遠野の里、外界から遠く離れた山奥の里
この里には5人の忍少女で構成されている「遠野天狗衆」の面々が村の仲間たちとともに暮らしていた
彼女たちは日々毎日をこの里で過ごし、切磋琢磨しあって生きていた
そうして話題に上がった彼女たちが今何をしているのかというと……
「「「「「……っ」」」」」
5人揃ってとある石の前に身を屈ませ、手を合わせてお祈りをしていた
石の前には供え物と線香が焚かれていた
体制をそのままに5人は手を合わせて拝んだままじーっとしていた
やがて、真ん中に座していた遠野天狗衆のリーダーである夕焼がそれを辞めると同時に他の面々も拝むのを辞めた
「さて、では皆さん。お参りも済んだことですし、そろそろ帰りましょう」
お参りも終わったということで那智が夕焼たちに帰ろうと声をかける
「あぁ、そうだなそうするか」
「そうですね。帰って読みたい本もありますからね」
「私も帰ったら牧場のお手伝いです~♪」
那智の言葉に賛同するように他の面々も頷き、早々に帰り始める
夕焼もまたみんなの後をついて行こうとする中、思い出したかのように立ち止まると墓石のほうに視線を向ける
「また来るからね」
そうして墓石に向けてまた次回と言うような一声をかける
「ゆーちゃ~ん?」
「何しているんですか?」
「早くしないと置いてっちまうぞ?」
「あっ、はい。今行きます!」
自分が来ていないことに気づいた仲間たちの呼ぶ声に反応した夕焼が急いで彼女たちの元へと向かっていくのだった
墓参りを終え、夕焼は自宅に戻ると自室の机の椅子に腰掛けていた
椅子に座したまま夕焼は手にあるものを持っていた
彼女が手にしていたのは幼き頃の自分たちの写った集合写真だった
ただ一点だけ今と違いがあるとするならばそれは彼女たちと一緒に写っているものだろう
「……っ」
写真を眺める彼女の視線は自分たちと一緒に写っているそれに向けられていた
それを見て夕焼はどこか懐かしさと哀しさを足して割ったような顔を浮かべいた
『何黄昏てんだよお前』
「…っ?」
するとその時、夕焼は脳裏に聞こえる声に気づく
直後、夕焼の身体から何かがすぅ~っと抜け出るとすぐ近くで集まり、形を成していった
やがて実体を表したのはかつて彼女の中に封印されていた妖魔、夜叉であった
「どうかしましたか、夜叉さん?」
唐突に現れた夜叉に夕焼が訊ねる
「随分とまじまじとその写真見てるみたいだが、それがなんだってんだ?」
夜叉は夕焼が先ほどから見ている写真のことが気になるようで声をかけてきたのだ
「あぁ、これはですね、昔私たちが小さい頃に一緒だった子との記念写真なんです」
写真が気になった様子の夜叉に夕焼がそれを見せる
幼い自分たちの写った写真を夜叉がまじまじと眺める
「ふ~ん…幼いお前らが写ってんのはわかるが、お前が大事そうに抱えてるこいつはなんだ?」
すると夜叉は見せられた写真の1番の気になるところを夕焼に尋ねる
小さい頃の夕焼が大事に抱えてるものについて
「…これは、この子は私たちが小さい頃に飼っていたイタチなんです」
「イタチ?」
「はい、そうです。名前はユウって言うんです」
写真の夕焼が抱えてたもの、それは彼女たちが幼少期に飼っていたイタチだったのだ
「ユウくんと出会ったのはまだこの子が怪我をして倒れていたのを私が見つけた時でした。酷くボロボロになってみるに絶えないくらいに弱っていましたんです」
当時の状況から他の野生動物に襲われて重傷を負いながらも命からがら逃げてきたのだろうと夕焼はそう考えていた
「そのあとすぐ病院に駆け込んで医者に診てもらったんですが、何分状態が状態だったので助かるかどうかずっとひやひやしたものです」
「ほう?それでそいつはどうなったんだ?」
「幸いなことに治療の甲斐もあってユウくんは一命を取り留めてくれたんです。あの時は本当に安心したものです」
医者の治療の甲斐もあってイタチが元気を取り戻した様子を見た時、心の底から喜んだと表情からも分かる程に伝わった
「それ以降、元気を取り戻したユウくんはすっかり私に懐いてくれたようで私について行くようになったんです」
「なるほど、助けれくれたお前に懐いたってことか」
「えぇ、しかもうーちゃんたちに紹介してから私のみならずみんなにも懐いてくれたんです。あの子とっても人懐っこい子だったんですよ」
当時のことを夜叉に説明する夕焼はそれはとても嬉しそうな顔を浮かべていた
「それで、今そいつはどこにいるんだ?」
「……亡くなりました。もうあれから6年くらい前に」
「…そう、だったのか」
夜叉が現在の所在を聞くと少し悲し気に夕焼はイタチが亡くなっていることを告げた
「私たちにとってもあの子との日々はいい思い出でした。それ故に失った時はみんな涙が枯れるまで泣いたものです」
さらに夕焼と同じように大事にしていた皆はその時の悲しみは言葉では表せない程のものだったことも告げた
「…辛かったんだな?」
悲しそうな夕焼を前にし、夜叉は自分なりに精一杯の励ましの言葉を送る
「ありがとうございます夜叉さん。でもそんな顔しないでください、大丈夫です。私たちはもう悲しんではいません。いつまでもくよくよしてたらユウくんも安心できませんから」
「…そうか」
思い出し、目に薄らと涙を溜めていたが、くよくよしてはいけないのだと
その涙を拭って笑顔を見せた夕焼の心の強さに夜叉は内心感服していた
「あっいけない、もうこんな時間。明日も早いから早く寝ないと」
不意に時計を確認した夕焼が慌ててベットに横たわり、その上に布団をかける
「それでは夜叉さん、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
寝る前の挨拶を夜叉と交わし、ランプの灯りを消すと夕焼はすやすやと夢の世界へ堕ちていった
すやすやと寝静まる夕焼きを見届けると夜叉もその身を光に変え、再び夕焼の体の中に戻っていった
「……っ」
布団に包まり、すやすやと寝息を立てながら夕焼は夢に堕ちる中で大切な友達の名を呟くのだった
夕焼のみならず、他の4人もそれぞれ眠りにつき、明日に向けて安らかなひと時を過ごしていくのだった
…だが、この時、夕焼たちは知る由もなかった
この里に今、一つの奇跡が起ころうとしていることに…