仮面ライダー GENESIS CHRONICLE 作:式神ニマ
体調不良で休んでおりました。未だ完全ではないので少しペースを落として投稿続けていきます。
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「僕はラアド。サンドラ族族長バラドとミスカの息子。…先ず、助けて頂いた事に感謝を」
胸の前で腕を交差させるトンプソールの敬礼と共に、ラアドと名乗った少年が頭を下げる。目尻につけられた雷の様な刻印から、恐らくサンドラ族の人間だろうと予測はしていたが、まさか族長の息子だったとは。驚く一同にラアドがこれまでの経緯をポツリポツリと語り出した。
仮面ライダージェネシスを名乗る仮面の男とジャファー族が、突如サンドラの土地を急襲し、降伏と服従を要求してきた事。
父・バラドはそれを撥ね退け、一族の命運をかけた決闘に挑んだが……敢え無く敗れてしまった事。
そして、同じ一族の人々が捕まる中、ラアドだけが何とか逃げ延びた経緯を。
いくら屈強さが身の上のトンプソール人と言えども、ラアドはまだ14歳の少年だ。父の死や一族の仲間達に起こった出来事に話が及び始めると、声に涙が混じり、何度も話を詰まらせた。
「…辛い事を思い出させてごめん。でも、そのジェネシスとジャファーは何の為に君たち一族を襲ったか……それは分かるか?」
「…ううん、分からない。『知る必要はない。貴様らはただの資源でありさえすればいい』って、アイツはっ……!」
ラアドが悔し気に声を詰まらせる。資源、という命ある者の尊厳をこれでもかと踏み躙るジェネシスの傲岸さに、その場にいる誰もが怒りを募らせた。
「エボルトの遺伝子に、一武族の誘拐……何にせよ、碌でもない事を企んでるのは間違いなさそうだね」
「当然だ。こっちはケンカを吹っ掛けられもしたからな。ここまでされて、日和っていられるかってんだ」
「一連の事件は全て仮面ライダージェネシスとかいう奴に繋がる訳か……。状況から見て、ジェネシスとジャファー族がグルなのも間違いなさそう……。だが、その分攻めやすくもある。サクラさん、ここからジャファーの拠点までどれくらいかかる?」
戦兎の問いに、サクラが地図を見ながら考え込む。ここアレステリスは3国の丁度中間点に位置している。そこからトンプソールのミドルガ連峰まで移動するとなると……。
「案外近いわね。全速力で飛ばせば、2日もあれば」
「…よし。状況的にあまりグズグズもしてられないし、明朝になったら動けるメンバーで出よう。サンドラの人々を、無事に助け出さないとな」
戦兎の言葉にその場の全員が躊躇いなく頷く。その様子を見て、ラアドは面食らった様に目を瞬かせた。
「…まさか……アンタら、あいつと戦うつもりなのか?見ず知らずの僕たちの為に、凶暴なジャファーとあのジェネシスに挑むって?…どうして、そんな……バカげた事……」
「…別に、理由なんかないよ。そうでしょ、戦兎?」
「ああ。どの世界でも、誰の為であっても……愛と平和を守る為に戦うのが、仮面ライダーだからな?」
愛と平和。そんな月並みな理想を、しかし恥ずかしげもなく戦兎は言い切る。確信に満ちたその表情に、ラアドは心なしか圧倒されるものを感じた。
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明日の出立に備えて、今日は早めに寝た方がいい。桐生戦兎というあの青年に言われた通り、さっさと床についたラアドだったが、どれだけ時間が経っても一向に眠れる気がしなかった。
この屋敷——デュランダール家というのは、アネスタの貴族に当たるらしい。使っていいと宛がわれた部屋には、今まで見た事もない様な大きなベッドが置かれ、シーツはフカフカと肌触りも良かったが……それが却って落ち着かなかった。
サンドラ族内での集団生活に慣れているラアドにとっては、部屋に自分以外の誰もいない、というのも戸惑う原因の1つだ。誰もいない部屋の静寂さを意識するほど、今でも苦境に立たされているであろう仲間たちへの心痛が胸の内に広がっていく。滅多にないこの状況を何の抵抗もなく受け入れられる程、今のラアドには心の余裕がない。
今は一刻も早くジェネシスの元へ乗り込み、仲間たちを救出する。今はそれだけを考えていればいいのに、下手をすると心の奥から、またジェネシスの圧倒的な力への恐怖心が湧き上がって来て、全身が竦み上がる様に動けなくなってしまうのを感じる。そして、その瞬間にはまた失望した様な父の顔を思い出してしまう……。
——どうして、こんなにも勇気がないのだろう?
武勇で鳴らすトンプソールの、しかもその代表たる族柱の息子であるにも拘らず、ラアドは昔から争い事が苦手だった。武術の修行よりも異国の商人から買った本を読み漁っている方が好きで、その為に何度父や同年代の友人から呆れられたか分からない。だが、こんな事になるのなら、戦わなきゃいけない時がやってくるのなら、その為の備えをしておけばよかった……。
「ラアド、ちょっといい?」
不意にノックと共に声が聞こえ、ラアドは慌てて振り向いた。部屋のドアからではなく、バルコニーに通じる掃き出し窓を開けて、金髪銀目の少年——確かレイトと呼ばれていた——が入ってきた。
「ごめんごめん、起きてるのが見えたからさ。…眠れない?」
「…ちょっと落ち着かなくて」
「ああ、分かるよ。慣れないとなかなか……ね?」
少し不躾過ぎたかと思ったが、レイトは気にした風もなく柔和そうに笑い、手に持っていたマグカップの1つをラアドに差し出してきた。
「…ナニコレ?」
「ココ——じゃ、なかった。『ラテア』って言うんだ。気分が落ち着くからどうぞ?」
淹れたばかりなのか、レイトから差し出された濃い茶色の飲み物はまだ湯気を立てている。少し冷ましながら恐る恐る口に含むと、フワリと優しい口当たりと甘さが口腔中に広がり、思わず息を吞んでしまった。
「口に合わなかった?」
「…ううん、すごく美味しい」
そりゃ良かった、とレイトが頷く。トロリと甘いラテアをゆっくりと胃の腑に落としていく内に、手足がジンワリと温まり、確かに気分が落ち着いてくる様な気がした。
「…ごちそう様。…アネスタには、不思議なものが色々あるんだね……」
「そう?でもこれ、材料はトンプソール原産だって聞いたよ」
「うそっ⁈これが……?」
「俺も詳しくは知らないけど……ラッツって言う果実の種を原料にして作るんだって。まぁ、最近アネスタの神聖教会が錬真術の実験中に生み出したのがきっかけらしいけど」
ラッツは確かにトンプソールの至る所に生えている常緑樹だが、基本的に食べるのは果肉が中心で、種は捨てている事が殆どだった。味もあまり良くない為、みんな積極的に食べたがるものではないと思っていたが、まさかこんな甘いものに化けるなんて予想もしてなかった。
「…そうか。錬真術って、こんなのも生み出せるんだ……」
「うん。ラアドも錬真術に興味があるんだよね?」
「……っ。…どうして、それを?」
ラアドが問うと、レイトが折れた1本の槍と粗製のライドラッグを取り出して見せた。
「これ、倒れてた君が握りしめてたから、多分ラアドが作ったんじゃないかってマヤが言ってた。エンチャントタイプの槍、だよね?」
「…うん。本で得た知識を元に、商人から買ったジャンク品とかを組み合わせて作ったんだけど……」
色んなパーツ群をケーブルや革で既存の槍に繋いだデザインは、あまり洗練されておらず、なんだか居たたまれなかった。雷の霊薬も自身で素材を採取して作成してみたものだが、やはりレイト達が使っているものに比べると、やはり不格好に見えてしまう。
…否、見た目が悪いだけならまだ良かったかもしれない。
「…失敗作だったんだ。武術の修行をサボってまで作ったのに……肝心な時には、何の役にも立たなかった……」
怒りに任せて振り下ろした雷槍は、しかし線香花火程度の火花が散ったのみで、何の痛手にもならなかった。ジェネシスが仮面の奥でせせら笑ったのを今でも覚えている……。
「…トンプソールは、その地の大半が岩場と灼熱の砂漠だろ。人が生きていくには、あまりに過酷な環境だからこそ、屈強さや武勇を重んじる民族性が生まれた……。それは分かってるんだけど……僕は正直、あまり好きじゃなかった……」
驚くでもなく、レイトは無言で頷いてくれる。それに寄りかかる様にラアドは、今まで誰にも語った事がない胸の内を訥々と漏らしていった。
「だってそうだろ?族柱の1つって言っても、サンドラには柔らかいベッドもなければ、ラテアだってない。僕がどんなに錬真技術の必要性を説いたって、そんなモノより武術や精神の方が大事だって言ってさ……。そんな僕たちが、シドニアやアネスタでは野蛮な連中だって言われてるのも知ってる……」
「…ごめん。そんな事ないって言い切れたらいいんだけど……そうは言えないな……」
「いいよ、別に。…でも、僕が必要だって思ってた力は……結局、皆を救う事なんて出来なかった……!」
無駄な研究に明け暮れずに、武術や勇気を磨いた方が結局は役に立ったのだろうか?そう思えば思うほど、父や仲間達からの失望の目線が強まっていく気がする。
「…皆と離れ離れになって……あの場所がどれだけ大切だったか、やっと気付けたのに……!僕にっ……僕に勇気がありさえすれば、こんな事になんて———!」
「ラアド」
後悔と悔しさ、悲しみが渾然一体となって溢れ出すラアドに、レイトが優しく語りかけた。
「俺さ、姉がいたんだよ。優しくて、何でもできて……凄く仲が良かったと思うんだけど……些細な事で喧嘩して、それっきりになっちゃったんだ。姉はその後、直ぐに死んじゃったから……」
「レイト……その……お気の毒に……」
レイト……ではなく、現代日本で暮らしていた日比野玲人の話だ。姉の日比野灯里は玲人が小学生だった頃に死に別れてしまっている。玲人とはかなり歳が離れていたが、一般的な姉弟と比べてもかなり仲が良かった方だろう。
なかなか恥ずかしくて言えなかった事だけど……玲人は姉が大好きで、正しく彼女は家族にとって日々の灯りそのものだっただろう。だが、そんな事を強く実感する様になったのは、皮肉にも姉が死んでしまったからだった……。
「大切なものの価値って、なかなか気づきにくいんだよ。下手したら、失って初めて気付いてしまう事もある。…でも、ラアドはまだ失ってないだろ?サンドラの人々は、まだ生きてるんだから」
「…でもっ……僕なんかが行ったって……何が出来るかっ……」
「それは、手を伸ばさなきゃ分からないよ。大切だって、放したくないって事に気付けたなら、手を伸ばし続ける事は出来るだろ?それを最後まで貫いてみせればいいんだ」
「…最後まで、貫く……」
「そ。どんな道でも、最後まで貫いてみせればそれは本物になる。武術も勇気も錬真術も、今は形にならなくたって、いつかは……さ」
そう言って微笑むレイトの顔は、自分と大して変わらない年齢の筈なのに、少しだけ大人びて見えた。きっとまだその言葉を全てのみ込む事は出来ないけれど、ここでそれを正直に言うのも不義理というものだ。ラアドが礼を言いかけた刹那、「レイト、ここにいるのか⁈」と扉が叩かれた。
扉を開けると、ゼオラが立っていた。冷静沈着な彼女にしては珍しいくらいに顔が青ざめている。
「ゼオラ?どうしたの一体?」
「それがっ……アイリィに渡したジャイロだけが今帰って来て……。どうも、あの娘は……ジェネシスに捕まっているらしい……」
「なっ……⁉」
レイトの顔もゼオラと同じくらいに青ざめたのが、ルネアの青い光の中でもはっきりと分かった。
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『…まぁ、それもあって私は思ったのだ。全ての者を平等に救う事など出来はしない。私が仕えるべきだったのは、愚かしい神聖教会でもなければ、無知な民衆でもない。…ただ、私の才能を生かしてくれる者だけだとね……』
『…フランハイム教授?』
『間もなく新世界の扉が開く。私とホムンクルス達の力を示せる世界が、ね。…君にも協力して貰うぞ、アイリス・ルナレス』
ジャイロシェルフィーの録音装置からアイリスと他の男——フランハイムと呼ばれる男の会話が広間中に響く。男の不穏な宣言が放たれると直ぐに、何かが倒れる音が聞こえた。眠り薬を吸引させられたアイリスが倒れ込んだ様だった。
『…ジェネシスか?私だ。錬真力の高い人間を確保したよ。クラスSSだ。きっと君の……いや、我々の千年王国の創造に役立つ筈だ』
主の危機を察したジャイロシェルフィーは、そこで外へと飛び出したのだろう。録音はここで途切れていたが、お陰で彼女の身に起こった事がハッキリと伝わった。アイリスもまた、ジェネシスの仲間によって捕らわれてしまった……。
「クソッ!何が千年王国だ⁉奴ら一体なんのつもりで……!」
「だが……お陰で色んな事が分かった。敵の中にホムンクルス研究の第一人者である、テオドール・フランハイムとかいう奴がいる。そして、千年王国とやらを作るには、錬真力の高い人間が必要……か」
問題は錬真力の高い人間の方だ。錬真術を行使する為に必要な、体内に流れる力の事で、それには確かに生まれつきの高低差がある。アイリスは確かに本物のパラディンに選ばれてもいいくらいに高い錬真力の持ち主だが、一体それをどうするつもりなのだろう?サンドラの人々を攫って行った事と何か関係があるのだろうか……?
考えていると、戦兎が「レイト、ちょっといいか?」と耳元で囁いた。そのまま誰もいない廊下に出ると、戦兎が切り出す。
「あのジャイロシェルフィーって技術……お前達以外で持ってる奴はいるか?」
「……?いや、あれはマヤが独自に作ったものだから、他には誰も使ってない筈」
「そうか……。さっきの録音で、フランハイムがジェネシスに話しかけたよな?あの少し前に、妙な音がしたのに気付いたか?」
そう言えば……と、録音を思い返す。他に誰もいない場所で話しかけるのも不自然だが、確かにその直前に砂を踏みしめる様な音がしたのに気が付いた。
「あれな……無線機の接続音じゃないかと思う」
「なっ……⁉無線機?」
実際使った事がある訳じゃないが、確かに無線機同士を接続させる時に、ああいう音が鳴るイメージがある。それに、この世界で他に通信技術がある訳もない。
「…ジェネシスは、この世界にない通信の技術を持ってるって事か……」
「ずっとその可能性を考えていたんだが……これで確信が持てた。仮面ライダージェネシスもこことは別の世界……パラレルワールドからやって来た可能性がある」
そう呟く戦兎の声には確かな確信の色が灯っていた。
〈設定メモ〉
◇錬真術
・この世界に古くから伝わる、万物を別のものへと再構成する技術。植物やデブリスの組織片から作り出されるライドラッグ(霊薬とも)や、デブリスの遺骸を剣に織り交ぜて作られる魔剣などもこの技術によって作られる。
・錬真力という人の身の内に宿る力が発動キーとなり、この強弱によって出来る範囲が決まってくる。
少し短いですが、ここまでです。次回をなるべく早く投稿できる様に頑張ります。
それでは。