疾風との戦いの果てに最後の最後で佐介が力尽き
それでも尚、倒すことの叶わなかった疾風によっていよいよ窮地に陥ってしまった
だがその最中、2人の危機に颯爽と現れた大導寺と凛によって事なきを得た佐介と光牙は
先んじて戦場に向かっていった飛鳥と焔を負うべく道中で拾ったバイクを操り、目的地に向かって疾走する
妖魔の邪魔などの些細な妨害をもかいくぐっていった佐介と光牙はついに目的地周辺に到着し
そこで飛鳥と焔と戦っているかぐらを発見した
状況を見ると若干かぐらに押されているように見て取れ、2人は早く加勢しなければという思いに染まる
だが、そんな2人の前に現れたのは自分たちよりも先にこの戦いを見ている奈楽だった
互いを認識するや奈楽はかぐらの優勢でこの戦いは幕を引くのだと豪語する
しかしそんな彼女に対して佐介が放った一言で彼女は一気に動揺を隠せなくなった
佐介の言葉に自分の心をかき乱される感覚を覚えた奈楽は
自分の心を乱そうとする佐介に攻撃を仕掛け
それでもなお、難攻不落の要塞のように倒れない佐介に引導を渡すために秘伝忍法を繰り出したのだった
「【秘伝忍法】!!」
「っ!?」
「くそっ、ここにきてそんな技を!?逃げろ佐介!さしものお前でもそれを受けきるのは不可能だ!今度こそ殺されるぞ!」
奈楽が秘伝忍法を発動させ、その一撃を今まさに放とうとする
突然のことで光牙が助けに行くにもとても間に合いそうにもなかった
「ふぅぅん!やあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐっ…がはっ!?」
直後、奈楽の繰り出した蹴りが佐介に直撃する
次の瞬間、奈楽の放った一撃によって佐介は血反吐を吐いた
「…っ」ユラッ
「っ!?」
「はぁ…はぁ…っ」ニヤリ
秘伝忍法の直撃を受けて体をふらつかせる佐介に光牙は絶句し
奈楽は今度こそやったかといった顔を浮かべる
「……ぐぅっ!ぬぅっ!!」
「な、なにっ!?」
「っ!?」
しかしその直後、倒れかけそうになった佐介だったが
飛びそうになった意識を呼び起こし、倒れかけたその体をなんとか踏みとどまらせた
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
「さ、佐介……」
「…う、嘘だ!?」アセアセ
これまでの攻撃に加えて自分の秘伝忍法の一撃すら耐え抜いた佐介の姿に奈楽は思わず後ずさりしてしまう
佐介のほうは攻撃を受けてボロボロになっているにもかかわらずその瞳に宿る闘志は尚も消えていなかった
「…なぜだ?なぜそんなになるまで立ち続けられるんだ?」アセアセ
もはや奈楽は目の前にいる自分を見ている者が何をしても倒れないことに恐怖すら覚えられた
「…いった、はず…です。僕らは…僕は、かぐらちゃんのことも…あなたのことも救ってあげたい…から、こんな、ところで倒れるわけには…いかないんです」グヌヌ
体から血を噴出させ、立っているのも苦しいはずなのに尚も、立ち続ける
今の佐介を動かすもの、「救いたい」という思いが彼の体を動かしていた
「どうしてだ?かぐらさまのみならず自分まで?…お前たちと自分たちは会ってまだ間もない他人だぞ!?そんな自分たちを救うだなどお前たちに何のメリットがあると言うんだ!」
何度も何度も佐介の思いを拒み、傷つけていった自分をまだ救いたという彼の行動が奈楽には理解ができなかった
「…会って間もないとか、メリットとか…そんなものは些細なこと、なんです…目の前で悩み、苦しんでいる人をほっとくことなんて…僕は、絶対に嫌だ」
「っ!?」
「それに、これで確信しました。やっぱり奈楽さんが本当はかぐらちゃんに消えてほしくないんだということが」
「な…なにを?」
佐介はあの奈楽の繰り出す攻撃を受け続ける中で感じ取っていたものがあった
それは奈楽の攻撃を通して伝わる彼女の「悲しみ」である
技を繰り出される度にそこから彼女の内に秘められた思いを感じ取ることができた
「奈楽さん、あなたは本当は関係なくかぐらちゃんともっと一緒にいたい、そうなんじゃないですか?」
「ち、ちが…じ、自分は、かぐらさまをお守りする守人であって、そんなこと思ってなど」
「立場を言い訳にしないでください!」
「っ!?」
奈楽は未だ佐介の問いに対する答えを否定しようとするも
直後に佐介から放たれたその言葉によって妨げられた
「あなたが守人という役目を持ってかぐらちゃんを守っているということは立派なことだと思いますし、そんなあなたのことを尊敬できもします…でも、その立場を盾にして本当の気持ちを押し込もうとしているあなたはただの臆病者でしかありません」
「じ、自分が臆病者だと!」
臆病者であるといわれて奈楽は焦りを感じつつムッとなる
「そうです。自分の気持ちを素直に出せないような今のあなたは臆病者でしかない」
「貴様!言うに事欠いて自分を愚弄するか!自分は…自分は臆病者なんかじゃない!」
「だったら…そんな立場なんて言い訳を捨ててその気持ちをかぐらちゃんに伝えてあげてくださいよ!!」
「っ!?」
自分を臆病者呼ばわりする佐介の言動をやめさせようと掴みかかった奈楽だったが
逆に佐介の放った一言によって言葉を失い、掴みかかった手を放して呆然としていた
「じ、自分は…自分は…」
佐介のその言葉に奈楽はどうしていいのかわからなくなりそうになっていた
「奈楽さん…あなたにとってかぐらちゃんとの関係は主と従者であることだけなんですか?」
「…えっ?」
刹那、佐介の問いかけに奈楽は目を丸くしたかのように彼に視線を向ける
「本当はそんな関係よりもっと、もっと対等な関係になりた言って思ってるんじゃないですか?」
「対等な…関係?」
「そう、例えば…「友達」として、かぐらちゃんと接したかったんじゃないんですか?」
「っ!?」
一番の確信に迫る問いかけによって奈楽は言葉も出せないほどにまで動揺していた
「じ…自分は…自分は…」
佐介の言葉を聞いた瞬間、奈楽の脳裏にあるヴィジョンが浮かび上がる
それはかぐらと出会う前
かぐらの意思が眠る転生の玉を眺め、その時を待ちわびていた幼き日の自分
キラキラと輝く玉を眺めながら幼き日の自分がある願いをしたことを思い返す
「(……そうだ。自分はあの時)」
幼き日の自分が口にした言葉を奈楽は思い出したのだった
『友達が……欲しい』
一途で、健気な願いを……