負けこそしたが、それを差し引いても余りあるくらいに彼らが強くなっていることを知り佐介は焦りと不安を覚える
そうして飛鳥と共に再び両親の元を訪れた佐介は父に自身に稽古をつけてほしいことを懇願する
佐介の願いを聞いた父は修業をつけることを承諾してくれた
手始めに佐介は父と修行の組み手を行うこととなり、戦闘を開始する
先手必勝で攻める佐介だっが、父はそんな佐介の攻撃をもろともせずあっという間に形勢を逆転させ、彼を追い込んでしまった
疲労困憊な佐介に対し父は心の中に焦りと迷いがあることを指摘し、それを一時的に忘れなければ強くなることはできぬと諭す
父の言葉で自分がなぜ強くなろうとしているかを思い出した佐介は決意も改に再び稽古に身を投じるのだった
紅蓮竜隊の面々が強くなる為の修行に明け暮れている中、拠点の近くの山のそこにある大きな石の上に光牙が座禅を組んでいた
「……っ」
小百合との戦いやこれまでの出来事を通し、光牙は未だに己の未熟さを悟った
自分を見守り、応援すると言って昇天した母のためにも
これまでよりも強くなるべく精神を研ぎ澄まし、瞑想をしていた
静かな場所にて光牙はまるで自然と一体化しているかのようにじっと座していた
そんな中、光牙は拠点に戻った詠達から聞かされたことを思い出した
「(紫苑の奴め、遂に調子を取り戻したか……いや、調子を取り戻すばかりかさらに強くなっているときたもんだ)」
戦いの中で紫苑が新たな力を得たことについてを考えていた
「(それに聞くところによれば蛇女の方でも何やら動きがある事も分かっている。相馬の奴らもきっと何かあるに違いない、俺もうかうかはしてられないな)」
紫苑の事もそうだったが、前に相馬たちの方でも何か動きがあったと偵察情報で知っていた
好敵手達がこの世界に来てから強くなっている事に光牙は恐ろしさを覚えつつも、それ以上に楽しみを覚えていた
この世界に来てからというもの自分達の成長はもちろんの事だが、それと同時に好敵手達も少しずつ強くなっている
「(恐らく次に戦う時は奴らは俺の想像を遥かに超える程に強くなっているはず、もしそうなれば負けるか可能性も無きにしも非ずだ)」
自分ももたもたしていれば追い越されてしまうのは決定的なものだ
「(だが、この戦いに勝利し、妖魔を撃ち滅ぼす盾にも俺は負ける訳にはいかないんだ)」
今の彼らに対抗する為にも更に強くならねばという思いを胸の内に秘めていた
そんな時だった
《「力を欲するというのなら協力してやらんこともないぞ、我が主さまよ」》
「っ?」
不意に光牙を呼びかける声が聞こえてきた
声を聞いた光牙が次に目を開くとそこは森の中ではなく、自身の精神世界だった
目の前に聳える巨大な織の向こうからこちらをじっと見つめている巨大な影
自身の中に封じられている光の竜の巨影だった
「お前か?どうしたんだ?」
語り掛けてきた光の竜に光牙が尋ねる
すると光の竜の巨影はが近づくにつれ、収縮していき、幼女の姿となった
《「言ったじゃろ、力が欲しいのなら協力してやらん事もないぞ?」》
「それはありがたい提案だが、いったいどうしたんだ?」
彼女が自分から力を貸しても良いと提案をしてきた事を光牙が尋ねた
《「別に、単なる暇つぶしというだけの話しじゃ」》
「…お前には感謝してるよ」
《「な、なんじゃいきなり?」》
「お前とはこれまでいろんなことがあったと思ってな。最初の頃はお前に対して憎悪の感情しかなかった。だが、今はもうそんなものはない、これまで幾度となく俺が困難を乗り越えられたのはいつもお前が居てくれたからだ。だからこの場でちゃんと伝えたいと思ったんだ……ありがとう」
それは今までに積み重ねてきた心からのお礼の言葉だった
光牙からの言葉を受けた光の竜はその言葉に面を食らったような顔を浮かべる
《「っ…」》
精神の世界の中で光牙と光の竜は互いに檻を間にを見つめ合っていた
彼なりの精いっぱいの感謝の言葉が光の竜の心に響く
«『ありがとう…生まれて来てくれてありがとう』»
刹那、一瞬、彼女の目に映る光牙の姿が別人の容姿に変わる
同時に彼女の脳裏に過去の記憶がよぎる
《「(…ありがとう、か…噓偽り、不順や邪な心もなく純粋にその言葉をわしに投げかけてきたのはお前を含めて3人だけじゃったな)」》
ありがとうの言葉を思い返しながら自分に対し、純粋なお礼を述べた人物のことを思い返していた
1人は今目の前にいる光牙、次に出てくるのは彼の母
そして最後に浮かび上がるのはある人物の姿だった
〔始まりは唐突じゃった…数千年前、わしは命を与えられた。他の5匹の兄弟たちや姉妹たちとともに、”あやつ”の下で〕
彼女、光の竜の脳裏に過去にあった自分にとって忘れることのできぬ最も重要な記憶が蘇る
数千年も昔に行われた竜の儀のことを
とある場所、とある空間、そこには生まれ間もないかつての自分の姿と同じようにこの場に座す5匹の竜たちの姿
そして自分たちが囲む中心の位置に佇むは一人の人間だった
《「今日よりあなたたちは外の世界へと解き放たれる。私の元を離れ、それぞれの道を歩み、それぞれの考えや行動のままに生を押下ていく、だけどこれだけは覚えていて欲しい、離れていてもあなたたちはいつも一緒に居るのだと。そしていつかは知る時がくるでしょう、本当の力とはなにか、それが自身にとってどれほどのものなのか、それを知る時が来ることを私は切に願っているの」》
中心に佇むその者は竜たちに教え諭すように語る
まるでその言動は愛する子たちに対して言っているかのようだっだ
《「それと最後に一言だけあなた達に言いたいことがある、みんな、……生まれて来てくれてありがとう、あなたたちがこれからどのような道を歩んで行こうともあなたたちにいつか幸せが訪れることを私は信じている」》
光の竜は心からの信頼と愛を込めてくれるその者の姿に涙を零した
やがて光の竜の視界に移るその者の姿が光牙に戻る
過去を振り返り、光の竜は改めて今の彼はあの時のその者のような温かさを感じ取った
《「(…長すぎなんじゃよ、我が主さま…)」》
皮肉を言いつつもその顔はどこか嬉しそうな顔を浮かべる
《「…ふ、ふふふ」》
《「ん?」》
《「礼などよせ、気持ち悪いにもほどがあるぞ我が主さまよ」》
全てを思い返し、改めて光牙からの例の言葉を思い返すと自然と彼女はくすりと笑いを浮かべていた
《「…はぁ、まったくお前というやつは」》
そんな彼女に対し、光牙のほうも
礼を述べたのにそういうことを言う相変わらずな態度に半場呆れ顔を向けていた
しかしそれもまた彼女らしいんだと理解も示していた
《「……っ」》
《「お前さま?」》
数秒の沈黙が過ぎると光牙は徐に檻に手をかける
光の竜はそれがなにを意味するのかすぐに理解した
《「…良いのかお前さま、それがどういう意味なのかお前さまもよく知っておろう」》
彼が行おうとしていること、それは自ら彼女を閉じ込めているこの封印を解くというものだった
三度の経緯を得て今に至るこの封印を今度は自ら解こうとしているのだから
《「あぁ、わかってる」》
《「それでもお前さまは解くというのか?この封印を?」》
《「問題ない、俺はお前を信じる。」》
信じると告げるとともに光牙が檻に念を送る
すると封印の檻の枷が少しずつゆっくりと外れていく
《「もうお前はあの頃とは違う、今のお前は俺と
《「っ!?」》
その瞬間、彼女はこの上ないほどに驚きに満ちた顔を浮かべていた
光牙の口からでたのは今まで教えたことなどなかった彼女の本当の名前だったのだから
やがて封印の檻の枷の最後のロックが外された
次の瞬間、檻がギイィっと音を立て、左右同時にスライドするように開いた
《「…っ」》
白は唖然としていた自身の目に映るのはこの長きにわたり封じ込められていた檻が開門される光景
偶発的にでも自身が強引にこじ開けたわけでもない、光牙の意思により檻は開かれたのだ
呆気に取られつつも彼女が不意に視線を向けるとそこには自分の解放を祝しているかのように笑みを浮かべる光牙の姿があった
《「…まったく、お前さまというやつはとんだお人好しじゃな」》
《「お前にだけは言われたくはないな」》
そんな彼の様子を見て白も呆れた様子を見せつつも自然と笑みをこぼしながら皮肉を言い
対する光牙も同じように皮肉を言い返した
《「…ぷ。かかっ♪、言ってくれるの~我が主さまよ。よかろう、わしは今後も側で見届けてやるとしよう。この先どのような道を歩むのか見せてみろ。そのかわりわしの力、存分に使うが良い」》
《「良いのか?」》
《「あぁ、ただしわしを落胆させるようなことはするでないぞ、もしそうするというのであれば今度こそわしはお前さまの身体を支配し、全てを飲み込む光となろうぞ」》
力を貸すことを約束する代わりに光牙が不甲斐ないと感じた時には今度こそ支配権を奪い、大暴れしてやると脅迫をしてきた
《「なるほど。それは責任重大だな。だが残念だがその考えは徒労に終わることになるだろうさ」》
《「ほう、では見せてもらうぞ、お前さまの今後を…お前さまの行く道を」》
白がそういうこと手を差し伸べてきたので光牙もそれに合わせて手を重ねる
するとそれを中心に眩い光がこの世界を包み込んでいった
「…っ?」
次に目を開けた時、そこは元の場所だった
「俺の行く道…か」
光牙はぼそりと先ほど白の言った言葉をつぶやいた
「ししょー!」
「ん?」
するとそこに愛花がやってきた
「どうした愛花?」
「もう、どうしたじゃないですよししょー、あれからどれ程経ったと思ってるんですか?ししょーが戻らないので皆さんも心配してますよ。ほら、行きましょう!」
「わか、わかった。行くから引っ張るなって、愛花」
いつまでも戻ってこない事に痺れを切らした愛花に強制的に連れて行かれる光牙だった
《『…ふっ、やはりお前さまは面白いやつじゃよ。かかっ♪』》
そんな彼の様子を白は面白そうに眺めるのだった