閃乱カグラ 忍たちの生き様   作:ダーク・リベリオン

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月閃女学館編 第二章 まさかこんなとこで出会うとは…

その日は2月にも関わらず、風もなく、寒くもない暖かな日だった

 

 

出かけるには最高の天気だった

 

 

そんな中、月閃のメンバー6人はとある場所を目指して歩いていた

 

 

眩しい夕陽が山間の向こうに沈みかけるのを眺めているのは紫苑だった

 

 

そしてふと後ろをみると自分の後ろを楽しそうにおしゃべりしながら歩く叢、夜桜、四季、美野里の顔が夕陽の光でオレンシ色に染まっていたのを見て紫苑は少しおかしくなりくすりと笑った

 

 

「紫苑、どうしました?嬉しそうな顔をして?」

 

 

「うん?…あぁ、ううん。何でもないよ」

 

 

「そうですか…」

 

 

それを見た雪泉が紫苑に尋ねると笑みを見せて答え

 

 

雪泉も紫苑の笑顔に満足気な顔をしていた

 

 

「そうだ。ゆみちゃんしおんちゃん。ちゃんといちご大福持ってきた?」

 

 

「大丈夫、ほらここにあるでしょ?」

 

 

「ほんとだ!ちゃんとあるね!」

 

 

袋の中身を確認した美野里は嬉しそうにそう呟く

 

 

「おじい様の好物ですもの、忘れる訳ありません」

 

 

いちご大福が大好きな雪泉の祖父のために朝紫苑と一緒に買ってきたのだから

 

 

病気で寝たきりになっても自分たちの買ってきたいちご大福は喜んで食べてくれた

 

 

なにより、笑顔を見ることができるのが紫苑たちにとって何よりの幸せだった

 

 

今日も絶対に喜んでくれるに違いない

 

 

「くろかげおじいちゃんと会うのも久しぶりだなー」

 

 

紫苑たち以上に満遍な笑みで美野里は言った

 

 

「えぇ、そうですね」

 

 

「…黒影様」

 

 

紫苑たちにとって大切な存在、そして雪泉にとっては祖父であり

 

 

悪を憎み、平和を志した伝説の忍だった

 

 

元々、紫苑以外の5人は善忍の家系であり、悪忍との争いやなにやらで両親を失ってしまったのである

 

 

それを見かねた黒影は雪泉を含めた全員を養子として引き取り、自分たちを月閃へと入学させてくれたのだ

 

 

紫苑たちは大恩人であり、自分たちを孫である雪泉と変わらず接してくれた黒影の恩義に応えるべく

 

 

日々の辛い修行に耐え、全員揃って選抜メンバー入りをはたしたのだった

 

 

「もうすぐかな?」

 

 

「えぇ、あと少しです。行きましょう」

 

 

もうすぐだった。丘を少し降りたところに黒影がいる

 

 

そう思うと紫苑たちの心は弾み、四季や美野里なんかはもう駆け出したいと言わんばかりに嬉しそうな顔をしていた

 

 

しかし、そんな気持ちになっていた紫苑たちの前に1つの影があった

 

 

「がーはっはっはっは!!」

 

 

影は高らかと笑い声をあげる

 

 

よくよくみるとそれは板前の格好をした老人だとわかった

 

 

「っ、なにもの!?」

 

 

紫苑が構えるとともに雪泉たちも一斉に構える

 

 

老人が只者ではないことは気配からしてもわかった

 

 

小柄ながらその体から目に見えないがとてつもないオーラを放っていた

 

 

「あなたはいったい誰ですか?」

 

 

紫苑に続いて今度は雪泉が尋ねる

 

 

「わしか?わしは半蔵じゃ」

 

 

「はっ、半蔵!?」

 

 

「半蔵だって!?」

 

 

半蔵が名乗ると、それを聞いた紫苑や雪泉の血が熱くなった

 

 

それは他の4人もだった

 

 

伝説の忍であり、忍を志すものなら誰もが知っている

 

 

普通なら忍たちは彼にひれ伏すであろう

 

 

しかし紫苑たちにとって半蔵の存在は単純なものではなかった

 

 

それもそのはず、紫苑たちにとって半蔵は黒影にとって最大のライバルなのだ

 

 

故に月閃のみんなにとっては半蔵は崇めたり崇拝するような存在ではなく

 

 

自分たちにとっての最大の敵なのだ

 

 

「伝説の忍ともあろう人が私たちになんのようで?」

 

 

紫苑は半蔵を睨みつけながらも尋ねる

 

 

すると半蔵は

 

 

「なーんか暇でのぅ。退屈凌ぎにちと遊び相手探しの散歩ってとこじゃの」

 

 

なんともふざけたものいいで紫苑からの質問に答えた

 

 

そして次の瞬間

 

 

 

シュン!

 

 

 

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

 

突然目の前から消えたことに驚き、あたりをキョロキョロすると

 

 

 

モミモミ

 

 

 

「きゃあぁ!?」

 

 

「雪泉!?」

 

 

「ほぉ~。ほほお~。これはこれはなかなかじゃな~♪」

 

 

背後から忍び寄り、雪泉の胸を鷲づかみしていた

 

 

「雪泉から離れなさい!!」

 

 

それを見た紫苑が半蔵に攻撃を仕掛ける

 

 

すると半蔵は素速い動きで雪泉から離れ、距離をとる

 

 

「大丈夫、雪泉!?」

 

 

「ぶっ、無礼者!!」

 

 

胸をわしづかみにされたことに雪泉は怒りをあらわにする

 

 

「ええじゃろ?減るもんじゃなし~」

 

 

半蔵はふてくされたようないい方をする

 

 

「許しません!みなさん全員でこの無礼者に制裁を下してやりましょう!」

 

 

「「「「「おー!!」」」」」

 

 

雪泉の声に紫苑たちは同意する

 

 

「でっきるかの~?」ニヤリ

 

 

しかし半蔵は余裕そうな表情でそう言う

 

 

「はぁぁ!!」

 

 

「ほい」

 

 

「いっくよ~!!」

 

 

「な~んの~」

 

 

仕掛けた夜桜と四季の攻撃を簡単にかわす

 

 

「なんじゃと!?」

 

 

「マジ!?」

 

 

「スキありじゃ」

 

 

 

モミモミ

 

 

 

「ぬあぁぁぁ!?」

 

 

「うっそぉぉぉぉー!?」

 

 

あっという間に夜桜たちは半蔵に胸を揉まれた

 

 

「ぬっほっほ~」

 

 

「…隙有り!!」

 

 

「よくもやったな~!!」プンスカ

 

 

今度は叢と美野里がしかけるも

 

 

「あまいぞぃ!」

 

 

シュン!

 

 

「どこ?どこいったの?」

 

 

 

隙を付いたと思いきや一瞬で消えた半蔵を見失ってしまう

 

 

 

モミモミ

 

 

「「っ!?」」

 

 

「お~。おぬしらのもまたええの~」

 

 

「……」アセアセ

 

 

「やめてよえっち~!!」

 

 

叢と美野里もまた半蔵に胸をモミモミされてしまうのだった

 

 

「みなさん!?」

 

 

「みんながこうもあっさりと!?」

 

 

「ほっほっほ~。お前さんらの果実もなかなかなもんじゃの~♪」

 

 

半蔵に胸をもみもみされ、恥ずかしさと悔しさを孕んで半蔵を睨みつける

 

 

「この、よくもやってくれましたね!忍、転身!!」

 

 

忍装束を纏い、紫苑が半蔵と対峙する

 

 

「ふん。隙だらけなのが悪いんじゃよ~」

 

 

小馬鹿にした態度で半蔵は言った

 

 

「黙りなさい!!」

 

 

力をためると紫苑のまわりを風が吹きあれる

 

 

「すべてのもの、我が美しき風の調べによりて、去りゆきなさい!秘伝忍法!!」

 

 

紫苑の後ろに緑の紋章が浮かぶ

 

 

「烈風のソナタ!!」

 

 

右手を半蔵に突きつけた瞬間

 

 

半蔵目掛けて風がまるでかまいたちの如く半蔵へと続くあたりの草を切り裂いていく

 

 

そして風の刃が半蔵に襲いかかった

 

 

 

っと思いきや

 

 

 

シュン!

 

 

「なっ!?」

 

 

またも素速い動きでかわされてしまった

 

 

「クソォ…!!」

 

 

「っ!紫苑!!」

 

 

「どうしたの雪泉?」

 

 

突然自分の方を向いて驚く雪泉に気づいた紫苑が尋ねると

 

 

雪泉は紫苑を指差し叫んだ

 

 

「大変です!おじい様のいちご大福が!?」

 

 

「えっ!?」

 

 

そう言われて確認してみると持っていたはずのいちご大福をいれてた袋がなくなっていた

 

 

「お前さんら、簡単にもみもみされるとは少したるんどるじゃないかの~?そんなことじゃ立派な善忍とはよべんぞ?」モグモグ

 

 

「あなたに言われたくはない!」

 

 

先ほどの半蔵の行動から善忍と呼べないのは明らかに半蔵だと思った紫苑は半蔵の言葉に反論する

 

 

すると美野里がさっきから口をもごもごさせている半蔵を見て気づいた

 

 

「ゆ、ゆみちゃんしおんちゃん……あの人が食べてるの……もしかして……!」

 

 

その美野里の指摘に紫苑たちははっと気づいた

 

 

さっきから半蔵が食べているのは黒影のために買ってきたいちご大福だった

 

 

「いちご大福ならわしがぜ~んぶ食べてしもうたわい」

 

 

半蔵は何食わぬ顔でそう告げた

 

 

しかしこのことで紫苑たちの怒りはさらに高まった

 

 

「卑怯者!薄汚れた善忍め!」

 

 

「薄汚れたとはひどいのぉ~」

 

 

「許さない…あなただけは!」

 

 

これに関して一番怒っていたのは紫苑と雪泉だった

 

 

「怒ったところでお前さんらじゃわしには勝てんぞ。お前さんらの相手なら孫の飛鳥と佐介でちょうどいいぐらいじゃわい」

 

 

「孫?」

 

 

「あぁ…二人とも今は半蔵学院の二年生じゃ。二人に勝てたらちゃんと相手をしてやるわ~い」

 

 

とぼけた声とともにあくびをするとそのまま姿を消していなくなってしまった

 

 

「ぐぅぅぅ……半蔵、許すまじ!!」

 

 

半蔵から受けた屈辱はかなりのものだった

 

 

紫苑たちは悔しさで胸いっぱいだった

 

 

「これではおじい様に会わせる顔がありません…!」

 

 

今まさに全員が同じ気持ちだった

 

 

「みんな。今日は帰ろう」

 

 

紫苑が振り絞るようにいうと、みんなもそれに頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして忍部屋に戻ってきた紫苑たち

 

 

「おかえりネ」

 

 

戻ってくるやいなや自分たちに忍としてのあり方を教えてくれている教師、王牌(ワンパイ)が声をかけてきた

 

 

立派な髭を生やした老人だが、現役の忍たちも顔負けなほど腕の立つ先生だった

 

 

そしていつも自分たちに厳しい訓練を与えてくれるのである

 

 

「ただいま戻りました王牌(ワンパイ)先生」

 

 

紫苑に続いて雪泉たちもお辞儀する

 

 

「みんなに伝えることあるね」

 

 

「伝えること?」

 

 

「さっき学校から学炎祭を仕掛けろという指令がくだったネ」

 

 

「学炎祭ですか…?」

 

 

学炎祭についてはみなそれなりに知っていた

 

 

「まずは手はじめに蛇女あたりを狙うのはどうネ?」

 

 

「わかりました。半蔵学院を責める前の肩ならし、見事、蛇女に勝ってみせましょう」

 

 

こうして紫苑たちの学炎祭の物語りが幕を開けるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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