さらには悪忍を殲滅するという黒影の悲願を成就すべく紅蓮竜隊や蛇女とも熾烈な戦いを繰り広げた
様々な出会いとぶつかり合いを経て紫苑たちは佐介たち半蔵学院との最終決戦に望んだ
両校とも一歩も引かぬ攻防を繰り広げ、過激さと熾烈さを極めていった
そうして戦いが佳境に入りかけていた最中、紫苑が霊石を使い、さらなるパワーアップを果たした
圧倒的な力を振るい、戦いを優位に持ち込んでいった
しかし、それは紫苑の暴走という最悪の事態を引き起こす結果となった
暴走した紫苑の力によって世界に様々な異変が生じ、混乱を招いていった
このままでは世界が崩壊していまう、それほどまでに危険な状況だったのだ
雪泉たちはこれを見て佐介たちと共闘し、紫苑を戻すために戦った
激しい戦いの末、紆余曲折を経て紫苑を救うことに成功し、この学炎祭の惨劇は幕を閉じた
一連の事を思い出した雪泉達は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべていた
「独りよがりの正義感に縛られ、力を欲して禁忌に手を染めて、挙句の果てに暴走した。本来なら僕はあの時、力の代償として死んでもおかしくはなかった。だけどみんなのお陰でなんとか生き延びることができた」
あの時、雪泉たちの起こした奇跡の現象がなければ確実に自分はこの世に居なかったと今でも紫苑は感じていた
「だけど己のしたことがどれほど罪深いことなのか考えると罪悪感に押し潰されそうで、みんなに顔向けなんて出来やしないと思っていた…でも、そんな僕に手を差し伸べてくれたのもまたみんなだった」
自分の行いを悔やみ、責任を取り、自ら命を経とうとも考えた紫苑だったが
雪泉たちみんながそんな自分を許し、励まし、温かさをくれた
紫苑にとって何よりも嬉しく、そして感謝した瞬間だった
「今こうして僕がここに居られるのは全部みんなのおかげだ。みんなが僕を救ってくれたんだ」
「…紫苑」
「……人は誰しも迷うもの、それが黒影様のことだというのなら尚更だよ。それに、本音を言えば僕だって黒影様と一緒に居られるのならば一緒に居たいよ」
この世界で黒影と再会した際には紫苑も例に漏れず、みんなと一緒に彼とまた暮らしたいと思わない時はなかった
「…みんながやったことは確かに正しいことでは無いかもしれない、だけど、自分の気持ちに正直であろうことは素晴らしいことだ。だから僕は今回のことを咎める気はない、ただ,わかって欲しいだけなんだ。それでも僕たちはいつまでも過去にばかり振り返るばかりじゃなく、それを乗り越えて未来へと歩んで行かなければならないんだってことを」
「未来へ…」
皆に言い聞かせるように紫苑は語りかける
確かに黒影と再会し、幸せなひと時を今一度感じることができたことは喜ばしいことだ
しかし、だからと言っても黒影はもう死者である
本来であれば会うこと自体出来るわけもなく、その魂は他の忍たちの同様にあの世へと導かれるべきものだ
それを過去の幸せを今一度味わいたいが故に引き留めるというのは筋違いというものだ
自分たちが本当にするべきことは黒影に恥ぬために悲しみを乗り越えて成長し、立派になった姿を見せるべきなのだと
紫苑からの話を聞き終えた叢は今一度自分たちのこれまでを思い返す
『我はこの世界に残る。やはり黒影様と離れたくはない、きっと黒影さまもわかってくれるはずだ』
思い返すといかに自分が自身のことしか考えてなかったのであろうことを痛感した
黒影も自分たちと一緒に居るなら幸せだろうという勝手な理由をつけて自分の行いを正当化しようとしてみても
その実はただ黒影を出しに使って戻らない言い訳をしようとしていたに過ぎないのだと
こんなことで本当に黒影は喜んでくれるのか、改めて考えてみればその答えははっきりとわかる
甘えてるだけで成長を止めようとしている自分たちを黒影が喜んでくれるわけはないと
「紫苑、ありがとう、お陰でやっと気付く事ができた…もう迷わない、我も未来へ向かって前に進む」
「分かってくれたんだね叢」
一連のことでようやく叢は未練を捨て、前に進んでいくことを選んだ
恥じることのない立派な人に成長する。それこそが黒影に対する真の孝行なのだということを理解したからだ
無論それは叢に限った話ではない、ほか3人も同様の考えであることは様子からしても明らかだった
紫苑もみんながようやくそれを理解してくれて喜ばしい限りだった
こうして溝ができていた紫苑たちの絆が元の形へ戻ったのだった
「そう、それでいいんだ。お前たちはそれで」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
刹那、明後日の方向から自分たちに語りかける声がする
聞き忘れるはずのないこの声の主に全員がハッとなる
「「「「「「黒影(さま)(おじいさま)!?」」」」」」
一斉に声のする方に視線を向けるとそこには今まで姿を絡ませていた黒影がいた
「黒影様、いらっしゃってたのですか!?」
「あぁ、ずっと見ていたぞ、陰ながらにお前たちの様子をな」
姿を絡ませてからも紫苑たちの様子を陰ながら応援してくれていたのだと語る
自分たちを見ていらと聞いた紫苑たちは少し照れくさそうな顔を浮かべていた
「…叢」
「は、はい!」
黒影が自分の名を呼んだことに反応した叢が返事をする
「矜持を捨てでも俺と一緒に居たいというお前の意思、俺は心から嬉しかったぞ」
「黒影様…」
「だがな、よく聞いてくれ。いつまでもそれではダメだ。老いたものは去り、若き者たちへ道を示す、これは自然のことであり、それを悲しむことはないんだ」
叢へ黒影は教えを諭した
この世に絶対はなく、別れは来るのだと
「俯いてはだめだ。さぁ、俺にちゃんと顔をよく見せてくれ」
「…は、はい」
言われるがままに叢は顔を上げ、黒影に見せる
「その面はお前の一部といっていい、お前の勇気を現すものだ。しかと見たぞ」
「待ってください黒影様、我にはもう一つ顔があります。故にこちらも…」
すると叢は自らの意思で面を取り、素顔を晒す
「黒影様、お面をつけた顔もこの顔もどちらも我です。だからしっかりと見てください!」
「うむ、お前の両方の顔、しっかりとこの目に焼き付けたぞ」
自分の二面を晒した叢の思いを黒影は受け取った
「四季、お前のその底抜けない明るさは俺のみならず皆を元気つけてくれていた」
「く、黒影様いきなりなに!?…そ、そんなこと急に言われたらて、照れちゃうじゃん♪」
「故に四季よ。俺からの最後の願いを聞いてはもらえぬか?」
「えっ?最後の願い?」
最後の頼みを聞いてほしいと言われた四季は何事かという顔を浮かべる
「お前のその明るさはきっと世界中の人々をも笑顔にするだろう、だからお前には世界を回ってほしい、そのために学び、知恵をつけてほしいんだ」
「あたしが世界に…」
「聞いてくれるか?」
「…あったり前っしょ!黒影様の頼みならあたし、全力で頑張っちゃうんだから!」
迷いなく自分の頼みを聞いてくれた四季に黒影も満足そうな顔を浮かべる
「夜桜」
「は、はい!」
「お前は人一倍しっかり者で良い子だ。お前ならこの先もそのあふれんばかりの母性で支えてくれると信じているぞ」
「…はい、わしは誓います。黒影様のご期待に沿えるように今よりも精進することを!」
真っ直ぐな目をしながら誓う夜桜の姿に黒影はホッとする
「…美野里」
「黒影おじいちゃん、なに?」
「お前はその天真爛漫さで俺のみならずみんなの心を和ませてくれたな。純真無垢なお前はこれから色んなことを経験していくだろう、だが、たとえどんな困難に苛まれることがあったとしてもその純粋さをいつまでも亡くさないでくれ」
「…うん、わかったよ黒影おじいちゃん!みのりどんなことがあっても絶対にめげない!」
美野里のその言葉に黒影は心から安堵する
「…雪泉、お前とはこの中の誰よりも同じ時を過ごしたな。お前を引き取ってからというもの、俺の人生は大きく好転した。今のこの幸せがあるのはお前がいてくれたからだ。ありがとう」
「そんな、わたくしのほうこそおじいさまには感謝以外の感情が浮かびません、私にとっておじいさまは尊敬すべき偉大なお方なのですから!」
「俺は今日ほどお前の祖父であったことをうれしく思った日はない。雪泉、俺の孫に生まれてくれてありがとう」
「おじいさま…」
最愛なる孫からの言葉に黒影の心は大いに救われた
「…さて、残るは」
そうして黒影は最後の1人、紫苑に視線を向ける
「紫苑、お前には沢山の世話をかけたな。病で床に臥せ、ろくに動けなかった俺の代わりに皆をまとめ、導き、成長させてくれた。お前はすごい奴だよ」
「そんな、僕なんてまだまだです」
「いや、そう思う心こそがその証拠なのだ。それにお前は光と闇、相反する二つの力を手にし、更なる成長を遂げた…俺は確信している。お前は必ずや俺はおろか、半蔵や小百合をも超える忍になると、お前以外の人物など俺には考えつけぬほどにな」
「僕が…」
師である自分はもちろん半蔵や小百合をも紫苑は超えると黒影は信じて疑わなかった
「紫苑、俺からの最後の頼みだ。皆を…幸せにしてやってくれ」ペコッ
「くっ、黒影さま!?」
黒影はその願いを告げると深々と頭を下げた
一瞬、紫苑は戸惑いを見せるも彼の思いを察し、すぐに冷静さを取り戻す
「……頭を上げてください黒影様」
手を差し伸べながら語り掛け、黒影もそれに答えて頭をあげて紫苑を見る
「僕はまだ未熟者です。できることはまだまだ少ないかもしれません。ですがそれでもこれだけは言えます……望むところです!」
紫苑は強く決意のこもったその言葉を告げた
例え頼まれなかったとしても、彼女たちを幸せにするというのは自分にとっても成すべきことであると目が語っていた
「……ありがとう」
その言葉に黒影は涙を流す
全員の思いを聞き届け、黒影は心から晴れた気持ちになった
「あっ!?」
「く、黒影様!?」
「体が透けていく!?」
次の瞬間、黒影の身体が光り輝くとともに透き通っていく
『これは俺の未練がなくなった証だ。お前たちの思いを知ることができ、俺の心は満たされた。思い残すことはない』
「おじいさま…」
「黒影様…」
徐々に体が消滅していく
『…そうだ。最後に一言だけ言い残していたな。聞いてくれるか?』
「なんでしょう黒影様、言ってください」
『すまない、では………お前たちは俺の誇りだ』
「「「「「「――っ!?」」」」」
その一言に紫苑たちは心撃たれた
『…さらばだ』
この言葉を最後に黒影は消滅した
「おじいさま…」
「「う、うわぁぁぁぁぁぁん!?」」
「「う、うう…」」
黒影との正真正銘の別れ、それを終えた雪泉たちが次々と涙を流していった
「…今まで、ありがとうございました。黒影さま……いえ、おじいさま」
光が飛んでいった空に向かって紫苑は涙を流しながら感謝の言葉を呟くのだった