これは今よりずっと昔の話しである
当時、世界はまだ戦乱の世だった
その世で力を振るっていたのが忍たちだ
ところがその時代、忍を脅かす存在がこの世に存在していた
その場を言葉に表すとするならまさに「この世の地獄」といっても差し支えないほどひどい有様だった
辺りは生々しい戦いの傷跡と戦いに敗れ、転がり落ちている散っていった者たちによってできた屍の数々
おぞましいその場所にて今、壮絶な戦いが繰り広げられていた
【「グルルルルル…グォォォォォォォ!!!」】
猛々しい雄たけびが周囲を包む
声の主は一匹の竜
そしてその竜は鎖につながれており、その鎖を決死の力で引っ張り、竜を抑え込もうと奮闘する忍たちの姿がそこにはあった
「みんな!あと少しだ!踏ん張れ!」
「『うおぉぉぉぉぉ!!!』」
1人の掛け声にその場の忍たちの志気を上がる
【「グゥゥ、グォォォォォォォ!!!」】グヌヌヌヌ
負けじと竜も必死に抵抗を試みていた
「すまぬ皆の衆、長らく待たせたな。よく持ちこたえてくれた!」
「『っ!!』」
「さぁ、準備ができた。これより封印の術を使う!」
その時、忍たちにむけて1人の男が送った声に全員がハッとなる
「ゆくぞ者ども!力を貸してくれ!」
「「「おう!」」」
号令とともに男と同じように座禅を組み、印を結びながら竜から少し離れた東西南北の4つの位置に座す忍たちが一斉に力を最大限に高めていった
「封印術!」
「「「「【四方封陣】!!」」」」
すると竜の立つ足元に巨大な陣が浮かび上がる
【「グッ、グアァァァァァァァァ!!!!」】
直後、陣に包まれた竜が苦しそうな叫び声を上げ始める
「よし、仕上げだ!」
それを見ていた男がすかさず横に置いていた壺を前に置き、先に使ったものとはまた違う印を結んでいく
「【封印術・壷竜封陣】!!」
キュピィィィン!
術が発動した瞬間、壺にある瞳が光を帯びた
プシュウゥゥゥ!!
【「グルッ!?」】
さらに、竜の体が壺から出てくる特殊な力によってどんどんと吸い寄せられていく
【「グゥゥ、グウゥゥゥゥゥ!?」】
必死に踏ん張るも吸引の勢いは収まらない
ズルン!!
【「グアッ!?」】
次の瞬間、壺の吸引の力に負けた竜の体が宙を舞いながらものすごい勢いで壺の中に吸い込まれてしまった
【「グアァァァァァァァァ!!!???」】
断末魔の叫び声が響いたと同時に竜は完全に壺の中に閉じ込められた
竜が壺の中に封じ込められ、勝利をものにした忍たちは盛大にその勝利を祝す
「……これよりお前は我らが管理する。お前が二度と悪さを起こさぬよう、我ら一族がしっかりとお前を縛り続ける」
男は勝利に浮かれる仲間たちから視線を自分たちが竜を封印した壺に向け、暗示ともとれるその言葉を残すのだった
『「っ!?」』チャポン!
刹那、眠りから覚めたように瞳が見開かれ、慌てたように身を起こす
起き上がったことでこの場全体を覆う水たまりに波紋が浮かぶ
…そこに広がるのは何もない虚無の空間
唯一あるとするなら目の前にある強固な術式が施された結界という名の牢獄だけ
牢獄の中には1人の少女の姿がポツンと座っている
……ここは精神世界。彼女にとってはまさに牢獄のような世界だ
檻の中に座している少女の姿をしたそれは長きにわたり封印者の中に封印されている魔物「光の竜」である
『「……まったく、少し居眠りするつもりが思い出したくもないことを思い出してしまったの~」』
嫌々そうに自分がさっきまで見ていたもののことを呟く
『「…もう幾多の時が過ぎたんじゃろうか?彼奴らによって壺に封じ込められ、以来最初はあの男の肉体に封じ込められ、そこから世代ごとにこうして次の宿主にへと封じ込められ続けておる。我ながら情けない限りじゃ」』
彼女みとっては忌まわしき過去の思い出が走馬灯のように蘇る
かつて不覚にも封印されたことで自分は今もこうして捕らわれの身のまま長い時を過ごしているのだから
ブロロロロロロロロ…キキィッ
「っ…」
D・ホイールから降りるとともに荷台に積まれた荷物を光牙は手にする
ピンポーン!
「は~い、あら、光牙ちゃん」
「どうも吉江さん、いつもご利用ありがとうございます。お荷物をお届けに上がりました」
家のインターホンを鳴らすと年相応の老婆が出てきてにこやかな顔をして出迎えてくれた
「いつもいつもご苦労様ね」
「いえ、これも仕事ですから…こちらにハンコお願いします」
「はいはい」
荷物を手渡し、老婆からハンコを押してもらう
「また次もお願いね」
「はい、ではお邪魔しました」
「ご苦労様~♪」
別れの挨拶を終えると光牙はD・ホイールにまたがり、次の配達先に赴くのだった
それからしばらくして
「……ふぅ、今日はいつもよりもスムーズに済んだな」
思いのほか早く荷物の配達の仕事が終わったため、帰宅がてら自動販売機で缶コーヒーを買い、D・ホイールを背もたれがわりにしながらそれを飲みながら一息ついていた
「今戻れば多く修行の時間が取れるだろうし、その分愛花を鍛えてやるとするか」
今日は午後から愛花にけいこをつけるという約束があったが
早く仕事が済んだことでその時間が多く取れそうだった
今頃、自分の帰りを待ち焦がれているであろう愛花の顔を思い浮かべると自然と笑みが零れる
「さて、じゃあそろそろ行くとしよう」
そんなこんなでアジトに帰るべくD・ホイールにエンジンをかけようとしたその時だった
ズゥゥゥゥン!!
「っ!?」ピクッ
異変は突然起きた
「(な、なんだこの強力な気圧は!?)」
一気に険悪な表情になるくらい危険を感じさせるほどの気が辺りを包み込む
もちろんそんなものに一般人が耐えられる訳もなく光牙以外の周囲にいる人物たちが次々と気圧のプレッシャーにやられてしまい次々と倒れていった
「っ、何者だ!隠れてないで姿を表せ!」
この惨事を見て光牙がどこかでこのプレッシャーを放っているであろう輩に物申す
風に揺れる木々の音のみが周囲に流れるままに沈黙の時がしばし続く
だが、その沈黙の時が終わりを告げる
フッフッフッフ…
「っ!」
直後、辺りに響いてきたのは不敵な笑い声
警戒を強める光牙を他所にその声はどんどんと大きくなっていく
さらにそのすぐ後だった
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
「っ!?」
突如、地面が激しく軋み出した
地面に大きな裂け目が生じると同時にどんどんと盛り上がっていく
ズモモモモッ!
「な、なんだ!?」
その瞬間、光牙の目に映ったのは地面を突き破るかのように飛び出した人の腕
徐々に地面から手のみならず動体も出てくる
直後地面からこちらをにらみつける赤い目がきらめいたその刹那
ドゴォォォォォォォン!
地面が割れるとともにすさまじ砂ぼこりが辺りを埋め尽くす
「ぐぅっ!?……っ?」
周囲を舞う砂ぼこりに視界が奪われていたが徐々に回復し、光牙が恐る恐る視線を戻すとそこには
「ニヒ、ニヒヒヒヒ」ニヤリ
「……っ」キリッ
こちらを見ながら不敵な笑みをこぼす男の姿があり、光牙は警戒の眼差しを向けつつその男と対峙するのだった