カポ~ン
温泉、それは地中より沸き立つ温水である
摂氏25度以上の鉱水と水蒸気によってよく沸騰した湯舟に入るものたちは皆口を揃え「あああ…」とその気持ちよさにより口からは感嘆の声が上がる
世には様々な温泉があるがそれに関しては全てが共通するものである
紳士淑女の社交場であり、裸と裸の付き合いの前では隠し事など無意味である
温泉とは文字通り全てをさらけ出す人と人とが織り成す心のフィールドなのだから
それらがあるがゆえ、温泉には「癒し」「ロマン」など様々なものがあり……即ち、「素晴らしい」ということである
ここは旅館の露天風呂。大きな風呂場が広がり、夜空を眺めることが出来る素晴らしい景色が広がる
「…はぁ」
「どうしたんだよ斑鳩、ため息なんかついて?」
「…結局あれからかぐらさん、そして佐介さんを見つけることはできませんでしたね」
「…あぁ、そうだな」
あれからすぐに斑鳩たちはかぐらたちを探すべく京都を探索した
だが、結果として成果は得られずしぶしぶ1日の疲れを癒すべく温泉に浸かっていた
「未だにショックだよ。佐介くんがひばりたちのことを覚えてないって聞いたときは」シュン
「…まったく酷いもんだよ。僕たちのこと忘れやがってさ」プンスカ
暗い顔を浮かべながら雲雀は呟き、一方チェルシーも文句こそ言いながらも佐介のことを心配していた
「そう落ち込むことはないぞひばり、確かにあいつは今、オレたちに関することを忘れてはいるみたいだが、あいつの心はまだ死んでいるわけじゃない、なんとかしてあいつの心を動かせばきっと記憶も戻るはずだ……そうだろ飛鳥?」
「うん。少なくとも私はそう信じたい……絶対に佐介くんを元に戻すんだ」
佐介の記憶を取り戻す、そんな飛鳥の思いに他のみんなも頷いた
そんな時だった
ガララララ!
露天風呂の入口が開く音がし、飛鳥たちが振り向く
「っ?…飛鳥?」
「ほ、焔ちゃん」
するとそこから現れたのはタオルに身を包んだ焔たち紅蓮竜隊の面々だった
偶然の遭遇にお互いに驚きを隠せない様子だった
「なぜお前たちがここに?」
「それはこっちのセリフだよ!」
焔の問いかけに飛鳥はその言葉を送り返す
「詠さん」
「斑鳩さん…」
「お、おう日影」
「お~、葛城やないか」
前回のことがあるからか詠と日影と顔を合わせるなり、少し気まずい感じな雰囲気になる斑鳩と葛城
しかしそれは詠と日影も同じことであった
「じ~…」
「なんだ?オレの胸になにかついているのか?」
「…前よりも成長してるみたいね」
「そうか?まぁ京都にきてからいろいろあったからな。成長したと言ってくれるのならありがたい、これもお前がオレのライバルでいてくれるからこそだな。だがあえていうぞ。オレはまだまだ成長を続けるぞ」
成長したと未来に言われ、柳生はそんな彼女にお礼を述べるとともに自分が忍として強くなることを告げる
「はぁ!?」
「ん?どうした?」
しかし未来の反応は柳生の思っていたそれとは別のものだった
「…あ、あんたね~!いくらなんでも嫌味すぎでしょ!ムカつく~!!」
「な、なにを怒っているんだ?」アセアセ
「わかんないならその胸に聞いてみるんだね~」
「お、お前まで?」
未来の怒りの意味が分からず困惑する柳生に対し、未来の思いを察したのかチェルシーが嫌味っぽくそう言うのだった
「ひばり」
「あっ、春花さん」
春花が湯の中を進み、ひばりの元にきた
「ひばりと一緒に露天風呂に入れるなんてラッキーね」ヨッシャラッキー
「うん。ひばりも春花さんと一緒で嬉しいよ♪」
「そうだ。良かったら一緒に背中を流しっ子しない?」
「えへへ、うん。いいよ~♪」
気まずい雰囲気の斑鳩たちとは対照的に柳生と雲雀、未来と春花は楽しげな雰囲気だった
「なんてことだ。疲れた体に癒しを与えに温泉に来てみれば、ライバルの待ち伏せにあうとはな」
「ち、違うよ焔ちゃん!別に待ち伏せしてなんかいないよ!」
「私は一向に構わんぞ飛鳥、たとえどんな場所だろうとお前に負ける気がしねぇ!」
「あわわわ」
戸惑ってる飛鳥とは逆に気合充分な焔だった
「はいはい、そこまでにしなさい焔ちゃん」
「春花?」
「まったく騒ぐのは結構だけどあまり旅館に迷惑をかけるのはまずいんじゃないかしら?」
「ぐぅ」
そんな中、ひばりの背中を流しながらその様子を見ていた春花が焔をなだめた
「焔ちゃん、春花さんの言うとおりだよ。温泉で戦うなんてダメだよ。ここは休戦。戦うなら今度ちゃんとやろ?」
「…し、仕方ないな」
飛鳥に正論を突かれ、焔はしぶしぶ承諾し、湯舟に入る
「確かに互いに万全を期して戦ったほうが実りもおおいか」
「焔ちゃんが納得してくれてよかったよ」
例え方はどうあれ、これで温泉での争いごとは回避されたのだった
「…それにしても飛鳥」
「なに?」
「お前、なにか吹っ切れたようだな、あの時とは大違いだ」
「…うん。焔ちゃんにあぁ言われて、あれからずっと考えてたんだ。自分はどうすべきなのかって……そして私は自分がしたいことを見つけた。だからかな?」エヘヘ
ちょっと照れくさそうにいう飛鳥の顔を見て焔は少し安心したかのように軽く「そうか」とつぶやく
そうして休戦という名のもと、和やかな空気が辺りを包み込む
「詠さん。相変わらず肌がすべすべですね」
「いえそんなこと」
「…こ、これは少々葛城さんの気持ちが分かる気がしますわ」サスサス
「えっ?ちょ、斑鳩さん?どうしたのですか?ひゃん!や、やめてください斑鳩さん!?く、くすぐったいですわ!?」
自分の肌を触わられくすぐったそうにする詠は斑鳩にそれを伝えた
「す、すみません詠さん!」
一瞬、我を忘れていた斑鳩も詠の言葉にはっとなる
「嫌ですわ私ったら」ハズハズ
「…いいでしょう。そこまでするというのなら、わたくしとてやられっぱなしは商に合いません!かくなる上はわたくしも!!」バッ
「きゃあっ!よ、詠さん!そ、そこはダメ…ぬぁっ!」
「それそれそれそれ~!」
詠の逆襲を受け、全身をくすぐられる斑鳩だった
「お、いちご牛乳かいいね~…でもよ?普通そう言うのってさ風呂上りに飲むんじゃねぇか?」
「わしは風呂前に飲むんや」
「へ~。人の考えはそれぞれってやつだな。よ~しアタイも買ってくるかな!」
「浮かれとるとこ悪いんやけど、生憎わしが持ってるので最後やったからそれは無理や」
それを聞いた瞬間、葛城はガビーンっとした顔を浮かべる
「な、なぁ日影、じゃあさそのいちご牛乳少しだけわk「すまんの~、それはできん相談や…ぐびぐび」のぁ~!」
葛城の話しを聞かず日影はいちご牛乳を飲み干してしまったのだった
プクプクプク
「ん?なんや?」
「どうした日影?」
「あれなんやろと思っての〜」
日影が指差す先に目を向けてみると湯船からぷくぷくと泡が出ていた
「なんだ?」
「わかんない」
皆が不思議がっている時だった
バシャァァァァァン!
すると突然、水が盛り上がった
「」ゴゴゴゴゴ…
そこから怪しげな影が現れた
『きゃああぁぁぁぁ!!!』
突然の事態に皆が一斉に悲鳴をあげる
「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!お、オバケ〜!?」
「い、いやー怖いーー!!?」
恐怖で怯える飛鳥たち、果たしてその正体は…?