閃乱カグラ 忍たちの生き様   作:ダーク・リベリオン

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過去と現在、繋がる思い 

夕焼の脳裏に見えたのは遠野の里

 

 

だが、その景色は彼女の知っているものとは少し異なっていた

 

 

「(これ、もしかして昔の里の風景なの?)」

 

 

見た景色の様子からして夕焼はここがかつての里の光景であることを感じ取った

 

 

昔の里の景色を見たのだと思うと夕焼は何とも言えない心穏やかさを覚えた

 

 

その最中だった

 

 

ふと夕焼が視線に人影を捉える

 

 

一つは那智に似た姿の女性、もう一人は自分に似た女性の姿だ

 

 

「…っ!」

 

 

さらに注意深く見てみるともう一人の影が見え、じっくりと観察してみるとそれはなんと夜叉の姿だった

 

 

しかしながら夜叉と対面している自分と那智に似た人物はどこか親しげに、まるで友人と会話するかのように仲睦まじい感じを見せており

 

 

それに対して夜叉も満更ではない顔を浮かべていた

 

 

「(これはどういうことなの?)」

 

 

この光景を見た夕焼はどういうことなのか訳が分からずにいた

 

 

すると唐突に場面が切り替わり、夕焼似と那智似の女性の指示のもと沢山の人たちが畑を耕し、家を作ったりしていた

 

 

「(そうか、あの2人は私と那智さんのご先祖様なんだ)」

 

 

発展している里の様子と指示を出す彼女たちの様子から2人が自分と那智の先祖なのだと気がついた

 

 

木の上からそんな先祖たちの頑張りを見守るような夜叉の姿も見える

 

 

さらに映像は進んでいき、次々と流れてくるのはどれもこれも先祖たちと夜叉が里で平和に暮らす風景だった

 

 

「(ご先祖さまたちと夜叉さんとっても仲良さそう)」

 

 

これらのことを見てきて夕焼は疑問を抱かずにはいられなかった

 

 

どうしてこんなにも仲睦まじく、互いに支え合うかのように過ごしているはずの夜叉が自身の体に封じられていたのかと

 

 

しかし、次に映った出来事で夕焼はその理由を知ることになるのだ

 

 

事の原因は些細なことだった

 

 

ある時木から降りられなくなった子供を助けたことがきっかけだった

 

 

子供は夜叉に感謝をしていたが、その直後に子供の親が現れ、夜叉が子供を襲ったと勘違いし、騒ぎになったのだ

 

 

それによって徐々に夜叉に対する里の者たちの目は変わっていった

 

 

2人の先祖は何かの間違いに違いないと里の者たちを説得しようと奮闘する

 

 

だが、それからすぐのこと、里を妖魔の大群が襲ったのだ

 

 

妖魔の襲撃による混乱は疑惑へと変わり、こればかりはと、とうとう先祖の2人も夜叉に対して無念を抱きつつも彼女と相まみえる

 

 

戦いは熾烈を極め、互いにボロボロになるまで激しいものとなったが

 

 

先祖たちは夜叉にできた僅かな隙を突くことで彼女を捕縛し、その後、夕焼の先祖が封印術によって自らの体に夜叉を封じ込めることに成功したのだった

 

 

「(……っ)」

 

 

呆気に取られている最中、視界が光に満ちあふれていく

 

 

光が晴れると場面は最初の夜叉の拳を受けたあたりに戻る

 

 

「っ〜〜っ!?」ザザァァ

 

 

夜叉からの拳を受けて夕焼は地面を削りながら後退する

 

 

【「はぁ…はぁ…はぁ…」】

 

 

「(さっきのあれは間違いなく夜叉さんの過去だ。私たちが生まれる前にあんなことがあったなんて…夜叉さん)」

 

 

今までのことで夜叉の過去を目の当たりにした夕焼は夜叉に止めどないほど哀れみを抱く

 

 

【「くそっ!くそっ、くそっ!」】

 

 

「っ!?」

 

 

すると夜叉は再び攻撃を繰り出すも彼女の過去を知ってしまった夕焼は避けることも考えられない程に彼女のことを思っていた

 

 

【「お前たちのせいで…お前たちを一瞬でも信じたせいでオレは自由を奪われたんだ!その上今度は力まで…どこまでオレを利用しようとすれば気が済むんだ!…この、…この野郎!」】

 

 

怒りと悲しみを孕んだ拳が夕焼の肉体よりも心に痛みをもたらす

 

 

しかし夕焼は避けるそぶりは一切見せず、それどころか夜叉の繰り出す拳をすべて受け止める

 

 

【「はぁ…はぁ…はぁ…」】

 

 

殴りつかれたのか夜叉は息を切らす

 

 

【「はぁ…はぁ…、ぐっ、うおぉぉぉぉ!」】

 

 

それでもまだまだというかのように殴りかかろうとする

 

 

だが、その直後、疲れの影響が足に来ていたのか転倒しそうになる

 

 

「っ!!」

 

 

【「っ!?」】

 

 

夜叉が転倒しかけたのを見て咄嗟に夕焼が支え込み、そのまま彼女を抱きしめる

 

 

【「なっ、テメェ!なんの真似だ!…くそっ!離しやがれ!」】

 

 

夕焼の抱きしめに驚いた夜叉は急いで抜け出そうとする

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

【「っ?」】

 

 

しかしその直後に呟かれた夕焼の言葉に夜叉は動きを止める

 

 

「ごめんなさい夜叉さん、私たち、あなたの気持ちも知らないで勝手に貴方を悪者に仕立て上げて…ひどい、話ですよね?」

 

 

【「なに…言ったんだお前?…なにをわかったような口を言ったんだよ!」】

 

 

「見たんです。貴方の過去を」

 

 

【「オレの過去を見ただと?」】

 

 

なにを言ってるんだと言いたげな夜叉に夕焼は自分が今体験したことの全てを告げる

 

 

夜叉のこれまでの出来事のあらすじをこの目で見たことを

 

 

「貴方はなにも悪くないのに私たちがあなたのことをわかろうともしないでただ一方的に敵視するだけで…そのせいであなたの心を傷つけてしまった」

 

 

後悔の思いが募るほど夕焼は夜叉をさらに強く抱きしめる

 

 

【「…あぁ、そうさ、オレはお前らに裏切られたんだ!妖魔とも一緒にいられる里を作るっていう言葉に興味を抱きあいつらと共に過ごすうちに人間といることも悪くないと思っていたオレの思いを無残にも切り捨てたのはお前たち里の連中だ!」】

 

 

「夜叉さん…」

 

 

【「お前だって本当はそう思ってるだろうが!オレが中にいることを知ってキミが悪がってたんだろうが!どうせ…どうせお前も…」】

 

 

夜叉の言葉からは怒りと悲しみ、そして諦めの想いが伝わってくる

 

 

「…確かに小さないざこざのせいで里のみんなが夜叉さんのことを傷つけてしまった。そのことは決して許されるようなものではないと思います…でも、だからこそ」

 

 

【「っ!?」】

 

 

「私は夜叉さんの友達になりたいんです」

 

 

その言葉とともに夕焼は夜叉をこれでもかというくらい愛おしく抱きしめる

 

 

【「お前、何言ってやがる?お前がオレと友達だと?」】

 

 

「はい、友達です。私だけじゃありません。那智さんも九魅さんも深里さんもうーちゃんも佐介さんも絶対に夜叉さんと友達になってくれます。だからこれから一緒に楽しいことしたりおしゃべりしたりして楽しい思い出を私たちと作ってくれませんか?」

 

 

【「…っ」】

 

 

この時、夜叉の脳裏に浮かんだのは先代たちと過ごしたあの時の思いのほか楽しかったと思えたあの日々の光景だった

 

 

今、夜叉は夕焼からそれに似た感覚を感じていた

 

 

同時に彼女の背後から先代たちの残像が見える

 

 

差し伸べられた

 

 

【「へっ、まったく。いつの時代になっても変わらない奴らだぜ……仕方ねぇ、テメェらがどうしてもって言うならなってやらんこともない」】

 

 

「夜叉さん!」

 

 

【「おっと、だからってオレはまだお前らのことを信用しきったわけじゃねぇぞ、もし妙なことしようとしたら?」】

 

 

「疑り深いですね…大丈夫ですよ。そんなこと絶対しませんから」

 

 

【「へっ、どうだかな?」】

 

 

この場に不釣り合いなほどに和やかな雰囲気を醸し出し、他愛ないやり取りをする2人

 

 

 

 

ドバァァァァァン!!

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

【「っ!?」】

 

 

 

刹那、近くから爆発音が響く

 

 

爆発の起こったところに目を向ける

 

 

「「「「っ!!」」」」

 

 

「ふん!」

 

 

「ヒャッハー!」

 

 

「ごわす!」

 

 

そこでは三忍衆と対峙する仲間たちの姿が

 

 

「おりゃりゃりゃりゃ!」

 

 

「ふん、そんなもの、アタシには当たらないんだよ!」

 

 

「ちぃ!?」

 

 

「九魅さん!」

 

 

あっちでは槍使いの女と九魅が戦闘を繰り広げ

 

 

「ヒャヒャヒャヒャ〜!」

 

 

「このー!」

 

 

「深里さん!」

 

 

こっちでは鎌使いの小人男の攻撃を深里が攻防を繰り広げ

 

 

「え〜い!」

 

 

「やぁ!」

 

 

「あまいでごわす!」

 

 

「うーちゃん、那智さん!」

 

 

そっちでは那智と牛丸が協力して大男と激戦を演じている

 

 

「みんな…」

 

 

ボロボロになりながらも戦う皆の姿が夕焼の目に浮かぶ

 

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

 

「っ?」

 

 

さらにもう一つの声が

 

 

【「ふぅぅぅん!」】

 

 

「てやぁぁぁ!」

 

 

「佐介さん」

 

 

今も妖魔の力を経た瑠莉奈に果敢に挑む佐介の姿が

 

 

皆が命がけで戦っている光景を目の当たりにして夕焼はいてもたってもいられなかった

 

 

「夜叉さん。私行きます。みんなを助けます」

 

 

【「おいおい、威勢を張るのはいいがどうする気だ?そんなボロボロな状態で?」】

 

 

「…そ、それは」

 

 

思いたったはいいがどうすべきかと悩む

 

 

【「…っち、仕方ねぇな。ならオレが力を貸してやる」】

 

 

「えっ?」

 

 

【「だから、オレが力を貸してやるって言ってんだ」】

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

思いがけない提案に夕焼は驚きを隠せない

 

 

【「もう一度オレがお前の中に入る。そしてあの野郎をぶっ飛ばす。本当ならオレ自身の手でぶっ飛ばしてやりたいが力を抜かれまくった今のままじゃ無理だ。だからお前の中に入って力を貸してやるんだ」】

 

 

「夜叉さん…ありがとうございます」

 

 

【「ば、馬鹿!礼なんていらねぇよ。オレは自分がしたいから手を貸してやるってだけだからな。勘違いすんじゃねぇぞ!」】

 

 

「ふふっ…はい」

 

 

ちょっと照れる夜叉を見て面白そうに笑みを浮かべるのだった


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