その奇跡は夕焼たちが寝静まった夜の最中に起こった
彼女たちの友達であったイタチのユウが埋葬されている墓石が月明かりに照らされると同時に光を発しだしたのだ
やがてその光が抜きでるようにして墓石から飛び出てきた
ふわりふわりと宙を浮かぶそれはさながら人魂のようだった
≪『やっと、やっと戻ってこれた!』≫
すると人魂が嬉しそうな声を上げながらはしゃぐように周囲を飛び交う
≪『おっと、こんなことしてる場合じゃなかった!』≫
あらかたはしゃぎ終えると我に返ったように目的を思い出す
≪『集中、集中~!』≫
人魂が何やら力んでいるかのように声を上げる
刹那、人魂の身体が発光し、一層の輝きを放った
周囲を照らすほどに眩い光が森全体を包んだ
やがて光が勢いを潜め、森は再び夜の暗闇に染まる
「……っ」
一方、光を放っていた人魂のほうには明確な変化が起こっていた
そこにいたのは人魂ではない、先ほどまで零体でしかなかったその身は幼き10代成りたての容姿をしており
明確な人としての肉体を有していたのだ
「やった。すごい、上手くできた!ボク、本当に”人間の姿になれたんだ”!!」
せわしなく両手で体中をペタペタと触りながら自分の肉体が人間であることを確信し、気分を高揚させていた
「よ~し、早く山を下りて”夕焼ねぇねぇ”たちのところに行かないと!」
肉体を手に入れた人魂だった少年は夕焼の名を口にしながら山下にある里に行こうと決める
「……あっ」ぐ~
だが、そうしようとした矢先のこと、少年のお腹が突然ぐうぐうと鳴り始めた
「そっか…人間の姿になる時にいっぱい力入れたからお腹がペコペコになっちゃったんだ。うぅ~」
少年は肉体を得るために力を集中させたことにより、かなりのエネルギーを消耗してしまった
体力は大幅に減少し、少年は空腹状態に陥ってしまった
鳴りやまぬほどにお腹が鳴っており、少年は困り果ててしまう
「…あっ、そうだ!」
しかし、少年は瞬時にハッとした顔を浮かべるとかつての自分が埋葬された墓石に目をやる
墓石の前には昨日夕焼たちがお供え物として置いていった食べ物だった
「ねぇねぇたちありがとう、いただきまーす!はむはむはむむむ!」
お供えしてくれたことに感謝の言葉を述べながら少年はそれらを食べ始めるのだった
それから時は経過し、日は跨ぎ、翌日を迎えた
「それじゃお母さん、行ってきます」
家の戸がガラリを開くと共に夕焼が外に出てきた
出かける前に母親に挨拶をすると夕焼は学校に向かって歩きだしていった
夕焼が家を出発してから数分が経過した
通学路を歩き、夕焼が学校へと向かっていた時だった
「…っ?」
学校へ向かう途中、夕焼はその先で何やら騒いでいる住民たちを見かける
「なんだろう?」
どうしたのか気になった夕焼がその人だかりの元へ歩いて行った
「おばさん、どうかしたんですか?」
近くまでやってきた夕焼は辺りを見回す中、人だかりに隣に住んでいるおばさんを発見し、声をかけた
「あぁ夕焼ちゃんか、いやねそれが田所さんが今朝ここら変で不審者を目撃したらしくてね」
「不審者ですか?」
夕焼に気づいたおばさんがこの人だかりができている理由を語る
内容はこの付近に住んでいる住民が今朝頃不審者を目撃したからと言うものだった
「…それで、その不審者はどちらに?」
「それがね、田所さんが見たのは人影みたいで全体を見るよりも早くそいつはどっかに行っちまったって話しだよ」
「なるほど」
目撃したまではいいが、肝心なその不審者事態を捕まえられてはいないのだと聞かされ、夕焼はうんうんと納得したように頷く
「あっ、けどね。はっきりとは田所さんも把握しきれちゃいないんだけど、見た感じその不審者は小柄な人物だったって話しらしいよ」
「小柄ですか?どれくらい?」
「えっとね、確か10代くらいの子供のような感じだったってさ」
「子供みたいな小柄の…」
おばさんから不審者の容姿を聞いて夕焼は何者なのだろうと考えこむのだった
それからしばらくして、おばさんと別れた夕焼は少し遅れて学校に到着した
今彼女は他の4人と一緒に修行の一環として体操を行っていた
「そういえばみんな聞いた?今日里に不審者が出た話し」
「…っ」ピクッ
するとその最中、おもむろに深里が先ほど夕焼がおばさんから聞いた不審者のことを話題にあげてきた
「おっ、それあたしも聞いたぜ?」
「私も聞きましたよ」
「私もです~」
不審者の話題に他の面々も食いつき、話題がそのことで持ち切りになっていく
「いったい何者なのかしらねその不審者って?」
「里のみんなも逃げる姿は目にしてもその容姿を正確に把握したものはいないって聞きますね?」
深里が興味あり気に言うと、他のところも姿を目にはしてもどういった人物なのかはわからないということを那智が答える
「しかもさ、みんなから聞いた感じじゃ小柄な人物だとか新手の野生動物かなんかだって噂しているらしいぜ?」
「なんだか少し怖いです~」
九魅が里の中で噂されている不審者の容姿についてを話すと牛丸は少し困った顔を浮かべてそう呟く
みんなの話しから事は思ったよりも大事になっているのだと言うことを夕焼は認識するのだった
不審者の話題があった学校での時間を終え、夕焼は皆と別れ、家に戻るために帰路に着こうとしていた
「……っ」
帰り道を歩いていく中、夕焼は今朝や学校での話しを思い返していた
『何考え込んでんだ夕焼?』
「夜叉さん…いえ、思ったほど里のみんなが不審者の話題に持ちきりになっていたので少し驚いていまして」
『確かに行く先々で噂されてたもんな』
夕焼の様子に気づいた夜叉が問いかける
夜叉の声に反応した夕焼は不審者のことを考えていたと告げ、夜叉も確かにと納得していた
そうして話しをしている間に夕焼は家に到着した
「お母さんただいま」
「お帰りなさい。すぐ晩ご飯にするから着替えてらっしゃい」
「はーい」
母親と挨拶を交わすと夕焼は自室に向かって行った
「さてと、早く着替えてお母さんの手伝いに…んっ?」
部屋に入り、私服に着替えて手伝いをしに行こうとした時だった
ふと夕焼は自分のベットの布団が不自然に盛り上がっていることに気づく
「なんだろう…っ?」
気になった夕焼が布団を捲ってみた
「……えっ?」
その時、夕焼は言葉を失う
「すぅ…すぅ…」
布団を取払ったベットの上に見知らぬ少年がすやすやと寝息をたてているのだった