妖魔を街に解き放ち、混乱を招く道元を止めるために彼が従える十一座と十二座と戦う一同
しかし妖魔衆屈指の戦闘力をもつ2体の前に苦戦を強いられる
その最中、飛鳥の呼びかけによって自らを取り戻した佐介がその2体と対峙し、戦闘になる
十一座と十二座と戦う佐介は
これを連続、駆使して2体を追い詰めていく
佐介の凄まじい猛攻の前に十一座と十二座は追い込まれ、最後は極限魂《オーバーソウル》となった佐介の一撃によって葬られた
妖魔衆を全滅させたことで士気を高める佐介たちだったが
実はこれらはすべて道元の計算のうちであり、同時に妖魔衆の全滅をトリガーとする術が発動してしまう
もうすぐその術によって上位クラスの妖魔たちが現れ街を襲うことを告げ、道元はその場から去っていってしまうのだった
「くそっ、道元の奴を逃がしちまった!」
「私たちが妖魔衆たちを倒しちゃったせいで妖魔が解き放たれちゃうなんて」
「…転んでもただでは起きないということか。してやられた」
思わぬ事態の中、状況が状況ではあるものの道元を取り逃がしてしまったことに佐介たちは焦っていた
「どうしましょう?」
「…どうもこうもない、上位クラスの妖魔がそうほいほい現れてでもしようものならそれこそ取り返しがつかんことになる。何としても俺たちで根こそぎ駆逐するほかない」
「でも今のままでは」
事態が最悪な方向に行くのは避けたいところではあるが先所妖魔衆との戦闘によるダメージがまだ残っている状態でむやみやたらに行動するのはまずいのではないかと意見が分かれていた
どうすべきかと一同は途方にくれる
その時だった
「っ!?」
「どうしたの佐介くん?」
何かに気づいた様子の佐介が振り返る様子を見た飛鳥が問おうとした直後だった
シュンシュン!!
「「「「っ!?」」」」
近くの茂みから飛び出す2つの人影が佐介たちの前に現れた
「あ、あなたたちは!?」
現れた人影の正体、それはこの戦いの一部始終を物陰からのぞき込んでいたかぐらと奈楽だった
「…蓮」
「…かぐらちゃん」
佐介たちとかぐらと奈楽らは互いに視線を向け
その中で佐介とかぐらは少し違う感覚で互いを意識し合っていた
「…っ」
「っ?」
両陣営が互いに視線を向けている最中、不意に奈楽が場を離れ、どこかに歩みだすとともに唐突に屈みこんで何かを拾っている様子が見える
彼女が拾ったものを見るとそれは十一座と十二座が消滅したことで2体の亡骸として出現した赤球だった
「かぐらさま。これを、最後の2個でございます」
「あぁ。ご苦労、奈楽」
奈楽はそういって彼女に赤球を献上し、かぐらがそれを受け取る
「最後だと?ということは?」
「そうだ。礼を言うぞお前たち、あの厄介極まりない妖魔衆を全滅させてくれて、おかげでかぐらさまの覚醒に必要な赤球はすべてそろった。これを食べることでかぐらさまはさらなる覚醒を迎えるのだ」
「なんだと!?」
赤球がそろったことで完全なる覚醒を果たすと聞かされ、佐介たちは驚きに包まれる
「さぁ、その目で鹿と見るがいい!かぐらさまの覚醒の時を!」
「…」
そう奈楽が宣告すると同時にかぐらが奈楽より受け取った赤球をゆっくりと自分の口元に運んでいき
彼女はそれをごくっと飲み込んだ
一同が騒然とし、沈黙が周囲を支配していた
「…っ!!」ギュピィィィィン!
「「「「っ!?」」」」
沈黙を破るかの如くかぐらの体から佐介たちの想像を超えるほどの気があふれ出してくる
「こ、これは!?」
「かぐらちゃんから凄まじいエネルギーを感じるよ!?」
「どうなってんだよ!?」
予想外の事態に皆困惑する
「かぐら、ちゃん!?」
凄まじい気の嵐の中、佐介は気圧に耐えながらかぐらのほうを見る
その一方で気の渦の中心にいるかぐらの身が徐々に変化していっていた
中学生くらいの身長差だった彼女の体がみるみるうちに大人の女性の体に変わっていった
「はあっ!!」
覚醒が完了したのか彼女は自ら気の渦を吹き飛ばした
佐介たちが改めて視線を向けるとそこには自身の力で宙を舞っているのであろうかぐらが浮き上がり越しに自分たちのほうを見降ろしていた
やがて彼女はふわふわゆっくりと地に降り立った
「……っ!」キリッ
「「「「っ!?」」」」ピクッ
刹那、かぐらが閉じていた瞳をぱっと開き、こちらを見る
鋭く光る彼女の眼光に見られた飛鳥たちが体に震えを覚えるほどの何かを感じさせた
「かぐらさま、更なる覚醒へと至ったこと、この奈楽、心より嬉しく思います」
「あぁ、ご苦労。奈楽」
そんな彼らを他所に奈楽が跪きながらかぐらの覚醒の完了を祝福し
かぐらもそのことに関し彼女に礼を述べていた
「な、なんだこいつ?」
「今までも凄まじいものを感じていたのに?」
「…今の奴からはそれ以上の圧を感じる。あれが更なる覚醒を果たしたかぐらのものというわけか?」
あの凄まじさを感じさせたかぐらの眼光を見て光牙たちは思ったことを口に出していた
一方で彼らの前に立つ佐介もまたかぐらのほうを見ていた
「…かぐらちゃん」
覚醒を果たしたかぐらに何とも言えないような複雑な思いを抱く
「…蓮」
それはかぐらもまた同じようであった
両者は互いを見ていた
だが、その時だった
ギュオォォォォン!!
『「っ!?」』
刹那、緊張感が支配する場の空気に干渉するかのように別の気配が発生と咆哮を上げるとともに大きさを増していた
「光牙、これって?」
「あぁ、どうやら現れてしまったようだな?上位個体が」
気配と咆哮からして妖魔の上位個体が出現してしまったのだと予測した
「かぐらさま」
「あぁ、わかっている…」
かぐらと奈楽もまた妖魔の気配と咆哮を聞き、そっちのほうに視線を向ける
「…蓮」
「っ?」
「すまない」
「えっ?」
すると唐突にかぐらが佐介に謝ってきた
「かぐら…ちゃん?」
「できるなら今度こそお前とともにありたかった。お前と一緒にいたかったよ」
「…っ!?」ドックン
刹那、かぐらのその呟きに佐介の心がざわつく
「…奈楽。こよれより我が力持ちて妖魔どもを狩る!」
「はっ、お供いたしますかぐらさま!」
「よし、私の手を取れ」
「御意」
かぐらの命を受けた奈楽が彼女の手を取り、そのまま彼女とともに宙を舞う
「かぐらちゃん!」
「…っ」
佐介がとっさに呼びかけると一瞬ちらっとこちらを見るも無言のまま飛び去ってしまうのだった