ベルの姉が「才禍の怪物」なのは間違っていない   作:イルイル

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百合の間に挟まる女。


第29話 【奇跡】の担い手

 

マリーがベートをボコった次の日くらいの頃。その日の神会(デナトゥス)は教会で行われた。「例の会場」にもなっていたことだしここを神々が使いたがるのは自然な流れだろう。

 

「今日の本題はやっぱあの子でしょ!」

 

「まあこの場に出れる神は殆ど呼ばれていたみたいだしなー」

 

「半年足らずでレベル6ってどんな控えめに言ってもぶっ壊れだよなー他の子達の限界を鼻で笑うかのように乗り越えていく」

 

「10代でレベル7に至っていた【静寂】自身も認める後継者か…」

 

「【闘牛祭】ってアレまたやるんだろ!?郊外になんかでっかい建物造っているみたいだがもしかして”あそこ”でやるのか!?どうなんだよヘスティアぁ!」

 

「うん、まあ…アソコはウチの訓練場として造ったみたいだけどお察しの通り次、アステリオス君とはあそこで戦うつもりみたいだよ…」

 

「2対1とはいえまあ4と5がアレに勝ったらランクアップも然りか…」

 

「【静穏】ちゃんの魔法についてkwsk!」

 

「【疾風】ちゃんや【千の妖精(サウザンド・エルフ)】ちゃんの魔法まで使ってたよな?」

 

「今のマリーたんはウチのリヴェリアの魔法も全部使えるでー」

 

「あ、ちょっとロキッ…」

 

「これくらいはええやろドチビィ”ソレ”知ったところで誰があんなん対策出来んねん」

 

「あの【【覇王】の名のもとに命ず】から始まる魔法だろ?3の頃ならともかく今なら全く名前負けしてないよなー」

 

「本人は『レベル10くらいになるまでは名乗りたくない』って言ってるけどね…」

 

「まあ9までなら既に居たことがあるんだあの子ならあるかもなー」

 

「で、『条件まで教えろ』とは言わないからせめて魔法名くらい教えろって、別にマイナスにならんだろそんくらい」

 

「はあ魔法名は【オーバーロード】…察しの通りロキの所のレフィーヤ君と同系統の魔法だよ」

 

「あの子【静寂】の速攻魔法も使えたよな…広域魔法も…ってことは【九魔姫(ナイン・ヘル)】と【静寂】を合体させたようなもんじゃねえか!何それチートじゃん」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】の回復魔法もだぞ…」

 

「あの【再生治療】もすげえよな!ウチの子泣いて喜んでたぞ!」

 

「剣術も凄かったな…」

 

「素手もめっちゃ強いでー」

 

「「「「「ヘスティアいいなー」」」」」

 

恨めしそうな神々ばかりだった。

 

結局新たな二つ名は【覇王(オーバーロード)】に決まった。偶然にも同じ名前のスキルを持っていたが当然それは言わない。

だが結局普段遣いにするのは仰々しいので同業(ぼうけん)者以外には普通に「マリー」の愛称で幅広く呼ばれるようになる。

本人は親しみを持たれる方向を目指していたのである意味狙い通りである。

ちなみにリュディス達はまだ届け出をしていなかったので、まだこの場の面々には知られていない。

ベルの二つ名は正史(原作)通りに【白兎の脚(ラビット・フット)】に更新された。

 

 教会の礼拝堂とは別にある一室…そこにデメテルは一柱(ひとり)呼び出されていた。

 

「それで…私だけ呼び出して何の用かしら?マリーちゃん」

 

「近頃デメテル様が沈んでいた様子だったので…ヘスティア様やタケミカヅチ様も心配してましたよ?もしかして眷属の何人かが見なくなったことと何か関係ありますか?」

 

「ッ…故郷にっ…帰ったのよっ…」

 

「複数が同時に?」

 

「偶然よっ…」

 

「気になって調べましたけどオラリオ生まれの方も何人かいましたよね?喋れないのは誰かに脅されているのですか?私じゃ信頼出来ませんか?ウチには私の他に『真の世界最強』が居ます。それでも無理ですか?」

 

「デメテル様のことはヘラ(おばあ)様から『気にかけてやってくれ』と頼まれているのです。ヘスティア様とヘラ(おばあ)様の身内なら私にとっても身内です。力になりたいのです。」

 

「ッ…ヘラがっ…」

 

「ここの部屋の会話は間違いなく他に誰も聞いてません、どうか私に打ち明けてもらえないでしょうか?」

 

「駄目よっ…()()()にみんな殺されちゃうっ…」

 

「…都市の破壊者(エニュオ)の正体は神ディオニュソスですか?」

 

「ッ!?なんでっ…」

 

「前々からクサいと思っていたんですよね…『眷属の仇討ち』なんて聞こえの良いことばっかり言って、

その大切なはずの眷属をレベル5以上の怪人(バケモノ)まで出てくる【ロキ・ファミリア】でも油断出来ない、死地に送り込もうとするあの神が。

自身だけが命を懸けるのならまだしも…本当に大切なら最高レベルが3程度の眷属達をそんな所に送り込むわけがないっ…

同盟者の【ロキ・ファミリア】をアテにしているのならどのみち最低ですし…

いつもいつも素面(しらふ)に見えて酒臭かったし…」

 

「それで最近デメテル様、アレとよく居ること多いじゃないですか、どこか怯えた様子で…最近ゼウス(ジジイ)と話したんですが、『ディオニュソス(アヤツ)が善神とか信じられない、そのうち絶対なんかやらかす』って言ってましたよ」

 

「もしかして既に何人か殺された上で脅されましたか…?つらいことを思い出させるようで悪いのですが、回収出来た遺体の場所を教えていただいても宜しいでしょうか?」

 

そうして、姿消しの魔道具を自身とデメテル様に被せて、こっそり教会を脱出して、デメテル・ファミリアのホーム、その敷地内の墓に向かうのであった。死後余り経っていない者達から【ディア・オルフェウス】を試していく。

遺体の数は8名分だったが、そのうち蘇生に成功したのは3名だけだった。デメテル様はそれでも私を責めることなく泣いて喜んでいたが…クソッもっと早く気にかけていれば…ヘスティア様や、おばあ様に合わせる顔がない…

蘇生させた眷属達は、暫く表に出せないので竃火の館に送り届けた。そして2人で教会の個室にこっそりと戻るのであった。

そこでは…ロキ様とヘルメス、ついでにフレイヤが待ち受けていた。

 

「ロキ様…それで首尾はどうでしたか?」

 

「予想通りやたらマリーたんの情報ばっか探ろうとしてきたで、『この前の』にハブられて、相当焦っているみたいや」

 

「それじゃこれから『答え合わせ』ですね、そろそろ帰った頃でしょうし。全部すぐに判るかは微妙ですが。」

 

マリーがそう言って机の上に水晶を置く。そこからは当のディオニュソスとフィルヴィスの喋り声が聞こえてくる。

 

「クソックソックソォッ!あのクソガキがレベル6だと…!?病気を克服したらしい【静寂】までいるというのにッ…!ロキの子達は良い声で哭いてくれそうだったのに…アイツが台無しにしやがったんだぁ!」

 

「幹部を1人も殺れないどころか、雑魚すら1人も欠けさせなかったんだ…!アイツが!ヘスティアの眷属でゼウスらの系譜というのが余計に憎たらしい!」

 

「フィルヴィス!オマエ全力状態ならレベル7に届くって言ってたよなァ!あのクソガキオマエなら殺れるんじゃないのか!?」

 

「【静寂】が傍らに居る限り無理だと思います。たとえレヴィスと協力しても…」

 

それからわざと聞かせてるんじゃないかっていうくらいディオニュソスはべらべら話した。神ペニアのことや、更に聞き捨てにならないもので「精霊の六円環」や「ニーズホッグ」とか。まあ後者は本物ではないだろうが…

デメテル様と神ペニアを身代わり(スケープゴート)にしようとしていることも。「精霊の六円環」のことを私が説明すると、皆真剣な顔になった。オラリオ消し飛びかねないからね。偶にはゼウス(ジジイ)の知識も役に立つものだ。

まあ前に私が起こした爆発に巻き込まれたのがいたせいで、大分計画は遅れてしまったらしいが。

 

「はあ…フィルヴィスさんは怪人(クリーチャー)の可能性が高いみたいですね…」

 

「レフィーヤになんて言ったらええかなあ…」

 

「フレイヤ…参考までに聞いておきますが、貴女からのフィルヴィス・シャリアの印象はどんなものですか?」

 

「そうね…非常に惜しい子…他所から奪う気まではないけど…無所属(フリー)で居たら即スカウトするくらいには昔は輝いていたわ…今は見る影もないくらいボロボロで…生きているのが不思議なくらいの有様ね、

付け加えると仲間を失っただけじゃ()()までにはならないと思うわ、貴女から見たら?」

 

「そうですね…根は善人だと思うのですが…まだレベル3なのが不思議なくらいの人です。才能はリューさんやヘディンにも比肩するくらいの、ソロでやっていてもレベル5以上、大手で活動していればレベル6以上には確実になっているくらいの人だと思います。

そのあたりのちぐはぐさに警戒して気にはなっていたんですけどあんまり深入り出来なかったんですよね…」

 

「さて予想外にすぐ確定しましたね都市の破壊者(エニュオ)の正体…友神(デメテルさま)を散々虐めてくれやがった悪神(クズ)が相手なら…フレイヤも殺る気出るでしょう?オラリオ崩壊の危機でもありますし」

 

「待ってマリーちゃん、ディオニュソスを疑っていたことは聞いていたけどさ…”これ”なに?」

 

「盗聴の魔道具…要するに盗み聴きのためのものです。音を拾う側の物の外見や設置方法は内緒です。”音”は私の得意属性ですからね、機能を絞ればこのくらい造作もないです。

心配しなくとも悪いことしない限りは今この場にいる神様達に仕掛けるような不敬なマネはしませんよ?」

 

それを聞いて周りの神々は少し安心する。音を近くで拾うための魔道具もきちんと存在するようだ。

これがそういったものなしで好きな場所の音を拾えるようになったらいよいよもって神の力(アルカナム)の領域である。防諜もクソもあったものじゃない。

それに警告もしているのだ。副音声で「悪いことするんじゃねーぞ」と言われているのをこの場の神々は理解している。

 

 

「デメテル様…フィルヴィス・シャリアは貴女の眷属の仇の1人でしょうが、私が彼女を救おうとすることを許していただけますか?」

 

「マリーちゃん忘れてない?貴女は私の子達の命の恩人でもあるのよ、碌でもない男に引っかかったあの子を助けられるなら助けてあげて?」

 

「マリーたん助けられるんか?あの怪人(クリーチャー)になってもうたフィルたんを」

 

「ええ、確率は低いですが『ある魔法』のお陰で目処は立ちました。賭けとも言えない、強引で穴だらけの力業ですが…まずレヴィスを捕まえて実験します」

 

「アレも恐らく元人間の…古代人の類でしょう。彼女の言葉の端々から『使役されている現状が不満』という態度がありありでした。成功すれば多分寝返ってくれるでしょう。」

 

「ぶはっ…あひゃひゃひゃひゃ散々殺し合った怪人(クリーチャー)を寝返らせるって…マリーたん、最高!ぶっ飛んでるわあ!」

 

結局未だ現在進行系でデメテル様の眷属達が人質に取られているので、「暫くディオニュソスは泳がせよう」という方針で固まった。

 

 

────────────

 

 

 

 裏ボス(おばさま)戦後、師匠(せんせい)の回復魔法で治療された私はすぐに目が覚めた。ベルやアイズも放置したら危険くらいの深手は負っていたがそちらも治療済みだった。

ベルは春姫に膝枕されていた。私はおばさまに、だ。アイズのアビリティは最終日だけで更に爆上がりしたらしい。

ちなみに3人で「打倒【静寂】同盟」を立ち上げた。ベルはそんなでもないが、アイズのモチベはそれなりに高かった。身近に目標が出来るのは良いことだ。

 

「アルフィア君が8でマリー君がレベル7って…う…これってファミリアの等級Sランクになっちゃうんじゃあ…リュディ君達も居るし…この前ですらヤバかったのに…

ベル君も、6までもうちょっとってとこだし、税金はマリー君のお陰でなんとかなるとはいえ…」

 

「あらファミリア立ち上げて数ヶ月でトップ層入りって流石ヘスティア様持っておられますねっ」

 

私とおばさまは元々ランクアップ間近ということもあり、あの一戦が最後の一押しになりランクアップした。おばさまは病気をほぼ独力で克服していたことが偉業扱いされていたらしい…なんじゃそりゃ…。

というか良いの一撃入れただけで負けたのに…まあ上げられるなら当然上げておく。【ヘル・フィネガス】使ったタイミングで【ウィル・オ・ウィスプ】使っていれば勝てていただろうけど、2人もランクアップ出来たのなら結果オーライだろう。

それに【絶対切断】使われていたらどのみち負けていたし…

 

「近頃、『ヘスティア最近羽振りが良いのね』って女神達によく言われるんだぜ、というか掘り当てた温泉を活かす旅館はまだいいとしてもいくらなんでも円形闘技場(コロシアム)はやり過ぎだろうっ!」

 

「ヘスティア様に失礼なこと抜かす(クズ)は経済的に絞め殺すので遠慮なく教えてくださいねっ♪」

 

「フ…私もレベル8か…神時代で2人しかいなかった領域に至るのは感慨深いな…今ならマキシムにも【女帝】(あのおんな)にも真っ向勝負で勝てそうだ…」

 

元々病さえなければレベル9の【女帝】越えも確実視されていた人だ。元々知っている人達からすれば「ようやくか」くらいだろう。

私も今回のでもう追いつけてしまっていたら拍子抜けだ。少し前までの明確な世界最強の一角たる7に到達したことは感慨深いが。

だが、おばさまの更新より先に私がランクアップを果たしてきっちり魔法もラーニングしておいた。

 

 

───そうして迎える第二次人造迷宮(クノッソス)攻略戦。当日。

 

「レベル2以下には危険過ぎる」とか適当な理由を付けて【ディオニュソス・ファミリア】の大半は不参加にされた。参加者はフィルヴィス・シャリアだけだ。

マリーの一存で【ヘスティア・ファミリア】の主要メンバーは全員参加だが。リリのみ地上から眼晶(オクルス)を使っての指揮だ。特にヴェルフは外せるはずもない。

第一級冒険者が4人にまでなった【ヘスティア・ファミリア】はAランクでも詐欺もいいところだろう。同じランクだった旧イシュタル派閥など、財力はともかく、戦力では比べるべくもないのだ。

何よりも2枚の【才禍】がエグい。そろそろロキ・フレイヤでも厳しいレベルになってきている。本気で争えば幹部でも何人かは確実に死ぬであろう。

 

 そして【ロキ・ファミリア】の下位団員の多くが流れで不参加になってしまった。

だが【ヘファイストス・ファミリア】、【ヘルメス・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】何より【フレイヤ・ファミリア】を引っ張ってこれたのが大きい。

更に【ガネーシャ】までいる。マリーが多くを説得したらしいが…どうしても手が足りないのなら異端児(ゼノス)も裏から参加させるのもアリだったが…今回は2人しか呼んでない。

 相手のタネはもう既に割れている。聞いた時は情報量が多すぎて、さしものフィンも少し混乱したが…

今回はマリーは本人たっての希望で「大事な役割」があるので戦力としてはあまり期待出来ない。

その代わりレベル8の頂に至ったアルフィアが「用事」さえ済めば思う存分に暴れてくれるというのだ。各派閥の幹部級にはマリーがしようとしていることを伝達済みだ。

指揮系統で揉めそうだったのでそれぞれ担当域を分けて、【ヘスティア】はリリルカが、【フレイヤ】はヘディンが、【ヘルメス】はアスフィが、【ガネーシャ】はシャクティが、【ロキ】はフィンが、それぞれ指揮する運びになった。

【ヘファイストス】は椿たっての希望で【ヘスティア】の場所に就いた。マリーの作った武器を実戦で見たかったらしい。

 

どこかで戦力不足が起きれば、総指揮官も兼ねたフィンに報告され、フィンの指示で他所の担当域に戦力が回されるような流れだ。全員に眼晶(オクルス)改が配られている。

「特殊な操作」をしなければそれぞれの指揮官に即繋がる仕組みだ。フィンの手が回らない状態に突入すれば、全体指揮権はリリルカに移譲される。フィンと違い全体を俯瞰出来る立場なので寧ろ最初から指揮してもいいくらいだ。

更にマリーが呪道具(カースウェポン)対策に呪いを肩代わりしてくれる【身代わり藁人形】なるものを開発し、全員に配ってある。

一応アミッドも参加しているが…各指揮官には、敵の作戦の大半が伝達済みだ。そうして各々が突入していくが…

フィルヴィスはレフィーヤと共に待機状態にさせられていた。やがてアイズと共にいの一番に突入したマリーが戻ってきて、

 

「レフィーヤ、成功です、準備は整いました。行きましょうか。」

 

そうして、3人だけで突入して少し進み、辿り着いたその広めの空間で、待ち受けていた者達がいた。そこに居たのも3人だけだ。

フィルヴィスも神デメテル伝いでうっすらと聞いていた、猛牛(アステリオス)と【静寂】のアルフィア、見た目だけは場違いな竜の少女(ヴィーヴル)が待ち受けていた。最近のアステリオスはレベル8クラスまでに至っている。

そこで唐突にマリーが告げる。

 

「レフィーヤもう良いですよ」

 

「フィルヴィスさんっ騙してごめんなさいっ」

 

レフィーヤはそう言うや否や、アルフィア達の後ろに下がる。レフィーヤには全て話してある。フィルヴィス・シャリアの推測交じりの「これまで」とその正体についても。

最初は受け入れてくれなかったが録音した音声まで聞かせたら信じてくれた。

 

「レフィーヤが謝る必要は有りません。騙していたのはお互い様でしょう」

 

フィルヴィスは混乱していた。「まさかこの段階でバレるはずは」と…

 

「もう1人は呼ばなくて良いんですか『エイン』…いえ『エインセル』でしたっけ…」

 

「全て…もう、知っているのだな…」

 

「このまま不完全なまま負けても納得いかないでしょう?周りの仲間達は逃亡防止のためです。私を殺したがっていたでしょう?貴女の主は」

 

「貴女の異様に隠蔽に気遣った防御性能度外視のペラッペラの衣服も貴女の主の意向ですよね。貴女の正体は確かに誤魔化せていたかもしれませんが、多少装備に造詣の深い者なら違和感持てましたよ?

都市の破壊者(エニュオ)って、バカなんですね?ン億歳の癖にそんなくっさい名前名乗っている時点で器も知れてますが」

 

「キサマがぁああディオニュソス様を侮辱するのかああああ!」

 

「出ましたね…最後の怪人(クリーチャー)…」

 

仮面を外したフィルヴィスと同じ顔をした「もう1人」が現れる。

 

「参考までにどうやって気付いたんだ…今後のために、教えてくれないか?神ペニアを隠したのもお前の仕業か…」

 

最初から居た方のフィルヴィスが質問してくる。

 

「貴女達に『今後』なんてないんですけどね…ペニア様は幸いヘスティア様と親しかったので、酔いを覚まして説得したらあっさり保護されてくれましたよ。

「私の魔法」の代名詞は【オーバーロード】になりつつありますが、元々の得意属性は「音」になります。

今回の作戦で投入された眼晶(オクルス)で理解る通り、映像や音声を遠方に飛ばす技術は確立されています。ウチの教会で行われた神会(デナトゥス)にのうのうと出てきたあの神に、

極小の針とそれに取り付けた音を拾うための水晶の破片…それを引っ付ければ…貴方方のホームでの会話も筒抜けになります。

今頃地上ではあの神は神威対策に呼んだタケミカヅチ様に捕らえられていますよ。デメテル様を散々虐めてくれやがったからフレイヤもお冠でしたしボコられまくってるんじゃないですかね?

唯一の手駒の貴女方がここにいるんじゃ人質のために躊躇する理由もないですしね、おっと、私達を皆殺しにしなきゃ地上に戻るなんて出来ませんよ?

なんでしたっけ、『完全な状態』なら私にも勝てるとか言ってましたっけ?最期の機会ですよ?試してみますか?」

 

覚悟を決めたのか、2人のフィルヴィスがこちらを睨む。

 

「マリーベル…私は、オマエがキライだった。(ベル・クラネル)には散々悪態を吐いていたレフィーヤがオマエだけは手放して誉めるんだ『誰よりも凄い才能があるのに不断の努力を続ける尊敬出来る人間(ヒューマン)だ』『いずれ剣姫(アイズさん)達も超えるかもしれない』とな。

溢れんばかりの才能を持ち、穢れきってしまった私なんかよりよっぽどレフィーヤに相応しいお前が、レフィーヤとの輝かしい未来が約束されたオマエが羨ましくて大キライだった」

 

「まあ、あんなに恨めしそうな眼で見られてたからそのあたりには気付いてましたが…私は貴女のこと結構気に入ってましたよ?私は才能のある人が大好きですからね。

同時に『貴女ほどの才能を台無しにしているのはどこの無能神(クズ)だ』とも思いましたが。フレイヤも『”こんなこと”になるくらいならとっとと奪っておくべきだった』って言ってましたよ。本当使えない駄女神ですよねえ。」

 

「そこの【静寂】や牛だけでも大誤算だったのにお前のような者が僅かな間に台頭してきてしまったのが…どこまでも運が無かったのだろうな私達は…」

 

「男運はこれ以下がないほどに最低でしょうねえ…貴女達が”そう”なってしまったのは27階層でのことが原因ですか?」

 

「そうだ…」

 

「さ、前口上はもういいでしょう。貴女方の”全力”とやらを見せてください。」

 

「「【終わる幻想、還る魂───引き裂けぬ貴方(きずな)】【エインセル】」

 

そうして2人のフィルヴィスが唱える分身魔法の解呪式。エインが「本体」に吸い込まれていく。

そこに現れたのは魔石と緑の肉を露出させた「妖精の怪物」だった。

 

「勝ち目なんて0なのに…もう止まれないんですね…」

 

悲しそうにマリーベルが言う。

後ろに控えるバケモノ達もどう少なく見積もってもレベル7以上…確かにこの場での抵抗はほぼ無意味だ。

レフィーヤは悲痛そうな表情をしながらも決して見逃すまいとこちらを見ている。済まないなレフィーヤ。私はこれからお前の友人を殺す。

 

「【福音(ゴスペル)!】」

 

「ぐっ!?」

 

「ハッ…一切”音”対策されてないとは…レヴィスもでしたが…舐められたものですね?バルカはアスフィ先輩より数段格下みたいですね…」

 

 

そうして想いの丈を叫びながら、幾度もマリーとフィルヴィスは激突したが今の彼女はアルフィアの次に強い、世界で2番目に強い冒険者だ。

基礎性能(スペック)頼りの今の彼女が勝てるわけがない。何より…

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖(いかずち)】【ディオ・テュルソス】!」

 

「効きませんよ」

 

フィルヴィスの魔法は【静寂の園(シレンティウム・エデン)】に阻まれかき消されてしまう。予め張ってあったその防御魔法は力で突破出来るものでもない。

余談だがマリーはアルフィアより先に更新してレベルで並んだ後即座にアルフィアの魔法をコピーした。アルフィアはその後に更新した。

【オーバーロード】の制約である「同レベル以下の者からしかコピー出来ない」という性質は、異常な成長速度を誇るマリーはほぼ考慮しなくていいことなのだが、

今回のようにタイミング次第では機会(チャンス)を逃すことに成りかねない。ただ元の使い手にレベルで再び抜かれることがあっても使用不可能になることはない。

本家(オリジナル)のように即座に展開出来ない分使い勝手は劣るが、利用価値は高い。予め展開しておけばほぼ欠点もない。

 

「【静寂】の防御魔法ッ…どっちがバケモノだっ…」

 

「今の貴女はレフィーヤが絶賛していた魔法剣士としての戦い方も見る影もないですね。この程度ならあの猪の方が万倍楽しめそうです。」

 

そうして倒れ伏したフィルヴィスはアステリオスが運んできたオリハルコンで作った拘束台に固定された。

 

 マリーは以前から「ダンジョン最下層完全攻略後」に起こり得ることも、予想していた。(すなわ)ち、「ダンジョンからモンスターの発生が止まり魔石が産出されなくなる」可能性だ。

「ダンジョンそのものの消滅」というぶっ飛んだことも有り得ると考えている。そうしたことの次に起こり得る事態。世界各国が残された数少ない魔石(しげん)を求めて奪い合い、凄惨な世界中を巻き込んだ戦争に発展していくのではないか、と。

人間(神々もだが)一度上がった生活水準を下げることなど受け入れ難いのだ。”そう”なった時世界各国から真っ先に突き上げられるのは唯一の魔石産出地の迷宮都市(オラリオ)だろう。

多くのファミリアが残っている段階で、ラキアのような無謀な攻勢を仕掛けてくる愚かな国はそうそうないだろうが…ダンジョンが失われれば、いずれ殆どのファミリアがオラリオを後にするだろう。

長期的には、いずれ遠い未来で、代替エネルギー技術が開発されるかもしれないが、短期的に争いが起こることはほぼ確信していた。

そういった事態を見越して優先順位は未だ低めだが、マリーはダンジョン産の「怪物としての要素」を排した【人工魔石】の開発を以前から進めていたのだが…

そしてある時、怪人(クリーチャー)の存在を知ってから、「奴らの魔石と、これを入れ替えられれば精霊の支配から解き放たれて寝返らせることも可能なのではないか?」と考えたのだ。

「魂の在り処」を探るため、モンスターにとっては凄惨な実験も繰り返した。「人工異端児(ゼノス)実験」等も。

結論から言うと「魔石はモンスターの生命維持に重要な器官だが、魂の在り処ではない」ということが確信出来た。

 

元人間の生命(いのち)を維持するためのモノなら品質の低い十把一絡げのモノなど埋め込めないと思い、「自分に使っても不安にならないレベルのモノ」を求めた結果、結構時間が掛かってしまった。

深層の希少素材をふんだんに使った賢者の石一歩手前の【生命(いのち)の石】、素材の関係で2個しか作れなかった。

レヴィスに試験的に試したが、精霊から解放された彼女は主神という縛りもないのであっさり寝返ってくれた。

穴だらけの力業だったが、成功した。そのための【幸運】と【奇跡】だろう。

 

「これからすっごく痛くなると思いますが…麻酔なんてモノが効かない無駄に高性能な貴女の身体を恨んでくださいね?【【覇王】の名のもとに命ず。───」

 

「待てッ!?何をする気だ!?やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

叫んでいるが止めるわけがない。ちなみに気休め程度だが、すぐに灰に還らないようにエリクサーで満たした薬湯に浸けている。

そしてフィルヴィスの胸元の魔石を抉り取り、砕いて、素早く【生命(いのち)の石】を埋め込む。

 

「───【ディア・オルフェウス】!」

 

「僕を救った光…」

 

あっとメリュ喋っちゃ駄目だって…「(ふる)いフィルヴィスは死に新しい彼女を再誕させる」という認識で蘇生魔法を唱える。

【幸運】と【奇跡】で少ない可能性を確実にするために手繰り寄せていく。そうして───

 

「気分はどうかしら?新しいアナタは、いえ久々の元の身体は…」

 

「あっあっあっありがとおおおおおおおおおおおおおおう…」

 

フィルヴィスが泣きながら礼を言い、レフィーヤがこっちに駆けてくる。

 

「フィルヴィスさああああああああああああああああんっ!マリーありがとおおおおおおおおおおぅ」

 

2人が抱き合いながら泣いて感謝をしてくる。

 

「皆、先行ってて頂戴。3人だけでも充分でしょう、貴方達なら。」

 

「ああ…マリー立派だったぞ」

 

おばさまが別れ際に褒めてくれる。力量的には全員バラバラに散っても問題ないのだがおばさまがいないとここまで秘匿していたメリュは他所のファミリアに攻撃され兼ねない。

というか異端児(ゼノス)の2人は単独だと迷子に成りかねない。

そうして眼晶(オクルス)でおばさまが連絡を取り合いながら、一番戦力的に不安のある【ヘルメス・ファミリア】に3人は合流しに行くのであった。

 

「さて、フィルヴィス、いつ恩恵が切れるか判らない貴女には地上に戻ってもらいますが、ディオニュソスに最期の挨拶をしますか?思いっきり殴ってやっても良いんですよ?」

 

「貴女は、厳しくも優しいんだな…マリー…」

 

「正直もうアレと貴女を会わせたくないんだけどね」

 

「会わなければ後悔すると思ったのか?いや、いい、私はレフィーヤや貴女達を取った…ことになるんだろうな」

 

「碌でもない男との悪夢のような恋愛が終わって、同性の友達に慰められるって言うのもありきたりな話だわ。」

 

「むーっ」

 

「あら、どうしたの、レフィーヤ?」

 

「なんでフィルヴィスさんとマリーが急に仲良くなっているんですかぁ!」

 

「ぷふっ女の子同士なのになんでヤキモチ焼いてるのレフィーヤぁ?そーいやアイズに対しても怪しいわよねぇ貴女…でも私にも憧れてくれてるんだっけ?」

 

「ななな、違いますよーぅ!」

 

「あら、私のこと嫌い?」

 

「それも違いますぅ!」

 

「レフィーヤっ私はっ確かにっ彼女(マリー)に感謝しているがっ…そのっ…一番はお前と言うかっ…」

 

「あらぁ?私は『2番目の女』なの?」

 

「そっそうじゃなくてだなっ」

 

「ぷっフィルヴィスさんモテモテですねえ?」

 

「やー毒牙にかかる前に私達だけで退避しましょっレフィーヤッ…」

 

「ま待ってくれ…2人共っ」

 

「「なーんて」」

 

2人が挟むように両側からフィルヴィスの手を取る。

 

「嘘よっ♪」

 

「嘘ですっ♪」

 

「なんでそんな息が合ってるんだお前らっ…」

 

3人で手を繋いで笑い合いながら人造迷宮(クノッソス)を後にする。

 

フィルヴィスがもの凄い久しぶりに浮かべた心からの笑顔はレフィーヤが今まで見たどんなものより綺麗だったという。




結構説明とかすっ飛ばしちゃいましたが、未読だった方は、フィルヴィス・シャリアの深い闇については原作外伝で是非。
最初期から書きたい部分ではあったけど、結構あっさり終わらせちゃいました。
推理や推測パート書いても原作の焼き直しにしかならんので盗聴(はんそくわざ)でカット。
やっぱりこいつ現代人の転生者じゃ…!?

ベル君のアルフィアの呼び方

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