。こっちのほうが。
もう一つはヤンキー(女)の姿を見かけてしまったからだ。名前は確か…伊吹とかいってたっけ。今は買い物カゴ片手に野菜を見繕っている。あいつも自炊とかするんだろうか。
今日の目当てはレタスと玉ねぎ。おそらくあいつも同じだろう。つまり、このまま買い物を続行した場合、確実にエンカウントしてしまう。面倒なことに巻き込まれないとも限らないので、今日は諦めることにしよう。
携帯を開き、一之瀬に「後15分待て」と連絡した。そして踵を返して図書室へと足を向け、ため息をつきながら歩き始めた。レタスも玉ねぎも汎用性高いからなぁ…出来れば欲しかったなぁ…
あまりにも早く校舎へと戻ったものだから、ちょうど帰宅ピークとぶつかってしまう。生徒のほとんどが帰路に就く中俺だけ進行方向が違うと、なんだか忘れ物して一人で戻ってきた、みたいに思われているのでは?とか考えてしまう。違うぞ。もし俺が忘れ物してたら明日の朝取りに行くからな。
そのまま図書室へと向かい扉を開くと、そこには誰もいなかった。なんだよ。待ってるっつってただろうが。
…だが変だな。放課後の図書室を利用したことがないからわからないが、こんなに人がいないなんてあり得るのか?一之瀬がいないのはまぁいいとして、他の利用者や図書委員なんかも見当たらない。
そこそこ広いこの図書室の奥のほうにいるんだろうか、とか考えて奥に進んで本棚を物色しつつ見渡してはみるが、やはり人の気配はない。もはや不気味さまで感じてきた始末。
だが俺はここで一つの鞄が奥の椅子に置かれているのを見つけた。本来であれば物色することはないが、なんとも少し変わった状況に置かれているためか、誰のものかを確認するためにためらうことなく鞄を開く。
中にあった小物から察するに、女性のものだろう。教科書とかに名前とか書いてないだろうか。…あった。
「…1-B、一之瀬帆波…ってこれ一之瀬のか」
なんだ。「あいつ私が呼び出したから放課後ずっと待ってたんだよカワイソーww」とかいう女子の話題の標的にされたかと思ったわ。杞憂だったか。まぁ流石に鞄放置して帰るのはあり得ないし、一之瀬がそういうことするとも思えないしな。
だとするとなぜここに一之瀬がいないのかが気になるところだが…あいつどこ行ったんだ?
俺は携帯の端末を開き、「一之瀬帆波」という表示から位置情報を確認する。どうやら校舎には残っているみたいだ。これもう少し詳しく確認できねぇのか?
色々試してみるとより細かい位置情報が確認できた。これは…図書室の奥の部屋?
一之瀬の鞄と同じように、俺も椅子に鞄を預けると、端末の位置情報を頼りにさらに図書室の奥へと進む。つーかどんだけ広いんだよこの図書室。図書館にしたほうがいいだろ。いやすでに図書館あったわ。
するとそこには関係者専用の扉があった。奥のほうからは何やら声が聞こえる。なんて言ってるかはわからないが、おそらく女性の声だろう。一之瀬がいるのは間違いなさそうだ。
流石に関係者専用扉を不用心に開けることはためらわれたので、とりあえず軽くノックをしてみる。
「一之瀬いるか?俺だ。比企谷だ」
「比企谷君?ちょうどよかった。ちょっと助けてほしいの。入ってきていいよ」
奥からそう返答が返ってきたので、俺はドアノブを回し、扉を開く。するとそこには両手で段ボール箱を抱えた一之瀬と、もう一人、別の女生徒がいた。
銀髪でおっとりしたような女の子。身長は一之瀬よりもだいぶ低いか。ぽわぽわ系っつーかなんつーか…よくわからんが、強いて言えば不思議ちゃん系?
「この段ボールをあそこの棚の上に置きたいんだけど…私だとあそこまで持ち上がらないの」
助けてほしいという発言は、段ボール箱が持ち上がらなくて困っている、という意味らしい。別にそれくらい構わないが…
「頼られるのは悪い気はしないが、俺も別に力持ちってわけではないぞ」
「どっちにしろ私たちじゃ無理だし…頼めないかな?」
「…別にいいけど」
俺が持ち上がらないほどの重さでないことを祈りつつ、一之瀬から段ボール箱を受け取る。よかった。案外重かったが、持ち上がらないほどではなさそうで安心した。
依頼通り、受け取った段ボール箱を持ち上げ、棚の上に置く。「これでいいか」と尋ねると、「もう少しあるからこれもお願い」と、あと三つほど追加で依頼された。最初のやつよりは軽かったのでそんなに苦労はしなかったが、埃っぽい部屋で動いたので少し気分が悪くなった。
「ありがとうございます。助かりました」
銀髪の少女が頭を下げる。頭を下げられることなんてめったになかったもんだから、俺もついつられて頭を下げてしまった。
「え、あ、ど、どうも」
「比企谷君…と言いましたよね?なぜここに来たんですか?もしかして、本を借りに?」
「いや、一之瀬に呼ばれたんだよ。図書室来いって」
「ああ…一之瀬さんのお相手は比企谷君だったのですか」
銀髪少女は納得したような表情を浮かべ、手に持っていた用紙に目を移した。何度かその用紙を上から下に確認を行うと、それを折りたたんでポケットにしまった。
「…これで必要な作業は全部終わりみたいですね。手伝っていただいてありがとうございます」
「そんな、こっちが言いだしたことだもん。手伝うのは当たり前だよ」
「そうですか。では私はこれで失礼します。鍵は受付に置いておくので、終わったら鍵を閉めて職員室まで返しに行くのを忘れないようにしてくださいね。でないと私が怒られてしまうので」
「うん。わかった。無理言ってごめんね」
そういうと、銀髪少女は扉を開けて関係者用の部屋から出て行った。足早にこの空間から出て言った理由は、二人だけの美少女空間に俺という異物が入り込んだことに嫌気がさしたからなのだろうか。
「椎名さんはそんなことを思う子じゃないと思うよ?」
「そんなことってどんなことだよ。待て、もしかして俺今口に出してた?」
「ううん。でも、今の比企谷君の表情から察するに、今俺が入ってきたらよくなかったかなー、とか考えてるんじゃない?」
「人の心をそこそこの精度で読むんじゃありません。ただでさえ人と話すの億劫なのに、そんなことされたら口開かなくなっちゃうでしょ」
「そしたら私が話しかけるから大丈夫!」
「なぁ、問題の元凶って自覚ある?」
関係者用の部屋から出て、図書室の椅子に置いておいた鞄を回収し、そのまま俺達は椅子に座る。
疲れた~、と伸びをしたことで、思いっきり視線を集めることとなった一之瀬の胸部からなんとか視線をずらしつつ、俺はなぜ呼び出したのか一之瀬に聞いた。
「で、何の用だ」
「…ふぇ?」
しかし、一之瀬は何のことかわからないように、ぽかんとした表情を浮かべている。どうやらさっきの作業をしている間に本来の目的を忘れてしまっていたらしい。
「ふぇ?じゃない。わざわざ俺を図書室まで呼び出した理由を聞いてるんだよ。本来閉まってるはずの今日、わざわざ図書委員のやつの手伝いまでして、無理に部屋を開けてもらってまでする話の内容が知りたいんだ」
「…私、比企谷君にその話したっけ?」
「してないから聞いてんだよ」
「そっちじゃなくて。図書室を無理に開けてもらったって話、してないよね?どうして、わかったの?」
「図書室に俺たち以外誰もいなかったら、開いてない日だって流石に気づく。呼び出した本人は俺を待たずに誰かの作業を手伝ってて、お前は図書委員でもないのに、俺に関係者用の部屋に入っていいと許可を出した。つまり、あの椎名さんとやらは図書委員で、お前は一時的に図書委員と同じ立場として振舞うことができる状況にあった。そこまでくればなんとなくこうなってる理由くらい察せるだろ。お前は俺を呼び出すために図書室を利用したかった。しかし今日は閉まっていたため、図書委員である椎名さんに委員会の手伝いをすることを条件に部屋を貸してもらうよう交渉した」
「…すごいね比企谷君。そんなことまでわかっちゃうんだ」
「誰でもわかるだろこのくらい。神崎とか綾小路とか…櫛田?とかならわかるだろ」
とりあえず俺と一之瀬が共通で知ってそうな人物を例に出してみたが、3人しかいなかった。ボッチはここに極まれり。なんつって。
神崎と綾小路なら気づきそうだが…櫛田はなぁ。こういうのには気づきにくそう。いや、逆に気づいているが気づかないふりをしたりもしていそうだな。つまりどっちにしても気づいてないってことでOK?
「…で、本題を話せ」
「…そうだったね」
一之瀬は一度椅子にしっかりと座りなおし、背筋を正す。そして、深く深呼吸をすると、俺の目をまっすぐ見つめてきた。
俺はその視線に耐え切れず、視線を逸らす。止めろよ。めっちゃドキドキすんだろ。俺たち以外誰もいねぇんだぞ今ここ。
「私が、放課後に、わざわざ二人きりになれる場所で、比企谷君を呼んだ理由はね?」
言い方気をつけろよ。めちゃくちゃ意識しちゃうだろ。二人きりとか言うな。ちょうどいい具合に夕焼けが窓から差し込んでるからムードもあってよもやとかもしやとか思うだろうが。
「その…誰にも聞かれたくない、大事な話があったから…」
そ、そうだな。うん。二人きりにする理由としては、誰にも聞かれたくなかったからだよな。まぁ誰にも聞かれたくない大事な話の一つや二つ誰にだってあるしな。うん。
「比企谷君に…告白を…」
こここここ告白な、ししし知ってた。あれだ。俺が知らないうちになんか一之瀬がやらかしてたんだ。罪を告白したいんだろそうだそうに違いないからこれ以上勘違いするような発言止めてくれる?
「断る手伝いをして欲しいのっ!!」
「なんですか口説いてるんですかごめんなさいまだよくお互いのこと知ってないんで無理で………え?」
「…え?」
………。
………あー……そういうことかー。
「…わかった。協力する」
「…今なんて言ったの?」
「わかった。協力する、と言ったんだ」
「その一個前」
「記憶にないな。だからお前も忘れろ。忘れてくれれば全面的に協力してやるから」