飛鳥と焔対かぐらの戦いは熾烈を極めるものとなり
一進一退の攻防が繰り広げられていった
そしてとうとう決着の時を迎え
双方は万感の思いを込めた大技を出し合った
互いの技と技がぶつかり合い、あたりを飲み込んだ
やがて視界が開けた先に映ったのは大技をぶつけ合ったことで
体力も気力も消耗しきった飛鳥と焔とかぐらの姿だった
もう限界も近いというに向かってこようとするかぐらに困惑する最中
現場に到着した佐介たちがやってきた
佐介と光牙も説得にかかるもやはり一手足りないという状況を前にどうすべきかと悩む中
その最中一つの声がかぐらを止めた
かぐらを止めたのは奈楽だった
先の戦いで佐介に諭された奈楽はかぐらが自分たちのために
身を削ってでも戦おうと傷ついた体で飛鳥たちに向かおうとする姿を見て
抑えていた感情を爆発させ、今まで自分が思っていた胸の内を明かす
奈楽の必死の訴えがかぐらの心が大きく揺らぐのだった
佐介と共にかぐらと正面から向き合う奈楽は今までずっと抑えていた感情を暴露し
彼女に動揺を誘わせた
「かぐら、もういいんだ。これ以上傷いていくお前を私は見たかなんかない。だから…頼む」
「な、奈楽…」
自分のことを心の底から心配して訴えてくる奈楽に返す言葉が見つからないのか右往左往している
「かぐらさん見てみてください、奈楽さんは自分の立場という枷のせいで今まで自分の思いを伝えられずにいました…でも、奈楽さんはその枷を自分の意思で壊すことができたんです。それが何かわかりますか?」
「…それは?」
「あなたのことを思う奈楽さんの心がそれを振りほどいたんです」
「っ…!」
「…かぐらさん、あなたは確かに妖魔を滅するという使命を背負って生まれてきたと思います。でもこの数百年で時代は変わりました。もうあなたにその使命を強制させようとする輩はいない、今ここにいるのはみんなあなたに生きてほしいと願う者たちばかりなんです」
佐介のその言葉にかぐらは周囲を見渡す
視線の先には佐介の言葉に同調するかのようにうんうんと頷いている飛鳥やちょっと照れくさそうにしている焔や同意だなというかのように鼻で笑う光牙の姿があった
「かぐらさん。あなたはには今も昔もあなたのことを思ってくれている人がいるんですよ。でも妖魔を駆逐したらあなたは代償としてまた眠りにつく、もしそうなったら残された者たちはどう思うと思いますか?…きっと悲しむはずです」
「っ!?」
残された者たちが悲しむ、その言葉にかぐらはハッとなる
その瞬間、かぐらの脳裏に浮かんだのは今までで自分が大切だと思えた者たちの姿だった
「(疾風…蓮…奈楽…)」
自身にとって命以上ともいえるほどに大切な存在、そしてその内の2人が自分の目の前にいる
「かぐら、もう一人で抱え込む必要なんてない。これからは私がずっと一緒だ。どんな時でも…従者としてではなく「友達」として一緒に」
「な、奈良…」
ぎゅっと抱きしめられ、ずっと一緒にいるという奈楽の言葉がかぐらは心に染み渡るとともに
かぐらの体を奈楽の温もりが包み込んでいた
「…奈楽」
「っ?」
「私は嬉しいよ。お前が私のことをちゃんと呼んでくれて」
「かぐら?」
自分を抱きしめる奈楽を今度はかぐらが抱きしめ返した
「わかったよ奈楽…私たちの戦いはこれで終わりだ」
「ほ、本当かかぐら?」
「あぁ、もう私はこれ以上戦ったりしない」
かぐらの口からはっきりと告げられた
戦いをやめると
「「「…やったーっ!」」」
その言葉を聞いた佐介と飛鳥、焔は嬉しさのあまり飛び上がるほどに喜んだ
粘り粘った末にかぐらを止めることができた、かぐらを消滅と長き眠りにつかせなくて済んだことを知って心の底から
「まったく、はしゃぎすぎだな……だがまぁ、今くらいはよしとしてやるか」
浮かれ気分でいる佐介たちにやれやれと言うような顔をする光牙だったが
かという自分も達成感を感じていることもあり、その様子を微笑ましく見守るのだった
こうして奈楽の助けをもあってついに佐介たちはかぐらの説得に成功し、事態を収拾することができたのである
「…まったく、大した奴だなあいつは」
「っ?」
最中、不意に奈楽がかぐらに語り掛ける
「口先だけだと思っていたのにあいつの決して折れない心を目の当たりにして、あいつの言葉に突き動かされたことで私はこうしてかぐらとこうして友達になれたんだからな」
奈楽はそういうと喜んではしゃいでいる佐介に視線を向ける
「…ふっ、そんなこと当然のことだ」
「えっ?」
ふとかぐらが意味深な言葉を告げ、それを聞いた奈楽はきょとんとなる
さらにかぐらはゆっくりと佐介の元に歩み寄っていった
「っ、かぐらさん?」
こちらに向かってくるかぐらを目にした佐介は何事かと思っていた
少ししてかぐらが佐介と近しい距離までやってきた
「その…すまなかったな。お前たちにはいろいろ迷惑をかけた」
「いえいえ、そんな、気にしないでください!」
頭を下げて謝るかぐらにあたふたしながらなだめる
「しかし?」
「いいんですよ。僕らはかぐらさんを助けたい、力になりたいと思って行動しただけですからそんなかしこまることはありません…本当に良かったです」
「っ…」
申し訳なさそうな顔をしているかぐらに佐介は優し気な笑みを向けてそう告げる
そんな佐介のことをポーっと見ていたかぐらだったが直後に笑みをこぼす
「やはり中身は変わっても一番肝心なところは変わらないんだなお前は?」
「えっ?どういうことですか?」
「気にするな。こっちのことだ」
話しを濁すかぐらだったが彼女の目にはうっすらと見えている
佐介の後ろで自分を見ている白い影が
自分に対して優しく微笑みかけているのを
かぐらが見据える白い影、それは佐介の中に残る連の思念だった
「(…蓮、私は生きていいのだろうか?)」
不安そうに心の声でかぐらは蓮に向けてそう問うた
それに対し、蓮は再び笑みを向けると優しく頷くとともに連の残像は消えていき、かぐらの目にも映らなくなった
「(…ありがとう、蓮)」
あの微笑みはきっと「君は生きていいんだ」と告げているような気がしてかぐらは気持ちが少し和らいだ気がした
「…さん、かぐらさん?」
「っ!」ピクッ
「どうしたんですか、急にぼーっとして?」
「…いや、何でもない。お前たちにはいろいろ迷惑をかけたなと思ってな」
かぐらの言っていることがいまいちわからなかったがひとまず感謝されているのだとわかり照れくさそうにしていた
「さて、とりあえずことも解決したことだし、そろそろ帰るか!みんなも心配してるだろうしな!」
「それもそうだけど帰ったらじっちゃんの行方も探さないとだしね」
「確かに…半蔵様、無事でいればいいのですが」
「うん」
この戦いが終わったことで一つの件は片付いた
だが佐介たちにとってもう一つ重要な半蔵の捜索という課題も残っているのでそうのんびりとはしていられない
早く半蔵を見つけ出さねばという意気込みを佐介と飛鳥は抱いていたのだった
「さぁ、かぐら。私たちも行こう」
「そうだな。いくか奈楽」
「あぁ♪」
佐介たちの後ろ姿を見ていたかぐらと奈楽も彼らについていこうとする
これからの道へとかぐらと奈楽は一歩踏み出そうとした
ジュシュゥゥ!!
「………っ!?」
「………えっ?」
「「「「…っ?」」」」
しかし、その直後、かぐらの体を生々しい音と共に一本の腕が突き刺した
「なにを勝手に終わらそうとしているのかな?…そうは問屋が下さないのだよ。なぜならこれからが真のショータイムなのだからね」
不意に聴こえる不適な囁きと怪しげな眼光がかぐらの背後に蠢いていたのだった