本来の自分を取り戻した相馬は慣れない忍の訓練に少しずつついていこうとしてはいたものの
いざ訓練になればその軟弱ぶりから雅緋達に小馬鹿にされてしまい、相馬はふてくされていた
そんな彼に声をかけたのはもう1人の自分というべき存在の蒼馬だった
すると相馬はここに入るまで聞きそびれていたことを蒼馬に質問する
彼はなんなのか?彼はどういった存在なのか?という質問を
蒼馬は相馬の質問に思い当たる節があったこと語り出した。自分がどうして生まれたのか、なぜここにいるのかを
そして自分の生まれた原因には相馬が深く関わっていだということを突きつけたのだった
『お前はあの時、この苦しみから、恐怖から解放されたい、そう強く思ったはずだ……そしてその望みはある形となって実現した』
「それって?」
『そう………それが俺という人格の誕生の始まりだったんだ』
「…」アセアセ
蒼馬を生み出した原因が自分だと言われたことに唖然となる
『お前のこの地獄の苦しみから解放されたいというその想いが俺を作り上げたんだ。そしてそれと引き換えにお前の意識と体の所有権は誕生した俺に渡され研究所で多くの実験に使われた。…これが俺とお前が半分ずつの記憶しかもっていない理由だ』
「そんなことって…」
『ありえない話ではない。実際にも俺たちのように"解離性同一性障害"を患い、複数の人格をもっている人たちもいるんだからな』
「解離性同一性障害?」
聴き慣れていない単語に相馬は小首をかしげる
『つまり、研究所での辛い日々に耐え切れなくなったお前におこったのが離人症や解離性健忘のように…っと、お前にわかりやすく言うならば…自分が体験したことをさもそれが自分のことではないと感じたりすることを離人症。その時期の感情や記憶を切り離すことで、心に負った精神的ダメージを回避しようとすることを解離性健忘という』
「…あぁ」アセアセ
『そして俺が誕生したきっかけは後者にある。解離性健忘は感情や記憶を切り離すことで精神的ダメージを減らすというのはもう説明したが、これにはまだ続きがある。切り離された記憶などが成長することで生まれるもの。それがいわゆる別の人格。…そう俺のことをさす』
「そうか……俺、いつの間にかそんなことをしてたんだな。しかもそれを無責任にもお前に肩代わりさせてたなんて」
蒼馬がなぜ自分の中にいるのか、それを理解したことで相馬は罪悪感を感じた
「すまねぇな。俺の身勝手のせいでお前に散々な思いをさせちまって」ショボーン
『気にすることはない。俺はお前に成り代わり、様々な経験をした。研究所を出て鈴音や雅緋たちと出会い。半蔵学院や月閃の忍たちと戦い続けていく日々を過ごしていくことで今まで知らなかったものを目にしたり知ることができたんだからな』
「お前、強いな。本当、俺なんかとは比べ物にならねぇな」
『そう自分のことを過小評価するな…俺に言わせればお前もすごいやつだと思うぞ。力はそんなでなくとも、大切な人を守りたい、たとえ自分の身がどうなろうと構わないというほどに多人のことを思いやれる優しい心をお前は持っていた。それだけでも十分評価に値するのではないかな』
相馬的には自分が自分に褒められているこの現状になんだかおかしな感じとちょっとこそばゆい気分になった
「俺さ、お前のこと誤解してたよ」
『っ?』
「最初は得体の知れないやつが今までこの身体を好き放題使ってたと思うとムカついた…でも、お前はあの選抜メンバーのやつらに心配してもらえるほど信頼してるんだって知ってそう考えてた自分がなんだか恥ずかしいぜ」
『…お前』
親指で鼻をこすりながら恥ずかしそうに笑う相馬を見て蒼馬は少し面を食らう
「だからさ、俺決めたんだ。お前を受け入れ、俺はこれからの道を歩んでいくことをさ!」
『お前、本当にそれでいいのか?』
えらくあっさりとした相馬の態度を見て蒼馬は疑問に思った
「細かいことは言いっこ無し!うじうじ考えてたってしょうがなねぇさ。今は目の前のことに専念する。でも俺だってこのままでいるつもりは毛頭ないんだぜ、俺はここで強くなってやる!そんでもって俺を待っていてくれてる楓のやつを驚かせてやるんだ!」
『…そうか』
「だからさ」スッ
『っ?』
すると相馬がいきなり拳を突き出した
蒼馬は一瞬何事かと驚く
「これからよろしく頼むぜ。…もう1人の俺」ニヒッ
『…ふっ、何を考えているのか読めない奴だなお前はっ』トン
照れくさそうな顔をしながらも蒼馬は突き出された相馬の拳に自分の拳を合わせた
すがすがしいほどの笑みを浮かべる相馬を眺めながらふと考えていた
『(楓という少女を守ろうとしていた時のあの姿。こいつもあいつと似たり寄ったりなんだな)』
初めての任務で半蔵学院に攻め入った時、自分と対峙し、その身を傷つけられ、常人なら戦う気力すら失わせるほど痛めつけたのにそれでも仲間を守りたいという意志を掲げ、最後まで立ちはだかった男、佐介のことを
彼の目と楓を守ろうと必死だった相馬の目はまさに同じだった
「あっ、そうだ。なぁ、もう1人の俺」
『なんだ?』
「いやさ、俺ら漢字が違うみたいだけど結局はおなじ「そうま」じゃん。なんかそれってややこしくね?」
『…確かにそうだな』
実際同じ名を呼び合うというのも不思議なものだ
「だからここでいっちょあだ名を決めようとおもうんだ」
『あだ名を?』
「そうそう…てなわけでそうだな~。じゃあさ、頭をとって俺が「ソウ」でお前が「アオ」ってのはどうだ?」
じつに単純明快な決め方だった
『ふっ、お前がそう呼びたいならそれでいいぞ』
「おっし、じゃあ改めて今日からよろしくなアオ!」
『あぁ、ソウ』
こうして2人は互を呼び合う、相馬は上手く決まったようでご機嫌だった
『(人間とは不思議なものだな。仲間のためなら自分がどんなにひどい目にあおうとも決して折れない。……鈴音達と出会う前の俺なら到底理解できずにいたな)』
仲間の大切さというものに改めて感謝し、その素晴らしさを知れたことに蒼馬は少し嬉しそうな顔を浮かべる
「相馬!相馬、ここにいたか」
「おりょ?」
するとそこに慌てた様子で駆けつけてきた鈴音がいた
「えっと~?なんか用っすか鈴音先生?」
「評議会から緊急招集をかけられた。とにかく選抜メンバーは全員、忍部屋に集まってもらう」
「あぁはい。わかりました」
突然のことでさっぱり状況がわからなかった
「(な、なぁ~、緊急の招集っていったいなんだろうな?)」
『わからない。ともかくまずは忍部屋に行くことが重要だ』
「(おう、そうだな)」
忍部屋に到着するとそこには既に集まっていた雅緋達がいた
「鈴音先生、緊急の呼び出しということで来ましたがいったい何事ですか?」
雅緋が他のみんなも思っていることを代表して尋ねた
すると鈴音はしばらく沈黙していたが、瞑っていた目を開き、口を開く
「先ほど上からの命令で次の任務が決まった」
「次の任務ですか、いったいどんな?」
忌夢が尋ねると鈴音は一瞬、不服そうな顔をしながらも、すぐに冷静を取り戻すとともに雅緋と紫、忌夢にとって衝撃的な内容を語る
「お前達には直ちに蛇女を抜け出した抜忍集団『焔紅蓮竜隊』を討伐してもらう」
「………えっ?」
「焔紅蓮竜隊……」
その名を聞いた瞬間、雅緋と紫、忌夢は焦った様子を見せ、事情を知っていた両備たちは彼女たちのことを察し、無言を貫き
事情を知らない相馬には何のことかさっぱりだった