時刻は朝になり皆が起きる時間になった
「ふぁ〜……うにゅ〜…」
大きなあくびをしながら四季が目を覚まし、気つけの伸びをしていた
「……っ?」
するとその直後、ドアの向こうからドタドタと走るような足音が聞こえる
ガタッ!
「四季さん!」
「うわっ!?ど、どうしたの雪泉ちん?」
ドアが勢いよく開いたと思ったらそこから血相をかいた雪泉が姿を見せる
突然の事態に何事かと困惑していると雪泉が口を開く
「た、大変です!紫苑が、紫苑がいないんです!」
「…ふぇっ?」
雪泉の言ったその言葉に一瞬四季は?を浮かべた
その後、四季を含めた他の者たちも集まり、茶の間で話し合いが行われていた
「いったいどういうことなんです雪泉、説明してください」
「私も詳しくは分からないんです。今朝起きて紫苑の部屋に行ったらそこは蛻の空になっていましたから私は探しに出たんです…そしたら」
「そしたら?」
「外に行ってみると明らかに戦闘があったと思われる跡や血痕などがあったんです」
一同がその話しを聞いた瞬間にゾッとなる
自分たちの知らないうちに良からぬ事態に発展していたということに
「消息不明の紫苑、それに戦場痕。もしやこれらのことは昨日の雪泉に似た女の仕業ではないだろうか?」
「可能性としてはありえるね。あいつ見るからに紫苑ちんを狙ってたみたいだし」
「じゃあその子が紫苑ちゃんを浚ったってこと?」
「おそらくはそうじゃろうな、くそっ、不甲斐ない。紫苑がそんな目にあっているとも知らず呑気に寝ていたなんて」
話しの流れからして紫苑がここにいないのは夜泉の仕業だという結論に至った
同時に紫苑の身に危険が迫っているのだと思うと皆、居ても立っても居られないといった顔を浮かべていた
「こうしてはいられません、皆さん紫苑を探しに行きましょう。もし紫苑が私たちが思っているようなことになっていては取り返しのつかないことになります」
雪泉は意を決したように立ち上がり、紫苑を探す旨を皆に伝える
彼女の考えに皆も同意していた
「でもゆみちゃん?しおんちゃんを探そうにも手がかりがないよ?」
「そ、それは…」
美野里が確信を突いた質問を投げかけ、雪泉は困り果てる
「心配ない、我に任せろ」
「むらっち」
ここで叢が名乗りを上げる
一同が校門前にやってきた
「小太郎、影狼!」
ワォォン!
叢が呼び声を上げるとそこに彼女の従順なる狼である小太郎と影狼が参上する
「よく来たな、小太郎と影狼。お前たちの力を貸してもらうぞ」
ワンワン!
主人である叢の言葉に了解したというかのように元気よく2頭は鳴く
「小太郎と影狼。この匂いの主を探してくれ」
了承を得たところで叢は小太郎と影狼に紫苑の臭いのついたハンカチを差し出す
2頭はそのハンカチをくんくんと嗅いで臭いを記憶する
ワンワン!
「覚えたか?なら頼むぞ」
ワオォォン!!
臭いを覚えた小太郎と影狼が遠吠えを上げるとすかさず臭いを追うべく駆け出していった
「よし、我らも行こう。紫苑を見つけに!」
「ありがとうむらっち」
「では早速!」
「しおんちゃんを探しに行こう!」
紫苑の臭いを追う小太郎と影狼についていきながら一同は紫苑の元に向かうのだった
「(待っていてください、紫苑!)」
雪泉たちが行動を開始している中、当の紫苑はというと
「っ…」
襲撃を受けたあの夜から今にかけ、1人で夜泉たちの行方を追って真いた
真白が施した光の波長を基に同じ波長がする方向へと向かっていたのだ
「(ごめんねみんな、これは僕の戦いだ。巻き込むわけにはいかない、でも安心して何があろうとも必ず守ってみせるから)」
紫苑は雪泉たちを魔の手から守るため、次の戦いでたとえ彼女たちと刺し違えることになったとしても覚悟を決めていた
大切なものを守るという大義を胸に秘めながら紫苑は進んでいくのだった
記憶をたどり現地に向かうこと数時間後、紫苑はとうとう目的地前についた
彼の視線の先には夜泉たちが待っているであろう海の向こうの島があった
「あそこだな」
気配からしてもそこが目的地であることは明らかだった
『行くのですか?』
「っ?」
するとその最中、自分の脳裏に声が聞こえてきた
直後、紫苑の中から小さな光が飛び出し、少し離れた場所に来ると形を成す
紫苑の前に現れたのは何度も救った真白だった
「真白」
『…とうとうこの時がきてしまったのですね』
島のほうを見ながらどこか切ない顔を真白は浮かべる
「真白、教えてくれませんかあなたが知ることを?あの夜泉たちという者たちのこと、あなたのこと…かつての僕のことを」
この機会を逃せばもう聞くことはできないだろうと感じた紫苑は真白に問うた
『…夜泉、暗、冥。彼女たちはかつての私の教え子たちでした。当然それはあなたもですよ紫苑、いえ。
「
『はい、そうです。それが本来のあなたの名なのです』
「
真白から真なる名前を聞いて驚きの顔を浮かべる
『かつて私はこの光の力を持ちて人々を助けてきました。さらには身寄りもない子たちを幾人も育て、導いてきました。その中でもあなたたち4人は特に優秀な子たちでした。私も誇らしく思えるほどにね』
昔の自分たちのことを大事にしていたのだということが表情からも読み取れた
『さらにあなたたち4人の中でもっとも優秀だったのがあなたと夜泉でした。ですが夜泉のほうは優秀に加え好奇心も旺盛な子でした。その好奇心のせいで彼女は禁忌である闇の力に興味を示してしまった。そしてあなたたち3人も引き込み闇の力を解放してしまったのです』
その話しを始めると途端に真白は悔しそうな顔をする
『あなたたち4人は手にした闇の力で破壊の限りを尽くしました。私はあなたたちを止めるべく戦いに身を投じました。しかしその中で私にとって嬉しい誤算がありました』
「嬉しい誤算?」
『あなたですよ
「僕?」
真白の言う誤算が自分であると知りどういうことかと小首をかしげる
『最初こそ闇の力に囚われていたが4人の中でも光を残していたあなたは徐々に闇の力に抗いを見せるようになった。私は一縷の望みをかけ、あなたに浄化の術を行った。そして思惑通りあなたは闇の力を浄化の術の影響によって自身の身に封じ込めることに成功した。自らを取り戻したあなたと私は共闘して激闘の末にあの島にあの子たちを封じ込めたのです』
彼女たちが島から出れない理由を聞いて紫苑は納得した
『戦いを終えたはいいものの浄化の術で封じ込められたのはあくまでも一時的なものだった。闇の力に侵されたあなたを救うにはもう転生の術しかなかった。私はあなたを救うために術を使いました…自身の死と引き換えに』
「えっ?」
『術は成功し、あなたは数100年の時を超え、私が生み出した新たな肉体に魂を宿すことにより転生し、あの場所であの少女たちと出会ったのです』
雪泉たちと初めて出会ったのは自分が転生した直後だったことを知り、紫苑は困惑する
『私は魂だけの存在となりながらあなたが再び闇の力に飲み込まれないように陰ながら支えてきました。あの子たちが暗躍して霊石をあなたに使わせ力を解放させようとした時も私はできる限り闇の力の暴走を阻止しようと努めておりました』
「あのことも今回の件に関与していたのですか?」
かつて学炎祭にて佐介と雌雄を決する戦いに出た際に使用した霊石もまた彼女たちの手引きで手元に渡ったのだと知り紫苑は驚いた
『霊石の破壊による影響で死にかけていたあなたを私の力で食い止めたはいいものの、それにより力が半減したことで結界の力も弱くなりあの子たちが結界の外に干渉できるようになってしまったのです』
「僕の、せいだ」
自分が死にそうになったばかりに真白が力を使い、今の状況を生み出してしまったと知り紫苑は罪悪感に苛まれる
「…真白、僕を守ってくれてありがとうございました。あなたのおかげで僕は今こうしてここに居ると知れて嬉しかったです。だからこそここからは僕の役目です。この因縁を今度は僕が終わらせます、あなたのためにも」
『
そう言い残すと真白は再び光となって消えた
「…っ」
真白が消えるや紫苑は気合いを入れて海岸に向かった
海岸までやってくると紫苑は数秒海を眺めるとおもむろに印を結ぶ
「ふん!」
思い出した記憶を元に紫苑が念を送る
するとそれに好悪するかのように海がザザァと激しく波打ちだす
波がざわめきながらまるで一刀両断されたかの如く二つに割れ、遺跡のある島への道を作り出した
「……っ」
紫苑は現れた海を渡る道をひたすらに突き進んでいった
やがて紫苑が遺跡のある島に到着すると、それを見計らったかのように道は消滅し、再び青き海の中に飲み込まれてしまった
その光景を一見しつつも紫苑は島の中心に聳える遺跡に視線を向ける
一呼吸をし終えると意を結したように遺跡へと向かっていった
遺跡の中に入り、あたりを警戒しながら見渡す
慎重に慎重に一歩一歩進んでいく
「っ!」
するとその時、紫苑は気配を感じ取り、すかさずそっちのほうに向く
「ふひひひひ♪」
いつの間にか背後にて不敵な笑みを浮かべながら非堂がこちらを見ていた
さらにもう片方の背後のほうからも気配を感じ視線を向ける
「ふんすっ!」
腕をぶんぶんと振りながら暴戯もやってきた
そして極めてとして前方から二人以上の凄まじい気配が
「来てくれると信じていたわ、待ってたわよ菊冦」
現れたのは十中八九、夜泉だった
紫苑は一気に八方ふさがりになってしまっていた
「っ…!」キッ
しかしそれでも紫苑は臆することなく、それどころか3人に対して威圧するかのような鋭い視線を送る
「怖い顔…でも好きよ。私の知るあなたもそんな鋭利は刃物のような鋭い目を持っていたもの」
夜泉は馴れ馴れしいそぶりで近づき、紫苑の頬をなぞる
「菊冠。あなたは誰よりも強い闇を持っている。もう一度その力を私たちに見せてちょうだい」
「例えこの身を闇が包もうとも僕は決して屈したりなんかしない。僕は自分の中の光を信じる!」
強い決意を抱きながら紫苑は掲げる
漆黒に染まった黒の巻物を
「忍、転身!」
刹那、紫苑の掛け声に反応するように巻物が彼の身を包み込んだ
漆黒の闇の渦ができるとともに一瞬にして四方に散らばる
そうして現れたのは闇の力によって再びその姿をみ見せる紫苑だった
さらにそれに好悪するように結界が完全に消滅する
結界の消滅を感じ取った3人は大いに喜んでいた
「菊冦、感謝するわ。おかげで結界は消滅したわ。さぁ、私たちと一緒にこの世界に破滅を齎しましょう」
夜泉が結界を消し去ったことに礼を言うとともに紫苑を再び勧誘する
「言ったはずだよ、僕は自分の中の光を信じると、たとえこの身が闇に染まったとしてもこの力を持ってお前たちを倒す!」
この身を闇に染めてでも紫苑は守りたいと思うもののために夜泉たちと戦う事を選んだのだった