紫苑たちが一時月閃に戻ることにしていた頃のことだ
山奥のほうの遺跡のほうでも何やら動きがあった
「「っ…」」
夜泉の仲間の2人が前方を見つめながら互いに顔を見合わせ、コクンと頷く
「「っ!!」」バッ!!
2人は身構えるとともに勢いよく前に向かって飛び出した
ビリリリリリリリリ!!
その直後、飛び出した2人が一定の距離に達した途端、2人の身体に電流のような痛みが走る
「ぐぅ~~~っ!?」
「っ~~~うああぁぁぁぁぁっ!?」
ドドォォォォン!!
痛みに耐えながら必死に抜け出そうとするも結局それは敵わず、見えない力に押し返されてしまうのだった
「…っ」ぱちっ
一方その頃、遺跡の中にあるかつて玉座の間だったと思われる場所にて夜泉が座していた
飛ばしていた思念が本体である肉体に戻ってきたのだ
「…あと一歩のところを、真白め、どこまで私たちの邪魔をすれば…くぅぅぅっ!」
真白によって邪魔をされたことに怒り心頭の様子で夜泉は腰掛けていた玉座の手もたれ部分を強く叩いた
「おーい!」
「夜泉様!!」
「っ?」
するとそのこの場に先程まで結界の突破に努めていた2人がやってきた
「どうしたの2人とも、そんなに慌てて?」
「それがですね」
「是非とも夜泉様に見てもらいたいんですわ」
「っ?」
意味深にニヤついた顔を見せる2人に夜泉は小首を傾げながらもついていくことにした
案内されるままにやってきたのは先ほど2人がいた結界前だった
「こんなところに連れてきてなんなの?」
「今見せてあげますよ」チラッ
「…っ!!」コクン
そういうと2人は互いにアイコンタクトをし、そうして片方が結界に向かって突進する
ビリリッ!ジジジジジジジジイジジ!!
「~~っ!!??」グヌヌヌ!
次の瞬間、またしても見えない結界の壁に激突したことによる反射ダメージがその身に襲いかかる
しかしそれでも尚、必死に食い下がる
するとそれが功を奏したかのように先ほどはなすすべもなくはじき返されてしまった結界の壁を
突き出していた右手が突き破る
手首から肩にかけてと徐々に通過し始める
「~~~っ…っ!?」
バシュン!
そうして頭まで通過させようと試みるもあと一歩のところで気力も限界となり、結界に押し返されてしまった
「こ、これは…」
しかし抜けることはできなかったが結界にも明らかにダメージの蓄積が見える
「ちょっと前までは全くびくともしなかったんですけど何回か試していたら何故か突然こうなったの」
事の経緯を聞くと夜泉は不敵な笑みをこぼす
「ぷふふっ…ぷふふふふ」
「夜泉様?」
「っ?」
「どうやら運はこちらに味方しているようね」
どこか勝ち誇ったかのように結界を夜泉は眺めるのだった
所変わって紫苑たちは月閃女学館に帰ってきた
「いや~しかし散々なお出かけになっちゃったね?」
「そうですね。まさかあんな事態になるなんて思いにもよりませんでしたよ」
「うんうん、ほんと何にもなくてよかったよ」
「同感だ」
皆寝る前の談笑というかのように先の出来事を語り合っていた
夜桜たちがそんな感じで話題に花咲かせている頃
少し離れたところで雪泉が湯飲み茶碗に入ったお茶と三色団子の乗ったおぼんを持って室内にある桜の木のほうへと歩いていた
彼女の向かう先には桜の木の下の円台にて腰掛ける紫苑がいた
何か考え事をしている様子でずっと黙ったまま沈黙していた
「紫苑」
「…っ?」ピクッ
雪泉が呼びかけるとハッと我に返ったように彼女の法を見る
「あぁ、雪泉か。どうしたの?」
「いえ、ただ粗茶とだんごをを持ってきましたんで夜食にいかがかと…あんまり根を詰めるのは体に毒ですから」
「雪泉……うん、ありがとう、いただくよ」
「はい、どうぞ召し上がれ♪」
自分のことを心肺してくれているのであろう雪泉がせめてというかのように差し出してくれた行為に紫苑は心が少しほっとした様子をみせる
「…っ」もぐもぐ
「美味しいですか?」
「うん。とてもおいしいよ」
「それは良かったです。うふふっ♪」
ありがたく彼女の持ってきてくれたお茶と団子を頂き、雪泉との会話に花咲かせてながら少し気持ちが晴れたようだった
そんなこんながあってしばらくが経過し、時刻は人が寝静まる頃合いとなり、雪泉たちも自室ですやすやと気持ちよさそうに眠っていた
しかしそんな中、ただ一人まだ起きている者が
紫苑だった
夜空に輝く月の下で紫苑は一人佇んでいた
「……っ」
雪泉のおかげである程度落ち着けはしたが未だどこかひっかかりがぬぐえずに考えに耽っていた
夜空を見上げながら紫苑は呟く
その最中、先の戦いの時に夜泉が放った言葉が脳裏をよぎる
《『あなたは本当の自分を忘れている』》
「本当の自分か……僕は、いったい何者なんだろうか?」
改めて考えてみれば夜泉のいう通りだ
自分には雪泉たちに出会う前の幼き頃の記憶はない
どこで生まれ、どんな生活を送っていたかもわからずにいる
「わからない、考えれば考えるほど疑問が付きまとう」
思い返し、考えるほどに自問自答を繰り返すという連鎖に紫苑は苦しんでいた
まるでそんな彼の気持ちに好悪するかのように月が雲に隠れる
「っ?」ピクッ
その時だった
吹きすさぶ風と共に何か気配を感じた紫苑は不意に視線を向ける
すると向こう側から階段を上りあがってくる3つの人影が
雲がかかっているせいか暗くてよく見えなかったが
次第にその雲も晴れていったことで人影の姿がはっきりと見えるようになった
「っ!?」
次の瞬間、紫苑は絶句することになる
「こんばんは、また会ったわね。私の愛しい
紫苑の目の前に現れたのは化け物を嗾け、自分たちを襲わせた雪泉にそっくりなあの女性
「にひひっ♪」
「…っ」
さらにその左右には仲間である2人の女性が立っていた
夜泉もそうだが左右の2人もかなり強いというのが感じ取れる
「…まさかここを嗅ぎつけてくるなんて思いもよらなかったよ」
冷静を装ってはいてもその実は紫苑の心の内は焦りを覚えていた
「一応聞かせてもらうけど…何しに来たのかな?」
「愚問ね、そんなの決まってるじゃない……
「っ…」
「ふふふっ」
互いに言葉を交わしながら両者はいがみ合いを続けるのだった