だが、そんな楽しい時間も両備と両姫のいざこざによって脆く崩れてしまった
さらには話しは平行線を辿るだけで解決することなく両備が失踪してしまったのだった
そんな騒動が起こっている中、雅緋は自身を呼ぶ母の声を聞き、拠点からいなくなってしまう
さらには紅蓮竜隊の拠点でもまた同じような現象が起こっていた
思い悩む光牙に光の竜が相談に乗っている最中に自分を呼ぶ母の声を聞いた
母の声を聞いた2人がその声が導かがままに道なき道を突き進んで行くのだった
元来静けさが漂う森の中、しかし今、その森の中を騒がしさが支配していた
「はぁ…はぁ…どこ?どこにいるの?」
草木をかき分けながら雅緋は無我夢中に進んでいく、目指すは度々聞こえる母の声のする方に向かって
「っ?…こっちか?」
時を同じくして草の根をかき分けながらに光牙はかすかに感じる母の気配をあてにしながら森の中を進んでいた
『こっちよ…』
「「っ!?」」ぴくっ
すると光牙と雅緋は再び母の声を聞いた
実際に届いているわけではないが2人の心にその声が響く
この世界に来てからというもの度々感じていたこの感覚
目に見えないが感じることはできる母の気配
それを道しるべとし、2人はひたすらに走った
走って、走って、森の中を突き進んでいった
やがて雅緋は森の中に広がる広い場所に到着する
「母さん…どこに、どこにいるの!?」
広場に到着した雅緋はあたりを見渡す
カサカサ…カサカサ…
「っ!…母さん!?」
すると近くの草むらがざわつきだしたのに気づき、雅緋は母が来たのかと思った
「…ふぅ、やっと広いところに出たか?」
「こ、光牙!?」
「ん?…姉さん!?」
草むらから現れたのは母ではなく光牙だった
雅緋は光牙の姿を見るやすかさず駆け寄る
「光牙、どうしてここに?」
「……それは愚問というものだぞ姉さん。ここにいるということは姉さんも聞いたんだろ、母さんの声を?」
「う、うん…」
「俺も聞こえたんだ。母さんが俺たちを呼んでいるんだ」
光牙は雅緋がこの場にいる理由を即座に理解し、自分がここにいることに対してその質問は野暮だと突きつけた
そうして母の声を聴き駆け付けた2人が合流を果たした時だった
『光牙…雅緋…』
「「っ!?」」
母の声がした、しかも今度はそれぞれではなく一緒に名前を呼んでいる
まるで自分たちが合流したことをすでに理解しているかのように
「…光牙」
「あぁ、行こう」
声の導かれるままに光牙と雅緋は進んだ
『もうすぐよ…来て』
「母さんが呼んでる!」
「(母さん…)」
森の中をかき分けていく光牙と雅緋
次の瞬間、森を抜けた2人の前に湖が現れた
「ここは…湖か?」
「みたい、だな?…しかしなんだろう、よくわからないけどここにいるだけで妙に心が落ち着くような気がする…」
「森の中にこんな素敵な場所があったなんてな?」
なぜかは分からないが心に安らぎを感じさせる不思議な湖だなと2人が思っている時だった
「光牙、雅緋。来てくれたのね」
「「っ!?」」
和やかな気持ちに心が染まる中、自分たちを呼ぶ声がする
しかしその声は今までの脳裏をよぎるようなものではなく、実際に聞こえるものだった
「「――っ!?」」
すぐさま2人は視線を向けた
長く美しい黒い髪に澄んだ茶色の瞳、そして何より自分たち向けられる温かな笑み
紛れもなく目の前にいるのは自分たちの愛する愛しき母の姿だった
「…母さん!」
母を見るや我先にと雅緋が一目散に駆け出し、飛び込んだ
柔らかく温かな温もりが全身に伝わる
「ママしゃま~!」スリスリ
「あらあら雅緋ったら…うふふ♪」
同時にそれを感じれば感じるほど止めどなく涙が溢れてきた
頭の中が真っ白になっているせいもあってか二人称が「母さん」から「ママしゃま」に変わってしまっていた
「ママしゃま、会いたかった…会いたかったよ~♪」
「私もよ。それにしてもこんなに立派になって」
「ママしゃま、ママしゃま~♪」
泣きじゃくる程自分と会えたことが嬉しいのだとわかり、成長した姿も見れて母も心地よい気持ちだった
そうして雅緋をあやしている間に母が視線を向け、自分たちを眺めている光牙に向けた
「……―っ」ソワソワ
対して光牙は母から向けられる視線に戸惑いを見せていた
「光牙、久しぶりね」
「…あっ、あぁ」
「といってもあなたに至っては雅緋ほど久しぶりでもないのよね」
「…そうだな」
母は雅緋同様に優しい笑みを浮かべるとともに声をかける
久しぶりと投げかけつつも少し困惑した顔を見せながら呟く
それに対して光牙もどうリアクションしていいのか思い悩んでいた
光牙に至っては光の竜の暴走事件の際に精神世界にて母と一度再会していることもあったからだ
「でもこうしてまた2人に会える日が来るなんて嬉しいわ。見違えるほど立派になってくれてとっても嬉しいわ」
「私もだよママしゃま~!」
雅緋が抱きしめる力を強める
「あっ、ちょっと待って雅緋、そんなに強く抱きしめられたら潰れちゃうわ」
「「っ?」」
潰れるというワードを聞いて光牙と雅緋は小首をかしげる
なんだろうと思っている2人を他所に母が懐から取り出したのは卵だった
「あとお醤油とお砂糖売ってるところないかしら?」
「っ!」
「ん?」
母の声にピンときた様子の雅緋とそれを見て光牙は小首をかしげる
「ママしゃま、こそれって…」
「そうよ。親子丼を作ろうと思ってね…最後の親子丼は冷めちゃっていたでしょ?」
「っ…」ピクッ
ここまでの聞いた光牙もまたハッとなる
それはあの日のこと、自分が母が亡くなった事実を知った際
亡骸の横で泣きじゃくっている雅緋と隣にあったテーブルの上に置かれていた冷めた二つの親子丼
本来ならば父とともに帰宅し、姉とともに夕食としてその親子丼を食べるはずだった時のことが蘇る
「ママしゃま、親子丼、食べたい!光牙、光牙も一緒に食べよう!」
「…っ」
雅緋の心は今、この上ないほど有頂天になっていた
当然だ。この場には自分が最も愛する人物が2人いる
親愛なる母と大切な弟が
二つの幸せを前にしている雅緋は「ずっとここに居たい」という思いが感じ取れる
そんな彼女を見て光牙はどこか複雑な顔を浮かべる
「今からお醬油とお砂糖を探してくるから待っててねママしゃま!」
「あっ、雅緋…もう、せっかちな子ね。慌てなくていいのに」
あの日食べることができなかった母の親子丼を食べるため、雅緋は急ぎ足で醬油と砂糖を取りに行った
「…これで2人きりの話しができるわね。いえ、違ったわね。正確には私とあなたと”彼女“かしら?」
「っ!?」
意味深な言葉を告げながらに母はすかさず光牙の腹部に手を置く
「…久しぶりね。竜」
『あぁ…そうじゃな』
光牙の腹部に触れたことで母は彼の中にいる光の竜に語り掛け
光の竜もまた彼女の呼びかけに答えるのだった