かぐらと奈落が風呂場を去ってから数分後
飛鳥達もまたのぼせてはまずいということで風呂場を後にした
そんな中、飛鳥は焔とともに旅館の廊下を歩いていた
「……」
「…飛鳥、お前。かぐらが言った事を気にしてるのか?」
「…うん」
『もし私から蓮を奪おうというのであればその時はあなた方全員、容赦はしません』
温泉を出て行く際、かぐらは飛鳥たちに宣戦布告した
佐介、もとい蓮を奪うならば容赦はしないと
「あの時のかぐらちゃんの目、本気だった。どんなことをしても佐介くんを渡さないっていう気持ちがすんごく伝わってきたんだ。……どうしてかぐらちゃんは私たちと同じくらい佐介くんのことに必死になるんだろうって」
「確かにそれは私も感じていた。なんであいつはあんなにも佐介に執着するんだ?」
かぐらのとった行動に飛鳥と焔は頭を悩ませていた
「飛鳥、ここにいたか」
「霧夜先生?」
するとそこに霧夜がやってきた
「むっ、焔もいたか。ちょうどいい、今ちょうど他の面々を部屋に呼んでお前たちを探しに来ていたところだ」
「なぜだ?善忍に呼ばれる覚えはないはずだが?」
悪忍である自分たちを善忍である霧夜が呼び寄せていることに疑問を感じた焔はそのことを尋ねる
「…お前たちに重要なことを伝えるためだ」
「「重要なこと?」」
霧夜の語ったその一言に飛鳥と焔は同時に小首をかしげるのだった
それからすぐのこと、飛鳥たち半蔵学院と光牙たち焔紅蓮竜隊が部屋に勢揃いし、全員が自分たちと対するように座る霧夜に視線をむける
すると飛鳥たちが見ている中。着いて早々に真剣な顔をしていた霧夜が語りだした
「まず本題に入る前に飛鳥、それに斑鳩、葛城、柳生、雲雀、チェルシー、レイナ…お前たちに問う。まだ佐介のことに異議を唱えるか?」
「もちろんです」
飛鳥に賛同するように皆が頷く
「…今や佐介は我々の敵になってしまったのだぞ?既に上からの命令であいつにもかぐらと同じように討伐の指令がくだされている。逆らえばどうなるかわかっているのか?」
「私たちはまだ諦めたりはしてません。佐介くんの心はまだ消えてない、必死に呼びかければきっと思い出してくれる。元の佐介くんが帰ってくるってそう信じてるんです。かぐらちゃんのことだってそう、私たちには彼女が悪いことをするようには思えません。なのにどうして上はそんな命令を下すのか。納得のいく答えが知りたいんです」
「…お前たちの気持ち、しかと受け取った」
霧夜は飛鳥達の思いを感じ取り、何か腹を決めた様子だった
「…ではその話は一先ず置いておくとして本題に入らせてもらう。俺は先ほど上からの命でかぐら対策班の緊急会議に趣いていた。最上忍たちのおかげで世界で起きている妖魔の襲撃は沈静化されつつあるそうだ。だが、幹部たちは今だかぐら討伐が事を運んでいない件について不満をぶつけてきた。そんな中で俺は幹部たちに訪ねた。この忍務の内容をお前たちに伏せている理由はなんなのかと…だが、幹部たちは耳を貸さなかった」
「忍はただ忍務を遂行すればいい」…向こうからの返事はこうであった
未熟な飛鳥たちがこの忍務の内容をすればかぐらに感情移入が生まれるかも知れない、そういった意味では幹部達の言うこともわからなくはなかった
感情に乱れが生まれれば忍務にも支障を来たし、忍務遂行の妨げにもなろうという幹部達の意見は的を射ているものだ
確かに飛鳥たちは忍とは言え学生だ。だが、今この場にいない佐介も含め、近くで成長を見守ってきた霧夜だからこそわかる
彼らは学生としてのレベルを超えた困難に幾度となく遭遇した…だが、共に過ごし育んだ友情とそれから生まれるチームワークで様々な逆境を乗り越え強くなってきたのだと霧夜は断言できるほどだとそう確信すらしていた
忍としての教示を胸に自分たちで考え、己の意志で道を決め、そして友情を育んだ結果、今こうしてこの場に善忍と元とは言え悪忍が同じ場所に集うという今までの忍の理ではまずありえないような光景を霧夜は目にしていた
ここにいるこの子達こそが時代を担い、今の忍の理すら変えるかも知れないそんな存在なのだと…そう思わせてくれるような存在が今、こうして目の前にいるのだと思わずにはいられなかった
そんなことを思いながら霧夜はここにいる子達に教師として自分がすべきことを考えに考え…ついに決心した
「これからお前たちに忍務の全てを話すことにした。とても重要なことだ。心して聞いてくれ」
「お願いします霧夜先生」
霧夜が語るその言葉を聞いて飛鳥たちは緊張した様子を見せていた
だが、それでも尚彼女たちの瞳はまっすぐな良い目だった
そうして霧夜は安心と信頼を寄せながら一から全てを話した
自分たちが追っているかぐらとは何者なのか目的はなんなのかを
かぐらとは妖魔を滅するべく、この地に幾度となく転身を繰り返す人を超えた存在である
一部の古い書物には彼女に関することが載っており、それによれば約900年前からにも及ぶものであるという
妖魔を根刮ぎ滅するためならどんな手も使うほど、彼女のその戦う姿に当時の人達は恐怖したという
そして妖魔を倒し、役目を果たしたかぐらは再びこの世に舞い戻るため転生の珠に姿を変えるという
だが、それこそが上層部が彼女を危険視する言えんだった
書籍によればかぐらが転生の珠に戻った際、周囲を巻き込むほどの熱量を放ち、一面を一瞬にして消滅させてしまうというのである
仮にかぐらがこの京都に蔓延る妖魔を殲滅し再び珠に戻った時、この京都が消滅してしまうかもしれないという危険性を危惧していればこそなのだ
妖魔を滅する使命を帯びながら人々から恐れられ、転生を繰り返す…これが彼女、かぐらの全てなのである
「……以上がお前たちに忍務の内容を伏せていた理由だ」
霧夜が説明を終えたと共に飛鳥が徐に手をあげる
「…私、かぐらちゃんを助けたいです。消滅するだけの運命なんてなんだかおかしいです」
飛鳥のその思いに他の皆も頷いた
「…いいのか飛鳥、かぐらはお前たちから佐介を、仲間を奪った女でもあるんだぞ?」
「それでも……それでもそんなの悲しすぎるから」
事情を知り、飛鳥はかぐらの余りにも可愛そうな生き様にそう思わずにはいられなかった…例えそれが佐介を巡る相手であっても
そう思う想いは皆同じだった