ここは山の中、人気のない静けさに包まれ、木々からは木漏れ日がさし
動物たちの姿や鳴き声、川の音が山の中を包んでいた
「はぁ~…静かなところですね。心が清々しい気分になります。ねっ、旦那さま♪」
【「…マァ、確カニ悪クハナイ」】
そんな山の中を椎奈と蟲髑の2人は歩いていた
「それにしても旦那さま、どうしてこのような場所にきたのですか?」
【「少シコノ山ニ用ガアッテナ」】
「用ですか?」
椎奈は蟲髑がなぜこのような山奥まで足を運んできたのかを問うた
【「コノ山ノドコカニ居ルデアロウ俺ノ知人ヲ探シニナ」】
「旦那さまの知人…ということはその方も妖魔なのですね。もしかしたらその方なら何か知っているかもしれないと踏んで?」
【「アァ、ソンナトコロダ」】
「旦那さま…ありがとうございます!」
【「…フン」】
旅の目的の手がかりを蟲髑の知人なら知っているかもしれない
それを聞いて椎奈は気合いに満ち満ちていた
椎奈たちが山に入って一日、二日、三日と時は進む
2人はあれやこれやと居場所を見つけるべく探していった
時に山の天気による足止めを受けたり、綺麗な場所を見つて優雅なひと時を過ごしたり、熊などの棄権生物に襲われかけたりといろいろだった
しかしそれでも蟲髑の知人がいると思われる目的地には未だ到着できず
ただただいたずらに時間を過ごすしかできなかった
「すぅ…ふぅ…」
その日の夜、椎奈は蟲髑と一緒に焚き火を囲っていた
歩き疲れのせいもあってすやすやと寝息を立てて眠っていた
【「……ッ」】
椎奈の眠る顔を蟲髑は眺めながら内心これからのことを考えていた
【「(今日デ4日、コレダケ見ツカラナイ以上ノ捜索ハ無意味、明日デコノ山カラモ撤退ダ。ソウスレバコイツモ流石ニ諦メルダロウ…」】
次の日を尻目に無謀な捜索は打ち切ろうと蟲髑は思ったのだった
やがて夜が明け、次の日となった
椎奈と蟲髑は最後の捜索として行けるところまでで山奥へ向かっていた
険しい山道、それでも尚、2人は蟲髑の言う知人の気配を追って歩んでいく
やがて2人は近くに川の流れる音がする場所にたどり着いた
【「……ッ?」】
「どうしましたか旦那さま?」
【「イヤ、ナンデモナイ」】
不意に立ち止まった蟲髑の様子に真理愛が声をかけると我に返ったように再び歩みだした
【「(コノ感ジ、今マデヨリハッキリト感ジル。ドウヤラ、”当タリ”ヲ引イテシマッタヨウダナ)」】
今までは微かだった気配がここに来て強くなったのを感じた
ここにきて椎奈にとって目当てとなるものに出くわす可能性がでてきてしまった
【「特ニ対シタ事ハ無イ。コレ以上ノ捜索ハ無意味ダ。日ガ暮レル前ニ山ヲ降リルゾ」】
口実を付けながら山からの撤退を伝える
「あっ、旦那さま、少しよろしいでしょうか?」
【「ドウシタ?」】
「実は飲み水がもう底をついてしまったようなので汲んできてもよろしいでしょうか?」
川が近くにあるのならば飲み水の確保をしておこう、椎奈はそう考えたのだ
【「……ヨカロウ、行ッテクルガイイ」】
「ありがとうございます。では」
許可を得た椎奈は音を頼りに川に向かう
しばらく坂をくだるとようやく目的の川にたどり着いた
「まぁ、綺麗な川ですね?」
椎奈は思わずうっとりした
なぜなら流れる川は透き通るように綺麗だったからだ
「いけない、見とれてる場合ではありませんね、旦那さまが待ってます」
早く飲み水の確保をして蟲髑と合流しようとそそくさと川のほうへ
ようやく川につくと水筒を川に付け、水をためていく
数秒後、水筒にいっぱいの水が溜まった
「よし、では旦那さまの元へ」
水を汲み終え、戻ろうとした時だった
「…あら?」
不意に耳に聞こえるものが
よくすまして聞いてみると何やら楽し気な声がする
声はここからそう遠くない場所からだ
「何かしら?」
興味が沸いた椎奈は落ちないように慎重に声のするほうに近づいていった
近づくにつれ、声がよりはっきりと聞こえ始める
感じからして1人ではなく複数の女性と思われた
やがて、声のする場所のすぐ近くの岩場まで到達し、その陰からこっそりと覗いてみる
するとそこには5人の女の子たちが水着に身を包み、川で楽しそうに遊んでいる様子が見えた
幸せそうに、楽しそうに、女の子たちは遊びに夢中になっていた
「(こんな山奥にどうして?)」
自分はともかくとして年もそんなに変わらない女の子たちがなぜこんな山奥にいるのだろうかと不思議そうに見ていた
そんな中、褐色肌の女の子が急に周りをキョロキョロし始めた
突然の行動に椎奈はおろか、一緒にいる他の女の子たちも何事かという顔を浮かべている
観察を続けていると褐色肌の女の子がどういうわけか椎奈のいる方へと視線を向ける
一瞬偶然かと思ったが彼女の視線はどう見てもこっちのほうを見ているのだ
「(まさか気づいて?…でもそんな、こんなに離れているというのに、気配も殺しているはずなのに?)」
この状況に困惑していると向こう側からさらなる動きが
褐色肌の女の子が何やら様子がおかしくなりだす
次の瞬間、体から黒い何かが飛び出したと思いきや、徐々にそれが徐々に形を成していく
やがて、現れたのは姿は人にも見えるが、手には鳥を彷彿とさせる大きな羽箒と足を生やした存在だった
予想もしなかったことに椎奈が驚いているとその人のような形をしたのが懐から錫杖らしきもを手に臨戦態勢に入る
女の子たちが止めようとするもそれを無視して突っ込んできた
彼女の向かう先はやはり自分のいるこの場所だと気づいた真理愛が即座に逃げようとする
だが、それは最早て遅れでしかなかった
数秒も経たずに突撃してきたその者が跳躍し、椎奈の前に着地した
「おう、どこへ行こうっていうんだ?」
「――っ!?」
先回りされ、逃げ道をふさがれてしまった
「お前、さっきからオレたちのことをちらちらと見てやがったな?何もんだ?」
「そ、それは…」
「答える気はないってか?まぁ、別に言わなくてもテメェが何者かは少なからず見当がつく、どこのところの忍だ?ここで何してやがった?言わねぇってんなら!」
「――っ!?」
口を割らないとわかるや錫杖を天へとかざしそれを振り下ろそうとする
これには褐色肌の女の子たちも慌てて止めに入ろうとした
しかし間に合わず、錫杖が勢いよく振り下ろされる
椎奈は即座に目を瞑った
次の瞬間、ガキンという金属音が響く
だが不思議と痛みがない、恐る恐る目を開けてみるとそこには振り下ろされた錫杖を防ぐ戦斧の切先が
すかさず振り返るとそこには救い主の姿が
【「――ッツ!」】
「だ、旦那さま!」
自分を助けた蟲髑の姿を見て椎奈は心の底から喜びを抱くのだった