それぞれの想いを刃に乗せ、光牙と雅緋の姉弟対決が幕を開ける
2人は互いに一進一退の攻防を繰り広げていった
激しく凄まじいぶつかり合いを描きながら
道中に戦闘の気配を感じ取り、現場にやってきた忌夢が見守る中、戦いは佳境を迎え始める
この戦いに終止符を打つべく雅緋が光牙の隙を突き、絶・秘伝忍法による大技で決めにかかる
辺り一面が技の威力と爆発によって壮絶な光景が広がる
雅緋はこれにより自身の価値を確信した
だが、いざ煙が晴れ、視界が開けた先に光光牙はおらず、背後からの声に視線を向ける先には時竜の光牙がいた
まだ倒せていないと知った雅緋は再び攻撃を仕掛けようとするも既に逆巻いた時間の中で攻撃された雅緋は遅れてそのダメージを痛感し
落下の際に光牙に抱きかかえられながら敗北するのだった
光牙と雅緋の姉弟の戦いが終幕し、勝利を収めたのは光牙だった
戦いに敗れ、力尽きた雅緋を抱きかかえながらゆっくりと光牙は地に降り立つ
「雅緋!!」
「忌夢?なぜお前がここに?」
降り立つ光牙たちを見て一目散に忌夢が駆けつけてきた
光牙に至ってはなぜここに忌夢がいるのか不思議でならなかった
「ボクのことはいいんだ!それより雅緋は!?」
「落ち着け忌夢、安心しろ。気を失っているだけだ」
「そ、そうか!…そうか、よかった〜」
忌夢は雅緋が無事であることを知り安堵していた
それから数分が経った
「そうか、そんなことがあったのか」
「あぁ、だからこそ俺は姉さんと戦ったんだ」
雅緋を木に寄りかかからせるように降ろし、光牙は忌夢と話しをしていた
どうして自分が雅緋と戦うことになったのか、その理由を忌夢に説明した
忌夢も忌夢でどうしてここにきたのかを説明する
2人が互いの経緯を説明している時だった
「ん…んん…」
「あっ、雅緋!」
うんうんと唸り声を上げながら気を失っていた雅緋が目を覚ます
「雅緋、大丈夫かい?どこか痛いところはある?」
「…い、む?」
意識がまだ少し朦朧としているの様子で雅緋がこの場に忌夢がいることに驚いている様子だった
「良かった。雅緋、どこも異常なさそうで」
「…っ、わたしは……‥そうか、負け…たんだな」
徐々に意識もはっきりし始め、横にいる光牙の姿を見て雅緋はすべてを察した
「雅緋…」
敗北を悟り、気を落としている雅緋の姿に忌夢はどこか切なさを感じる
「姉さん」
「勝負は決した。私の負けでな…約束通りお前のいうことを聞こう」
敗者となった以上、勝者の言葉に従うと雅緋は告げる
彼女の覚悟を光牙は感じとる
と同時にチラッと忌夢の方に目を向ける
突然こちらを見てきた光牙に忌夢はあたふたしていた
「なら姉さん、約束通り俺の頼みを聞いてもらう」
「えっ?」
「忌夢の?」
「そうだ。それが俺からの頼みだ」
勝者としての権利を忌夢に譲ると聞いて2人は驚いた様子を見せていた
「わかった。それがお前の望みなら……さぁ、忌夢、お前の頼みを聞かせてくれ」
「えっ、えっと…い、いいのか光牙?」
「あぁ、頼む」
未だ少し戸惑いはあったが、光牙からも念押しされ、忌夢は心の中で彼に感謝を示しながら意を決するように雅緋に向き合う
「雅緋、ボクたちと一緒に元の世界に戻ってほしい、雅緋たちの気持ちは分かってる。だけどそれじゃダメなんだ。どんなに苦しくても、どんなに悲しくても、人は今を生きなきゃならないんだ」
「忌夢…」
「だから雅緋、一緒に元の世界に帰ろう、そしてボクたちの手で蛇女を再建しよう、それがボクたちの為すべきことであり今を越えた未来へと進む第一歩になるんだ」
忌夢はどんなことがあっても前を向いて歩いていくことが今を生きることに、ひいてはその先、未来に向かって行くことになるんだと告げる
「…ふふっ」
「雅緋?」
「すまん、ついな…強くなったな忌夢」
「…雅緋」
大好きな雅緋が自分を褒めてくれたことに忌夢は胸打たれる
「お前たちの言う通りだ。ほんとは私だってわかっていたんだ…夢はいつか覚めるものだと…だから、誰かに背中をきつく押してもらいたかったのかもしれない。ありがとう、光牙、忌夢、お前たちのおかげで私は…」
「いいんだよ雅緋…」
自分の間違いを正してくれた光牙と忌夢に雅緋が感謝の言葉を述べる
それを聞いた忌夢は気にする必要はないと優しく語りかけた
「すまない…光牙、頼む、一緒に来てくれないか?私が今できる母さんへの感謝の思いを伝えに」
「あぁ、もちろんだ。行こう、母さんのところに」
「うん…行こう」
未練を断つため、そして今一度、最愛の言葉と感謝の思いを伝えるために光牙と雅緋は向かっていく、母の待つ場所へ
「……行ってらっしゃい、雅緋、光牙」
2人の後ろ姿を見つめながら忌夢は見送りの一言を呟くのだった
忌夢と別れ、2人は母の元へと向かった。そしてたどり着いた
砂浜の外れにある木陰に小さな、この世界に来た時から誰が作ったかは分からないが存在する
随分と使い込まれている雰囲気を醸し出している
「…姉さん、あそこ」
光牙が見る先に炊事場で何かをしている母の姿があった
「あら、光牙、雅緋。随分と早かったわね?」
母は自分たちが来たことに気づくも特に驚いた様子は見せず、いつも通りの優しげな笑みで出迎えてくれた
「母さん、実は…ん?」
すかさず光牙が母に話しを振ろうとした時だった
しかしそれは鼻にくる香ばしい匂いによって止まった
「…この、匂いは」
くんくんと鼻をひくつかせ、匂いを嗅ぐ雅緋はそれが何かをすぐに察する
「待ってたのよ。お腹すいたでしょ?さぁ、こっちにいらっしゃい」
「…うん!」
「…あぁ」
手招きをしながら母が2人を呼ぶ
2人はそれに返事をすると、石と木で作ったのテーブルに座る
「はい、お待ちどう様」
「あぁ…♪」
「…っ」
テーブルの上に並べられたのは母特製の親子丼だった
自分の前に並べられた親子丼を目にし、雅緋は目を輝かせ、光牙は平静を装いつつも口にはしっかりと笑みがこぼれている
「さぁ、冷めないうちに食べましょう」
「はい!」
「…はい」
「「「いただきます」」」
全員着席し、箸を手に食事の前の挨拶の言葉を唱えた
そして雅緋は早々に丼を思いっきりかきこんだ
「はふはふ!はふはふはふ!」
出来立てで熱い丼を口をはふはふさせながらもかきこんでいく
「…はむ。もぐもぐもぐ」
雅緋とはうってかわり一口一口を味わいながら光牙は丼を食していた
だが対照的なペースで食す2人に共通する思い、それはこの丼が今までに食べた何においても勝る旨さだということだ
何せ尊敬と敬愛を抱く母の作ってくれたものなのだから
「…私は幸せ者だわ」
「「っ?」」
「あなたたちのような素敵な子供たちを授かっただけでなく、死して尚こうして成長したあなたたちの立派な姿を見ることだ出来た…もう、思い残すことは何もないわ」
「「っ!?」」
それはあまりにも唐突な一言だった
「か、母さん?」
「最初からわかってたわ、あなたたちがここに来たのは私に別れを告げに来たってことは」
「…すべてお見通しだったんだね。本当に母さんには敵わないな…」
「うふふ、当然よ。私はあなたたちのお母さんですから」
光牙たちがここに来ることを悟っていたことを知り2人は改めて母の壮大さを思い知る
「母さん…あっ!」
「っ?…あっ!?」
声をかけようとした雅緋の絶句した様子に光牙も視線を向けると向かい側に座っている母の身体が透明になっているのだ
消えかけている。母は今にもこの世界から消えようとしているのだ
「母さん、どうして!?」
千年祭が終わっていないにも関わらず、母の身に起きている現象を見て雅緋は唖然となる
「それは私にはもう何の未練もないからよ。言ったでしょ?思い残すことはないって」
動揺している2人に母は静かに微笑みながら告げる
「あなたたちのことをずっと見守ってるわ、だから、時々でいいから母さんのこと思い出してね」
母のその言葉に雅緋はおろか普段は滅多に涙を見せない光牙も涙腺に涙が溜まっていた
「か、母さん…」アセアセ
もう今にも消えようとしている母を見て雅緋がおずおずと近づこうとする
だが、その直後に肩をぐっと掴まれ、振り向くとそれは光牙の手であり
光牙は雅緋を見つめて首を横に振る
このままでは結局今までと何も変わらない、それでは母を安心して逝かせることはできないと目で雅緋に訴えていた
それにより雅緋は思いとどまることができた様子で改めて母に向き直る
「…母さん、ありがとうございました」
雅緋は悲しみをぐっとこらえ、今の自分ができる精一杯のお見送りの言葉を送った
すると母が雅緋の元に歩み寄り、そして彼女を抱きしめた
「母さん…?」
「雅緋、私のほうこそありがとう。私の娘でいてくれて…」
「っ…う、ううぅ…」
母のその言葉にあふれ出ていた涙がさらに流れ出た
次に母は光牙に歩み寄っていった
「光牙」
「…母さん」
「あなたにはいろんな業を背負わせてしまったわね。不甲斐ない母でごめんなさい」
最後のこのひと時を使い、母は光牙に精一杯の謝罪をする
光竜を宿らせてしまったこと、守るはずの自分がそれを果たすこともなく死んでしまったことなど、思いつく限りの想いを言葉に乗せて
「…母さん、謝らないでくれ、確かにあの頃はいろんなことがあって大変だった。でも今はそのことに悔いはい、ただ言えることがあるとすれば…俺は、母さんの子供でよかった」
後悔の念を抱いている母に光牙は最高の慰めの言葉を返した
その言葉に母も自然と涙をこぼす
「光牙…私を母にしてくれてありがとう。雅緋を姉にしてくれてありがとう…あの人を父にしてくれてありがとう……生まれてくれてありがとう…」
嬉しさと涙で気持ちが留まることを知らなかった
「…姉さん」
「っ?」
不意に光牙が雅緋に視線を向ける
意図を察したように雅緋は強引に涙をぬぐい立ち上がった
「母さん…さようなら」
「…ありがとう、母さん」
「えぇ、さようなら。雅緋、光牙…」
互いの別れの言葉を告げると母は完全に消滅した
「うああぁぁぁぁぁぁーーー!!ああああああーーー!!!」
「~~…っ!!」
雅緋は泣き叫んだ。喉がかれてもかまないというかのように
光牙も泣いた…必死に涙でぐちゃぐちゃになりそうなその顔を手で隠して
母への感謝と想いを抱きながら涙が枯れるまで2人は泣いたのだった…