遠野の里…それは遠く都会から離れた山奥にある隠れ里
数百年前にこの山に辿りついた者たちの手によって開拓され、今の里の基礎を作っていった
里の者たちは皆互いに互いを支え合い、助け合い、繁栄し、長きにわたる平和な時を築いていた
しかし、そんな遠野の里にはある秘密があった
それは時と共に里の者たちの記憶から忘れ去られてしまった里の真実
遠野の里の創設に大きく関わったとある者の存在を……
これは遠野の里の歴史とその波によって忘れさられてしまった者とが織りなす物語である…
時は遠野の里が危機に見舞われたあの出来事から始まっていた
あの出来事、それは現里長である那智の父の弟であり
彼女の叔父にあたる平太夫と部下である田吾作によるクーデターが発生した時のことだ
里の者たちを拉致し、それを人質にし、那智から里長の座を奪おうと企てるも
そこに偶然にも居合わせた佐介と飛鳥の協力によって平太夫の野望を打ち砕くことに成功し、里は救われたあの時より
「螺旋脚!」
【【【ッ!?】】】
「天轟拳!」
【ッ!?】
佐介の繰り出す技によって田吾作が生み出した兵士たちが一掃される
そんな彼の姿をじっと見つめる視線があった
「っ…」
視線の主は遠野ノ天狗集のリーダーである夕焼だった
迫りくる敵をなぎ倒し、蹴散らす佐介の勇姿に夕焼の内に秘める思いがざわめく
「(なんだよこれ、心が騒ついてきやがるぜ)」
夕焼が感じた感情、それは佐介と戦ってみたい、自分の心が満たされるまで思う存分…と
だがそれは厳密には夕焼としてではなく、彼女の内に秘められし者の思いであった
あの騒動から早くも一ヶ月の時が流れた
そして今、場所は商店街に映る
「んん〜!やっぱ都会っていつ来てもすげぇよな〜!」
テンション上げ上げな感じでそう語りかけるのは遠野ノ天狗集の1人、九魅である
遠野ノ天狗集の中で唯一何度か都会に行ったことがある彼女は久しぶりに来れたことに嬉しそうであった
「なっ、お前らもそう思うだろ!……ってあれ?」
都会に来た喜びを分かち合おうと声をかける九魅だったが
「…こ、ここが都会。すごい、ですね…」
「ゆーちゃん、大丈夫?」
「うっ、うん…なんとか」
九魅が視線を向けてみるとそこには里から降りて初めての都会の雰囲気に振り回されてしまい
具合悪そうにしている夕焼とそんな彼女を心配そうに見ている牛丸の姿があった
「おいおい、しっかりしろよ夕焼、まだ来て少ししか経ってねぇんだぞ?そんな調子でどうすんだよ?」
「ご、ごめんなさい」
暗い表情になっているのに耐えかねた九魅が夕焼に物申し
夕焼の方も申し訳なさそうに謝罪する
「ちょっとバカ九魅、なに夕焼さんに文句言ってるのよ?…だいたい元はと言えばあんたがいきなり私たち全員で都会に行こうって言うからこんなことになったんでしょうが?」
そんな2人の間に割って入るように深里が乱入し、夕焼を庇いつつ九魅に物申す
「いいじゃねぇかよ?お前だって行ってみたいって言ってたじゃねぇかよ?」
「確かにそのことに関しては同意するけどこっちに何度か来てるあんたと違って私も夕焼さんも来るのは今回が初めてなんだからこうなるのは仕方ないことでしょ!」
「んなこと言ったてよ。牛丸だって那智だってこっちには何度も来てるじゃねぇか?」
実は牛丸のもとで作られている牛乳は里の外であるここでもたいそうな評判であり
遠野の里はこれを収入源の一つとして那智の監修の元こっちにしばしば売りに出ていたりして
結果として九魅、那智、牛丸の3人は後の2人よりは都会の雰囲気に慣れているのが現状である
「それは里の収入を得るためでしょうが!ただ遊びに行ってるあんたと一緒にすんじゃないわよバカ九魅!」
「んだと!人がせっかく誘ってやったのにその態度はなんだよこのアホ深里!」
都会でもお構いなしにと九魅と深里の言い争いが始まってしまう
「あわわ、ふっ、2人とも喧嘩はやめてください!?」
「だいたいあんたはいっつもそうやって!」
「んだよ!」
見かねた夕焼が止めようとするも相変わらず一筋縄ではいかない
「…こうなったら」
「「っ?…っ!?」」
刹那、2人はハッとなる
自分たちの喧嘩がエスカレートする、夕焼が止めようにも止まらない、最終手段に突入する
この流れから導き出されることはたった一つ、それを知っている2人だからこそ焦る
「まてまてまて!お、おおお落ち着け夕焼!?」
「そ、そうよ夕焼さん!早まっちゃダメ!?」
最悪な状況だけは阻止しなければと必死に2人が夕焼を止めようとする
「そこまでよ夕焼さん」
「な、那智さん?」
だがその直前、那智が夕焼の肩を掴むと共にいつになく強張った表情をむけていた
「あなたの気持ちはわかるけど場所を弁えなさい、ここは遠野の里ではないのよ?」
「…っ」ピクッ
那智のその指摘に夕焼はハッとなる
確かに彼女のいう通りだ
今自分たちはいるのは都会、遠野の里ではない
それにもかかわらず刀を出すとしたら問題になるのは必至だ
「そ、そうだぜ夕焼!那智のいう通りだ!」
「えぇ、せっかく都会に来たのに問題起こしちゃまずいでしょ?私たちならもう平気だから」
「…は、はい」
「「ふぅ~」」
畳み掛けるように九魅と深里も那智の後に続くように説得を試み、どうにか抑えることができたようで一息だった
「はい、ということでいがみ合いはおしまい、せっかくの無礼講なんだから思いっきり楽しみましょ♪」
「「おー!!」」
この場を抑えた那智は当初の目的である都会観光に話題を戻させ、九魅と牛丸も一緒に掛け声をあげる
「ねぇ那智さん、観光はいいけどこれからどうする感じなの?私都会来たことないからよくわからないんだけど?」
都会に来たことがない深里が那智におもむろに尋ねる
「うふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。この日のために信頼できる案内役を頼んでおきましたから」
「案内役?」
「えぇ…そろそろ来てくれる頃だと思うんですけど~?」
時間を確認しながら那智がそう呟いていると
「あっ、見つけました。那智さーん!」
「「「「っ?」」」」
「あら、来てくれたみたいですね?」
向こうの方から声が聞こえてきたので一同が視線を向けるとそこには見知った影が
「えっ?佐介…さん?」
そう佐介の姿であった