やはり俺の実力教室は間違っている   作:鳴撃ニド

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築き上げることは、多年の長く骨の折れる仕事である。破壊することは、たった一日の思慮なき行為である

ウィンストン・チャーチル

(1874~1965)


東京都高度育成高等学校

櫛田が指し示す先にある、クラス分けの紙に視線を移し、自分のクラスを確認する。

 

「比企谷君は・・・・Bクラスみたいだね」

 

B、か。よかった。櫛田(こいつ)と同じクラスじゃなくて。それだけでも一安心だ。

 

それにしてもB、か。最近B小町とか流行ってるみたいだし、いいんじゃね?B。なんか小町の加護とかありそうで。幸先悪いとか思ってたが、ちょっとやる気出てきたかも。

 

「むー・・・比企谷君と一緒のクラスが良かったなぁ」

 

そう言って隣でほほを膨らませる櫛田。やめろ。見てくれはいいんだから、可愛いしぐさをするな。

 

「ま、こればかりはしょうがないだろ。つーわけで、俺こっちだから。じゃ」

 

「あ・・・分かった。別のクラスだけど、これからよろしくね、比企谷君!」

 

そういって手を振る櫛田に、おう、と軽く一言告げて別れ、俺は自分が所属するBクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する、それを目的とした学校。それがここ、東京都高度育成高等学校である。

 

就職率、進学率100%を謳い、国主導の徹底した指導により、希望する未来に全力で応えるという。

 

一見すると夢のような学校であり、この高校に通うことができた者は全て、喜びに満ち溢れることだろう。しかし、俺はどうにもこの学校が胡散臭い気がしてならない。

 

一つ。就職率、進学率100%という部分。国が直接希望の大学や会社にコネクションを取り、この生徒を受け入れなさい、と命令することはまぁなくはないだろう。実際、それが行われていなければ、就職率、進学率を100%にするなど到底不可能だ。

 

俺も学校案内のパンフレットだったり、ネットで色々調べてみたが、その部分を国が大々的に宣伝していることもあって、嘘である可能性は非常に低かった。この部分に疑いの余地はないだろう。

 

気になるのはその後、どうなるのか、だ。進学、就職してもすぐに退学、クビになったら元も子もない。まさか国が卒業後まで個人個人面倒を見るわけもない。そんなことしたら年々管理する人数が増えて、最終的に破綻することは想像に難くないし。

 

つまりは、進学、就職後はどうなっても知りませんよ、と言われる可能性が高く、あくまでもスタートラインを用意してくれるだけの話、ととらえていたほうが良いということだ。

 

二つ。完全全寮制という部分だ。学校に入った後、基本的に外との交流は一切途絶える、らしい。

 

俺にはそんなことするメリットが一つも思いつかない。むしろ流行りや時事に関して疎くなり、卒業後にアウェーになる可能性もある。テレビやネットが使えるにしたって、実際に周りの人間が変化しなければ流行もないに等しい。

 

わざわざ周りに情報が漏れないようにして、危ない事でもしてるんじゃなかろうか?と勘ぐってしまうのは俺だけだろうか。

 

ただまぁこの部分に関しては、俺の考えすぎだと思う。少なくとも毎年不特定多数の若者が入学、卒業するのだ。どっかしらから漏れる可能性が高い教育機関で危ない実験なんてのはしないか。

 

三つ目。これが一番謎だ。夢のある、ネームバリューも通った超人気学校に、なぜ俺が入学することができたのか、ということだ。

 

筆記試験も面接も一応やったが、めちゃくちゃいい点数を取れた自信はない。他の科目はいいとして、数学と面接は壊滅的だった記憶がある。

 

毎年入学できる人数は固定の160人で、倍率はうん十倍と言われている。俺よりも成績が良かったやつが160人いないとは考えられなかった。

 

・・・・素直に合格したことを喜べばいいものを。考えすぎか。

 

まぁだから胡散臭いっていうか、みんなが想像しているような夢の学校、なんていう風に思わないほうがいいのでは?と考えているだけだけど。

 

そして、なぜ俺がこんな余計なことを思案しているのかというと。

 

クラス内でぼっちを極めていたからである。小町・・・わざわざ早く起きなくても、ぼっちなのは変わらなかったよ・・・。

 

俺の席は一番後ろの窓側、つまりは教室の端っこだ。わざわざ話しかけに来なければならない面倒な立地であるのだから、仕方ないといえば仕方ない。むしろ、入学式前に変なやつに絡まれないだけましととらえるべきだ。

 

入学式は当然ながら、新入生が全員集まってから行われる。したがって、各クラスごとに一度集まり、そこから体育館ないし講堂的な場所に移動して入学式が行われるのが一般的だ。

 

ここもそういったことに例外はないようで、クラス分けの紙の右上のところに「まずは各教室に集合すること」と記載があったからな。自分の名前より、そういうやつの方が気が付いちゃう。

 

流石は高度育成高等学校に入学できた猛者たちと言えばよいのだろうか。入学式まで30分以上も時間があるというのに、ここBクラスだけで見ても、7割以上の人たちが集まっている。

 

どうせ勉強熱心ながり勉と、何でもできるスーパー陽キャばかりいるもんだと思い込んでいたが、案外そうでもないようだ。大体が普通の奴、もしくは陽キャ。何をそんなに話すことがあるのかわからないが、ところどころでグループになって会話に花を咲かせている。机に突っ伏して聞き耳を立てているようなぼっちは、俺を除いて誰一人としていなかった。

 

・・・・そういえば、式典って1時間くらいかかるらしいな。入学式始まってすらないけど、面倒だから早退しようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―続きまして、生徒会長の挨拶です』

 

『生徒会長の堀北学です。本年度、わが校に入学した皆さんに在校生を代表して、歓迎の意を表したいと思います。本校は文武両道、さらに、高い進学率、就職率を誇ることはみなさんご存じでしょう。それは卒業生、在校生たちの不断の努力により達成されているわが校の誇りであり、新入生にもそれに続くことを望んでいます。この学校は、完全な実力主義であり―』

 

・・・・なげぇ。

 

こういう式典みたいなやつって、本当にやる意味わかんないわ。ほら、周り見てみろ。ところどころあくびしてる奴いるだろ。聞く価値ねぇってことだよ。

 

正式に入学式が始まってから50分くらいだろうか。残念なことに、近くに時間を確認することのできるものがなかったので体感であるが。

 

余計な入場の行進、その後に控えた学校長の挨拶と、校歌斉唱、お偉いさんたちの一言コメントに生徒会長からの挨拶。どれも全くと言って興味がなかったし、ただただ人の話を立ちっぱなしで聞いているのが苦痛で苦痛でしょうがなかった。

 

ただ、プログラム的に言えば生徒会長の挨拶で終わりのはず。やれやれ。長かった。

 

完全な実力主義とかいう不穏なワードが聞こえた気がするが、多分俺の聞き間違いだろう。うん。気のせい気のせい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式典が終わり、教室に戻ってきた俺達Bクラスのメンバー。想像していた通り、みんな揃って談笑し始めやがった。どいつもこいつもコミュ強すぎるだろ。

 

式典前と違い、全員がそろっているから、中には俺と同じように会話をしていないのも増えたが、そういったやつらは本を読んだり、教科書を開いたりしている。俺のように相変わらず寝たふりをして聞き耳を立てるような真似をしてはいなかった。

 

何人かは俺に話しかけようとしていたが、近づいてきたら寝息を立てておいた。こうすることで「起こしちゃ悪い」と思わせ、会話をしなくて済む、という寸法だ。俺天才。

 

それからしばらくして、始業を告げるチャイムが鳴った。

 

ほぼ同時に、一人の女性がドアを開けて入ってきた。

 

手に出席簿を持っていることから先生なんだろうと推察できるが、それにしてもいかんせん若すぎると思う。

 

明るいブラウンのロングヘア。おっとりとした顔立ちに、半袖、スカートから見えるすらりとした手足。モデルかよ。あと胸も・・・おっとすいませんなにもみてません。

 

「はーい。皆。盛り上がってるところ悪いけど、いったん席についてちょうだい」

 

パンパンと手をたたきながらそう呼びかける先生。そういうと、誰一人として文句も何も言わず、ササっと席に着く。やはりこいつら、全員優秀か。

 

全員が席につくと、再度口を開いた。

 

「新入生のみなさん、まずは入学おめでとう!私はここ、Bクラスの担任になった星之宮知恵です。普段担当している教科は理科。分からないところがあったら、遠慮しないで相談してね?それで、最初だからますはこの学校のルールについて説明するから、みんな聞いてくれるかな?一つ目に、この学校にはクラス替えは存在しません。卒業までずっと、私がみんなの担任。だから、仲良くやっていけたらなって思います。二つ目に、もう一度この学校の特殊な校則について説明します。みんなはすでに資料としてもらってあると思うけど・・・」

 

星之宮先生から、様々なこの学校の規則について説明がされた。正直適当に聞き流したかったが、先ほどのどうでもいい話と違って、これは俺の学校生活に直結する。ある程度真面目に聞いていないと、後で痛い目を見ることになりかねない。

 

といっても、説明された内容は特に入学式前にもらった資料と変わらない。外部との接触禁止、寮の門限、後はいたって普通の校則だな。どっちかといえば、かなり緩めの校則だ。髪を染めることも禁止されていないし、スカートはひざ下何センチ、とかいう堅苦しいことも記載されていない。

 

ただ、入学式以前には知らなかった、この学校特有の特別な仕組み。『Sシステム』なるものの説明を受けた。

 

「今からみんなに学生証カードを配るけど、これはとっても重要だからなくさないようにね?他の学校の学生証と違って、この学校の学生証は敷地内の施設の利用、売店の商品の購入に必須なの。クレジットカードと一体化してるって言えばわかりやすいかな?学生証には『プライベートポイント』っていうこの学校だけで使えるポイントがあって、それを使って施設を利用したり、物を買ったりできます。基本的に、この学校内にあるものの中で、買えないものはありません」

 

ほう。それはすごい。言い方を変えればこの学校内にあるすべてのものが購入可能、と。だったらお友達とかも買えちゃうのかしら。まぁ買えるんだろうな。金目当ての友達なら。

 

っていうか、説明下手かよ。多分「どの施設や商品もポイントで購入できます」って言いたかったんだろうが、その言い方だと「売り物以外のものでも金さえ払えば買えます」って言ってるように聞こえちゃうだろ。

 

「ポイントは毎月のはじめ、1日に自動的に振り込まれます。確認してもらえれば分かると思うけど、今みんなの学生証に10万ポイントがすでに支給されてると思うの。1ポイントは1円として使うことができるから、実質みんなには10万円が支給されたってことになるのかな?」

 

マジか。俺は配られた学生証を確認し、ポイントの残高を見る。間違いなく、10万ポイントが支給されていた。

 

国が運営しているとはいえ、ずいぶんと大盤振る舞いだ。俺達の学年で160人。すなわち1600万円をお小遣いとして渡しているのだから。

 

だが、実は妥当、という気もする。朝昼晩毎食500円だったとして、一ヶ月で45000円。半分近くが食費に消える。寮のシステムをきちんと理解していないからアレだが、冷蔵庫やらベッドやらなんやらの家具がそろっていなければ、初めの月はそれだけで金が吹っ飛ぶだろう。

 

「ポイントは譲渡することも出来るから、困った子がいたら助けてあげるのも一つの手よ。説明はこれで以上です。何か質問がある人はいるかな?」

 

星之宮先生がクラス全員に確認を取る。正直質問したい内容はあったが、ここで手を挙げると目立つ。さっきまで寝てたくせに急に何言いだすんだこいつ。とか思われたらたまったもんじゃない。

 

「じゃあ、いったん先生は席を外します。あとはみんなで仲良くね!あ、言い忘れてたわ。よい学生生活を!」

 

そういって星之宮先生は退出する。さすがに10万という破格のお小遣いをもらったことに、他の生徒は動揺しているようだ。浮足立っている様子が隠しきれていない。

 

帰ったら何を買おう、とか、一緒にショッピングしない?とか、そういった話がちらほらと出始める。無論、その輪の中に俺はいない。

 

「みんなー!ちょっと話を聞いてもらってもいい?」

 

そういって教壇の前に立ち、全員の視線を集めた女生徒。ピンク色の髪をした、割と早いタイミングで学校に来て友達と喋っていた陽キャ中の陽キャ。

 

・・・・いったい何するつもりなんだろうか?

 

「これからずっと同じクラスで過ごすんだし、せっかくの機会だから、みんなで自己紹介をして、中を深められたらいいなって思うんだけど、どうかな?」

 

不味い。早々にピンチ到来した。こいつ、入学初日から俺にトラウマを植え付ける気か。

 

ところどころから「さんせー」「いいと思う!」「やろーやろー」といった声が上がる。拒否するやつなんて俺以外いないだろうな。きっと。

 

「ありがとう!とりあえず、言い出した私から。一之瀬帆波っていいます。名字でも名前でも、呼びやすいほうで大丈夫だから、みんな気軽に話しかけてね!」

 

周りから「よろしくー」「帆波ちゃーん」とかいうのがちらほらと聞こえる。よくいえるな本人の目の前で帆波ちゃんとか。声的に男だろ。メンタルどうなってんだ。俺がやったら通報されるぞ。

 

まてまてツッコんでいる場合ではない。このまま進めば俺の番になることはほぼ確実。何とかして逃げださなくてはいけない。

 

・・・ここはステルスヒッキーを発動して逃げるほかないな。なんだか胃が痛くなってきたんでトイレ行ってきますね。では。

 

俺はナチュラルな感じで席を立ち、一応念のため教科書を持ってクラスから出る。その時何人かは不思議そうな目を向ける奴がいたが、特に話しかけてくるやつはいなかった。ラッキー。

 

扉を閉め、トラウマイベント回避成功。と内心喜んだのもつかの間、その喜びは一瞬で瓦解することになった。

 

「あれ?君は確か・・・比企谷君、だったっけ?教室から出てどうしたの?」

 

なんで星之宮先生いんだよ。職員室戻ったんじゃ・・・・そういえば、いったん席を外すって言ってたっけ・・・本当にいったん席外しただけなのね・・・。

 

「えっと、ちょっとトイレに」

 

「教科書持って?」

 

しまった。わざわざ教科書持ってきたのが仇になった。クラスメイトにどこ行くんだお前、と言われたときに「トイレ」と答えるより「ちょっと質問があって」と教室を出るほうが印象悪くならないと思って持ってきた教科書がまさか致命傷になるとは。

 

「・・・・ああ。なるほどね」

 

・・・・何を理解したんだこの教師。

 

「まぁクラスの中にはそういう子もいるよね~。ま、全員の自己紹介が終わるまで、廊下で先生と一緒に立ち呆けてましょ」

 

あなたが神か。つまり、自己紹介イベントをスキップしていいよ、と言われているのである。どうしよう。好きになっちゃうかも。

 

「・・・・ありがとうございます」

 

「トラウマになって不登校になられるよりマシよ。集団生活である以上、すれ違いや意見の相違はつきものだし。こんなに早く起こるとは思わなかったけど」

 

「なんかすんません」

 

星之宮先生はそれ以上何も言わなかった。教室から聞こえる他の生徒の自己紹介を聞きつつ、本当に全てが終わるまで廊下で立ち呆けた。多少気まずくはあったが、時間がたつにつれて慣れた。

 

全員の自己紹介が終わったことを星之宮先生は確認すると、「先生が先に入るから、後から入ってきて」といって先に教室の中へと入っていった。男前すぎるだろ。

 

先生が色々話している間に教室に入れば、多少注目はされるが誰も言及することはできない。今日の全てのスケジュールが終わったら即帰宅すれば、自己紹介イベントは完全回避できる。

 

・・・・そう思ってた時期が僕にもありました。

 

「はーい!みんな、ちょっと聞いてくれる?あ、今度は立ったままで大丈夫よ~」

 

教室内から星之宮先生の声が聞こえる。・・・・ちょっと声が大きすぎやしませんかね?廊下まではっきり聞こえちゃうけど。

 

「みんな、自己紹介が終わったと思うんだけど、まだ自己紹介ができてない子が実はいるんだよね~」

 

・・・・・・・・・・・・・雲行きが怪しくなってきたな。早めに寮に帰るか。

 

「せっかく自己紹介するなら、印象に残りたいってことで、今廊下で待機してるんだよ~」

 

殺すぞあのクソ(アマ)。なんちゅうこと言いだしやがる。ダメだ。信じた俺が馬鹿だった。今すぐ階段まで走って・・・・・

 

ガラガラガラ!!と思い切りドアを開き、俺の手をつかむ星之宮先生。や、やめろ。放せ。くそ。なんつー馬鹿力だ。振りほどけん。

 

「さぁ比企谷君、みんなの注目が集まってるから、バシッと決めちゃおっか!」

 

終わった。俺の学校生活、終了ー。もういいや。どうせ何言ったって変わらん。

 

「えー・・・・比企谷八幡。好きなものは読書と睡眠。嫌いなものは星之宮先生です。よろしくお願いします」

 

この後、俺が星之宮先生に精神攻撃を受けたせいで、下校時刻が他のクラスに比べて少しだけ遅くなってしまったことには謝りたい。

 

なので、この件についてはもう一生触れないでもらっていい?え、ダメ?

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