赤球を飲み込み、成長を遂げたかぐらは蓮と奈落とともに山奥の縁側にて一休みしていた
「まったく、妖魔衆の次は半蔵のやつらか、次から次へと邪魔者どもが増える一方だ」
火に薪繰べながらぶつくさと奈落はそうつぶやく
「(だが…それ以上に不愉快なのは…)」ギロリ
そんな中、奈落はイラついた顔を浮かべながら視線をむける
奈落が視線を向けた先には…
「ふふっ、蓮~♪」
「うっうぅ~。か、かぐらさま。あ、あまり抱きつかないでもらえませんか?」
「嫌です♪」キpッパリ
「即答!?」ガビーン
なぜか楽しそうなかぐらとそんな彼女に抱きつかれて恥ずかしそうに顔を赤らめる蓮がいた
蓮が離れるように頼んでもかぐらは一向にやめてはくれなかった
「蓮。蓮~♪」
「まったく、相変わらずですねかぐらさまは?」
かぐらのじゃれつきに少々困ったような顔を浮かべるもまんざらではない顔を浮かべる蓮だった
「(くうぅぅ~!!やつめ、かぐらさまをいやらしい目で見つめおって~!)」グヌヌ
それを見るたびに奈落は事実とは逆のことを思いながら体から嫉妬の炎をメラメラと燃え上がらせる
「(…まったく、どうしてかぐらさまこんなやつを同行させるとおっしゃったのだ!)」
不満そうな顔を浮かべるとともに奈落の脳裏にこれまでの経緯が映し出されていった
それは妖魔衆の奇襲から逃げのびてから数時間後のことだった
あの後、かぐらと奈楽は妖魔衆、及び忍学生たちから逃げ追うせることができ
無事に安全な場所にまで来ることができたのだ
「怪我は大丈夫、奈落ちゃん?」
「はい、心配はいりません。これしきのことで根を上げるほどやわな鍛え方はしておりません。自分はかぐらさまをこの命に変えても守ると誓ったのですから」
「…奈落ちゃん。ありがとう」
自分を守ると言ってくれる奈落にかぐらは感謝しながらお礼を述べる
「さて、あまりグズグズしていてはまた妖魔衆に見つかってしまいます。早く別の場所へと行きましょう」
「うん。そうだね」
そうして再び移動を開始したかぐらたちは川が流れる場所にたどり着いた
「っ?」
「かぐらさま?」
「…っ!」トテトテ
「か、かぐらさま?お待ちください!」
突然、駆け出したかぐらを奈落が慌てて追いかける
「な、奈落ちゃん!」
「どうしましたか!!」
呼びかけに応えるかのように直様駆けつけてきた
「奈落ちゃん、早く来て!」
「いったいどうしたと……っ!?」
かぐらの元に駆けつけた奈落の目に映ったのは
ザザァァ…ザザァァァ…
川岸に倒れている佐介だった
「こいつは半蔵の?」
「奈落ちゃん、この人、死んじゃってるの?」
「…少しお待ちを」
不安そうな顔を浮かべるかぐらを見て奈落は佐介の胸に耳を当ててみる
ドックン……ドックン……
「…まだかすかですが息はあるみたいです」
「そう!…よかった~」
まだ死んでいないと聞いたかぐらは安堵の表情を浮かべる
「ですがこのまま放置すれば遅かれ早かれ時期に死ぬでしょう。まぁ、こいつが死んだところで我々には関係のないことですから気にする必要はありませんよ」
息していることはわかるが、だからといって助ける義理はないと奈楽がかぐらに進言する
「……ねぇ奈落ちゃん。この人を助けてあげて」
「な、かぐらさま!なにを言ってるんですか!こいつは敵ですよ!?」
しかし自分の予想とは全く真逆なことを言ってきたので奈楽は当然のように慌てた
なぜそんなことを言い放ったのか奈落は理解できなかった
ここで佐介を助けたところでメリットがあるわけでもないにも関わらないというのに
「わかってる。でも、この人はあの時、妖魔衆から私を庇ってくれたから」
「しかしそれでは?」
かぐらの提案に納得がいかない奈楽は必死に異議を唱える
それは奈楽なりに彼女の身を案じるがゆえにのことだった
「…それによくわからないけどこの人には死んでほしくないって私の何かが訴えてるの?」
「何か…ですか?」
「…うん」
しかし、奈楽はかぐらはとても必死な顔をしていたことに気づく
どうしてかは知らないがかぐらは是が非でも彼を助けたいという思いが痛いほど伝わってきた
「…っ」
「奈楽ちゃん、お願い。この人を助けてあげて」
「かぐらさま…」
必死に縋るように懇願するかぐらの姿を見た奈楽は複雑な思いに悩まされる
だが、ここまで必死に頼み込んでいる彼女の想いを否定して機嫌を損ねさせることは奈楽にとっても望むところではない
「…わかりました。かぐらさまがそう望まれるのであれば」
「本当、ありがとう奈落ちゃん!」
結局、一度は否定した奈落だったが、かぐらの必死の頼みはもちろんだったが、よく考えてみればあの時、彼のおかげでかぐらは怪我をすることもなく逃げることができたのも事実だったこともあり
折れた奈落はしぶしぶそれを承諾する
頼みを聞いてもらえてかぐらはぱあっと笑みを浮かべる
「ではとりあえず、まずはこいつを安全な場所へと運びましょう。このままではまずいでしょうから」
「うん!お願い奈落ちゃん!」
佐介を担ぐとかぐらたちは手当のために安全な場所を探すことにした
しばらくて2人は探索の最中、丁度よい手ごろな洞窟を発見した
そこで2人は洞窟に入り、忍学生たち及び妖魔衆たちから身を隠すことに
「…」
洞窟に身を潜め終え、かぐらに見張りを任せ、奈楽は早速負傷した彼の手当てに取り掛かる
「…こ、これは?」アセアセ
手当を行う中で奈楽は衝撃的な光景を目の当たりにする
「どう~?奈楽ちゃん?」
その時、洞窟の入り口前で見張り役をしていたかぐらが奈楽に声をかけてきた
「…い、いえ、何でもありません」
「そう?それならいいけど?」
奈楽はその声にハッと我に返り、簡単な受け答えをするとかぐらは安心した様子で見張りを継続した
どうにか誤魔化せた奈楽は再び視線を向けるとともに疑惑の目を浮かべる
「(どういうことだ?こいつはあの時、致命傷ともいえる傷を受けたはず?)」
記憶をたどり、彼女が最後に見た彼の光景を呼び起こす、確かにあの時、かぐらをかばった際に致命傷というべき大きなダメージを受けたと記憶している
「(ならばなぜこいつの怪我が治っている?)」
そう、彼女が気がかりに思ったのは傷が綺麗に治っているが故だった
どうして傷が治っているのか皆目見当もつかない
しかし事実傷は治っているのだ
「(何がどうなっている?)」
疑問が疑問を呼ぶ
「奈楽ちゃ~ん?」
「あっ、す、すみませんかぐらさま。もうすぐ終わります」
「そうなの?うん、わかった~」
またも上の空だった奈楽がかぐらの声ではハッとなる
「(仕方ない、今は考えるのは後だ。まずはかぐら様のためにこいつを手当てしなければ)」
不可思議な点は山ほどあるがとりあえず今は目の前のことに集中することにした奈楽だった