現在時刻は昼を回ったところの時間帯
空を飛ぶ鳥の囀りが耳に心地よく聞こえるそんな中、歩道を歩く3つの人影があった
人影の正体は月閃女学館の選抜メンバー。紫苑、雪泉、夜桜の三人だった
「ふんふふ~ん♪」
「楽しそうだね夜桜?」
道中、夜桜がウキウキした様子を見せているのを見て紫苑が語りかける
「当然です。だって黒影様が待っててくれてますからね」
「うふふ、そうですね。では早く黒影おじい様の元に行って差し上げませんとね」
「はい」
雪泉と夜桜ははやる気持ちを抑えながらも気持ちを流行らせていた
紫苑たちが向かっているのは黒影の元、そう今日は恒例の墓参りなのである
「でも残念ですね。せっかくおじい様の墓参りですのに?」
「仕方ないよ。みんなどうしても外せない予定があるみたいだったから」
今日他の子たちがいないのはそういった理由があったからである
「故に今日これなかった美野里たちにはわるいがその分わしらでしっかり黒影様にご奉仕じゃ!」
「そうだね。黒影様もきっとお喜びになられると思うよ」
3人は楽しそうに会話を弾ませながらまた一歩一歩と黒影の待つ墓所へと向かっていった
「…っ♪」チャポン…シャァァ~!
「…っ♬」キュッキュ…キュキュキュ♪
「…っ♫」フサフサ…コトン!
「「「……っ」」」ナムナム
無事に目的地に着いた3人は早速墓石に水をかけ、磨き、花を添え、それらを終えた後に拝んだ
そして無事に墓参りをすることができた
「…ふふ」
「どうしたんですか紫苑?」
不意に笑みを浮かべた紫苑に雪泉が尋ねる
「あぁいやちょっとね」
「「っ?」」
「…そんな大したことじゃないんだけど、ふと以前の僕たちのことを思い返してしまってね。あのころに比べて今の僕たちって随分と丸くなったような気がしたから」
「「あぁ~」」
紫苑のその言葉に2人は共感する
確かに今の自分たちは随分と丸くなった気がする
それもこれも佐介たち同門の善忍たち、光牙や相馬たち悪忍たち
彼らとの出会いや戦いがあったからこそ今の自分たちがいるんだなと実感がわいてくるようだった
「確かにそうですね…しかし懐かしいですね」
「あぁ、今となってはいろいろなことがあったと思い出話しに花が咲きますね」
「うん。…思い出すな~。あの頃のこと…」
紫苑、雪泉、夜桜がもの思いに更けながら過去の思い出を思い返し始めた……
これはまだ紫苑たち月閃女学館のメンバーが学炎祭の出来事、それよりもさらに前の出来事の物語である
その始まりは彼らにとって最悪の日から始まる
始まりは真っ暗な黒雲が空一面を覆いつくし、ざぁざぁと雨が降りしきるそんな暗い天気の中
「う、うう…うぅぅ…ぐすっ」
「うぅ…うわぁぁ~ん!」
「ぐぅ…うぅぅ…」
「うえぇぇーん!うえぇぇ~ん!」
雨の音に混ざるかのように少女たちの悲しみに染まる声が木霊する
彼女たちの前には名前を刻まれた墓石があった
その墓石には「黒影」と刻まれていた
紫苑たちにとって大事な人であり、敬愛していた黒影が病の末に亡くなり、今こうして埋葬されたのだ
「黒影おじい様…うぅぅ…」
「こんなのってないよ…あんまりだよ…」
「なぜじゃ、どうしてこんなことになってしまったんじゃ!」
「認めん…認められるものか」
「やだよ。黒影おじいちゃ~ん」
彼の死、彼が埋葬されるこの場においても、彼のためにこの場に集まり、そして悲しんでくれたのは自分が育てた子たちだけだった
しかしながら最愛の人を失った悲しみが心に大きな傷を与えた
黒影の死を受け入れられない、信じたくない。そういった現実逃避をしなければ精神が保てないほどに心が悲しみで満ちていたのだ
「…みんなっ」
悲しみに暮れる彼女たちを尻目に紫苑はその場を後にする
あの場から少し離れたところで紫苑は立ち止まる
ざぁざぁと降りしきる雨に打たれながら紫苑は雨雲に覆われた空を見上げる
「(黒影さま…)」
涙と水滴が入り混じる濡れた悲しみの顔を浮かべながら紫苑は黒影の名を呟き、同時に彼が生前に自分に託していた言葉を思い出す
『「紫苑、雪泉を…皆を頼むぞ…」』
亡くなる数日前に黒影が自分に託した願いを
「(雪泉、叢、夜桜、四季、美野里…)」
紫苑が脳裏に映し出すは自分とともに育った彼女たちの笑顔だった
「(黒影さま。安心してください、雪泉たちは僕がこの命にかけてでも守ります)」
彼女たちの笑顔と未来、それらを守ることそれが自身が黒影と交わした約束
何より自分自身が彼女たちを守りたいと思うからこそ強く誓った
掛け替えのない、大切な家族だからこそ守りたいと思いながら
「(そして…あなたの意思もまた僕たちが引き継ぎます)」
そういうとともに紫苑はもう一つの誓いを立てる
もう一つの誓い、それは黒影が今日まで思い描いていた理想に由来していた
黒影、彼は生前から正し争いや穢れなどない純粋にして正しい世界を目指していた
志半ばで彼は老いてこうして死を迎えてしまった
「(僕の…僕らの手で絶対に成し遂げて見せます!)」
紫苑はそんな黒影の果たせなかった志を継ぐことを決めた
それが彼に送るもう一つの孝行だと信じて
この時、紫苑たちは気づいていなかった
自分たち以外にもこの場に訪れていることを
そしてその人物は彼らに見つからない距離からその様子を眺めていた
「逝ってしまわれたのですね黒影おじい様…残念です」
視線の先に見える黒影の墓標を見るやそのものもまた黒影が亡くなったということに対しどこか悲しげな顔を浮かべていた
悲しげにその場で立ち尽くすが、しばしの後、これ以上はいけないと悲しみの余韻に耽る自分に言い聞かせ、その場を去る
道中をその者が歩いていく
【「いいのですか?このままいってしまって?」】
とここで背後から声が聞こえる
いつの間にかその者の背後にもう一つ人型の影が
「いいんです。それにこれは私にとって別れであり、決別を意味していますから」
【「決別…」】
「…そうです。私は私の悲願を叶えるためにも立ち止まってはいられない。故にこれにて私は繋がりを立ちます。黒影おじい様とも…雪泉とも…」
後ろに立つ人影に自分の胸の内を明かす
【「…そうですか、ですがそうであっても私はあなたについていきますよ」】
「なら行きましょう」
そういって二つの影はその場を去っていったのだった