仮面ライダー GENESIS CHRONICLE 作:式神ニマ
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「…逆転、だと?バカバカしい!この状況を見て、まだそんな事が言えるかっ!」
王座にふんぞり返る怪物——コルテスが嘲る様に叫ぶ。力なく地面に倒れ伏すアイリス達を見ながら、レイトは強く歯を噛み締める。どうやら計画の阻止には間に合わなかったらしい。
だが、それでもここで引き下がる理由にはならない。エボリュードの手元の机にディライトドライバーとビルドドライバーが置かれているのを見据え、トランスラッシャーをソードモードへと変形させ、その刃をエボリュードに向けて構えた。
「はぁっ……どいつもこいつも、蛮勇を振りかざし……。いい加減に、己の限界を知るがいいわ!やれっ‼」
「………っ!レイト———!」
忌々し気にエボリュードがジャファー族達に命じると、蛮声を振り上げて、ジャファー達がレイトに殺到し出した。仮面ライダーディライトとして怪物やデブリーターとの激戦に身を投じてきたレイトだが、それはあのベルトに内蔵されたメモリージングシステムのサポートがあってこそだ。今更あの少年が1人立ち向かったくらいで、この状況をひっくり返す事など出来る筈がない。エボリュードが怪物の面相の奥で、ほくそ笑むが……。
「……………っ⁈」
怯む事なく、レイトが暴威の鯨波の中へと飛び込んだ。横薙ぎに振られたトランスラッシャーの刃が先頭の男の槍先を綺麗に捉えて弾き飛ばすと、そのまま首筋へと叩き込まれた。
大柄な男がレイトの振るった剣の一閃でその場に倒れ伏した。それだけで、その場にいる誰もが驚愕に息を呑む。だが、レイトは構う事なく再度刀を振り上げ、次のターゲットへと叩きつけていく。
「ぐえっ‼」
「ぎぃあぁっ⁉」
「がふぅっ⁈」
大柄なジャファー族達を次々と剣の連撃で、時には拳や脚技などの体術も織り交ぜて、地へと叩き伏せていく。トランスラッシャーの刃は持ち主の意志に応じてその切れ味を調整できる機能がある。今は切断力を最低まで落としている為、殺傷力はほぼない。だが目にも止まらぬ速さで振るわれる刃が確実に男達の体の芯を穿ち、あっと言う間にその約半数が戦闘不能へと追い込まれる事になった。
「うそ………」
「あいつ、いつの間にあそこまで……」
驚愕に声を震わせつつも、アイリスにはどこか納得できる部分もあった。
『ラヴァンツェイル』の戦いでも、レイトは無数のデブリーターの群れを蹴散らしてみせた。レイトは確かに戦いは不得手で、戦闘は殆どベルトのメモリージングシステムのサポートありきのものだと思われていたが、あれはそれだけで説明が出来るものではない。戦い続けた事による経験と技能は、確かに少年の中へと降り積もっていったのだ。
「『もう少し、自分を信じる事も必要』って……こういう事だったんですね、ローランさん」
きっと、炎の神聖騎士は見抜いていたのだ。
ディライトの力の影に隠れて見え辛かったが。
今のレイトには、それに頼らずとも戦えるだけの力が備わっているという事を。
「何をしているかっ!そんなガキ一匹に———!」
思わぬ事態に口角泡を飛ばして絶叫するエボリュードだったが、彼は気付いていなかった。背後から1人の影が躍りかかって来た事に。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ‼」
「なにぃっ⁉」
中折れした槍に雷の霊薬を装填し、エボリュードの背後に忍び寄っていたラアドがその先端を怪人の胸へと深々と突き刺した。絶叫を迸らせて体を震わせるエボリュードから即座に離れると、アイリス達を拘束する戒めを斬り裂いた。
「ラアド!レイトもどうやって———」
「話は後だよ。アイツを倒して、ここを脱出する」
ラアドが指笛を吹くと同時に、壁をぶち破って更に多数の集団が広間へと雪崩れ込んできた。
レイト達に加勢する事を選んだサンドラ族達だった。今までの意趣返しとばかりに槍や戦槌を振るう者、アイリス達の支えに回る者など、協力し合いながら己の役割を全うしていく。そんな様は、強さに固執するばかりに、集団行動が苦手なジャファー達とは対照的と言えた。
「レイト、戦兎!受け取って」
「させると思うかぁっ!」
ラアドの手が机の上に置かれたドライバーを掴んで放り投げようとするが、それよりも早くフランハイムがデストワークス・アニマへと変身し、スネークバレスターから火球を発射する。着弾によって巻き起こされた噴煙がラアド達の姿を包み込む。
だが、次の瞬間。
噴煙を突き破って飛来した光弾と火球がデストワークスとエボリュードの体を飲み込んだ。
〈ライトアップブレイバー!ミスリックナイツ‼〉
〈鋼鉄のブルーウォリアー!タンクタンク‼ヤベーイ!ツエーイ‼〉
〈極熱筋肉ゥ‼クローズマグマ‼アーチャチャチャチャチャチャチャチャチャッ!アチャァッ‼〉
「よくも散々、好き勝手やってくれやがったなこの野郎……!」
「お前の三日天下もここまでだ。覚悟して貰うぞ」
それぞれ腰に戦士の証を輝かせ、ディライトとビルド、そしてクローズ、3体の仮面ライダーが凄絶な闘気を漲らせて、立ちはだかっていた。
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「お前、エボルトの遺伝子を吸われたみたいだけど……体はなんともないのか?」
「あ?…いや、全然。なんか少しダリぃな~……ぐらいで」
「………ハァ。お前が丈夫なバカでよかったよ」
「バカは余計だバカは‼」
言い合う2人の姿は、レイトにはどこか懐かしくもあり、微笑ましく、そして頼もしい。仮面の奥で微かに笑いながら、レイトはトランスラッシャーの切っ先をエボリュードへと向ける。どこか不安定そうに脈動するその体は、まだ力が完全に定着していない様に見える。アイリス達の錬真力を取り返す為に、そして動き始めた戦艦を止める為にも、今は一刻も早くあの怪物を打ち倒さなければならないが……。
デストワークスが地面に膝をつくエボリュードに近づき、言った。
「君の体はまだ完全じゃない様だな……。融合強化を使おう。出来るな?」
「誰に向かって言っている?叩き潰してくれるわ、仮面ライダーども‼」
エボリュードの腕がなんとデストワークス・アニマの胸部へと深々と突き刺された。そのままデストワークスの体が融ける様に消えると、エボリュードの体から赤い蒸気が迸り、急速に肥大化を始めた。
ライオンの胴体が下半身全体を覆い、巨大化したエボリュードの胴体がそのままくっついた様なイビツな巨体・『ギマイラエボリュード』の拳が3人の仮面ライダーへと振り下ろされた。
「クソっ!またこの展開かよっ‼」
「怯むな万丈!デカいイコール強いって訳じゃない」
「そうそう!的を絞りやすくていいじゃないか!」
〈フリーズダウンスクラプター!レイザードナイツ‼〉
ディライトの姿が水のエレメントと、変幻自在の金属・オリハルコンの力を宿した『レイザードナイツ』へと変化した。腕を伸ばしてギマイラエボリュードの頭部付近まで跳躍すると、左腕のノズルブラスタから強力な水塊を放った。
〈フルフルマッチデース!フルフルマッチブレイク‼〉
フルボトルバスターにフルフルラビットタンクボトルを装填すると、ビルドの下半身が文字通り戦車の様な形状へと変形した。無限軌道を傲然と鳴らし、地面を猛烈な速度で疾走した青きビルド『タンクタンクフォーム』がギマイラエボリュードの周囲を旋回し、フルボトルバスターと両肩の『BLDタンクタンクショルダー』の砲口から無数の弾丸を放出した。爆発性の迫撃弾がその巨体に次々と食い込んでいき、ギマイラエボリュードの悲鳴はその爆音に掻き消されていった。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらぁっ‼」
〈ボルケニックナックル‼アチャァァッッ‼〉
仮面ライダークローズの強化形態『クローズマグマ』。その力の源たるドラゴンマグマフルボトルに秘められた炎熱エネルギーを龍の形に変換した『マグマライズドラゴン』がクローズの足元から噴出し、その右拳の『クローズマグマナックル』へと集中していく。龍我の裂帛の叫びと共に繰り出された拳から摂氏1500度近い極炎の龍となってギマイラエボリュードの体を貫いた。
仮面ライダー達の強力無比な砲撃の嵐がたて続けに炸裂し、爆炎を上げてギマイラエボリュードの体が地面へと倒れ込む……かに思えたが、怪物の面相が確かに口角を曲げてニヤリと嗤った。直後、背中の翼が無数の砲口へと変化し、幾千もの火線が仮面ライダー達に向けて発射された。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ⁈」
『ンハハハハハハハハハハッ‼見たか!今の私は肉体に触れたあらゆるものを取り込む事が出来るのだ‼』
『生物も無生物も……当然、貴様らの攻撃すらもなっ‼』
その身の内に膨大な錬真力を秘めるエボリュードは、その力を持って肉体に触れたものを取り込み自らの力へと変える能力を持っているのだ。エボリュードに触れた攻撃の全てが弾き返され、3人の仮面ライダー達は地に伏す事となった。
『『まったく……これ以上、貴様らに煩わされるのは御免だ。その力、我が身の一部にしてくれる……』』
ギマイラエボリュードの背部から無数の触手が伸び、仮面ライダー達を吸収しようと迫る……が、突如背後に1つの影がのしかかった。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ‼」
ラアドだった。ギマイラエボリュードの首筋へと取り付いた少年が、腰から取り出した小型のナイフを叩きつけた……が、「小賢しい‼」とギマイラエボリュードに振り払われ、地面へと叩きつけられる事となった。
『サル如きが……無駄だという事がまだ理解できん———……っ⁈ぐぁぁぁっっっ⁈』
突き刺さったナイフは直ぐに外に排出され、傷も直ぐに塞がれた。ギマイラエボリュードの生命活動には何の支障も来さない筈だったのだが、突然その体に激痛が走った。ナイフが突き立てられた箇所を中心点にまるで砂が崩れる様に体が崩壊を始めた。
『『何故っ……!何故だぁぁっっ⁉貴様っ……何をしたぁっ‼』』
「アンタの研究室で見つけたよ、フランハイム。ホムンクルスの分解酵素を投与したんだ!」
ギマイラエボリュードの首筋に突き立てられたもの……よく見ると、それは小型の注射器だった。ナイトラを運び込んだ部屋、その中で見つけたホムンクルスの肉体再生用の薬品とは対極の、肉体を破壊する薬。コルテスの目的が自ら最強のホムンクルスへと進化する事だと知った時から、これが切り札となる可能性を考えて持ち出していたのだ。
投与された薬はホムンクルスの肉体を構成する特殊合成のタンパク質を破壊する性質を持ち、それは当然エボリュードにも例外ではない。まるで水に融けていく泥人形の様にギマイラエボリュードの体が崩れ落ちていく……かに思えたが、崩壊は突如として治まってしまった。
『『やってくれたなキサマァッ‼』』
怪物の腕が伸び、ラアドの体を掴んで締め上げた。息は荒いが、肉体の崩壊は完全に止まっている様だった。投与された薬品の量が足りず、錬真力による再生が破壊を上回ったのだろう。グッ……!と、悔し気に歯噛みするラアドをギマイラエボリュードが憎々し気に睨み付ける。
『何度も何度もっ……よくも好き勝手に邪魔してくれたなっ……!』
『そんなに死にたいのなら、今すぐ父親の元に送ってくれるっ‼』
エボリュードの指がラアドの首筋に回りつき、その息の根を止めると思われた直後。背後から火球が飛来し、エボリュードの腕を焼き払ってラアドを解放した。
『『なんだとっ⁈』』
「…全く……本当にツメが甘いわね……」
落下するラアドを受け止めた白い影……ホムンクルスのナイトラだった。相変わらず恐るべき身体能力でラアドを抱えたまま着地すると彼を地面へと放り出し、再び地を蹴ってギマイラエボリュードの頭頂部付近まで駆け上がった。
あまりにあっと言う間の事だったが……駆け出す直前、少女が確かにラアドの顔を見つめて微笑むのが見えた。
「ナイトラ……何をする気だ⁈」
『貴様ァァァッッ!ホムンクルス風情が裏切る気かぁっ‼』
「勘違いしないで。私のマスターはあなたじゃない。それにこれは……!」
瞬間、少女の能面に激しい怒りの色が灯り、怪物の顔を正面から睨みつけた。ナイトラが腰のベルトから8本のシリンジを取り出す。中に入っているのは当然、あの分解酵素だ。一気にギマイラエボリュードの眉間付近まで駆け上がると、両腕を振り上げて全てのシリンジを突き立てた。
「ボーランの仇よっ‼」
『『ギィアァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!??』』
先程とは比較にならない程の酵素が体内に注ぎ込まれ、エボリュードの肉体が再び激しく波打ち始めた。肉体の崩壊を食い止めようと体中の錬真力が再生を促すが、それでもとても追いつく様なものではない。
『ナイ…トラッ……⁉何故なんだっ……!どうして、君が私を———⁉』
「…マスター、私には人の心はまだ解りませんが……あなたの思いはきっと解ります。こんな事があなたの本意ではないと……」
『………………っ⁈』
「あなたは私達に命を、そして名前をくれました。私はずっと自分の心が解らなかったけど……あなたからの愛情には確信が持てました。…だから止めたい。本意じゃない事に手を染めようとしている、あなたを……」
『ナイトラ……⁉…そうか、お前には……もう心が生まれて……』
怪物の体が流体の様に波打ちだす。今、2つの身と心が離れ離れになろうとしている。ナイトラが確信を込めて、「今よ!」と仮面ライダー達に向かって叫んだ。
「このタイミングなら、コルテスにも攻撃が通る!…もう、終わらせて。これ以上は———」
だがそれ以上、少女の言葉が紡がれる事はなかった。怪物から伸びた触手がナイトラの細身の身体を貫き、少女の血が雨の様に降り注いだ。
「ナイトラぁっ‼」
——また泣く。
——ホントに、甘い人たち……。
呆れた様に、でもどこかそれが嬉しそうに、ナイトラは薄く微笑んでいた。
ホムンクルスとしては一番最後に生まれたナイトラは、姉達と心を共有する事ができた。
姉たちの感情を、考えが常に流れ込んでくる彼女の心には、常に境界線がなかった。自分が感じ取っている感情は、本当に自分の心から生まれたものなのか。それは誰かの心をトレースしているだけなのではないか……。そんな空洞がいつでも彼女の中心にはあったのだと思う。
姉達が消えてしまってから、初めて自分の中にあるのが自らの心なのだと確信する事が出来たのは皮肉としか言いようがないけど。
空洞だった心に注がれた、ラアドの怒りと憎しみ。悲しみと慈しみ。苦しさと精一杯の優しさ。矛盾していて、合理的でなくて、それでもそんなモノこそがきっと心を持った者に与えられる業の様なものなんだろう。そんな業を抱えて生きなければいけないから人生はきっと苦しい。でも……その苦しさを支えて、矛盾を受け止める為にきっと他者の存在がある。それが解ったから、ナイトラも己の矛盾を受け入れてここまで来た。生まれた理由には反しても、ただ心が命じるままに、己がしたい事を果たす為に……。
——助けられた事、無駄にしちゃったけど。
——私は満足だよ。
——だから。
——ありがとう、ラアド。
薄い笑みを浮かべた口が、確かにそう呟き。
ナイトラの細い体が、泡となって消えていった。
分解酵素の作用を受けて、ギマイラエボリュードの体表面が苦し気に蠕動する。それは目の前で消滅した命を嘲笑っている様でもあり、同時に激しく動揺している様にも見えた。
『…ナイ、トラ……?何故だ……?何故……私の邪魔を……?』
『ホムンクルス如きが……!一体、どういうつもりで———⁉』
「…解らないのかよ……。お前たちが彼女を生み出した癖にっ……!お前たちが解らないんだったら……誰が、アイツの思いを汲み取ってやるんだよっ……」
彼女がどうしてあの様な行動を取ったのか、それはラアドにも解らない。彼女とは、ほんの僅かな間だけ行動を共にしただけに過ぎないのだ。何故最後に命を懸けてまで、自分達を助ける様な真似をしたのか、彼女の心が何を感じていたのか、そんな事さえもラアドは知らない。
だが自分に解らない彼女の心を、生みの親であるフランハイムですら理解できないというのなら……一体、誰が彼女の末期の思いを引き受けてやれるのだろうか。誰にも理解されずにこの世から消えてしまうなんて、あまりにも哀れじゃないか……!
『バカなっ!生体兵器でしかないホムンクルスの思いなど———』
「兵器なんかじゃない!ほんの少しかもしれないけど……ナイトラは確かに、僕たちと響き合えた……!だから、彼女も……大いなる天華の摂理の1つだ‼」
槍を支えにして、傷つき萎えそうな体に鞭打って、ラアドがゆらりと立ち上がった。その体中からは目に見えない、だが溢れる様な闘気が漲っているのがわかる。
「…僕は、お前たちを許さない……。命を踏み躙るだけ踏み躙って、最後には何も生み出せないお前たちの千年王国なんて……ここで僕たちが叩き潰してやる‼」
『『何を訳の分からん事をぉっ‼』』
憤慨したギマイラエボリュードが、力を振り絞って口腔から無数の火焔弾を乱射した。超高熱の火弾がラアドの直撃しかけた刹那、突如として飛来した光がそれを遮った。
中央部に円盤型のモニタースクリーンが張り付けられた、銀色のバックル。あの仮面ライダージェネシスが付けていたもので相違なかった。まるで意志を持つかの様に縦横無尽に飛び回ったベルトはラアドを守り切ると、目も眩む様な閃光と共に彼の腰部へと吸い込まれていった……。
〈設定メモ〉
◇エボリュード
・地球外生命体エボルトの遺伝子から作られたホムンクルス。
・異なる生命体の遺伝子を繋げる為に、体内に膨大な錬真力を宿している。それを用いて、他の生命体や機械類、果てはエネルギーすらも取り込み、自らの力へと変換する事が可能。