霧夜によって半蔵特性の兵糧丸で体力を回復させた佐介たちはかぐらたちを追って街に入った
街には結界によって出現した妖魔たちが待ち構えており、佐介たちの行く手を阻もうとする
しかしそこは佐介たち、襲い掛かる妖魔たちをもろともせず蹴散らしていった
自分たちがこうしている間にもかぐらは覚醒したその力で妖魔を狩っているであろうことを察し
同時にそれによって引き起こされるであろう彼女の消滅とともに引尾怒る街もろとも消滅するという危機が刻一刻と迫っている
妖魔を消すために彼女と街を犠牲にすることなどあってはならないことだと
絶対にそんなことはさせないと佐介たちは一致団結の想いを掲げる
その最中、逸る気持ちを抱いていた佐介たちに突如として突風が押し寄せる
凄まじい風が、勢いが彼らの道をふさぐ
やがて一瞬にして風が吹き止んだと思いきや佐介たちの前に姿を見せたのはこちらを睨み据えている疾風の姿だったのであった
風と共に現れた疾風の出現に佐介たちは驚いたような表情を浮かべながら両者互いを捉えていた
「(あれ?あの人どこかで会った気が?)」
その最中、佐介は前方にいる疾風の顔を見て以前会ったことがあるような気がするも
思い出せそうで思い出せないといった妙な気持ち悪い感覚に襲われていた
「…ふぅん、よぉ少年、久しぶりだな?」
「っ?」
佐介が思い悩んでいる中、疾風のほうからこえをかけてきた
「忘れちゃいないよな?あの時、妖魔に襲われかけたお前を助けてやっただろ?」
「…あっ」
疾風のその言葉に佐介はハッと記憶を蘇らせる
この京都に来る数日前、妖魔に危うくやられかけ双になっていた自分を救ってくれた者がいたことを
そしてその人物が今目の前にいる男であることを
「確か疾風だったな?なんでお前がここに?」
「よう、そこにいるのは褐色の嬢ちゃんか?俺の子と覚えてくれたみたいで嬉しいね~」
焔が問いかけると疾風がまたおちゃらけたかのような態度で焔に答える
「貴方は確かあの時の?」
「おっ、あんたはあの時の嬢ちゃんか?いや~あの時は悪かったな怒鳴っちまってよ」
「えっ?…あっ、う、ううん…別に気にしてないけど?」
「なになに?許してくれるの?こらまたプリティ~なうえにお優しいこって…どうだい?この騒動が収まったらその子褐色ちゃんと一緒に俺と遊ばねぇか?」
飛鳥の問いかけに答えると同時に彼女たちを口説きにかかり、2人は困ったような顔を浮かべていた
「ふざけるのもいい加減にしろ、質問をしてるのはこちらだ。貴様がなぜここに?」
しびれを切らした光牙が疾風に自分たち前に現れたことを問いただす
「まったく、相も変わらずだな。そうかりかりとしなさんなって、カルシウム足りてるか?」
「…こいつ!」
「光牙、気持ちはわかるが落ち着け!?」
なぜここにいるのか質問してもチャラけたような話術で煽られてしまい
話しが全く進まないことに光牙がムッとなりそうなところを焔が必死になだめようとしていた
このやり取りを見ていた疾風はくすくすと笑っており、それに関しても光牙はイラつきを見せていた
「…その様子からしてかぐらたちのいう通り戻っちまったんだな?」
「えっ?」
そんな中、おもむろに疾風が佐介に対して意味ありげにつぶやき
振り向いた佐介の目に切なさと悲しさを孕んだ顔を浮かべている疾風の姿が映る
「(なんだろう、あの人からはとても悲しげな感じがする?)」
佐介は彼を見るやそんな感情を抱いていた
「さて、楽しいおしゃべりはここまでにしよう……っ!」キリッ
「っ?」
「「「っ!?」」」
すると突如として疾風が再び鋭い眼光を向けこちらを睨む
彼のその変化に気づいた光牙と焔、飛鳥が身構えようとし、緊迫した空気がこの場を支配する
「いいか、一度だけしか言わねぇからよく聞いておけよ?…お前ら、そいつを俺に渡して早くここから去れ」
「「「「っ!?」」」」
疾風が佐介を指さしながら佐介を置いて行けと言い出す
「どういうことだ?」
「何って言葉通りの意味に決まってんだろ?そいつを俺によこしてお前らはこの街から去れって言ってんだよ」
「そ、そんなことできるわけないよ!大体今この街がどうなってるかあなただってわかってるはずだよね!?」
街には今も妖魔が徘徊しているのに先の道元の仕掛けた術によって上位クラスの妖魔までもが街に解き放たれてしまっている
そんな状況下の中で何を言っているのか飛鳥たちには理解ができなかった
「心配は不要だ。この街に蔓延る妖魔どもは全部俺様が始末してやる。そうすればお前らもお前らを利用しようとしてる奴らも文句はないだろ?…これでお前たちも安心できるだろ?わかったらさっさとそいつをよこせ」
「そんな、そんなの嫌に決まってるじゃない!?」
「なに?」
「上の人がどうだとか何がどうとかなんて関係ないよ!佐介くんは私たちの大切な仲間だよ!その大切な仲間を渡すだなんてできないよ!」
妖魔は自分がかたずけるから佐介をよこせという疾風のその言葉に飛鳥が溜まらず反論する
「ふぅん、言うね~?だがこちらも引き下がるわけにはいかねぇんだよ」
しかし疾風もそんなことで引き下がるわけもなく、両者は平行線を辿るだけだった
「…どうして?」
「ん?」
「どうしてあなたはそんなに僕のことを?…もしかして、「蓮」って人と関係しているんですか?」
「っ!」
佐介は会話の内容からどうして彼が自分を連れて行こうとするのかその理由がわからず聞いてみた
当然だ。なぜなら佐介が疾風兎会ったのは京都に来る前の一回のみであり
あの出来事があって以降はしばらくは肉体を蓮の精神が支配していたためそれまでの記憶はない
だが見たところ他の三人は彼に対して警戒してる様子も見せており、何かあったと思われることが伺え、考えられる可能性があるのだとすれば蓮の存在が大きく関わっているのであろうと考えたのだ
「…っ」
「その反面、やはりそうなんですね?」
蓮の話題を出した途端に疾風が動揺している様子を見せるのを見て佐介は確信を得た
「まぁ、貴様が現れたところから察してはいたがな」
そこに光牙が付け加えるように言い放つ
「…ふっ、今更つまんねえ小細工も必要ねぇか、あぁ、そうだ。お前の言う通り、俺がここに来たのには蓮が関わっている」
誤魔化しも必要はないなというかのようにすっとした顔で告げる
「やはりか…だが残念だったな。もうお前が言う蓮という奴はいないぞ?」
「黙れ、お前らがなんといおうと知ったこっちゃねぇ。俺はそこにいるそいつを、もう一度"蓮にする"」
「「「「っ!?」」」」
疾風の放った衝撃的な言葉に叔母の全員が驚愕したのだった