仮面ライダー GENESIS CHRONICLE 作:式神ニマ
SPEC
◇パンチ力:21t
◇キック力:23.9t
◇ジャンプ力:一跳び12m
◇走力:100m9.7秒
◇使用アイテム:キマイラデブリドラッグ
◇装備:デブリシリンジャー(レイピアモード/ニードルガンモード)
◇特殊能力:『スネークバレスター』、『アーケミルアブゾーバー』
◇変身者:テオドール・フランハイム
フランハイムがデブリーターから持ち出した技術で製造した、オリジナルのデブリーターである。あらゆる生物の融合である人造デブリス『キマイラ』が基となっている。
その特性として、周囲の物質などを背中から伸びる『アーケミルアブゾーバー』を使って吸収し、自身の能力を強化する事ができる。また、両肩の『スネークバレスター』は錬真力によって自由自在に伸展し、エレメントを発射する事が可能である。
多様な戦術を可能とし、パワーも最高クラスに高いが、反面スピードには劣る。また、多様な装備を扱うにはそれ相応の錬真力の高さが不可欠であった。
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『ラアド……お前の悔しさはよく分かる。だが、サンドラ——“天華”の摂理を呪ってはいかん』
巌の様に大きな父の背中を見つめながら、ラアドは瞬時に夢を見ているのだと悟る。確かラアドがまだ9歳の頃、ヤードを襲ったひどい砂嵐に巻き込まれて、たくさんの人達が死んだ。ラアドの母ミスカもその1人だった。
日々、天の神・サンドレアへの礼をかかさず、その恩寵に感謝しているにも関わらず、どうして天とはこんなにも無慈悲なのか。ただ嘆き、憤るしか出来なかったラアドに父がそう語りかけたのだった。
遥か彼方まで広がる空。そこから齎されるあらゆる恩寵——それこそがサンドラの由来たる“天華”。だが、母を殺した砂嵐の何が恩寵であるのか、当時のラアドにはよく分からなかった。そう反論するラアドに、バラドの顔には少し寂しそうな笑顔が滲んでいたのを今でも覚えている。
『雨を運ぶ雲を見ろ。あれは遥か彼方の海から、陽星と風の恩寵によってここに齎されるものだ。雨に風、陽射しは時に我らにひどい実害を与えるが、大いなる恵みともなるだろう?』
『…だから、怒るなって言うの?母さんや死んだ皆の事を忘れて、何食わぬ顔で生きて行けって———』
『そうは言わんさ。悲しんでもいい、怒る事も必要だ。だが、呪ってはいかん。大いなる天華の摂理をな』
摂理?と首を傾げるラアドに少し微笑み、母の墓前で父が両腕を組む。そこに眠る母だけでなく、連綿とこの地に息づいてきた一族の先祖全員に祈る様に。
『私とミスカが出会い、お前が生まれた。それだけではない。それ以前からこの地に根付いてきた祖先同士の出会いが今に繋がり、我らはここにいる。天華も同じだ。この世は我らには途方もつかない大きな流れに従い、響き合って生きている。人が生きる事も、死ぬ事もまたその摂理の1つなのだと……』
その言葉の全てがわかった訳ではきっとない。だがあの時の父にも全てがわかっていた訳ではきっとないと、今ならば思える。いつも屈強な父の姿がその時はやけに小さく見えて、ラアドはその背中にそっと手を伸ばした。まだ顔をはっきりと見返す事は出来なかったけど、父と一緒に吸い込んだヤードの空気はいつもよりも清浄であった様に感じた……。
父の背中が消え去ると、視界に飛び込んできたのはボンヤリとした明かりとそれに照らされた岩塊の肌だった。ラアドは慌てて立ち上がり、先ずは自身の体の状況を確認する。どこにも怪我がない様だったが、確か最後の記憶では、ジェネシスから猛烈な火焔弾を撃ち込まれた筈なのだ。ならば、どこにも怪我がないのは却って不自然というものだ。
確か……炎に包まれる瞬間、何か温かい光の様なものに包まれた気がする……。あれは一体……?
「…ここ、どこなんだ……?レイト?おーい、いないの⁈」
記憶がハッキリしているのは、火炎弾が炸裂する直前に仮面ライダーディライトがラアドを庇う様に立ち塞がったとこまでだ。順当に考えるならレイトが助けてくれたという事になるのだと思うが、では彼はどこに行ったのだろう?逸る気持ちで声を上げると、「ここだよ、ここ!」とそれに答える声が直ぐに上がった。
ラアドの足元に大きな水溜まりがあるのが見えた。覗くとレイトがその淵であのホムンクルスの少女——ナイトラの首筋に触れているのが見えた。
「レイト……なにやってるんだよ?」
「この娘がまた急に震えだしたんだ。熱も上がってるみたいだし……。やっぱり戦兎が言ってた通り、なにか特別な処置を施さなきゃいけないのか……」
ナイトラの恐るべき力や回復力、更にマヤが調べたところ少女の体内には明らかに人間とは異なる組織や成分が検出されたとの事だった。ジャイロに残されていたアイリスとフランハイムの会話から、桐生戦兎はこの少女こそがいわゆる『ホムンクルス』という存在なのかもしれない、と推測を立てていたのだった。
ラアドも錬真術を少し齧っている為、人造生命の創造なんてものがどれだけ困難なのかはよく分かる。もしかしたら、それを維持する為に、少女には定期的に特別な処置を行わなければいけないのではないか?そう考えれば、捕えてからの著しい衰弱にも説明がつく。実際、ナイトラの身体にはほぼ傷がついていないにも関わらず、顔色はほぼ血管が浮き出そうな程に蒼白になり、喘鳴の様な呼吸が続いている。明らかにこのままだと命が危なそうではあるが……ラアドは「…またそんな事言って……!」と絞り出した。
「ソイツはあのジェネシスと、君の仲間を攫ったフランハイムとか言う人間の仲間なんだろっ⁉だったら、助ける必要なんてないじゃないか‼なのに、君も戦兎もどうしてそんなにっ……僕には呑めないよっ……」
堪え切れない、とばかりにラアドの目からいくつもの涙が零れてくる。見ず知らずの自分に手を差し伸べてくれた彼らの事だ。きっと敵だとしても、まだ年端も行かない様な少女を見捨てる事も出来ないのだろうが……ラアドにはどうしても納得できない。
「…別にさ、許そうとかそういう高尚な事を考えてる訳でもなくて……。俺たちだって怒りも悲しみもする……けど、人を呪う事はしたくないんだ」
まだ答えに至っていない様にレイトが訥々と、しかし確信を込めて話す。その言葉にラアドはハッと顔を上げた。似た様な言葉をかつて———。
「どれだけ敵対する立場でも、この娘は今は苦しんでて……生きようとしてる。だったら、それを見捨てたくはない。例え何者でも、その手を振り払ってしまったら……俺たちはあのジェネシスと何も変わらなくなってしまうから……」
力に狂わされず、己の為ではなく、常に他者の為の力を目指す者……きっとそれこそが、仮面ライダー。レイトの言葉と共にかつて父から言われた言葉がフラッシュバックする。許されざる悪意に怒りはしても、生きている限り生まれる自然の摂理を否定してはいけない。きっとあの言葉が示そうとしたのはそういう事だった……。それに気付くと、ラアドは一目散に水溜まりの中へと飛び込んだ。
「ラアド⁈」
「探し物!ちょっとそこで待ってて!」
返事も聞かずにラアドが大きく息を吸い込み、水の中へと潜っていった。どうやら結構な深さがあるらしい。何をするつもりなんだか……と、考えた所で、背後から呻く様な声が聞こえた。振り返ると、ナイトラが薄らと目を開けてこちらを見ていた。
「あ、起きたんだ。大丈夫?どこか痛いところはない?」
「…理解、できないわ……。なんでわざわざ、敵を案じたりするの……?」
「それ、さっきラアドに説明した。生きてる人間を見捨てたくない。それだけ」
この世界に来てからというもの、多くの争いや差別を見せつけられてきた。人間とリンクス、壁の中の民と外の民、シドニア人とトンプソール人……それらの多くが人を単純に分けてしまう思想から生まれたのだという事は漠然と感じていた。だからこそ、レイトは敵と味方という風に単純な色分けをなるべくしたくはないと思っている。レイトにとって、仮面ライダーを名乗るという事はそういう事だ。
甘っちょろいし、それもまた一面的な正義でしかないのだと理解している。ナイトラも呆れた様に「なんなのソレ……?」と呟いた。
「生きている人間を見捨てたくない?悪いけど、お生憎様よ。私は人間じゃないから」
「それって……やっぱり君はホムンクルスなの?」
「そうよ。フラスコの中で生まれた、人造の命。死んだら終わりのあなた方と違って、いくらでも増産も再生産も可能な人間……。そんないくらでも替えの効く、部品みたいな生命を尊重するなんて、人間は大したセンチメンタリズム———モゴッ⁈」
抑揚のない口調で淡々と自らの事を語るナイトラだったが、その言葉は途中で遮られた。レイトが非常食のビスケットをその口にムリヤリねじ込んだからだ。
「い、いきなり何をするのアナタはっ⁈」
「心にもない事を延々言い続けるからだよ。余計なコト考えてないで、回復に専念しろ」
「心にも……?何を言ってるの……。私は、自分の命なんて何とも———」
「嘘つけよ。自分が替えの効く命だって思ってるんなら、なんでそんなに語る?俺には、自分の事を知って欲しいって言ってる様に見えたけど?」
「……………っ!」
ナイトラはレイトを睨み付けつつも、反論しようとはしない。それが答えである様にレイトには思える。思えば、ボーランというもう1人のホムンクルスの少女に見捨てられた時も、ジェネシスが彼女に構わず攻撃した時も、ナイトラの顔に浮かんでいた僅かな哀切の表情。自らを部品と規定する人間はあんな顔はしないと思う。
「…君がどんな風に生まれて、どういう存在なのかはなんとなく分かるけどさ、それと君自身がどう生きたいかっていうのは何も関係ないんじゃない?」
「……………私、は……」
少女が言い淀んだ刹那、水溜まりからラアドが勢いよく顔を出した。その手には赤紫色の藻類の様な植物が握られていた。
「ラアド、それは?」
「クジナモだよ。抽出液が熱さましの薬になるんだ」
道具入れから取り出したお椀にクジナモを放り込み、石ですり潰す。すると、紫色の抽出液で椀の底が覆われた。それに水といくつかのスパイスを足すと、ナイトラの口元へと運ぶ。
「…何よコレ?」
「薬だって言ってるだろ。申し訳程度かもしれないけど、君の症状を和らげてくれる筈」
苦しみに抗し難いのか、それとも抵抗する気力もないのか、ナイトラはラアドに促されるまま薬を飲み終えた。熱で紅潮した顔を少し顰めながら、それでも不思議そうにラアドを見つめ返す。
「どういう風の吹き回し……?さっきまで私の事を……」
「舐めるなよ。僕はサンドラ族長の息子だ。生きとし生ける者には全て敬意を払う。命を踏み躙る事しかしない、アンタの親玉と一緒にするな」
生きとし生ける者への敬意。高い共感能力を有する人間が持ち合わせる、自分以外の他者への尊崇。知識としては知っていても、そんなモノを間近で見せつけられるのは初めてだ。ナイトラにとっての他者——フランハイムも姉たちも、誰もそんな事を言ってはくれなかった。誰も再生が可能なホムンクルスの命になど敬意を示さない。そんな自分達の在り様に疑問を持った事もないのに、何故この人間達はこうも……。
…否、疑問に感じた事なら何度もあるのではないか?一番末に作られたナイトラは他の姉たちの心を感じ取る力が強い。今だって消えてしまった姉達の事を考えると、胸の辺りが重苦しくなってくる。これが交換可能な部品に対して抱くものと同じであると言えるのだろうか……?
分からない。生まれながらにして世のあらゆる叡智を与えられているホムンクルスであるにも関わらず、理解が出来ない。完璧にして絶対無謬の自分の内に生じた小さな綻び。それを見つけた途端、自分が如何に不完全な存在かを突き付けられ、だから自分は捨てられたんだ……と、悟らされる……。
「ナイトラ⁈」
「眠ったんだよ。熱さましは暫く効果あるだろうけど……根本的な解決にはならないよな……」
ナイトラの呼吸状態は先程より安定したようだが、それでも予断を許さない状況である事に変わりはないだろう。事実、口唇の端や手先などがチアノーゼの様に紫色に変色を始めている。
「やっぱり、なんとしても敵の拠点に侵入するしかないな……」
呟いてみるが、今この場にはレイトとラアドの2人しかいない。しかも悪い事にディライトドライバーを落としてしまった様だった。レイトがデブリスやデブリーターを相手に戦って来れたのはあのドライバーに内蔵されたメモリージングシステムのお陰であって、生身の状態であのジェネシスや屈強なジャファー族相手に戦えるとはとても思えない……。
だが。
今この場に2人しかいないという事は、マヤやゼオラ、戦兎達は敵に捕まってしまった可能性が高いという事だ。何故ジェネシスの攻撃から助かったのかは分からないが、敵はこちらの生存を把握していない可能性もある。ならば、ここで動かない訳にはいかない。
しかし、先ずはこの洞窟から抜け出す方法を考えないとな……と、思案しかけた刹那、「なんだ、誰かいるぞ」「敵か……?」という声、そして多くの人の気配を感じた。
レイトとラアドが振り向くと、そこには多くのトンプソール人達の姿があった。一瞬ジャファー族かと身構えたが、彼らの目尻にはラアドと同じ紋が刻まれている。という事は……。
「ラアド!ラアドじゃないか!」
「叔父さん、みんな……!どうして……無事だったの⁈」
「ああ、助けてくれた人がいたんだ。それで、奴らの拠点から逃げ果せて……お前こそよく無事で……!」
先頭を歩いていた男が駆け寄ってきたラアドを固く抱きしめる。その場にいる誰もが少年との再会を喜んでいた。恐らく彼らがジェネシスに捕まったというサンドラ族なのだろう。感動の再会に水を差してしまうのは大変心苦しいのだが……レイトも彼らの歩み寄った。
「すみません。さっき助けてくれた人がいたって言ってましたね。それじゃ、ここはジェネシス達の拠点に通じているんですか?」
「ラアド、彼は?」
一族の仲間達にラアドがこれまでの経緯を簡単に説明した。サンドラの民はかなり義侠心に熱いらしく、何度も大仰に頭を下げてくるので、レイトとしてはかなり照れ臭いが、今は取り敢えず関係はない。強引に話を遮り、彼らの身に起こった事を詳しく説明して貰った。
どうやら敵は錬真力の強い人間を何らかの資源として集めているらしい事が分かった。そして彼らを助けてくれたのが錬真術師の少女だったと聞き、レイトはアイリスの事だろうと確信を持つ。本来なら彼女も一緒に脱出している筈だったのだが、敵の襲撃を受けてそれは叶わなかったらしい。
アイリスはまだ敵の手の中にあると言ってもいいだろう。神聖騎士なみに錬真力が強い彼女ならば、敵の目的が何であれ利用される可能性は高い。尚の事、レイトが引き下がる理由はなくなった。
『レイト君、謙虚さは君の美点の1つだけど……いつまでもそればかりではいけないな』
「もう少し、自分を信じる事も必要……か」
確かな決意を込めた呟きが、暗い空洞の奥に反響していった。
〈設定メモ〉
◇ホムンクルスの少女たち
フランハイムによって作られた、人造人間。全てが同じ容貌をしており、生まれた段階で広範な知識を有し、人間よりもはやい速度で成長する。但し、その肉体を維持する為には薬物と装置による定期的な措置が必要。
現在は7体の個体が誕生しており、名前は生まれた順に『ハイドラ』『ヒーリア』『リティア』『ベリリ』『ボーラン』『カーバ』『ナイトラ』。だが、彼女らに性格的な個性は存在せず、全てが1つの共通意思の下で動いている……と思われていたが、末子のナイトラだけは強い自我の様なモノを秘めていた。
・年齢:不明
・性別:女(生殖機能は持たない)
・装備:デブリシリンジャー、スフィンクスデブリドラッグ
・イメージCV:上坂すみれ