ピチャピチャピチャ
「う、うぅぅぅぅぅ…」ゴォォォォォォ!!
「ひっ、ひぃぃぃ!?お、お化けェェェェ!!!!???」
「わー!わー!わー!何も聞こえない!聞きたくなぁい!!退散!悪霊退散!!!!」
目の前に現れた影に怯え、焔は1番大きく叫びをあげる
だが、よくよく見てみると
「ゲホッ、ゲホッゲホッ!……ふぁ~…や、やっと息ができました。あのままいたら死んでしまうのではと思いました」ムセムセ
「えっ!かぐらちゃん!?」
『っ!?』
影の正体はどういう訳か湯の中に潜っていたであろうかぐらだった
予想外の人物の登場に一同は驚く
「かぐらさま!」
「奈落」
さらにそこに同じように身を潜めていたであろう奈落も現れた
「な、なぜお前たちがここに?」
「あなた達が来る前からここで奈落とともに入浴していたのですがあなた達が来たので奈落に隠れているよう言われ、湯船の中に身を潜めていたのです。ですがもう限界だったのでこうしてあなた達の前に姿を見せてしまったということです」
「そうだったんだ」
「ふ、ふん。わ~私は最初からわかっていたぞ。お、おおおお化けなんてこの世にいるわけないんだ。うんそうだそうに決まってるさアハハハハハハ」
お化けじゃないことに安堵したのか慌てて汚名返上しようとするがこの時全員から「よく言うよ。あんなに怯えてたくせに」と内心つぶやかれていたのである
「…かぐらちゃん、奈落ちゃん。佐介くんはどこ?」
「あいつなら数分前に風呂から出ていった」
「っ…そうなんだ」
奈落の説明を聞き、この場に佐介はいないことを知り飛鳥たちはがっかりした
すると飛鳥はあることを切り出すべくかぐらに目をむける
「ねぇかぐらちゃん」
「なんですか?」
「これを言って素直に聞き入れてくれるとは思わない、でも言うよ……お願い。佐介くんを返して、佐介くんは私たちの大切な仲間なの、だから!」
飛鳥は切実な思いでかぐらに佐介を返してくれるように頼み込んだ
「…それは無理な相談ですね」
「っ!」
「何度も言いますがあの者は佐介などではありません。奈落とともに私を守る守人、蓮なのですから」
しかし案の定、かぐらは飛鳥の頼みを断った。あくまで自分たちと行動をともにしているのは蓮なのだと
そう主張するのだった
「ずいぶんとかってな言い草だな。お前たちが佐介を誑かしたからこうなったのではないのか?」
「あなた方がどう思うかは勝手です。ですがなんと言われようと彼は蓮、我々と行動をともにする者。あなた達の仲間だった佐介なる人物はもういないのです!」ドン
かぐらは飛鳥たちに諦めさせようと少々強く物申す
「……私は諦めないよ」
「えっ?」
「かぐらちゃん。私たちも同じだよ。あなたがどう思ってようと自由だけど、佐介くんがいなくなったっていうのを決めつけるのはまだ早いよ。…例え望みが限りなく低くたって私たちは決して諦めたりしない、必ず佐介くんの心に私たちの思いを届けてみせる。佐介くんを…私たちの大切な仲間は絶対に取り戻してみせるから!」
キリっとした目つきで自分を見る飛鳥にかぐらも負けじと彼女を見た
「……いいでしょう、やれるものならやってみなさい、でもこれだけは言っておきます。私とておいそれと蓮を奪われるつもりはありませ。もし私から蓮を奪おうというのであればその時はあなた方全員、容赦はしません」ゴォォォ
『っ!』
かぐらは全身から気をあふれださせるのだった
その頃、かぐらたちよりも先に露天風呂から出ていった蓮は部屋に戻る途中だった
廊下を歩きながら部屋に向かおうとしていると
「よう」
「っ?」
「元気そうだな蓮」
「…君もね疾風」
突然、前方から声をかけられ向くとそこには柵に腰掛ける浴衣姿の疾風がいた
「久しぶり…でもねぇのかなお前にとっては?」
「そんなことはないよ。私としても君にこうしてまた会うことができるとは思っていないさ」
「はっ、嬉しいこと言ってくれんじゃねぇかよ」
互いに久しぶりの再会に花を咲かせる
「ところでここで会えたのは好都合だ。疾風、君は何か知ってるんじゃないのか?もしそうなら私としては聞きたいことが山住ある。この時代のことや私のこの体についてなどね」
「だろうな。目を覚ましたと思ったら時代がこんなにも変わってるんだもんな?…いいぜ教えてやるよ」
「頼む」
疾風は蓮の要望を聞き、彼にすべてを打ち明けることに
「…っ」
そんな中、偶然にも向かい側の廊下を歩いていた光牙が2人に気づき、柱の影に隠れ、様子を伺っていた
「(…やつが佐介と接触するとは、だがこれは奴の思わくを知るチャンスかもしれないな?)」
疾風の目的を知るべく、聞き耳をたて、そっと会話を聞くのだった
「あの日のことは覚えてるだろ?」
「忘れるわけがないさ、あの日、私と君はかぐら様を守ろうと必死に戦った。のにもかかわらず上の者たちは自身の法身を理由に我々を裏切り、かぐら様を犠牲にした…あの時の悔しさは今も変わらない」
そういう蓮は拳をぎゅっと握りしめる
「そうだな。そしてお前はかぐらの報復のために上層部に反旗を翻し…"殺された"」
「(殺された…だと?)」
不穏な単語が出てきたことに光牙は耳を疑う
「しかしそれならなぜ私は今こうして?」
「俺はお前が息を引き取る直前、こいつにお前の魂を弾丸として抜き取り、保管した。いつかお前を生き返らせるためにな……その後俺は数百年の年月を生きいつか訪れるだろう機を待った。そしてついにそれが来たわけさ」
「確かにうっすらとだがその時の記憶がないわけではないが…実際のところそれはどういうことだい?」
蓮は疾風に尋ねる
「かぐらが目を覚ますことは前々から知っていた。だから俺はまずはかぐらをどうにかしようとこの京都に来た。だがその中で見つけたのがお前のその肉体の持ち主だったんだ」
「この肉体の持ち主?」
「あぁ、その肉体はお前の肉体が転生したものだ。つまり、魂と肉体を別々にしたのさ。故にお前の魂との適合率は極めて高い、だから俺は転生者が弱っている隙を突いて保管していた魂の弾丸を打ち込んだ。それにより見事成功してお前は肉体を取り戻したのさ」
「…」
不思議な思いを抱きながら蓮は自分の体を見ていた
「(なんということだ。つまり今の奴は)」
光牙が話しを一通り聞いて今の佐介が佐介であって佐介ではないことを知った
今、自分が見ているのは佐介の肉体を持った別人なのだと
「これで俺にとっての役者は揃った。俺の宿願が達成されるのもあともう少しといったところさ」
「疾風」
「さて、俺はそろそろ行くわ」
「どうしてだい?どうせなら一緒に?」
その場を去ろうとする疾風を制止し、一緒にいようと提案する
「悪いが俺にはまだちょっと用があるんでね。それまでは別行動ってな」
「…そうか」
「はっ、そんな顔すんなって。ことがうまく運べばまた戻れるさ…あの頃の俺たちのようにな」
「…うん、わかったよ」
昔過ごした3人の思い出が脳裏をよぎり、蓮はもの思いに更けながら疾風の言葉に従う
「てなわけでじゃあな親友」
「あぁ…」
その言葉を酌み交わし、疾風と蓮はその場を去っていった
彼らがいなくなって間もなく身を潜めていた光牙が出てきた
「…どうやら、少々複雑な状況になっているようだな?」
2人の会話からそう答えを導き出し、考えを模索する光牙だった
場所は再び露天風呂に戻る
かぐらの放つ威圧に飛鳥たちは鳥肌が立っていた
最初にあった時のおちびだったときには想像もつかないほどの巨大な威圧に飛鳥たちは息を呑んだ
「かぐらさま、ここはお静まりください、こんな場所で無駄な力を使う必要はないかと」
「…そうですね。あなたの言うとおりにしましょう」
「御理解いただき恐縮です」
奈落の説得を受け、かぐらは沸き上がらせていた力を消した
「では我々はこれで失礼するが、1つだけ言っておくぞ、お前たちは大量発生した妖魔の駆逐に専念しているみたいだが、お前たちが妖魔を得意げに狩るのもかぐらさまが完全に覚醒するまでのことだ。…では参りましょうかぐらさま」
「えぇ、わかっています。これ以上の長ばなしは不要。引くとしましょう」
「はい」
奈落の意志を汲み取ったかぐらはこの場からさることにした
「お待ちなさい!」
「そう簡単に行かすとでも思ってんのか!」
立ち去ろうと出入口に向かうかぐらたちの前に斑鳩と葛城が立ちふさがる
「おやっ?ここでやろうと言うのか?温泉は中立なのではなかったのか?自分たちで言ったことを曲げるのか?」
「うっ!」ギクッ
「そ、それは…」
奈落の言うとおり温泉では休戦と言ったのは自分たちである
自分たちが言ったことを曲げては本末転倒だ
斑鳩たちは反論もできずその場に突っ立っていることしかできなかった
そんな彼女たちの間を通り過ぎかぐらたちは出入り口までたどり着く
だがその時、かぐらはぴたっと立ち止まった
「かぐらさま?」
奈落が尋ねるとかぐらは無言のまま飛鳥の方に目をむける
「かぐらさま。いかがいたしました?」
「いえ…行きましょう。湯冷めしては不味いですし」
「はい」
そう言うとかぐらと奈落は露天風呂を後にし、残された飛鳥たちはしばらくの間、その場に立ち尽くすのだった