狡猾な
「よーしこいつに決めた。これならあの妖魔の首も斬り落とせるでしょう」
蟲髑の息の根を止めるために手頃な得物を探していると丁度近くに斬馬刀があった
「これで私の出世は間違いなしですね~♪」
斬馬刀に手をかけ、自分の未来を想像し、うきうきとした顔を浮かべていた
「――あれっ?ふ~ん!?な、なんですかこれ、地面に深く突き刺さって離れないじゃないの!?」
しかし、斬馬刀は余程深く地面に突き刺さっているのか
「お、おい、そこのあんたたち!?ちょっと手を貸しなさいよ!」
「「は、はい!」」
「(どうしましょう、旦那さまを救える手は何かないの!?)」
椎奈は必死に打開策を編み出そうと必死になっているが、そんな彼女の思いとは裏腹に何も打開策は浮かばなかった
「…旦那さま、申し訳ありません。お側にいるのにわたくしは何の役にも立たずじまいです」
【「……椎奈ッ?」】
何も手立てを見出せなかった椎奈は絶望を抱き、涙を流しながら自身の不甲斐なさを蟲髑に告げる
彼女の涙に暮れる顔を目にした蟲髑の心の中の葛藤に終止符が打たれる
【「…椎奈、ヨク聞ケ。コノ状況ヲ何トカ出来ルカモシレナイ方法ガアル」】
「ほ、本当ですか!?それは何ですか!?」
蟲髑の言葉を聞いた椎奈がその方法を書こうとする
【「…ソレハ、オ前ガ妖魔ニナル事ダ」】
「…えっ?」
その時、椎奈は一瞬蟲髑の言った言葉が理解できなかった
いや、理解はしているが困惑しているのだ
何故ならそれは彼女にとって最大の目的なのだから
「ど、どういうことですか旦那さま、私が妖魔になるって…だってそんな方法は知らないって、旦那様あの時そうおっしゃってたじゃないですか!?」
椎奈はたまらず蟲髑にどういうことかを問い詰める
【「スマヌ、方法ニツイテハ最初カラ知ッテハイタノダ」】
「最初から、知っていた…ではどうして私にそれを教えてくださらなかったのですか!?」
自分が探し求めていた方法を蟲髑が最初から知っていたことに驚きを隠せなかった
「旦那さま、知っているのなら教えてください、どうしたら私は妖魔になれるのですか!?」
すかさず椎奈は妖魔になる方法についてを蟲髑に教えを請おうとする
【「ソレハ…俺ノ血ヲオ前ニ与エル事ダ」】
「…旦那さまの血をわたくしに」
妖魔になる方法が蟲髑の血を摂取することであると知り、椎奈は驚愕する
【「妖魔デアル俺ノ血ヲ取リ込メバ、オ前ハ妖魔ニナル事ガデキヨウ、ダガソレハ成功率ガ極メテ低イ危険ナ賭ケデモアル」】
「危険な賭け?」
【「成功率ハ全クト言ッテイイ程ニ低ク、失敗スレバ確実ニ死ヌ」】
「――っ!?」
蟲髑から血を摂取しても失敗のリスクと死のリスクが伴うと聞かされた椎奈は声を失ってしまう
「…死ぬ」
【「故ニ今ママデ言イ出ス事ガデキナカッタノダ。スマヌ」】
「旦那さま…」
椎奈にそのことを秘匿していたのは彼女が死ぬかもしれないリスクがあるが故だった
彼女のことを思ってるために蟲髑は言い出すことができなかったのだ
「…旦那さま。くださいあなたの血を」
【「――ッツ!?」】
話しを聞いても尚、椎奈が自分の血を求めてきたことに蟲髑が驚愕する
【「椎奈、イイノカ、オ前ハソレデ?失敗スレバオ前ハ死ヌンダゾ!?」】
蟲髑は椎奈が何故こんなことを言ったのか理解できず、聞き直した
「構いません。旦那さま、私はあなたに”人生を救っていただきました”ただ利用され、それに忠実に従う駒としてしか生きられなかった私の人生はあなたによって変えていただいたんです」
自分を救ってくれたと蟲髑の手を取り、椎奈はそう答える
「わたくしは旦那さまと一緒に居たい。ずっとお傍に言いたい。だからお願いします旦那さま…私に血をお与えください」
【「……分カッタ。オ前ノ望ミヲ叶エヨウ」】
「ありがとうございます」
とうとう蟲髑は椎奈の思いに根負けし、血を与えることを決めた
そして彼女の口の前に指を突き出す
「「――っ!!」」スポッ!
するとその最中、忍たちがようやく地中から斬馬刀を引っこ抜いた
「やっと抜けた~。もう数人がかりだってのに手間取りすぎなのよ!」
「も、申し訳ございません」
代わりに引き抜いてもらったにも関わらず、
「さ~て、おっとと!こいつであいつの首を…っ?」
斬馬刀を抜き取って意気揚々に視線を向けるも、そこには自身の指を切って血を流す蟲髑と
蟲髑から流れる血を飲み込むべく口を開ける椎奈がいた
「あ、あいつら何をしようとしているの!?」
思いもよらぬ状況を目にした
血はまっすぐに椎奈の口に落ちた
「…――っ」ゴックン
そしてそれを椎奈はごくりと飲み込む
「うっ、うぁああああああああああ!?」
次の瞬間、血を呑んだ椎奈が凄まじい叫び声を上げ、結界内にいる時以上の苦しみを孕んでいた
「ちょっとちょっと、あいつらなにしてるのかと思ったらいつの間にか仲間割れ?結界に閉じ込められすぎておかしくなったのかしら?」
椎奈と蟲髑の光景を目にした
【「(椎奈)」】
だが、そんな中でも蟲髑は彼女を信じ、運命を託そうとする
「(苦しい、意識が消し飛んでしまいそう!?わたしが、わたしで無くなってしまいそうだわ!?)」
一方、血を取り込んだ椎奈が苦痛に苛まれながら心の中でその辛さを呟く
「(だけど負けられない、旦那さまか私を信じてくれた。わたしに賭けてくださった。それに答えるためにもこんなところで根を上げてなんていられない!!)」
苦しみ藻搔きながらも、自分を信じてくれた蟲髑のためにも負けられないと椎奈は心から強く思った
「うぅぅぅう!うぁあああああああああああ!!」
ギュイン!ギュォオオオオオオオオオオ!!
【「――ッツ!?」】
「な、なんだ!?」
次の瞬間、椎奈の強い意思に好悪するかのように彼女の身体が輝きを放った
彼女を中心に一瞬、周囲が光に包まれていき、やがてそれが静かに収まりを見せる
「…い、いったい今の光は…――っ!?」
視界を回復させた
「……っ」
それは結界の中に座すように身構える異形なる姿に変わった椎奈の姿だった