仮面ライダー GENESIS CHRONICLE 作:式神ニマ
今回はタイトル通り、ダブルヒロイン(?)が共闘します。
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「よし、出来た!これなら……!」
時間は少し戻り、ジェネシスとレイト達の戦いが始まる直前。監獄の中で収集できる素材の成分を抽出し、アイリスが1つの薬を完成させていた。古びた水差しの中には赤い薬液が少量だけ充填されており、龍我も他の人々も懐疑そうに首を捻っている。
「そんなモン、何に使うんだ?」
「計算が完璧なら、一時的に肉体増強作用……つまり、猛烈に強いパワーを出せる様になる。それこそこんな壁だって叩き壊せるくらいに。……という訳で、ハイ」
アイリスが薬瓶を龍我に押し付けた。
「ハァッ?俺が飲むのかよっ⁈」
「この中だと力はあなたが一番でしょう。大丈夫、調合は完璧だから。グッといってグッと」
「お、おう。グッとだなグッと……」
アイリスに促され、龍我が薬液を恐る恐る口に含む。かなり苦い薬を我慢して飲み下すと、次の瞬間には効果が劇的に現れるのを龍我は実感した。全身の筋肉が熱くなるほど躍動し、指の1本1本にまで経験した事のない様な力が漲っていくのが感じられる。まるで、体内に蒸気機関が出来上がった様だった。
「なんだ、この力っ……⁉確かにこれなら……負ける気がしねぇっ‼」
叫びと共に、龍我の拳が硬い鋼鉄の扉へと振り下ろされ———凄まじい破砕音と共に、扉を蝶番ごと吹き飛ばした。見張りのジャファー達もその衝撃に当てられ、気を失った様だった。
「よっしゃぁっ‼スゲェな、あんなガラクタでこんなスゲェもん作っちまうなんて!」
「…よし。効果は問題ないみたいね。少し不安だったけど……」
「ってオイ⁉大丈夫って言っただろうが!俺を実験台にしたのかお前⁉」
「さぁ、薬の効果にも限りがあるし、行くわよ。早く他の人達を助けないと!」
「…ごまかしたよ……」
不満そうな龍我を差し置いて、アイリスが真っ先に牢獄の外へと飛び出した。まごまごしていたら騒ぎを聞きつけて直ぐにジャファー達がやってくる筈だ。その前に何としても他の人々を助け出さなくては。牢の外は案の定、同じ様な造りのドアがいくつも並んでいた。この中にいるかどうかは、片端から確かめるしかない。
「龍我、全部壊して!」
「ったく、無茶ばっかり言うなっての!」
文句を言いつつも、龍我は躊躇う事なく拳を振るってくれる。暴威に晒される人々を放っておく様な人間ではないと判断したからこそ、あの薬を託したのだ。心根の真っ直ぐさはアイリスの知っている彼と似ている気がする。
扉の奥にはやはり他のサンドラの人々が囚われていた。捕まった彼らの仲間は全部で149名だと聞いている。通路が間もなく人波で溢れかえる事になったが、アイリスは冷静に数を数えていた。
「よしっ……これで全員みたいね」
「おっしゃ!作戦成功だな!」
「まだよ。彼らを守りながら、ここから無事に脱出させないと……」
言いながら、これほど難しい事もそうないと思う。あの霊薬の効果はそう長くは続いてくれない。そろそろジャファー族達も騒ぎに気付き始める頃合いだ。これ以上は丸腰のままでは厳しくなるだろう。せめて武器を手に入れなければ……。
そう思って最後の刹那を覗き込むと、中は薄暗く、人の気配はない。だが、棚の隅っこに見覚えのある薄布が乱雑に置かれているのが見えた。
「しめた……!ここはやっぱり!」
薄布を拾い上げると、やはりアイリスのウェイビングローブだった。手近なところにグローブとブーツ、ケープも見つけた。奪われていた防具を身に着け、そして一番肝心な錬結炉を腰に巻き付ける。これさえあれば……!と意気込むと、後ろで龍我も「よっしゃ!あったぜ‼」と叫ぶのが聞こえた。
「龍我も何か盗られてたの?」
「まあな。だけど、コイツさえありゃ———」
「テメェら!調子に乗りやがって‼」
突如、通路に複数のジャファー族が乗り込んできた。顔中に怒気を漲らせ、更にその手にはデブリシリンジャーが取り付けられているのが見え、アイリスは舌打ちを漏らした。デブリーターの息が掛かっていたのか。ただの人間だけなら蹴倒して進めない事もないが、もし怪物兵士に変身されれば少し……否、かなり厄介だ。
だが、それでもやるしかない。取り出した霊薬をベルト型の錬結炉に装填し、精製された細身の長剣——『レイヴァクロス・カスタム』を構えた。
「どこまでも反抗しようってんだな、お嬢さんよ……。フランハイムの奴には傷付けるなって言われてるが……殺さなきゃ文句はあるめぇ……。テメェらぁっ‼引き倒して、キズモノにしちまえぇっ‼」
男達が野卑な笑みと下品な鯨波を振り上げて、デブリシリンジャーにデブリドラッグを装填すると、その姿が見慣れたマンドッグタイプデブリーター『ジェヴォールト』へと変化した。1対1なら負けない自信はあるが、流石にこの数をサンドラの人々を守りながら戦うのはキツい。さて、どうしたものか……と身構えると、彼女の前に龍我が進み出た。
「龍我?」
「良いように使われてるだけじゃカッコがつかねぇからな。悪いな、この先の
〈ビルドドライバー!〉
龍我がなんと腰にベルトを装着した。驚くアイリスに少し不敵に微笑むと、ドラゴンフルボトルが挿入された龍型の機械——『クローズドラゴン』をベルトへと合体させる。
〈Wake up!CROSS-Z DRAGON!〉
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁっ‼」
ベルトがフルボトルの成分を取り込み、稼働を開始する。ベルト横のボルテックレバーを勢い良く回すと、そのエネルギーが前方後方にスナップライドビルダーとして出力された。
〈Are You Ready?〉
「変身‼」
〈Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!〉
2つのスナップライドビルダーに包まれた龍我の体が、炎のペイントマークをあしらった青の戦士『仮面ライダークローズ』へと変身を遂げた。
「その姿……仮面ライダー⁈」
「なんだ知ってんのかよ。つー訳で!さっきの薬が効いてる今の俺は……負ける気がしねぇっ‼」
さっきと同じセリフを言って、龍我ことクローズが地面を蹴立てて飛び出し、前方のジェヴォールトを数体纏めて殴り飛ばした。名が示す通り、まるでドラゴンの如き強さだ。パワーでもスピードでも、アイリスの知ってる仮面ライダー——つまりディライトとソーディアよりも数段高い様に見える。
…でも、さっきの薬の効果はもう切れていると思うのだが……それは言わない方が吉というものだろう。
クローズの猛攻を避け、1体のジェヴォールト達が人々へと迫ろうとした。無力な人々を捕えるなりしてクローズの動きを制しようとも考えたのだろう。迎え撃つべくアイリスが剣を構えるが……。
「させるかよっ‼」
クローズが背後のジェヴォールトに向けて、出現させた剣——『ビートクローザー』を投擲して撃退した。前のめりに戦っている様に見えて、実は周囲にも気を配っているらしい。そんな様は龍我がただの直情径行なだけの青年である事を物語っている。
龍我とて昔からこうだった訳ではない。かつては己の為だけに力を求め、目の前の敵を倒すだけで精一杯だった時期もある。だが、そんな彼に力と正義の在り様を説き、仮面ライダーの名前を与えてくれた人がいる。今の万丈龍我を作ってくれた人々の顔を思い浮かべながら、クローズは拳を振るい続けた。
「龍我、これ貸してね!」
「おう!壊すなよ!」
アイリスが地面に突き刺さったビートクローザーを引き抜き、手の中で転がす。流石にレイヴァクロスの3倍は重いが……決して片手で触れない訳ではない。今は倒すべき敵が多い。ならば、攻撃できる範囲は広い方がいい。そう決めるとレイヴァクロスを左手に持ち替え、近くのジェヴォールトへ躍りかかった。
普通ならば二刀流など人間の膂力でなし得る筈がないのだ。だが目の前の明らかに細身の少女はそれを苦もなく、軽やかに披露してみせた。まるで演舞の様な鮮やかな剣技を目の当たりにして驚愕するジェヴォールト。アイリスもそれに気付いて、やや不敵に笑ってみせた。
「二刀流はあまり得意じゃないんだけど……何回も攫われてばっかりで、いい加減うんざりしてるの。切り刻まれたい人から、前に出なさい‼」
見る者を威圧する様な凄みのある笑顔で、両手に握った剣を暴風の様に振るっていく。2人の獅子奮迅の働きもあり、ジャファーのヤードは瞬く間に混乱の渦へと叩き落されていった。
好戦的で粗暴なジャファー達は攻めという点においては他の武族達を上回るが、反面ずっと自分達のヤードに閉じ籠ってきた彼らは、内側から崩されると思いのほか脆かった。デブリーターの性能も、彼らからすれば少し力が上がるツール程度にしか捉えてなかった様で、その性能の全てを使いこなせていたとは言い難い。瞬く間に通常の兵士の半数が叩き伏せられ、デブリーター兵士達も砦の壁際へと追い詰められる事となった。
これでトドメと決めて、クローズの手がベルトのボルテックレバーに、アイリスもビートクローザーの『グリップエンドスターター』に手を掛けた。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁぁっっ‼」
『Ready Go!ドラゴニックフィニッシュ‼』
『ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!メガヒット‼』
「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ‼」
クローズの拳から青い龍状のエネルギーが、ビートクローザーから扇形の斬撃波が迸り、追い詰められたデブリーター達に直撃した。炎を吹き上げてデブリーターが爆砕し、更に壁に巨大な穴を穿つ事にも成功した。覗き込むと、かなり奥深くまで通じている様だ。風の流れを感じる為、どこかへ通じているのは間違いないだろう。ここを通れば、サンドラの人々を外へと逃がせるかもしれない。
「皆さん、こっちです!ココを通って逃げましょう」
「あ、ありがとうございます……!しかし、アンタらはどうするんだい……?」
「皆さんが逃げた後に私たちも続きます。慌てずに、でもなるべく急いで」
アイリスの誘導に従って、149名のサンドラの人々が口々に礼を述べながら、穴の中へと滑り込んでいく。まだジャファー達は全滅した訳ではない。アイリスとクローズは殿として残り、彼ら全員が脱出したのを確認した後、続く……筈だったのだが、そう簡単にはいかなかった。最後の1人が穴に入っていったのと同時に、どこからともなく火球が飛んできて彼らの足元に着弾した。
錫杖型の武器『クエスチョナー』を構えて、5人のあのホムンクルスの少女達、そして顔を怒りで紅潮させたフランハイムがアイリス達の前に現れた。
「貴様らっ……!よくも貴重な資源どもを……!これ以上逆らうならば……容赦はしないと言った筈だ」
「望むところです。私もあなたを止める事に躊躇はしません」
「俺もお前らを絶対に許さねぇ!全力でぶっ潰してやるよ‼」
「…そうか。ならば……やれ、お前たち。殺さないまでも……二度と抵抗する気が起きないくらいな」
「「「「「了解」」」」」
異口同音に答えたホムンクルス達が左腕のデブリシリンジャーに一斉にデブリドラッグを装填した。
「「「「「錬身」」」」」
〈Sphinx…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼…To Be Sick…〉
少女達の姿が、人と獣が一体となったデブリーター『シェイプアンク』へと変身した。5体の内、2体が仕込み杖を抜刀し、3体が後方で援護のエレメント弾を発射する。だが、クローズが再び必殺技を放ち、それらを全て相殺して見せた。
「怪人どもは俺がやる!お前は親玉をやれっ‼」
「わかった!」
ビートクローザーをクローズに投げ返し、アイリスはそのままフランハイムへと斬りかかる……が、刃がなんと左腕のガードだけで受け止められてしまった。そこにはやはりデブリシリンジャーが据え付けられていた。
「コンペティションで私のホムンクルスを否定した連中の力を借りるのは癪だが……」
〈Chimera…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼…To Be Sick…〉
フランハイムの体が変化した。シェイプアンクとの共通素体に、折れ曲がった角が生えた獣型の仮面、そして背部から2体の蛇の様なパーツが鎌首を擡げて肩口からこちらを覗いていた。
ライオン、山羊、蛇……様々なデブリス毒に汚染された獣たちの体細胞から作り出した複合タイプの獣型デブリーター『デストワークス』である。ホムンクルスを開発できるほど生体研究の権威であるフランハイムが、自身で作り出したオリジナルのデブリーターだ。
デストワークスの肩口の蛇——『スネークバレスター』から炎が噴射された。アイリスの腰に装備されたウェイビングローブがはためき、炎を掻き消すと、そのままレイヴァクロスを叩きつけた。デストワークスもクエスチョナーの刃を振るって剣戟をガードするが、その太刀筋はお世辞にも優れているとは言えない。
やはりこの男の本分は錬真術師であって、戦士ではない。デブリーターが如何に優れた兵器であろうとも、やはり使い手にもそれ相応の腕がなければその性能の半分も発揮できないだろう。そして、それこそがつけ入る隙となる。
〈WIND ENCHANT〉
レイヴァクロスに風の霊薬を装填。旋風を纏った刃が剣の切れ味を更に増幅させ、デストワークスの生体装甲を斬り裂いた。負けじとデストワークスが後方へ飛び退って炎弾を再度発射してくるが、次の瞬間、アイリスのケープに装備されたブローチが煌めき、炎を瞬く間に消し去ってしまった。
「なるほど、これは便利ね。ありがとう、マヤ」
アイリスの胸に輝くブローチはただの飾りではない。マヤが新しく開発してくれた歴とした装備品であり、名を『レインクリスタ』という。
レイヴァクロスなどのこの世界の刀剣類には、エレメントライドラッグを装填してそのエネルギーを刃に纏わせる事が出来るが、実はそれも十分ではない。刀身の保護や制御系の調整など理由は様々なのだが、約2割ほどは余剰なエネルギーとして外部に放出されており、攻撃へと生かしきる事が出来ないのだ。
パワーストーンで作られたこのレインクリスタは装着者の錬真力を増幅させ、その放出された余剰エレメントを操作する力を持っている。今、アイリスの周囲には風のエレメントが盾となり、彼女を攻撃から守っている状態なのだ。これは彼女が防御を思考したからであり、当然攻撃へと転用する事も出来る。アイリスの思考に呼応したレインクリスタが輝き、彼女の周囲に無数の風の剣が形成された。
「教授、あなたの進もうとする道にどんな意義があるのかは知りませんが……誰かを踏みつけにする道を見過ごす訳にはいきません」
「小娘がっ……!神聖騎士でもない癖に、偉ぶるなっ‼」
「逆ですよ!何者でもない私だから……!」
アイリスが小さく、だが力強く呟く。
かつて、彼女も道を踏み誤った事がある。取り返しがつかないと思えたその道を正して、新しく紡いでくれたのは、レイトを始めとした仲間達だった。
だからこそ、他者はいつだって己の鏡なのだ。他者との関りの中でしか、きっと人は己を見出す事ができない。他者を踏み躙る者の作り出す世界など……そんなものは真に人が生きていける世界などでは絶対にない。
止めてみせる。未だに何者でもない、だが在りたい自分がきっと待つ道へ、アイリス・ルナレスが力強い一歩を踏み出した。
一方、クローズの方でも決着が着きつつあった。5体ものシェイプアンクに囲まれながら、各エレメントによる集中砲火を受けてクローズが爆炎に飲まれた——が、次の瞬間には噴煙を突き破り、クローズの新たな姿が顕現した。
〈潰れる!流れる‼溢れ出る!!!ドラゴンインクローズチャージ!!ブゥラァァァッッッ!!〉
ビルドドライバーとは異なる専用のベルト『スクラッシュドライバー』を用いて変身する、もう1つのクローズの姿・『仮面ライダークローズチャージ』。変身者の闘争心をかき立てて戦闘能力へと変換する力を持つこの形態は、龍我にとっても最も長く戦いを共にしてきた姿である。彼としても性能を熟知しているので、こうしたピンチを打開するのには重宝するのだ。
〈ツインブレイカー!〉
「うおりゃあぁっ‼」
クローズチャージの左腕に籠手型の打撃武器『ツインブレイカー』が出現した。中央部に装備された打突兵器『レイジングパイル』が内蔵されたパワーモーターの作用を受けて、目に見えない程の高速回転を開始すると、目の前のシェイプアンクの胸板に叩きつけた。元々装甲の薄いシェイプアンクをその一撃で昏倒させると、クローズが次の標的に向かって突進する。
「ぐっ……!このパワーは……!…万丈龍我、何故エボルトの遺伝子を受け継ぐあなたが、劣等種である人間を庇う様な事を———⁉」
「ハァッ⁉つまんねぇ事、聞くんじゃねぇっ‼」
ツインブレイカーの打撃が仕込み杖の刃を破壊し、2体目のシェイプアンクを吹き飛ばした。そのまま左右のビーム砲塔を展開し、残りの3体に向けて爆発性のビームを一斉射する。そのままドライバーにロックフルボトルを装填し、ベルトのレバー『アクティベイトレンチ』を押し込んだ。
〈ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ‼〉
クローズが地面を殴りつけると同時に、地面から無数の鎖が一斉に放出されてシェイプアンク5体を一斉に拘束したのを確認すると、今度はツインブレイカーにクローズドラゴンを装填した。
「どんな風に生まれて来ようが……ただ、愛と平和の為にこの力を使う。それが俺の……!」
〈Ready Go!レッツブレイク‼〉
「ベストマッチだからに決まってんだろうがぁっ‼」
ベルトとツインブレイカーの必殺エネルギーがレイジングパイルの先端部へと集中し、燃え盛る蒼龍の咢となって顕現した。天を駆ける龍の如き勢いで跳躍したクローズチャージの拳が全てのデブリーターを貫き、爆砕させた。デブリシリンジャーを破壊され、少女の姿に戻ったホムンクルス達が地面に転がった。
「お前たちっ……⁉貴様ら、よくもっ……‼このままで終わると思うなよっ‼ハイドラ、ヒーリア、リティア、ベリリ、カーバ‼」
フランハイムの呼び掛けに応じて、5人の少女がなんとゆっくりと立ち上がった。全身に傷を負い、デブリドラッグの毒が回っている筈なのに、一切のダメージを感じさせない程に涼しい顔で。驚愕する龍我達を無視して少女達がフランハイムの傍に歩み寄る。瞬間、デストワークスの背中から全身から伸びた触手が5人に突き刺さり、少女達の体が光の粒子と化してデストワークスへと吸い込まれていった。
「…済まないな。また作り直してやる……。だが今は、お前たちの力で……この場を乗り切る‼」
驚愕するアイリス達の目の前で、デストワークスの体が膨れ上がり、更なる異形へと変異していった。下半身全体が蛇の様な体に覆われ、両腕の爪も更に肥大化する。蛇の胴体からムカデの様な節足が何本も生えていき、鎌首をもたげたコブラの様に上半身が引き起こされた。
「テメェッ……!仲間を、食いやがった……!!」
「再融合と言え。我が叡智より生まれし人造の魂が、一度生まれし場所へと還る……。滅びればそれで終わりの、貴様ら人間とは根本から違うのだ!!」
ホムンクルスの肉体と融合し、その頑健な肉体と優れた頭脳を取り込んだデストワークスは、例えデブリドラッグのオーバードーズ状態となっても理性を失う事はなかった。ホムンクルスと一体となった『デストワークス・アニマ』の巨体が信じられない速度で走り、クローズチャージを弾き飛ばした。壁に叩きつけられたクローズチャージの変身が解除され、元の龍我の姿へと戻る。そのままアイリスの方へと向き直ると、スネークバレスターから無数の雷球を発射した。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっっっっっ⁉」
錬真力の作用によってターゲットをどこまでも追尾するエレメント弾からいつまでも逃げ果せるものではない。膨れ上がった雷光に包まれ、全身を突き刺される様な痛みと共にアイリスが気絶した。
万丈龍我とアイリス・ルナレスの2人は取り押さえたが……サンドラ族は逃げ出してしまった様だった。デストワークスが穴へと体を滑り込ませて追おうとするが、何かが轟音と共に砦へと入り込んできた。
黒い箱状のトロッコの様な乗り物——確か、バギーという名前だった——から、コルテスが降りてきた。フランハイムはデストワークスの変身を解除し、男の側に近づいた。
「すまない、あの武族連中には逃げられてしまった……。砦下の鍾乳洞に逃げ込んだ様だから、追跡は難しいだろうが……」
「なぁに、別にいいさ。代わりの資源は手に入った」
そう言って、バギーの後部座席を指さす。そこには数人の人間たちが気絶した状態で縛られていた。
「クラスA以上の錬真力の持ち主が4人……人柱としては足りるだろう。『チューリングチャーチ』が起動しさえすれば、あんな有象無象どもなど……」
そう言って肩を震わせるコルテスを眺めながら、フランハイムも遂にその時が来たのか……と、感慨深い思いに包まれた。
地球外生命体エボルトの遺伝子を持つ男・万丈龍我。
そして、人柱として必要なクラスA以上の錬真力の持ち主が4名以上。
千年王国の創造に必要な、全ての材料が揃った事となる。ここまで来さえすれば、もう勝利も同然だ。払ってしまった犠牲を思えば、決して笑う事は出来そうにないが……せめて自身の身の内に取り込まれた娘達の冥福を祈る様に、フランハイムは目を閉じた。
〈設定メモ〉
『シェイプアンク』
SPEC
◇パンチ力:2.2t
◇キック力:6.7t
◇ジャンプ力:一跳び19m
◇走力:100m5.3秒
◇使用アイテム:スフィンクスデブリドラッグ
◇装備:デブリシリンジャー(レイピアモード/ニードルガンモード)
錬真錫杖『クエスチョナー』
◇特殊能力:錬真式詠唱の高速化、記憶力強化
サージェリータイプデブリーターの1体。デブリーターがパワーストーンによるエレメント操作攻撃を可能とする兵器『クエスチョナー』を運用する為に、頭脳容量の大きい『スフィンクスデブリス』の成分を使用して開発した、後方支援モデル。
あまりパワーには優れないが、このモデルの主任務はあくまでも偵察と後方支援なので、問題ないとされた。頭部に装備された『ネーメクラウン』の作用によってエレメントのシェープシフトを高速で行う事が出来る。但し、それ以外に特筆すべき性能を持たない為、主武装を破壊されると崩れやすくなる一面もある。