「……」
日影は一人ぽつんと空を見上げていた
彼女がなぜそんなことをしているのか。
それは以前、未来がいった一言にあった
『あたし、日影が大笑いした顔、一度も見たことないんだけど』
この言葉を機に仲間たちが自分に笑うという感情を教えるために必死にいろいろしてくれた
未来と詠がお笑い芸人のようにネタを披露し、春花はみんなの日常生活(盗撮した恥ずかしい映像)の動画を見せたり、焔は自身の得意技だと言う形態模写で「カニ」を披露したが
一行に日影は無理をしてるわけではなく我慢もしてるわけではない
百歩譲って焔の形態模写がつまらなかったとして、未来や詠、春花のは普通の人なら確実に笑いを取れるほど面白いものだったが、日影は自分が言い切るほど本当に感情を持たないのかと思わせるくらいに無反応だった
自分を笑わせようと頑張ってくれたことに答えられず。笑わせることができず悔しそうな顔をしていたみんなの顔を思い浮かべると
自分では分からないが何故か自分の体の中がもやもやする
「感情か…どないすれば感情って出せるもんなんやろ?」
日影が感情について悩んでいると
「そこにいるのは…日影か?」
不意に後ろから声をかけられた
「おや?光牙さんやないか?お疲れさんやな」
声をかけてきたのは光牙だった
「あぁ」
光牙は声をかけた後、別にそれ以上は聞かず、近くにあったソファーに腰掛ける
………二人とも普段は無口なせいか何の会話もなくただただ時が悪戯に過ぎていく
だがそんな中ふと日影は光牙を見て思った
「(光牙さんに聞けばわるかもしれへんな?)」
焔や未来が突っかかっられたり
最近では詠ともよくはなしている。
自分と少し似てるかも知れないと日影は思った
どうせこのまま空を見てても感情についての答えはでない
ただ退屈な時間を送るよりはマシだろうと日影はそう感じ沈黙を破り、光牙に声をかける
「なぁ光牙さん」
「なんだ日影?」
「光牙さんに聞けば分かるかもしれへんから教えてくれんかの…感情を出すにはどうしたらええんやろ?」
光牙は日影からそんなことを言われるとは思ってもみなかったのか目を丸くしていた
「…どうした日影、なぜそんなことを?」
「この前な、未来がわしの大笑いした顔を見てみたいって言い出してな。焔さんも詠さんも春花さんも協力してわしを笑わせようとしたんやけど。生憎わしには感情がないせいか未来たちしてることの何がおもろいんかようわからんかったんや。で、終わったあとにはみんなが悔しそうな顔をしとってな、それを見た時、体ん中がもやもやしたんや。なんでなんか光牙さんなら分かるかもしれへんと思ってな」
光牙は目を瞑りながら「ふむ…」っと唸りながら考えていた
「光牙さんかて戦闘する時、普段はクールやのに戦うとまるで人が変わったかのように生き生きしとるやん。この前のわしとの合同任務の時そう思ったんやけど?」
「日影、お前は俺をそんな風に見てたのか?」
「違うんか?」
無表情のまま首を傾げる日影に頭を抱える光牙
「まぁいい、それと感情と言うのは自然に出てくるものだ。誰かに聞いたところで見つかるものではないぞ?」
「せやかてわしには感情がないからな~?どないすれば笑えるようになるかわからへんのや」
日影は欲しい答えがでなかったのか残念そうに小さなため息をついた
「…日影、一つ聞いてもいいか?」
「ん?なんや?」
光牙の質問に下を向いていた顔を再び光牙に向ける
「お前はあいつらといてどう思う?」
「どう思うやて?」
光牙の質問の意味が分からない日影
「そうだ。あいつらと日常生活を共にしててお前はどんな感じだ?」
「……どんな感じ?」
日影は腕を組みながら静かに唸りながら考える
「よう分からんやどな。焔さんたちといると不思議な気分になるんや」
「ほう?」
「なんかこう、あの場に居るとな、なんでかは知らんが…妙に落ち着くんや」
日影は今自分が心の中で思っているであろうという言葉を素直に発した
「焔さんや詠さんや未来に春花さん…あの4人とこおるとなんやそんな感じやな」
感情がないと言う彼女の顔は心なしか笑っているように見えた
「…ふ、そうか、それはよかったな。じゃあその思いを胸にでもしまっていれば、いつかは感情を持てるようになるだろうな。それまでせいぜい頑張ることだ」
光牙はそう言うと腰掛けていたソファーから立ち上がり部屋の出入り口に向かう
「あっ」
「ん?どうした?」
「間違えてもうた4人やない"5人"や」
日影がなにを言ってるのかわからない光牙
「どういう意味だ?」
「…光牙さんも含めて"5人"や。わしらは"6人で"選抜メンバーやし」
日影の言葉に普段からクールな光牙が少し照れた
「ふん。日影、俺は若干違うぞ…まぁ別にお前がそう思うなら勝手にすればいい。俺はもう行く」
「光牙さんどこかいくん?」
「…あぁ、少し用事があってな」
日影は部屋を去る光牙の顔がいつもと違い、悲しいような薄暗いような表情をしていた気がした
「…光牙さん。どないしたんやろ?」
不思議そうに日影は小首をかしげた
夜のとある忍病院
そこには怪我や障害などを負ったたくさんの悪忍が入院し回復機関の間、そこで過ごす場所であった
その病院になぜか堂々と入らず忍び込むかのように光牙はそこに訪れていた
手に花束を持ちながら
光牙は沢山ある病室の内の中からお目当ての部屋に近づくと窓を覗き込む
部屋には看護師がいるがやることを終えたのか用具やらをもって出て行く準備をしていた
少しして看護師が部屋からいなくなり、戻る気配はないかと観察するもどうやら大丈夫かと安堵し
カギのかかった窓を忍術で開けると光牙は病室に足を踏み入れ、一歩一歩静かに歩き出す
光牙が見据える先にはベットに横たわり眠りについている女性がいた
寝そべる女性の隣にある花瓶の花を古いものから先ほど手にしていた花束の花に替える
そして光牙は再び女性のほうを向くと椅子に腰掛ける
「…姉さん」
光牙は眠っている女性を姉さんと呼びながら彼女の頬を軽くなでる
すると女性がくすぐったそうにもじもじし、体制をかえつつ、またすやすやと寝息をたてる
「(姉さん。待っていてくれ、必ず姉さんの記憶を呼び戻す方法を探しだしてみせる。だからそれまで俺を信じていて待っていてくれ)」
光牙は女性の手をとり、心で彼女にそう誓った
その時ドアの向こうの廊下から誰かの足音が聞こえた
「…?」
入ってきたのは見舞いの花束をもった女性だった
女性は花瓶に自分が生けた覚えのない花が飾られていることと窓が空いていることに気づき
窓を締め直すとこの二つのことを直ぐに理解した
「…来てたんだね光牙」
閉めた窓の向こうを女性は覗きながらおもむろにそう呟いた
月明かりが照す夜道を
光牙は病院から出て行くと急ぎ足で蛇女に戻っていくのだった