道元との壮絶な戦いを経て見事勝利を手にした
京都という戦場を舞台にした戦いは終わりを告げた
戦いに決着がついた後、春花と先に意識を取り戻したチェルシーとレイナ、愛花たちが負傷者の手当てを開始し
その最中、道元によって力を奪われたかぐらの意識が戻らぬことに難色を示していたが
偶然にも佐介が道元に奪い取られた赤珠を回収していたことでこれをかぐらに返した
赤珠が戻ったことで意識を失っていたかぐらが再び本来の姿を取り戻し、目を覚ましたことで皆は安堵した
佐介たちから気を失ってからのことを聴いて戦いが終わったことをかぐらは知り
自分がこれからどうすべきかを悩むかぐらだったが、奈楽や疾風の言葉を聞いて新しい道を進むことを決める
そんな中、不意にかぐらが佐介に語り掛け、気を失っている最中に自分の元に蓮が現れたと語りだしたのだった
時は少し遡り、まだかぐらが意識を失っていた時のことだった
『ここは…どこだ?』
かぐらの意識は何もないくらい空間の中におり、ひたすらに続くその暗闇の中で途方に暮れていた
『…ぐら、かぐら?』
『っ!?』
刹那、自分を呼ぶ声を聴いて振り返ると一粒の光がやってきた
何事かと思っていると光が人型に変化し、蓮の姿になった
『かぐら』
『…蓮!』
かぐらは蓮の姿を見るなり衝動的に駆け寄り抱きついた
『蓮!蓮、っれん〜!』
『…っ』なでなで
抱きつくと共に嬉し涙を流すかぐらを蓮はどこか愛おしそうな顔を浮かべながらその頭を優しく撫でてあげた
『ずっと…私は、ずっとこうしたいと思っていた!』
『うん…僕もだよ』
『私は…私はずっとお前のことが好きだった!』
『わかってる。わかってるよ…』
本来の時間軸では交わすことすら叶わなかった互いの思いを2人は思うがままに吐き出す
『仕方なかったこととはいえ、お前や疾風のことを忘れていた自分が心底憎いとすら思えて来る』
転生の際に記載のほぼすべてを失っい
愛しい人のこともかけがえない友のことも忘れてしまっていたかと思うと不甲斐ないという感情に支配されそうな気がしてならなかった
『いいんだよ。そんなことは』
『だが!』
『それに…君は記憶を失ってはいなかったじゃないか?』
『…っ』ピクッ
蓮の言葉を聞いた瞬間、かぐらは転生してからの記憶を辿る
疾風と最初に遭遇した時、佐介の顔を見た時
不思議な感覚が身を支配し、失われた記憶の断片が再び繋ぎ合わさっていったのを感じたこともあった
さらには赤珠を手に入れ、元の力を取り戻していく度にその感覚がより強固のものとなっていった
それもこれも原因となったのは疾風と佐介に出会えたからだ
彼らに出会えたからこそ失われたはずの記憶を取り戻すことができた
何より疾風の計らいによって思い人であった蓮と再会できたことが記憶を取り戻せた一番の要因であると確信できた
『…疾風のおかげで僕もあの時から諦めていた願いを成就することができたんだ。君ともう一度こうして出会えることを』
『…蓮』
『だから、これでもう思い残すことはない』
『えっ?』
何やら意味深な言葉をつぶやいたと思ったその瞬間、蓮の体が透き通り始めた
『蓮!?どうしたの!?』
『どうもしないよ。君だって分かっているだろう?本来僕は君と違って転生したわけではなく魂だけの存在であり、肉体は存在しないことを』
『っ!?』
『さらに言うと既に残った力のほぼすべてを使い果たしまったからね』
蓮は本当ならこの世にいるべき存在ではなく死後の世界の住人となるはずの存在
しかし昇天する前に疾風が魂を弾丸の中に封じ、佐介の肉体に入れることでこの時代にて魂が目覚めた
だが、佐介が自我と肉体を取り戻し、再び魂だけの存在となり、肉体が消えたこと
さらにはこの世に留まれる時間を削り、消滅を覚悟で佐介に力を託したこともあって
かぐらに最後に一度だけ会うという思いでこの世に新坊主よくとどまっていたがその時が訪れたのだ
『お別れだ。こうして最後に君とあえて幸せだったよ』
『待って、待って蓮!いかないで!』
『っ…』
別れが来たと知るやかぐらは蓮にしがみつき、いかないでと懇願するように言い放つ
『…離してくれかぐら、まだ君はこっち側に来るときじゃないんだよ』
『いやだいやだいやだ!せっかくこうしてまた会えたのに、せっかくこうしてずっと言えなかった思いを伝えられたのに!もうこれでお別れだなんて認められない!』
蓮を行かせまいと必死に服を掴んでいた
そんなかぐらの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた
『…確かに僕も君と別れは辛い、だけど僕は形はどうであれ一度死んでしまった身だ。死んだ者が永遠を口にすることはできないんだ』
『そんなこと…そんなこと言わないで!』
現実を受け入れたくないというかぐらの思いが蓮のその言葉を否定する
『泣かないで、悲しまないで、それにこっちに来てしまえば今度は君が誰かを悲しませることになるんだよ?あの子をを悲しませてしまってもいいのかい?』
『っ…奈楽』
『うん。あの子は僕や疾風と同じくらい君を大事に思っている。もし君が僕と一緒に行ってしまえば彼女は嘆き悲しみ、絶望に打ちひしがれてしまうかもしれないんだよ?』
『うっ…』
奈楽の悲しむ顔を想像したかぐらの手が緩みだす
『かぐら、僕がこういうのもおかしな話しかも知れない、でもだからこそ言わせてほしい。…いつまでも過去に囚われていては人は前に進むことはできない。何事にも必ず別れがあり、そして出会いがある。もうこれ以上僕という過去に拘ることはないんだ』
『何を言うの蓮、そんなこと!?』
『僕は気にしない、君が僕のことを心から想ってくれていたことを再認識できただけで満足だよ…だからこれからは新しい日々を過ごしてほしい』
『新しい…日々?』
『うん。今の君には君の目覚めを願い、待っている者たちがたくさんいる。その人たちの思いに応えるためにも君はこっちに来てはいけないんだ』
自分が目覚めることを待つ人たちがいると諭す蓮の言葉にかぐらは言葉が出なかった
『なにより今の君に必要な者はもう僕じゃない、君を慕い、立場を超えて友となろうとした奈楽とどんな困難に巻き込まれても君を救おうとした僕の生まれ変わりである佐介、そして彼らや疾風とともに君を救おうとした者たちがいたからこそだ。僕が為し得られず、諦めていたことをやり遂げたあの二人こそ君を真に幸福へと誘う存在だと僕は信じてる。だから彼らを悲しませないためにも、かぐら君は戻らなければならないんだ』
『…』
蓮の言葉を聴いてかぐらは深く考える
自分を守るという役目を運命ずけられながらも最後はおきてや定めとしてではなく自身の意思で友として歩むと言った奈楽
どんなに否定し、蓮の現身としか見ていなかった自分をめげずに救い出そうとし
奈楽とともに自分の心を救ってくれた佐介の存在
同じく自分を定めから救おうと必死になった者たちの姿
彼らがいなければ自分はあのまま運命の呪縛に身をゆだね、再び悲劇を繰り返していたかもしれないとかぐらは思っていた
『…かぐら、君は一人なんかじゃない、君を想ってくれる者たちが傍にいる。だから、幸せになってくれ、それが僕の最後の願いだ』
『…蓮』
『…愛してるよ。いつまでも』
消滅が目前となる中、蓮はそういうとかぐらの唇に自身の唇を重ねた
嬉しそうに瞳から涙をこぼすかぐらを優しく抱きしめながら
そしてその数秒後、蓮は光の粉となって消滅し、暗闇の世界に道を指示した
かぐらはその光の道を進み、やがて光が彼女を包み込み
気が付いた彼女は佐介と奈楽、疾風たちがいる常世に戻ってきたのだった
これが意識を失っていたかぐらが体験したことの全貌だった
「…そうして蓮のおかげで私は今こうして戻ってこれたんだ」
「…かぐら」
「っ…」
自分の出来事を語り、蓮と別れてしまったかぐらの話を聞いて奈楽と疾風は胸を痛める
「…やはり、蓮さんはすごい方でしたね。どういえばいいのかよくわからない感じですけどいえる言葉があるとしたら、そんな人の生まれ変わりとなれたことを僕は嬉しく思います」
「っ…」
純粋な感想を聞いたかぐらは何か思うところを感じ佐介を見た
「(…佐介か)」
まっすぐに人を尊敬する心、そして自分を運命の呪縛から解き放った行動力
何より心優しい人柄、蓮の転生者であるに相応しい男
そんなかぐらの心に新たなる思いが生まれようとしていたことを佐介はおろか本人すら知る由はなかった