仮面ライダー GENESIS CHRONICLE 作:式神ニマ
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アネスタ領『アレステリス』。ドランバルド三国の国境付近に位置し、代々領主デュランダール家によって国境の監視を担ってきた土地だが、その内実は豊かな自然を天然の壁としたどこか長閑な風情の場所だ。そこが今、あちこちで火の手を上げている。逸る気持ちでレイトはユニオンスティンガーのスロットルを開き、一気に増速させた。
ヒュンヒュン、という風切り音がうるさい程に響いている。目を上方に転じると……そこには十数体の怪物が群れを成して飛行していた。
否、正確には“怪物の様な人間”だ。人の体の上から鳥の面相の様な風防を被り、背中にはやはり巨大な翼を生やしている。体の各部に備えられた明らかに人工的な意匠は少なくともデブリスではあり得ない。人と怪物の要素、その双方を満たしている物と言えば———。
「やっぱり『デブリーター』か……!」
「鳥型のデブリス……いや、違ぇな。『グリフォン』か……?」
ユニオが呟く。確かに怪物兵士の手には鋭い爪が生えているし、尻尾の様な意匠も見られる。猛禽と獣が融合した様な怪物、『グリフォン』タイプのデブリーターと見て間違いないだろう。
レイト達の知るところではないが、この予想は当たっている。空を飛翔する怪物兵士、名をグリフォンタイプデブリーター『レオニーグ』と言う。『ジェヴォールト』に続くデブリーターが量産を計画しているサージェリータイプデブリーターであり、地上と空中双方からの攻撃を主目的とした強襲型だ。
視力に優れたレオニーグの目が地上のレイトとユニオを捉え、左腕のブレス——『デブリシリンジャー』からニードルガンを斉射してきた。レイトは再びディライトに変身し、トランスラッシャーで攻撃を弾き飛ばしていく。
「空中からとは厄介だなっ……!」
「それならこっちも跳ぶまで!ユニオは地上の皆をサポートして」
ディライトがベルトに刺さった2本の霊薬を素早く交換した。緑のエレメントライドラッグと黒紫のマテリアルライドラッグ。ファンファーレの様な音楽を乗せて〈ファンタスティック!飛揚のレシピ‼〉とベルトが叫びを上げた。
「再錬成!」
〈オールセット、ディライト!ブロウアップニンジャ!ウィンディアナイツ‼〉
ユニオンスティンガーの座席を蹴り、姿が変わったディライトの体が空中高く跳躍し、そのまま猛然と風に乗る様に飛翔した。風のエレメントと黒妖石の力を内包した、ディライトの形態の1つ『ウィンディアナイツ』である。
ディライトはエレメントとマテリアル、2つのライドラッグの組み合わせによって様々な形態へとチェンジし、多様なデブリスへと対抗する事が出来る。その中でも特定の組み合わせによって、『ファンタスティックヒット』という特殊形態も存在するのだ。ファンタスティックヒットは他の形態に比して能力値が高く、加えて特殊な能力の発動も可能だ。ウィンディアナイツの場合は風のエレメントを増幅させ、空中を飛翔する能力『ウィンディアジャンプ』である。
ディライトの刃がレオニーグの胴体を鋭く斬り裂いた。空を飛ぶ為にジェヴォールトなどに比べると防御力に劣る様だ。きりきり舞いしながら地上へと落ちていくレオニーグから目を逸らし、ディライトが次にターゲットに向かって増速する。
だが空域に集まっていたレオニーグ達もそう簡単にやられはしない。あくまでも短時間の空中滞空を可能とするウィンディアナイツよりも、飛行専門に作られた向こうの方が空中での能力は高い。そのまま四方八方に散らばると、右手に備えた槍を構えて一斉に突撃をかけてくる。
だが、それくらいの事はレイトにも予測がついている。「行けぇ!」という叫びに呼応し、マテリアメイルの各部に備え付けられた刃『ブラッキーエッジ』がディライトから分離し、一斉にレオニーグ達へと襲い掛かっていった。
上空にいくつもの鮮血と爆炎の華が咲き乱れては消えていく。だが、戦場は空だけではない。地上からも侵略者達の魔の手がアレステリスに迫りつつあった。
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空から数体のレオニーグが地面に降り立ち、アレステリスの村を直接襲撃し始めた。その凶刃が家屋を打ち壊し、人々にも向けられる……が、それに抗う者たちの姿もあった。
村の守り手たる衛兵達とは違う、数十人の少年少女達が勇猛果敢に怪物兵士に挑みかかっていく。彼らの名は『ヒュペリオン』。その構成員の大半が少年少女でありながら、一糸乱れぬ統率力と圧倒的な強さでその名を轟かせていた、裏社会の盗賊団だったのだが、今はディライトと共にデブリーターの侵攻に抗う存在となっていた。
思わぬ抵抗を続けるヒュペリオンの前に別のデブリーターが姿を現した。1体は両腕に人と狼が融合した様な姿。もう1体はサソリの様な長い尻尾を持つ半人半獣。レオニーグよりも更に高いパワーに数人の少年たちが吹き飛ばされるが、それでも彼らの意気が衰える事はない。
恐れも怯みもせずに、デブリーター達へ堂々と歩み寄る1人の青年の姿があったからだ。
「『ワーウルフ』に『マンティコア』か……。性懲りもなくまた出てきやがって……」
精悍な顔立ちに凄みのある笑みを浮かべて青年———ヒュペリオンのリーダー、ハイル・ランドナーが半身ほどもある長剣の先端にライドラッグを装填する。
〈ライトブレード!テリフィック!閃光の魔剣‼〉
「変身」
〈スラッシュ!刀光剣影!ソーディア、ライトブレード‼〉
ハイルが剣を振り抜くと同時に、その体が禍々しい剣人と呼ばれる怪人の姿から打ち直されて、鋭角的な戦士の姿へと変わった。灰色のアンダースーツに青と銀を基調とした刺々しい装甲、目元まで覆われた兜からその姿は正しく剣の化身にも見える。
仮面ライダーディライトに続く、この世界のもう1人の仮面ライダー、『仮面ライダーソーディア』である。ソーディアが右手に握りしめた剣——魔剣『デウスカリバーⅡ』を構え、2体のデブリーターへと切り掛かっていった。
最初にマンティコアが動いた。背部の尻尾が躍動し、その先端の棘がソーディア目がけて加速する。尻尾には致死性の猛毒が含まれているのだ。喰らってしまえばただでは済まない……が、マンティコアは一度戦った相手だ。そんな相手に何度もしてやられる程ハイルは甘くない。ソーディアが尻尾を掴まえ、そのまま猛烈な速度でマンティコアを引き寄せた。地面に叩きつけられたマンティコアをソーディアが睥睨し……剣先を思いきり突き立てた。
悲鳴を上げ、爆砕するマンティコア。その爆風と噴煙に乗って、今度はワーウルフへと一気に肉薄する。ワーウルフの最も強力な武器は両腕の爪と牙だ。だが、それも当たらなければ脅威とは言えない。ワーウルフの攻撃を踊る様に躱しながら、不意にその顎を思いきり蹴り上げる。その圧倒的な威力にワーウルフは脳がグラグラと揺れる感触を味わう事になった。
「大振りなパンチなんざ何発あったって無駄なんだよ。ケンカってのは一発で蹴りつけるもんだ」
指をクイと折り曲げて動けなくなったワーウルフを挑発すると、刃に備え付けられたリム状のスイッチ『アブレイシブスターター』を2回コッキングする。瞬間、デウスカリバーに秘められた魔性のエネルギーがソーディアの全身を駆け巡っていった。
〈ミドル・アブレーション!テリフィング・ミドル・ストラッシュ‼〉
——魔剣開放、我流・ドリフト‼
ベルトから抜刀した魔剣をソーディアが体の回転と共に放った。刃がワーウルフの胴体を直撃し、破邪のエネルギーをその体内に一気に流し込む。剣技の威力とそのエネルギーに耐え切れなくなったワーウルフが血煙となって吹き飛んだ。
そしてその頃、上空の戦いにも決着がつきつつあった。空中を旋回するブラッキーエッジにも微量の風のエレメントが含まれている。それらを広範囲に飛ばす事で上空にはかなりの気流の乱れが生じていた。空を征するグリフォンと言えども、この乱気流の中で上手く飛べるはずもない。体勢が乱れた所を見定め、ディライトがベルトのエブリッションスターターを押し込んだ。
〈エブリッション!ヴァリアントストーム‼〉
旋風を纏ってディライトがレオニーグの軍団へと突っ込んで行く。エレメントの嵐に噴き散らかされたレオニーグが次々と爆砕していき、それが決着の合図となった。ディライトとソーディア、ヒュペリオンによって倒されたデブリーターの変身者達がアレステリスの地面に累々と横たわっていた。
襲撃者達は全員、黒い肌に屈強な体を持つ男達だった。着ているものも動物の毛皮があしらわれた鎧。どう見てもデブリーターの背後にいるシドニアの人間ではなさそうだった。
「コイツ等……『トンプソール人』だな」
「トンプソールって……武族連合の?」
ディライトの問いにソーディアが重々しく頷いた。
ドランバルドの東、三大国家最大の面積を誇る、岩と灼熱の大地に暮らす民族の名前だ。複数の武族から成り立ち、死をも恐れぬ勇敢さと武勇を何よりも重んじる民族性によってデブリスすらも恐れずに戦いを挑み続けている。そんな武族の在り様を野蛮だと蔑む者もいるが、各国家とトンプソールの代表である『族柱会議』の間では大きな諍いは起きていない筈だ。
それがどうして、ここに襲撃を仕掛けてきたのか。そして……デブリーター達とどういう繋がりなのか……。コレばっかりは取り調べてみないと分からないか。
「コイツら連れてけ。目的を吐かせるぞ。3番隊と6番隊は村の復旧作業と怪我人の手当てに———」
ハイルが命じかけた刹那、「テメェら、よくも……!」と怒声が響き渡った。
トンプソール人の男が手に槍を構えて立っていた。頭部に決して浅くない裂傷を負っているが、それでも地面に丸太の様な脚を踏ん張って槍を構えており、意気が衰えている様子は全くない。驚くべき屈強さだ。だがソーディアも「こりゃいい。取り調べの手間が省けそうだ」と剣を構える。
「テメェらの素性とこんな事をした目的……全部洗いざらい吐いて貰おうか。…言っとくが、俺らはどの国家の所属でもねぇ。抵抗するなら命の保証はしねぇぞ?」
ハイルの恐ろし気な挑発——だが、多分本気だ——を聞いた瞬間、トンプソール人の顔が屈辱と怒りの色で染まった様に見えた。
「命の保証……だと?我らジャファーが……貴様ら如きに命惜しさに屈するとでも……⁉舐めるなぁっ‼」
〈Gryphon…Deb-Reading…‼Wow…Wow,wow,woooooow…‼…To Be Sick…〉
男の体が再びレオニーグへと変化した。更に加えて男は足元からもう1つのグリフォンデブリドラッグを取り出し——それを首筋へと躊躇う事なく突き刺した。
「…っ!いけない、そんな事をしたら———‼」
「ウオォォォォォォォォォッッッッッ‼我ラ…ジャファーにィ……永劫の繁栄あレェェェェェェェェェェェッッッッッッ‼」
次の瞬間、レオニーグの体が巨大化していくが、変異はそれだけではない。人間の体の部分が本物の獣の様に四足歩行形に変わっていく。翼を広げれば、全高は優に5ハンズを超える巨大なグリフォンへと変貌を遂げたのだった。
「こいつっ……!メチャクチャしやがって———!」
「グラァァァッッッ‼」
暴走レオニーグの前脚がソーディアに放たれ、10ハンズ程の距離を一気に吹き飛ばした。「ハイル⁉」と気にしかけるディライトだったが、敵はそんな暇を与えてはくれない。翼を広げると、暴走レオニーグの巨体が飛翔し———たと思いきや、やはり重すぎたのか、直ぐに地面へと落下してきた。怪物の大質量によって周囲一帯とヒュペリオンの団員達が吹き飛ばされた。その場に倒れ込んだディライトはそのまま怪物の前脚で拘束されてしまった。
「グハハハハハハハハハッッッ‼死ネェェェェェェェェェェッッッ‼」
「ぐっ……⁉」
グリフォンの嘴がディライトの体へと振り下ろされそうになる———その刹那の事だった。空が急速に精彩を失い、赤い雷が空へと走り始める。急激に起きた異変にその場にいる誰もが上空を注視すると……突如として空に風穴が開いた。
まるで渦の様な、黒い虚空。ドロドロ……!と不気味な音が周囲一帯に轟き、世界がこの世のものとは思えない程に不気味な色に染まっていくと……直後、その穴から何か巨大な影が飛び出した。影は一直線にこちらに向かって飛来すると、そのまま暴走レオニーグへと激突した。
その陰の正体は、巨大な“手”だった。赤と青のラインで彩られた“手”は全体が金属で構成されており、よく見ると、後方からジェットエンジンの炎を噴き上げている。どうやらそれで飛行している様だった。
その場にいる誰もが、突然の闖入者に唖然としていた。正体不明の金属の腕が空に風穴を開けてやって来たのだ。目の前で起きている状況を説明できる者などいないが……ただ1人、レイトだけは目の前の“手”の正体に心当たりがった。
だが。
——そんな訳がない。
——だってあれは……。
——現実に存在しないモノなのだから……。
“手”に激突され、地面に引き倒されても暴走レオニーグはまだ生きていた。怒り狂った様に怪鳥音を上げる怪物に応える様に“手”の中から、1人の戦士が降り立った。
何故、戦士と言い切れるのか?それはレイトがその姿を知っているからだ。
奇妙な姿の戦士である。頭の左半分と右上半身、及び左下半身はメタリックカラーの赤色だが、対する部分は青色。まるで赤と青———異なる成分同士が混ざり合って構成されているかの様な……。
「まったく……とんだ登場シーンになったじゃないか……。最っ悪だ……」
戦士が頭を抱えてぼやくが、次の瞬間には顔を上げてやはり2色の複眼を眼前の怪物へと向けた。
「さぁ、実験を始めようか」
右の複眼をスッと撫でながら言い放つ戦士の姿———それは紛れもなく、『仮面ライダービルド』のもので相違なかった。
〈設定メモ〉
◇デブリーター
・デブリスの体組織から作られる霊薬『デブリドラッグ』を人体に注入する事で誕生する戦士、及びそれらを使役する組織の事。
・人体に直接薬を注入する『インターニストタイプ』と、『デブリシリンジャー』という道具を用いる『サージェリータイプ』の2種類が存在する。
という訳で、仮面ライダービルドの登場でした。まぁ、関連タグを見て頂ければ分かると思いますが、ビルドとのクロスオーバー作品となります。
本格的な活躍はまた次回。
それでは。