仮面ライダー GENESIS CHRONICLE 作:式神ニマ
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落ちていた意識が覚醒した瞬間、両腕と脚が束縛帯で固定されているのが分かった。周囲を確かめようと暗がりに目を凝らすと……戦兎は我が目を疑う事になった。
戦兎が拘束されているのはドーム状の部屋だった。その壁面には無数のモニターやスイッチがビルトインされていた。どう見ても、この世界の技術ではあり得ない。
「これだけの装置……やっぱりあのジェネシスは———」
「おや、今お目覚めかね?桐生戦兎くん」
不意に扉が開き、仮面をつけた男が部屋の中へと入って来た。ジェネシスに変身していたあの男だった。
「起こす手間が省けて助かったよ。これから神聖なる儀式の時間だ。是非、世紀の瞬間を偉大なる仮面ライダー様に見届けて欲しくてねぇ」
「…何が、神聖なる儀式だ。三文芝居もいい加減にしろ。お前はこの世界の人間じゃないな?」
機械だらけのこの部屋に、無線機の様な技術も使用できる事、何より異世界の人間を見下げて恥じないその態度からの予測だが、大筋で間違ってはいない筈だ。戦兎の問いに男が「ンハッ、その通り!」と鼻で笑った。
「正解だよ、桐生戦兎くん。私の名はリチャード・コルテス。こことも君のとも異なる世界……西暦2117年の未来からやって来たのだ!」
男——コルテスがゆっくりと仮面を外す。30代程の、鋭い目をした男の顔が現れた。頭髪どころか、眉毛まで剃り上げた嫌味な顔を戦兎は睨み付ける。
「未来のSF世界からやって来た人間が、ファンタジー世界の人間を踏み付けてイキり倒してるって事か……。予想以上に小さい人間だな、お前は」
「効率の問題と言って貰おうか。私は余計な労力は割かない主義でね。無知な原始世界のサルどもを従える方がよっぽど簡単……それだけの事さ」
要はあのジャファー族はこの男の目的なぞ何も知らずに利用されているだけという訳か。嘲弄に歪む男の顔を睨みながら、戦兎の内心が激しく怒る。遥かに進んだ科学力で、それより明確に劣る文明を見下し、踏みつけにするなど……科学を信じる者として絶対に許してはいけない所業だ。
「おお、怖い怖い。あそこまで痛めつけられておいて、まだ反抗するとは……。流石は正義の味方の仮面ライダーというところか。だが、それも今に費えるさ!私の最強の力……この『チューリングチャーチ』が目覚めればなぁっ‼」
コルテスの宣言と共に、部屋中にホログラムの影が表示された。蒸気軍艦の様な複雑な面構成を持つ、三角柱型の船。だが後部のジェットエンジンや尾翼、そして各所に配置された砲座からその目的は明らかだった。
「これはまさか……戦艦……?」
「その通り!陸海空の全領域に対応した最強戦艦。私はこれを操り、千年王国を完成させる……。今度こそっ……私が世界の王に……いや、神となるのだっ……‼」
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「なにが神だよ……。ふざけやがって……」
レイトが画面の奥にいるコルテスに毒づいた。ラアドはというと、どこか別の場所の情景を映し出す異世界の技術に目を白黒させている。
あの後、サンドラの人達が通ってきた洞窟を抜けて、レイト達はジャファー族の拠点へと侵入を果たしていた。アイリスや戦兎達を助けるのが一番の目標だが、ナイトラを早く治療しなければいけないのもある。ここまで来る間に彼女の容体はまた悪化していく一方だった。
砦の中はどういう訳か、ジャファー達の姿がほぼなく、お陰で侵入は楽だった。朦朧とするナイトラの案内を受けてレイト達は地下の部屋を開け放つと……そこには実験室と保健室を合わせた様な、独特の雰囲気の部屋があった。
ホムンクルスの製法とその肉体の維持に関するレシピは直ぐに発見できた。製法に関しては何が何だか分からなかったが、維持に関してはレイトの錬真術の技術でもなんとかなりそうだった。取り敢えずナイトラをベッドに寝かせ、レシピに従って必要な薬品を注入していく。直ぐに症状が改善するものでもなかったが、ナイトラの顔色は少しずつ良くなっていった。
「もし、治った私に襲い掛かられたら……あなた達はどうするの?」
「勿論、受けて立つさ。サンドラの誇りにかけて」
憮然と返すラアドと、相変わらず不思議なものでも見る様な目で見返すナイトラ。この2人の緊張感が消える事はないだろうけど、どこか刺々しさが消えた様にレイトには思えた。それがいい事なのかは分からないけれど……。そう考えていたレイトは部屋の片隅で驚くべきものを見つけた。大型の自家発電機とそれに繋がれたモニター類だった。
発電機とモニターを起動させ、敵の目的や正体に関する情報がないか探っていく。そうして辿り着いたのが、先程の戦兎とコルテスの会話を映した監視カメラの映像だった。
だが、これで不鮮明だった線が明らかになり、各所の点と繋がった。やはり仮面ライダージェネシスことコルテスの正体は、別の世界———戦兎やレイトの元の世界に近い、所謂“科学の世界”からやって来た者だという訳だ。
「なんだかよく分からないけど……アイツ、あのジェネシス以上にヤバい力を目覚めさせようとしてるって事だよね?」
「そう……だね。でも、どうやって……?そんなものを動かそうと思ったら、こんな発電機なんかじゃ済まないくらいのエネルギーがいる筈なのに……」
レイトはモニターの情報を次々と探っていく。そんな戦艦を今まで使わなかったという事は、何らかの理由で使えなかったのではないか?ならば、敵の一連の行動はその為にあるのではないかとレイトは考えた。モニターをスクロールしながら、レイトの目が1つのファイルに止まった。
「『エボルト遺伝子との融合による、人造人間の不死化。及び、生命力のエネルギー変換』……。…コレだ!」
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広間中に不気味な音が響いている。ドロドロ……!という太鼓の音はジャファーの民族儀式なのだろうが、敵対者を処刑する際に打ち鳴らすリズムだと聞かされている為、間違いなく不穏な響きとなって戦兎の耳には聞こえる。
最もこれから行われるのは処刑ではない。だが、下手すればもっと悪いものだ。
「クソッ……!なんなんだよコレッ!放せコラァッ‼」
「黙れサルめがっ!神聖な議式の場くらい、慎ましやかにするものだぞ?」
現在、コルテスは広間の中央で体中をコードに繋がれ、ゴチャゴチャした機械装置に体を固定されていた。まるで神の子でも気取っているかの様に、戦兎には見えた。
コルテスの足元には、やはり全身にコードを突き刺された龍我とアイリス、マヤにゼオラ、ハイルとラナの姿があった。喚かないまでも、直上のコルテスに射殺さんばかりの目線を注いでいる。
発電装置とコード類を繋ぎ、全員の身体状況をモニタリングしていたフランハイムがモニターからゆっくりと顔を上げ、宣言した。
「コルテス、準備が整った。いつでも開始できる」
「うむ、良かろう。始めてくれ」
「くっ……!やめろっ‼」
体を戒める拘束から逃れようと身を捩りながら、戦兎が叫んだ。
「錬真力はこの世界の人間の根幹みたいなものだ!それをを抜き出せば、死に至る可能性があるんだぞ!」
これから行われるのは彼らの最終目標の1つ——即ち、コルテスの体を万丈龍我が持つエボルトの遺伝子と融合させる事で、最強のホムンクルスへと進化させる事だ。これにより、定期的な肉体のメンテナンスが欠かせないホムンクルスは完全に不死の存在となり、錬真術の目指す上位概念——『スペリオル』に最も近い存在へと進化するのだとフランハイムは語っていた。
だが、万丈龍我の体内の遺伝子を一体どうやってコルテスと融合させればいいのか。それを解決する方法が、異なる物同士を融合させて新しい形へと変える錬真術だ。この世界に存在する錬真力が高い人間からそれを強制的に吸い上げ、コルテスの肉体とエボルトの遺伝子を融合させる。言葉にすると簡単だが、錬真力がこの世界の人々のどこから生まれ、また肉体や生命活動にどの様に作用しているのか。それはまだはっきりとしていないのだと言う。もしそれを抜き取られてしまえば、どの様な結果を招くのか戦兎にすら想像がつかない。だが、そんな戦兎の叫びに頓着する様な男ではない。コルテスは「ンハッ!それは面白い!では、試してみようではないか!」と喜悦に体を震わせていた。
「始めろ、フランハイム!」
コルテスの命令に従い、フランハイムが装置を起動させた。次の瞬間、龍我からエボルトの遺伝子が、アイリス達から錬真力が吸い上げられていき。その苦痛に彼らから苦悶の声が上がった。
それは中心となるコルテスも例外ではない。フランハイムが更に計器を操作すると、十数本のデブリドラッグがコルテスの肉体に突き刺さり、その変異を加速させていく。劇薬に肉体を破壊され、だが注ぎ込まれる錬真力によって直ぐに修復される。そんな地獄の苦しみに耐えながら、コルテスの顔は狂笑に歪んでいた。
「ンハハハハハッ!いいぞぉ……力が漲っていく……!我は今度こそっ……!人を超える力を手にしたのだっ……!」
コルテスを取り巻く装置から熱気が噴き上がり、それと同時にコルテスの体がグニャリと融けて消えていく。代わりにその場には人型の怪物の姿が残された。
機械装置の拘束が解除され、怪物がのっそりと歩き出す。生まれたばかりの小鹿の様に覚束ない足取りで、怪物が床に倒れ込む。瞬間、その皮下組織の上を金属の様な皮膚が覆っていき、体のあちこちからも鋭いスパイクが皮膚を食い破って出現する。やがて背部から大鷲の様な翼が出現すると、怪物がゆっくりと起き上がった。
ドラゴンの様な鋭角的な形状の頭部、獣の四肢を思わせる力強い手足、雄々しく広がる猛禽の翼。あらゆる生物が融合したその姿はひどく神々しく、そして同時に激しく冒涜的に見えた。人ならざる者へと変質したコルテス——改め『エボリュード』は自分の腕をうっとりと眺め、鋭牙が居並ぶ口角をニヤリと歪めた。
「…ンハッ、ンハハハハハハハハハハハハハハハッッッ‼素晴らしい!素晴らしいぞフランハイム‼遂に我はっ……神にも匹敵する力を手に入れたぁっ‼」
「…なにがっ……神だ、この三流野郎がっ……!」
体に繋がったケーブルを引き抜き、ハイルとアイリスが立ち上がろうとするが……果たせずに、すぐその場にへたり込んでしまった。体がまるで鉛の様に重く、中心から芯が抜け落ちてしまったかの様だった。マヤが慌てた様に頭のダイロクを展開し、取り上げられたツールド・ファミリア達に念を送るが……反応は一切なかった。「…そんな……!」と、マヤが悲痛そうに呻いた。
「…錬真力が……消えた……?そんな……あたし達、これからどうなるのっ⁉」
「……………っ」
正直、アイリスにも分からない。錬真力はこの世界の人間には生まれつき備わっているもので、成長や訓練による上昇は見込めるが、下降したという話は聞いた事がない。錬真力は一時的に低下しているだけなのか……もしかしたら、このまま回復しないのかそれも判断がつかない。
「ご苦労だった、諸君。君らのお陰で、我は究極の存在へと進化を果たした。ささやかな礼として……我の更なる力をお見せしよう……。目覚めよ、チューリングチャーチ‼」
エボリュードの号令に従い、その体に繋がれたケーブルから周囲の壁に向けて猛烈なエネルギーが迸る。転瞬、石の様な壁面が薄らと輝き、床下からゴゴゴゴゴ……と不穏な振動が響き始めた。
戦兎が苦々しく呻いた。どうやら戦艦『チューリングチャーチ』がその生命力を取り戻した様だ。あのエボリュードに進化した目的は、コルテス自身が無敵の存在へと進化する為でもあったが、同時に今までエネルギーを失っていた戦艦を再起動させる為だったのだろう。エボリュードの半永久的な生命エネルギーを動力へと変換させて。
「これより、我はこの力を持ってして大陸を……否、この世界全土を制圧する!その偉業を貴様らにはたっぷりと見せてやりたいところだが……貴様らの邪魔立てにこれ以上振り回されるのもごめんだ……」
エボリュードが大儀そうに王座へと座り込む。この姿は超越的な力を秘めているが、未だに体に馴染んでいない。だが、幸いな事に手駒には事欠かないのだ。エボリュードが指をパチリと鳴らすと、それを合図と心得たジャファー族が下卑た笑みを浮かべてアイリス達ににじり寄ってきた。対抗しようにも、今は指一本すら動かす事ができない。これから起こるであろう蛮行に、彼らが身を固くした刹那の事だった。
ガァン‼という空気を聾する轟音が広間一帯に響き、数人のジャファーが悲鳴を上げて倒れ込んだ。空気中に漂う微かな火薬の香りを嗅ぎ、アイリスがまさか……と、顔を上げた。
「貴様……っ!」
「悪いな。土壇場で逆転するのが、“英雄”ってもんだ」
ガンモードに変形させたトランスラッシャーの銃口を向けて、レイトがしかとエボリュードを睨み付けているのが、ハッキリと見えた。