閃乱カグラ 忍たちの生き様   作:ダーク・リベリオン

17 / 604
十四章 疾風の如き信念の前には如何なる強固な物も意味をなしません!

「う…ううん」

 

葛城は悪夢にうなされていた

 

『はっ…はっ…はっ』スタタタ

 

真っ暗な世界を葛城はひたすら走っていた

 

だがいけどもいけども出口は見つからない

 

『どこまで行きゃいいんだ?』

 

『ふふふふ』

 

『!?』

 

『一直線に走るしか能がないんか~?』

 

葛城の前に現れたのは自分を倒したあの女だった

 

『なにを~!さっきは油断したが今度は負けないぜ!うぉぉぉりゃぁ!!』

 

女に向かって蹴りを放つが女は触れた瞬間、消える

 

『どこ行きやがった?』

 

『ここや』

 

『っ!?』

 

女はいつの間にか真後ろにいた

 

『こっちやこっち』

 

葛城を兆発する女はどういうわけか宙をふわふわと浮かぶ

 

『くそっ!待ちやがれ!』

 

『ははははは』

 

『まてこの~!!』

 

『あはははは』

 

いくら追っても距離は縮まる気配をみせない

 

長時間走っていたため葛城の体力が限界に近づく

 

そしてとうとう息を切らし立ち止まってしまう

 

『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…』

 

『なんやもうバテたんか~?』

 

葛城をおちょくる女

 

『ぐっ!』

 

『ほんま弱いな~。あんたみたいなやつが強くなれる訳ないやろ』

 

『なっ、なにを~!?』

 

すると女は葛城の目の前までくると呟いた

 

『弱いやつはさっさと消えてまえ』

 

『なんだと…!?』

 

すると急に足場が消えていく

 

『なんだよこれ…うっうわぁぁぁぁぁ!!』

 

『ばいば~いへっぽこ忍さん』

 

『うわぁぁぁぁ!!』

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「うわぁぁ!!」

 

「かつ姉大丈夫ですか!?」

 

葛城が目を覚ますと佐介が寄り添っていた

 

「はぁ…はぁ…さっ、佐介…ここは…?」

 

「野宿場です。倒れてたかつ姉をここまで連れてきたんです。そしたら急に唸り出して」

 

「そうか…わりぃな心配かけて…」

 

「いえ…よかったです。はい、これをどうぞ。温まりますよ」

 

そう言うと佐介は葛城が眠っている間に薬草や山菜などで作られたスープを差し出す

 

「あっ、ありがとな……うまいな」

 

「よかったお口に合いましたか。旅で何度も作った僕の得意料理です」

 

佐介は自分の作った料理を葛城が美味しいと言ってくれたことに喜んだ

 

「ところで何があったんですか?」

 

「…!?」

 

葛城は佐介のその言葉で手にしていたスプーンを落とす

 

さらにその時、あの女の言葉が脳裏を過ぎった

 

『あんためっちゃ弱いな~。相手にならへんわ』

 

「く…!」

 

葛城はその言葉を思い出すたびに悔しくて悔しくてたまらなくなる

 

「かつ姉?大丈夫ですか!」

 

「……ごめん佐介、少し一人にしてくれないか?」

 

「えっ?」

 

「頼むよ…」

 

俯いた彼女を見て佐介は悟ったようにうなづく

 

「わかりました。じゃあ僕、川で洗い物してますね」

 

「あぁ…」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

佐介が川に洗い物に行っている中、葛城は尚も先の戦いでの女が残した言葉が引っかかり

 

落ち着いていられなかった

 

『無様やな』

 

「!?」

 

すると目の前に葛城の心が作り出したあの女の残像が現れた

 

『あんためっちゃ弱いな~』

 

「なんだと!アタイは弱くなんかない!」

 

『あんなにぼろぼろだったのにか~?』

 

さらに後ろからは擬似手の悪忍が現れた

 

「お前はあの時の!」

 

『無様、無様~』

 

「うるさい!本気のアタイはあんなもんじゃない!」

 

葛城は二人から浴びせられる侮辱の言葉を必死に否定する

 

『あの程度で手加減言うなら、あんたの本気はたいしたことないんやな』

 

『お前、弱い弱い』

 

「うっ、うるさい!うるさいうるさい!」バッ

 

言葉に耳を傾けまいとその場から走り出す葛城だった

 

 

 

 

 

「かつ姉?…どこですかかつ姉!?」

 

一方、洗い物を終えて戻ってきた佐介は葛城の姿がそこにないことに慌てていた

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

逃げるように葛城は山道を必死に走っていた

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……アタイは…アタイは…!?」

 

走り続けるも石につまづき、葛城はその場に倒れ込む

 

「強くなんなきゃいけねぇんだよ…アタイは誰よりも強くなんなきゃいけないんだよ…クソっ!」

 

地面に拳を叩きつける

 

「クソっ!クソっ!クソクソクソクソクソ!クソったれぇぇぇぇ!!!」

 

叩きつける。血が出ていてもおかまいなしに叩きつける

 

悔しさをそれで誤魔化すかのごとく

 

「こんなんじゃ…父さんも母さんも…くっ…」泣

 

涙を零しながら葛城は両親のことを思っていた

 

そんな時だった

 

ワンワン!

 

「!?」

 

どこからか犬の鳴き声が聞こえる

 

しかもその声は徐々に近づいていく

 

そして茂みががさごそ揺れてその中から何かが葛城に飛びかかる

 

それはふわふわの毛の固り、丸みを帯びた体につぶらな瞳の子犬だった

 

その子犬を葛城は知っていた

 

「チョコ!」

 

ワンワン!

 

チョコとは葛城が以前、飼っていた子犬だった

 

思いがけずの再会に葛城は喜んだ

 

チョコも葛城との再会を喜ぶかのように顔をぺろぺろと舐めた

 

「会いたかった…会いたかったよチョコ…」

 

傷ついた葛城の心をチョコが癒してくれた

 

「ワンちゃ~ん。どこですか~?」

 

するとチョコが現れた茂みから今度は佐介が出てきた

 

「佐介!?」

 

「あっ!かつ姉、探しましたよ!」

 

「お前、なんでチョコと?」

 

「チョコ?…あぁそのワンちゃんですね。僕がかつ姉を探してる途中で偶然…それでこの子について行ったらかつ姉を見つけたんです」

 

チョコが佐介を連れてきたのかと葛城はチョコを見つめた。

 

するとチョコは嬉しそうにワンっと鳴くと葛城から離れて、二人にまるで「こっちに来て」と呼んでいるようだった

 

佐介と葛城はチョコについて行く

 

チョコが二人を連れてったのは山から見える風景だった

 

夕焼けの空の元、見る風景は綺麗だった

 

その時、葛城の目に一つの家が写った

 

「あそこに一軒の家がありますね。誰の家でしょう?」

 

「…アタイの家さ」

 

「えっ?」

 

「あそこにアタイの両親がいるのさ」

 

葛城はこれも何かの縁かと想い、佐介に自分の今までの経歴を話した

 

「なるほど…だから強くなろうとしてるんですね。ご両親のためにも」

 

「あぁ…でもアタイってば負けてばっかで…こんなんじゃお父さんとお母さんに会わせる顔がねぇよ」

 

悔しさで拳を握る葛城

 

「だからアタイはお前が羨ましいんだよ佐介」

 

「えっ?」

 

「お前はすんげぇ強い。そんなお前がアタイには羨ましいんだよ。お前みたいに強くなれればって…この修行のことだってそう。お前と一緒に修行すれば強くなれると思ったんだ。でもアタイは…」

 

「…僕はかつ姉が言うほど強くなんかありません」

 

「そんなことねぇだろだってお前…」

 

「僕だって負けたことは何度もある。負けるたび負けるたび、修行してもそれでも負ける…そんな時は自分の非力さをつくづく思い知らされます。現にあの時も僕は負けた」

 

佐介は光牙との戦いだしていた

 

「でも、だからってそこで諦めたら今までの努力が無駄になる。自分の覚悟を偽ることになる…だからそんな後悔をしないためにも今度は絶対に勝つまで強くなる…そのためにも立ち止まってなんかいられません。…だからかつ姉も諦めないでください」

 

「佐介」

 

葛城の手をとり語りかける

 

「僕ならいつでも修行に付き合いますから。だからそんな暗い顔しないで綺麗な顔がもったいないですよ。かつ姉には笑顔が似合ってますよ」ニッコリ

 

「…っ」テレ

 

綺麗と言われ恥ずかしそうな顔を浮かべる葛城はこの時、佐介にたいし普段の自分では感じないような想いが目覚め始めていた

 

さらに佐介の言葉でさっきまでかかっていた心の靄が消し飛んでいった

 

「…ありがとうな佐介、そうだよアタイはこんなとこでへこたれるわけにはいかないんだ!絶対に強くなる!それがアタイの目標なんだからな!」

 

「その息ですよかつ姉」

 

ワン!

 

佐介とチョコのおかげで元気を取り戻した葛城

 

その時だった

 

 

ドカァァァン!

 

「「!?」」

 

山の奥から爆音が

 

「なんだ!?」

 

「わかりませんが、ともかく行ってみましょう!」

 

「チョコはここでまってろ!」

 

チョコをその場に残すと二人は奥のほうへと向かう

 

奥に行った二人が見たものは巨大な甲虫のような化物だった

 

「こいつは!?」

 

「いったい?…あっ、かつ姉、あれ!」

 

「あっ、まさか祠!?」

 

怪物の近くには封印され、入れられてたであろう祠が破壊されていた

 

「てことはこいつが!」

 

「(姿からして妖魔ではないようですが。このまま見過ごすわけにもいきません!)」

 

危険と判断し、倒すことを決めた

 

「佐介、よくはわかんないけどあいつを倒すぞ!」

 

「はい!!」

 

「「忍、転身!」」

 

「「はあぁぁぁ!!!」」

 

忍装束へとチェンジし、佐介と葛城は上空から同時に飛び蹴りを放つ

 

しかし虫の化物の甲殻は頑丈で大したダメージは与えられなかった

 

「くそっ!」

 

「硬い!」

 

 

ブォォォフォォォ!!

 

 

「「!?」」

 

反撃と言わんばかりに虫の化物が突進してきた

 

二人が回避すると化物は勢いを止めず周りの樹木を倒していきながらこっちに向かって追撃の突進をしかける

 

「はあぁぁぁ!」

 

「かつ姉!」

 

葛城は怪物に挑む

 

「秘伝忍法・ブラッディドラゴン!」

 

ドラゴンの頭部のエネルギーを飛ばすと怪物に直撃し、爆発する

 

「やったか!?」

 

倒した

 

…と思いきや

 

 

ブオォォォフォォォ!!

 

 

「なっ!?ぐあぁぁ!」

 

「かつ姉!」

 

化物は葛城の攻撃を食らっても尚、止まらず逆に葛城を吹き飛ばした

 

その際、佐介が葛城を助けた

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あぁ…平気だって!」

 

無事を確認したのも束の間

 

化物がもぞもぞし始めたと思った瞬間、体から煙を吹き出す

 

すると周りの木々が次々と腐り、枯れて腐ちた

 

「このままじゃやべぇ!秘伝忍法・トルネードシュピンデル!!」

 

葛城得意の秘伝忍法で竜巻を起こし、煙を吹き飛ばした

 

「よし!」

 

煙を消したその刹那

 

「かつ姉!!」

 

「ん?…なっ!?」

 

 

ガシッツ!

 

 

「ぐぁ!しまった!?」

 

わずかな隙に化物が巨大な尻尾で葛城を拘束する

 

「かつ姉!」

 

佐介が葛城を助けようとするも

 

 

ブン!

 

 

「「なっ!?うわぁぁぁ!!」」

 

狡猾な化物は捉えた葛城を佐介にぶつけそれを阻止する

 

しかも、それが効果的と知ったように葛城を盾にする

 

「こっ、これじゃ攻撃できない…」

 

 

ブォォォフォォォ!!

 

 

そこから化物の猛攻は続く

 

「ぐあぁぁ!がはっ!うわぁぁぁ!!」

 

度重なる連続攻撃で佐介はどんどんとダメージを受ける

 

「佐介!もういい!お前だけでも逃げろ!」

 

「そんな…そんなこと!」

 

葛城の逃げろという言葉に耳を貸さず、佐介は立ち上がる

 

「なにやってんだ!このままじゃお前殺されちまうぞ!いいから逃げろ!」

 

「僕が逃げたらかつ姉が殺されちゃう…そんなこと死んでもゴメンだ!!」

 

「佐介…」

 

「あなたには夢があるでしょう!それを叶えることなく終わるなんてダメだ!待っててください、僕が絶対に助ける!」

 

佐介はそう言うと化物に向かうも結果はさっきと変わらない

 

「(くそっ、このままじゃ佐介が死んじまう!…嫌だアタイは守りたい。強くなってだいじなものを守るんだぁぁぁ!!!)」

 

 

葛城がそう強く思った時だった

 

 

ピカァァァン!

 

 

「!?」

 

不思議な力が化物の拘束から葛城を開放する

 

「こっ、これはいったい?」

 

そして葛城の秘伝忍法書から緑色の放たれ

 

佐介に向かって走り、佐介の秘伝忍法書が緑色に光る

 

「これは……」

 

目を閉じ、精神を研ぎ澄まし、心の目を開くと

 

佐介の目の前に葛城の秘伝忍法動物の龍が現れた

 

 

ギュォォォォォ!!!

 

 

龍が戸愚呂を巻くかのように佐介の周りをぐるぐるまわると

 

佐介に新たなイメージを浮かびあがらせた

 

 

 

そして佐介が目を開くと自然と立ち上がっていた

 

「佐介、何がどうなってんだ?お前もう立てなかったんじゃ?」

 

驚く葛城に優しく微笑む

 

「かつ姉、ありがとうございます。かつ姉の強さが僕に力をくれました」

 

「えっ?」

 

佐介は巻物を突き出し、高らかに叫ぶ

 

 

「忍…(ソウル)転身!!」

 

 

すると佐介の周りを風が取り囲む

 

 

「なっ、なんだ!?」

 

さらにその風が龍の姿を纏いて佐介を飲み込んだ

 

「佐介!!」

 

突然の事態に佐介の身を心配する葛城だったが

 

 

その刹那

 

 

「ハアアァァァァァァァァァ!!!!!」

 

風の中から佐介の声が響き

 

「ハアァァ!!!」

 

掛け声とともに風が勢いよく払われ、中から佐介の姿が現れた

 

 

「吹きすさぶ信念 佐介・(ソウル)葛城!!」

 

 

「っ!?」

 

現れた佐介は瞳と髪が緑色に染まり、足には風と龍を模様した具足をつけていた

 

「さっ、佐介なのか?なっ、なんだその姿!?」

 

「これがかつ姉の強さが起こした奇跡さ、今の"オイラ"には負ける要素が見当たんねぇぜ!」

 

姿ともに雰囲気も変わり、一人称が『オイラ』へと変わり、葛城のような自信満々そうだった

 

「いくぜ!」

 

 

ブォォォフォォォ!!!

 

 

「そりゃあ!うりゃ!せりゃ!!」

 

風を纏った蹴りを何発もうっていく

 

化物が尻尾を連続で突きつけてきた

 

「へっ、そんなもんじゃオイラは倒せねぇぜ!」

 

そして次の尻尾を突き出す瞬間、寸前でかわしながら

 

佐介は技を繰り出す

 

「秘伝忍法・ブレイズパンツァー!」

 

風の刃を纏った連続蹴りで化物の尻尾を切り落とす

 

化物も悲鳴ながら怒りの突進をかます

 

「決めるぜ!」

 

佐介は構えると正面から迎え撃つ

 

「秘伝忍法」

 

飛び蹴りを放つとともに

 

「テンペストシュピンデル!!」

 

その状態で風を纏いドリルのように回転の力を加えた蹴りをぶつけた

 

ピキ ピキキキキ…

 

幾度となく二人の攻撃を防いできた甲殻が徐々にひび割れていき

 

そしてついに

 

バリィィィン!

 

甲殻を砕き、化物の体を貫いた

 

 

ブォォォフォォォ!!!

 

 

化物は断末魔をあげながら消滅した

 

そして佐介もまた元に戻った

 

「佐介~!」

 

葛城が佐介のもとにかけよる

 

「お前すげぇな!」

 

「いえ、僕だけじゃなくて僕とかつ姉の力があったからですよ」

 

「そうか~?えへへ」

 

ワンワン!

 

「チョコ!」

 

チョコが葛城に飛びついて顔をぺろぺろ舐めるのだった

 

 

 

 

 

「いや~なんかいろんな意味でつかれたな~」

 

「本当ですね」

 

「でもまぁおかげで自分の気持ちを再確認できた。ありがとうな佐介」

 

葛城はそう言うと頭を撫でた

 

「いえ。僕は何もしてませんよ。かつ姉が自分で答えを見つけただけです」

 

「またまた謙遜しやがって、そんなヤツはくすぐりMAXの刑だぞ~」

 

「やっ、やめてくださ~い」アセアセ

 

「逃げるなまてーー!!」

 

こうして寮に戻るまで葛城との追いかけっこは続いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、せっかく封印解いたのにみごとに倒されてもうたな~」

 

「あぁ…」

 

佐介と葛城の姿を遠くから見る影が二つ

 

1人は葛城を襲った女、1人はあの光牙だった

 

「それになんか新しい力も手に入れたみたいやけど大丈夫なん?」

 

「ふっ、逆に好都合だ。あの程度に殺られるようなら所詮そこまでの男ということに過ぎんからな」

 

「おや?なんやえらく楽しそうやな~?強くなって嬉しいんか?」

 

「うるさいぞ日影、帰るぞ」

 

そう言いながら光牙は先に行ってしまった

 

「ほんま素直やないんやから」

 

女、日影もまたその後を追うのだった

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。