月光と閃光を相手に一方は苦戦し、一方は巻き返して追い込みをかけるという熾烈な戦いが続く
そんな中、雪泉に月光が自分たちがどうして今に至るか、その経緯を語った
「…っ」
彼女のその言葉を聞いた紫苑の脳裏に今や懐かしき黒影と過ごした日々の思い出が蘇る
紫苑の脳裏に過ったのは月閃への入学が決まった時のことだった
«「うぅ…ど、どうして僕がこんな格好を…」»シクシク
«「なに落ち込んでんのさ紫苑ちん♪」»
«「そうですよ紫苑、落ち込む必要などありません、むしろとても似合っております。あぁ、なんて愛おしいんでしょう♪」»
«「……っ!?」»ぞわっ
思い返そうとして誤って黒歴史を思い出してしまった紫苑は身をブルッと震わせ、首をぶんぶんと振るとともにもう一度やり直す
«「このことはお前たちには話すまいと思っていた。だが忍の世界に進む以上、いずれは知ることになることだ。だからこそ今より俺の口から全てを話そう。それがこれからのお前たちの道を示す導べとなろう」»
あの時、自分たちが忍の道へと進むことを認め、道を切り開いてくれた黒影の顔が脳裏に浮かび上がる
「(…黒影様)」
尊敬する恩人であり、恩師であるその名を心の中で呟きながら紫苑は再び視線を雪泉たちに向ける
雪泉たちのほうも今だ黒影のことについて語らいに興じていた
「黒影様が歩んできた道のり、その道を歩んでいく。それこそが私たちが目指すものはこれだと感じたんです」
月光が自分たちが目指すものは黒影の辿った道を歩んだ先にあるのだと信じ、進んできたことを語った
「……っ?」
経緯を語り終えた月光が雪泉に視線を向けると、雪泉もまた自分と同じように目から涙を流していた
「なぜ…なぜ雪泉先輩まで泣いているのですか?」
「すみません。あなた方のおじい様への想いを聞いたらつい…あなたたちの言うことも分からなくはありません。私たちは皆、悪忍に親を殺されていましたから、黒影おじい様の行いには一切疑問を持ちませんでした。みんなで話したものです。忍になったらおじい様のように正義を貫く立派な忍になろうと」
「だったら…どうして?なぜ私たちの考えに賛同してくださらないんですか?」
月光は困惑しながら雪泉に尋ねた
かつては自分たちと同じ夢を追い求めていたはずなのに今こうしてその夢を否定するかのように立ちはだかるのかを
「私は…いえ、私たちはある方から教わったのです。いろんな人がいるからこそみんなが笑顔で、幸せでいられる。それこそが正義なのだと」
雪泉は月光にそう告げながら視線を逸らした
それを見て月光も雪泉が向く方に視線を向ける
彼女たちが向ける視線の先には閃光と戦う飛鳥の姿だった
苦戦を強いられながらも飛鳥は決して諦めず閃光に挑んでいた
「はあぁぁあああ!!」
「うああっ!?」
飛鳥の攻撃を受けた閃光が大きく後方へと吹き飛ばされた
「閃光!?」
そんな光景を目の当たりにした月光が思わず声を上げながら閃光の元に駆け寄っていった
「まだまだ。勝負は…これからだ。『やられたらやり返せ』黒影様の教えを忘れるな月光」
「『やられたらやり返せ』……そうね、そうよね」
先の雪泉との会話でぐらついていた月光だったが、閃光の言葉によってそれはなくなった
「あぁ、行くぞ月光!!」
「はい!」
気合いを入れ直した月光と閃光が飛鳥と雪泉に特攻する
「飛鳥さん、来ます!」
「うん!」
迫りくる月光たちを前に飛鳥と雪泉もまた迎え撃つ構えをとる
「…雪泉ちゃん」
「なんですか?」
「私が2人の隙を作る。だから雪泉ちゃんが決めて」
「飛鳥さん…はい!」
向かってくる月光と閃光を前に飛鳥が雪泉にのみ聞こえる声で自分が囮になって2人への突破口を開くことを告げる
飛鳥が自分を信じて託そうとしているのだと感じた雪泉もまた期待に応えるべくそれを承諾した
「――っ!」
作戦が決まったと同時に飛鳥が飛び出す
「はああっ!!」
その直撃だった月光が刃を展開させた三門鏡を投げ飛ばした
「ぐっ、くぅっ!?」
咄嗟に防御の姿勢を取った飛鳥がその攻撃をガードし、受け流した
「あまい!」
「――っ!?」
「でやぁあああ!!」ドォン!
「がはっ―っ!?」
しかし攻撃を受け流した飛鳥に閃光が追撃の一撃を仕掛けてきた
月光の一手を凌ぐので精一杯だった飛鳥に閃光の拳が容赦なく炸裂する
「――っ!!」
「なに!?」
「てやぁぁぁっ!」
だが飛鳥も負けてはいなかった
閃光の拳の一発を耐え抜き、その隙に彼女の首を右手で押さえ込み
動きを封じたところで飛鳥がそのまま身を回転させる
「はあぁっ!」
「ぬぁあああっ!?」
何回も回転を繰り返し、勢いをつけたところで飛鳥が閃光を投げ飛ばす
「えっ!?きゃぁっ!?」
投げ飛ばされた閃光の先には月光がおり、2人は激突すると共にその場に倒れた
「うぅ…ゆ、雪泉ちゃん今だよ!」
「はい!」
飛鳥が先に負ったダメージの痛みに堪えながら雪泉に号令の合図を出す
次の瞬間、飛鳥の頭上を飛び越えるように雪泉が跳躍する
「(飛鳥さんが繋いでくださったこの好機、絶対に無駄にはしません!)」
想いを胸に雪泉が月光と閃光の元に降り立つ
「「――っ!?」」
倒れている隙を突かれたことで月光と閃光は焦りを抱く
「お覚悟ください。秘伝忍法!!」
直後、雪泉が両手の扇を展開させる
「【樹氷扇】!!」
次の瞬間、雪泉が舞を披露すると冷気を纏った強風が吹き荒れた
「ぐっ、ぬあぁぁぁぁぁ!?」
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
凍てつく強風が月光と閃光を大きく後方に吹き飛ばした
その一撃を受けた2人の衣服は斬り裂かれ、その身は程なくして地面に勢いよく叩きつけられた
月光と閃光は立ち上がる素振りを見せず、地面に倒れたままピクリとも動かなかった
「…飛鳥さん!」
2人が動く気配がないことを確認した雪泉はすかさず飛鳥の元に駆け寄っていった
「飛鳥さん、大丈夫ですか!?」
「うん…勝負、ありだね」
「……はい」
飛鳥の元に駆け付けた雪泉が安否を気遣う
すると飛鳥は疲れた様子を見せながら自分たちが勝ったんだということを雪泉と確かめ合い、それを確信した2人は互いに笑みを零していた
「良かった。2人が勝ってくれて、佐介さんもそう思いますよね」
「………えぇ」
これまでの戦いの一部始終を見ていた紫苑が2人が勝利したことに安堵し、佐介にも同意を求めようと声をかける
すると佐介もまた緊張の糸が少し解けたのか釣り下がっていた口角が軽く上げてそう一声呟いたのだった