十一座と十二座を倒した佐介たちだったが
それは道元の計画の一端に過ぎず、上位妖魔を呼び出す術式の発動条件を満たしてしまったことで
道元は自分たちの隙をついて逃亡を成功させ、さらにはこの騒動に便乗したかぐらと奈楽によって赤球を回収されてしまう
かぐらが回収した赤球を食べたことで覚醒を果たし、妖魔を滅するために動き出すのを手負いの佐介たちは止められなかった
佐介たちを後にし、妖魔たちが暴れ狂う街に繰り出したかぐらと奈楽は押し寄せる妖魔たちを解放された力で次々と蹴散らしていた
最中、進行を進める2人の前に風と共に現れたのはしばし行方を絡ませていた疾風だった
覚醒したことで過去の記憶を取り戻したかぐらと疾風は束の間の思い出話しに花を咲かせる
だが、蓮がいないことを指摘したことで疾風はかぐらから経緯を聞き。焦りを抱いている中
かぐらは自身の使命を果たすことを告げ奈楽と共に立ち去ろうとする
しかし直後、いきなり疾風がかぐらたちに技を放つのだった
「…っ!!」
ビュオオォォォォ!!
「「っ!?」」
突如技を繰り出したことにかぐらと奈楽は動揺する
「…ふっ!」
最中、疾風が技を発動してすかさず突き出した手に再び力を集中する
すると先程放たれた風の波動が一つから二つに分裂し、2人を覆うように円状に広がる
2人が気を取られている隙に疾風が技の仕上げに入る
円状に広がる風の輪が2人を瞬く間に包み込み、一瞬にして風のドームが完成したのだ
「こ、これは!?」
「っ?」
突如として風のドームに閉じ込められたことで奈楽は焦りを覚え、かぐらも彼女ほどではないが焦りを覚える
「…っ!!」
ここでかぐらが体から力をあふれ出させ、いっきにこの風のドームを破壊しようとする
ピキッ!!
「っ!?」
「かぐらさま!?」
しかし予想をはるかに超えるほどこの風の防壁は耐久性に優れているばかりか破壊しようとしたかぐらの腕に切り傷を作ってしまうほどだった
かぐらの負傷に慌てて奈楽が駆け付ける
「大丈夫ですかかぐらさま!?」
「っ…あぁ、この程度何ともない」
ひとまず心配そうな奈楽にかぐらが心配をしないように言い聞かす
「残念だがその結界はそう簡単には抜け出せねぇ。いくらお前でも覚醒間もないその状態では尚更な」
疾風の作りだした風のドームは覚醒したかぐらでもそう簡単に壊すことが叶わないほどのものであった
「貴様、いったいどういうつもりだ!?」
自分たちをドームに閉じ込めた疾風に奈楽が悪態を吐く
「…何のつもりだ疾風?」
続けざまにかぐらも問いただす
「わりぃがお前にはしばらくの間そこでおとなしくしてもらう」
「なんだと?」
彼女たちの問いに疾風はおとなしくここで待つようにと、そう答えた
「疾風、なぜ邪魔をする?わかってるだろう私は」
「うるせぇな。お前の使命なんざ知るか。俺はこの数百年もの間ずっとお前を探していた。同時にお前をこんな糞みたいな定めから解放するためにいろんな方法を探していたんだ。…それが蓮が俺に託した最後の頼みだった」
「っ…蓮の?」
自分がかぐらのやろうとしていることへの妨害は蓮との約束だと疾風は語る
「正直俺は世界がどうなろうが知ったこっちゃない。俺はただまたダチが消えるさまを見たくねぇのさ」
「…っ」
過去のことを引きずっているような言葉を呟き、自分がかぐらに消えてほしくないのだと告げる
そんな彼の言葉を聞いた奈楽はその言葉に思うところがあったのか彼女のほうをチラ見していた
「あとのことは俺が始末をつけてやる。だからお前はそこで俺が戻るまでじっとしていてくれ」
妖魔たちは自分が何とかするからと疾風がかぐらに説得を試みる
「疾風、お前の気持ちはありがたいし、嬉しいと思っている」
「そうか、なら「だがっ」っ?」
「たとえお前の頼みでもこればかりはもうどうすることもできない、我が名がかぐらであり、すべての妖魔を滅するという運命からは逃れることはできないんだ…あの時がそうだったように」
「っ…」
疾風はその言葉を聞いて過去の出来事を思い出す。妖魔によって滅ぼさせられようとしていた自分たちはかぐらが自らを犠牲とし、それによって自分たちは救われたことを
「…だから納得しろってか?定めだからって仕方ないからダチがみすみすまた消えてしまうさまを指をくわえて見てろって?…ざけんな、そんなこと誰が認めるか!」
「疾風?」
「運命がなんだ?使命がなんだ?そんなことのためにまたお前を犠牲にしろってか?ふざけるのも大概にしやがれ!俺はお前がまた消えるのを見るために生きてきたんじゃねぇ!俺はお前をくだらない運命から解放するためにここまで来たんだ。それを水の泡にしようとしているやつがたとえお前だろうと関係ない、邪魔をしようってんならどんな手を使ってでもお前を止めるだけだ!」
だが、だからこそ疾風は反論した。あの時、かぐらに自分の身を犠牲にさせるという残酷な決断をさせてしまった罪悪感、彼女のために人知を尽くし、志半ばで逝ってしまった蓮への後悔が彼をここまで突き動かしていた
彼女にもう一度、否、蘇った彼女にもうあのようなことをさせたくない。彼女には普通の人生を歩んで欲しいという思いが彼をここまで駆り立てる原動力になっていたのだ
「その結界は俺が解除しない限り出ることはできない…だからおとなしくそこで待ってろ。お前がやらずとも俺様だけで妖魔どもを蹴散らしてやるからよ」
疾風は彼女たちを閉じ込めたのはかぐらに妖魔たちと戦うことを止めるためであり
かぐらがそうしなければ自らの消滅を招くようなことにもならないと考えたからだ
友を失いたくないという疾風の想いがひしひしと伝わる
「疾風……お前は変わらないな」
「ん?」
「ぶっきらぼうでおちゃらけたような態度を取るくせにその心のうちはどこか熱いものを感じる。それがお前らしいいいところだ」
「かぐら…」
どこか懐かしげにかぐらが疾風に語りかけ、それを聞いた疾風はこそばゆい感じになる
「お前の優しさはわかっているつもりだ。だが、それでも私は止まれない、止まることは許さないんだ」
「な、なぜ、なんでなんだよかぐら!」
「それが私の、逃れられない定めだからだ…っ!!」
そういうとかぐらが風のドームを再び破壊しにかかった
「無駄だ。いくらお前でもその結界は破れない!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
結界をこじ開けようとするかぐらと無駄なことだと言い張る疾風の根競べが熾烈を極めていくのだった