道元の猛威に苦戦を強いられる佐介たち
疾風たちの敗北の直後に加勢に入った葛城達の到着によって状況は一旦は変化を見せる
しかし、道元はそれをも自身の力で凌駕し始めてしまう
どんどんと追い込まれていく葛城達は最終手段として
絶・秘伝忍法の連携、未来のサポートで道元を倒したかに見えた
だが、それでも道元を倒すまでには至らず
あと一歩まで追い込まれたことへの恥辱からその報復として
始めに未来を、次に葛城達を、最後は佐介たちを戦闘不能まで追い込んでしまった
道元は佐介たちを倒したことで勝利の美酒に酔いしれる
どうにか佐介は立ち上がろうにも気力を失い、意識を失った
暗い意識の底で絶望に染まり始める佐介の元に一つの光が現れ
飛鳥たちの活躍によって消滅したと思われた蓮が姿を現し
佐介に語り掛け、佐介のことを称賛しつつ
かつて自分が味わった二つの絶望についてを語り始めるのだった
暗闇に閉ざされた精神世界内で佐介は蓮と再会し、彼の話を聞いていた
「二つの絶望?…それは一体どういうことなのですか?」
蓮の語ったその言葉の意味が理解できない佐介は彼にその意味を問うた
『「…事の発端はあの日だった。妖魔の群れが里を攻めてきたあの時、私と疾風。そして数十人の兵たちとともに襲ってきた妖魔たちから里を、民を、そしてかぐらさまを守るために戦った」』
突如、何の前触れもなく里を襲撃してきた妖魔の群れとの激しいに身を投じた
戦いの中で自分と疾風以外の兵士たちが次々と妖魔たちによって食われ、嬲られ、踏みつぶされていった
かく言う蓮も疾風も無尽蔵に押し寄せてくる妖魔たちを相手に疲弊していった
やがて連戦による疲労の蓄積によって2人の体力も限界に来ていた
『「もう互いに術を発動することも体術で応戦することすらできないほどに弱り切ってしまい、先にやられてしまったほかの者たちと同じ運命をたどるのかとそう思っていた時だった。かぐらさまが我々を助けに来た。来てしまったんだ」』
2人の危機を救うために現れたかぐらだったが
流石に披露し、負傷してしまった2人を庇いながらに戦うことは難しいことだった
だからこそかぐらは選んだ。選んでしまった
この状況を打開し、2人を、同時に里と民を守る唯一無二の手
自身の身を糧に発動させるかぐらの最大の奥義を
そして奥義を発動させたかぐらの手によって妖魔たちは消滅した
しかし、その力の代償が彼女の身に訪れた
力を使ったかぐらはその身を玉に変えられ
深い眠りという自らを封じ込められてしまったのだった
『「そうして私は結局かぐら様をお守りするどころか逆に救われてしまった。何のために私は生きてきたのだろうかと後悔した」』
かぐらが転生の玉となりて数百年もの眠りについてしまったことは
今も蓮の心の中に決して忘れることをさせてくれない深い傷を負わせ
後悔の思いを募らせることにもなった
『「でも、事はこれだけで終わることはなかった」』
「えっ?」
『「かぐら様の使った術によって確かに妖魔は消え去った。しかしそれによって里は崩壊してしまった。そしてこのことに民たちは一斉にかぐら様を責め立てて来たんだ」』
妖魔たちとの戦闘は多くの兵士たちを死に至らしめただけに留まらず
かぐらが自らの身と引き換えに放った技の余波によって里は崩壊した
住むところを失った民たちの怒りは討伐に出向いた蓮と疾風、そしてかぐらに向けられた
一つは蓮たちに対してはなぜ自分たちだけが生き残って自分たちの身内の者たちが死ななければならなかったのかという非難の言葉
もう一つは里の守り神として崇めていたかぐらの力によって里がこんなことになってしまったことへの非難の言葉だった
蓮はこの時皆の言葉を疑った
確かにこの戦闘においてその者たちの身内や家を失わせることとなってしまったのはこちらの落ち度だったのかもしれない
だが、あの時皆は必至に戦っていた
全員が命を懸けてまでも守るべき民であるこの者たちのために精一杯を尽くしていた
しかし目の前にいる民たちはそんな自分たちの奮闘などどうでも良かったのだ
皆にとって必要なのは自分たちの安全と住処が残っているかどうかのことしかなかった
自分たちの保身さえ約束されればそれで良かったのだ
事件が起こる前、常日頃からかぐらを慕うような言葉を述べていたくせにいざこの結果になった途端に
それとは打って変わり手のひらを返すかのように罵倒の嵐をここぞとばかりに吐いてくる
蓮は目の前で起こっていることのあまりの信じられなさに言葉を失ってしまったのだ
『「民たちからの罵倒や罵声を浴びつつも私たちは里の復興に尽力した。周りからヤジを投げられても、どんなことを言われようともかぐら様が守ろうとしたものを守り抜かねばという思いを胸に私と疾風は耐え続けた…だが、それから数日の後、私は疾風からあの事件の真相を知った」』
「事件の真相?」
蓮の口から事件の真相を知ったと聞いて佐介は小首をかしげる
『「その日私は疾風に呼び出され、向かって見るとそこには疾風が数人の若者たちに暴行を加えていた場面だった。わけもわかないままに私は疾風に詰め寄った。なぜこんなことをしたのかと…だが、次の疾風の言葉によって私はあの日のことの顛末を知ることになった」』
疾風から語られたあの日の出来事、妖魔の群れが里に襲撃してきたことの真実はあまりにも信じられない内容だった
事件が起こる前、この若者たちは酒の勢いもあってか面白半分で里の者たちが立ち入りを禁じていた場所に向かってしまったこと
そにある祠の封印をふざけ半分で解いてしまったことが原因だった
封印が解かれてしまったがゆえに封じ込まれていた妖魔の群れが里を襲撃してきた
若者たちの下らぬ戯れがあのような惨劇を生み出してしまったのだ
しかし、それ以上に質が悪いのは
親族の者たちも責任を問われることを恐れ彼らを手助けし、一貫して黙秘をしていたのだ
だというのに彼らはかぐらが起こしたことも利用してほかの者たちに便乗して自分たちを責め立てたのだ
実に身勝手極まりない、とても人のすることとは思えなかった
このことを偶然にも知った疾風は彼らに対して怒りを覚え、今回のことに及んだのだ
『「…かぐら様が命がけで守ろうとした者たちによって裏切られたのかと思うと私の心の中はグログロとしたものに染まりそうな思いだった。そして疾風以外の者たちには嫌悪感以外のなにものも浮かばず、ただ醜いものを見るような感覚しか覚えられなくなっていった…これが私が味わった二つの絶望だ」』
「っ…」
話を聞いて佐介は複雑な心境を浮かべるのだった