謎の集団たちから襲撃を受け、間一髪のところで鈴音ともう1人の自分である蒼馬によって危機を脱した相馬
自分がここにいれば今後も関わりをもつ楓たちに被害が及ぶかも知れない
決意の末に蛇女子学園に戻ることを決めた、しかし鈴音とともに蛇女へと戻った相馬を待っていたのは
自身の帰りを…正確には蒼馬の帰りを待っていた選抜メンバーからの冷たい視線だった
果たして自身を取り戻した相馬と蒼馬の学園生活はどんな展開を迎えるのだろうか
蛇女子学園 修行場
「秘伝忍法・8つのメヌエット!!」
バキュン! ボバババババババ
「あぎやああぁぁぁぁぁ!!!」
ボバアァァァァァン!
「秘伝忍法・デッドフォックス!!」
シュンシュンシュンシュン!
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドゴォォォォォォォン!
「秘伝忍法・悦ばしきInferno!!」
ザシュザシュザシュザシュ!ブォォォォォォォォ!
「どぎゃああぁぁぁぁぁ!!!」
ザシュゥゥゥゥゥン!
「まっ、まいりました~」アセアセ
「もうおしまいか?はぁ…まったくこれじゃ練習相手にもならないな、こいつが本当にあの蒼馬だったなんて未だに信じられん」
相馬の不甲斐なさに雅緋は不満を漏らしながら先に帰ってしまった
「うっ、う~」
「情けないぞ」パサッ
すると声とともに相馬の顔に何かが落ちてきた
確認してみるとそれはタオルだった
「す、鈴音さん」
「ここでは先生だ」
タオルをかけたのは鈴音だった
「見るに耐えなかったぞお前の戦い」
「す、すんません」
「お前はもう一般人ではない、1人の忍だ。忍として強くなるよう精進することだな」
それを聞いた相馬は浮かない顔を浮かべるのだった
「はぁ…」
ポイ ポチャン
修行が終わったあと、相馬はふてくされた顔を浮かべながら池に石ころを投げ入れていく
『どうした?なぜ池に何度も何度も石を投げている?』
「あんっ?」
するとそれを見かねた蒼馬が話しかけてきた
「…お前はいいよな~。俺と違ってあいつらに高評価みたいじゃねぇか?」
『っ?』
「みんな事あるごとに蒼馬はすごいだの強かっただのといってるからよ~」
『そう、なのか……特に意識したことはない』テレ
今の今まで言われるまで気づいていなかった蒼馬はこの時、仲間たちに評価されていたことを知り、自分でも無意識だったのか頬が赤くなった
「考えてみたら俺、今さらなんだがお前聞きたいことがあったんだけどいいか?」
『聞きたいこと?』
「お前って結局何なんだ?」
当然といえば当然の質問ではあるものの、自分の存在を知ってから数日も経過させてようやくその話題にたどり着いたことに少々ガクッとなりそうになったが、そこは蒼馬、つねに冷静に振る舞いを崩さなかった
しばらく無言を貫いていた蒼馬だったが、ようやく口を開く
『…お前は研究所に入ってからの出来事を全て覚えているか?』
「えっ?」
蒼馬の問いに相馬はキョトンとなった。研究所での出来事、それは相馬にとって思い出したくもない記憶
「……確かに、入ってから何日かの記憶はあるけど…それ以来の記憶は思い出そうとしても思い出せないんだ」グヌヌ
「……やはりか」
「っ、なんだよ?なにがやはりなんだよ?」
頭を抱えながら苦虫を噛み締めたような顔を浮かべる相馬の話しを聞いて蒼馬は何か確信を得たかのようないい方をする
『もう1人の俺、よく聞け。お前は記憶を思い出せないんじゃない。始めからお前の頭にはそれ以来の記憶がないんだ』
「…はっ?」
蒼馬の言っていることの意味が分からず、相馬は唖然とする
「そ、それってどういうことだよ?」
『そのままの意味だ。お前は記憶を忘れたのではなく、はなっから記憶が存在しないから思い出したくてもだせないんだ』
「だから、それがわかんねぇつってんだよ!」
頭がついて行けてない相馬のツッコミをくらい、蒼馬は少し話しの視点を変えてみることにした
『お前が以来の記憶をもたないように、逆に俺には研究所で訓練を受けていたり蛇女で忍として戦ってきた記憶はあってもそれ以前の記憶がない』
「えっ……ってこは?」
『お前があの楓という女と出会うまで俺はあの女が幼馴染だったことを知らずにいた。それどころか住んでいた家も両親のことすらも知らなかった』
相馬には蒼馬として生きていた記憶が、蒼馬には相馬として生きていた記憶がない
この記憶の違いが意味するものがなんなのか相馬はますます頭がこんがらがる
『おそらく、これらが俺という存在と深くつながるのだと思う』
「どういうことだよ。この話しがお前とどういう関係があるんだ?」
『俺が生まれた原因……それはきっとお前が俺を生み出したからだ』
「えっ?俺がお前を生み出した?」
『そうだ。お前が俺を生み出したんだ』
急に蒼馬を生み出したのは自分だと言い張る蒼馬に驚く
『お前はあの研究所に行ってなにを感じた?なにを思っていた?』
「け、研究所で…」
蒼馬の質問に相馬は再び研究所での出来事を思い返す
相馬がなぜ強化忍として改造され、蒼馬という人格を誕生させたのか
ことの発端は突如病に倒れ、医師からその病いによって余命わずかという過酷な現実を突きつけられたためだ
なんとかしてこの残酷な運命から抜け出したい、自分はまだ生きていたい、相馬はそれほどに生に執着した
そんな彼のもとに怪しい男が声をかけてきた
怪しい風貌をしていたため、相馬はすぐにでも離れようとした。しかし男は一部の人しか知らないはずの自分が病気であることをズバリ言い当てた
驚く相馬を他所に男は話しを続けた。
自分はある研究機関の一員であり、自分たちなら相馬の病を治せると
突然の事態にアタフタする相馬を見て男は一旦連絡先が書かれた紙を渡し、ゆっくり考えるよう諭すとその場を後にした
相馬は家に帰り、いろいろと考えた。あの男は確かに胡散臭い感じがした
しかし、何の道このままでは自分は死ぬ。そうなれば楓が悲しむかも知れない、もし仮にこの病を治すことが出来るのならこれにかけるしかないのだと相馬は腹を決める
連絡先に電話すると男はすぐにやってきた。今度はいかついスーツ姿の大男を2人ほどつれて
彼の案内で車に乗り、たどり着いたのはのちに鈴音が上層部から聞かされたあの研究所へとやって来た
そこには自分の他にも同じように生への可能性を信じて集まった者たちがいた
だが、その希望はすぐに絶望へと変わった。来る日も来る日も治療と称してはいるも、その扱いは患者というよりはむしろ実験動物に近く
様々な薬や実験に駆り出された。希望と名指してはいてもメッキで塗り固められたそれはまさに
地獄だった
「思い出すだけでゾッとするぜ……あの時の痛み、悲しみは今でも俺の身体に染み付いて離れないんだ」
『…そう、それが俺を生み出す原因であり、お前の記憶が飛んでしまった原因だ』
「えっ?」
やはりなという顔を浮かべた蒼馬はそのまま続けた
『お前はあの時、この苦しみから、恐怖から解放されたい、そう強く思ったはずだ……そしてその望みはある形となって実現した』
「それって?」
『そう………
それが俺という人格の誕生の始まりだったんだ』