ベルの姉が「才禍の怪物」なのは間違っていない   作:イルイル

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ここ数日滅茶苦茶好きだったssの魚拓を見つけて見返しておりました。


第38話 遠征

ゴジョウノ亜夜(あや)は自他共に認める天才だ。いや()()()()()()()だ。実家で元々天才と呼ばれていた輝夜(あね)を凌ぐ鬼才として「一族の最高傑作」とも称されていた。

歳が離れすぎていたため、輝夜(あね)のことはあまり覚えていないのだが…出奔し、実家では(のち)に落伍者扱いされていた姉が、自分に一番普通に笑いかけてくれた数少ないマトモな人間だったということくらいは覚えている。

姉はなんてことないようにあの染みったれた実家の束縛から逃れた。なら自分にも断ち切れない道理はない。追手を斬り伏せながら振り切って、自由の身になってから初めにしたことは姉の足跡(そくせき)を辿ることだった。

実家に居た頃に「【アストレア・ファミリア】壊滅」の報は聞き及んでいた。だが、姉とその仲間達が何をしていたのか気になり、オラリオに向かうその過程で【アストレア・ファミリア】のことを聞いて回ったりもした。

その途中で会った【ヘルメス・ファミリア】からの情報でアストレア様が剣製都市に居ることが分かり、会うことが出来たのは運が良かった。

外の者から聞く姉の話は新鮮で楽しかった。家の者は大抵罵っていたからだ。お調子者の団長さんのストッパー、頼れる副団長として活躍していたらしい。アストレア様は少し話しただけで素晴らしい神格(じんかく)者というのは判り、

主神とするのに不足のない方だったのだが、その少しの未練を振り切って、オラリオに向かった。今でも迷宮都市で活動していたのならたとえ少人数でも眷属になっても良かったのだが、

「姉に出来なかった大きなことを成したい」という漠然とした目標を持っていた自分からすると、やはり迷宮都市で実力も名も上げるのが一番だったからだ。

第一「正義の眷属」なんてガラじゃない。姉もそのあたりは自分と同じだったと思うのだが「正反対だからこそあえて選びたくなったのかも」と漠然と思うようになった。

狭い世界しか知らなかった自分にとってオラリオの熱量は圧巻だった。忌まわしくても一応は良い所の生まれなのでお上りさんっぽく見えないように努めて堂々と振る舞った。

街はそれから数日後に行われるという戦争遊戯(ウォーゲーム)とやらの話題で持ち切りだった。

中堅の【アポロン】という所が理不尽に新興の【ヘスティア】に絡んでいるらしい。普通なら【アポロン】圧倒的優勢で勝負は火を見るより明らかだったのだが、

主力の姉弟がレコードホルダーとその次点で、姉の方が特にかなりやばそうなので「もしかしたら」があるかも、といった状況らしい。

入団するなら高名で、【フレイヤ】ほど物騒な印象がない【ロキ・ファミリア】が良いかなと思っていたのだが、

ひとまずその戦争遊戯(ウォーゲーム)とやらを鑑賞してオラリオの冒険者達がどの程度のものか、判断してからにするか、と宿を取った。話に聞いていた【豊穣の女主人】を訪れて【リュー・リオン】の名前を出したら何か勘違いされたのか殺気を向けられた。

そういえば今はお尋ね者っていう話だったか。オラリオの冒険者達は大半が今の自分でも斬れそうな木偶(デク)ばかりだったが、アソコは別格だった。女将を筆頭に今まで会ったことのないレベルの手練揃いで価値観が狂いそうだった。

恩恵持ちと戦ったことがないわけでない彼女はレベル2くらいまでなら恩恵なしの身でも普通に勝てた。稼業の関係で尋常に切った張ったより反撃も許さずに隙を突く殺り方のほうが得意だったが。そんな彼女の眼からしてもあの酒場は魔境に映った。

自身の名前を告げると、「ゴジョウノ」の姓に反応し、「【リュー・リオン】には必ず会わせてやるから今度また来い」的なことを言われた。そうしてそのまま戦争遊戯(ウォーゲーム)を鑑賞した。【クロッゾの魔剣】も凄かったが、やはり一番は「彼女」の魔法だろう。

魔法は数えられるくらいしか見たことなかったが、彼女の魔法(もの)はそのどれよりも圧巻だった。詠唱しながら動き回ること自体が高等技術らしいが、魔法とほぼ縁のなかった自分からしたら何にせよ奇跡のような御業に他ならなかった。

剣技には自信があったが、剣の腕をどう鍛えても()()は出来ないだろう。

それからは熱に浮かされたかのような日々を送り、気が付いたら【ヘスティア・ファミリア】の門を叩いていた。

普通なら高位冒険者が所属する大手が良かったのかもしれないが第一級冒険者とは天災に等しく、「彼女」と似たようなことが出来る者は他にもいるらしい。

なら未だレベル3で既に第一級が比較対象に出てくる「彼女」が第一級になったらどうなってしまうのか。

それに大手に所属するより、新興派閥からどんどん大きくなっていく過程の方が何倍も面白そう、という期待もあった。

そんな思考を僅かに残っていた冷静な部分で展開していたような気がする。

それに想定外の幸運もあった。

面接を終え、手応えもあり、意気揚々と庭に出ると、憧れた「彼女」と、それに似た容姿のなんかシンプルにやべー女が戦っていた。

少しだけ遠目に見た何人かの第一級冒険者達もここまでやばい気配はしなかったのに…え、もしかして他派閥の襲撃?とか当時は思ってしまった。

逃げたい気持ちを抑え、団長さんらの話し声に耳を傾けると彼らの身内らしい。確かに髪の色以外は「彼女」によく似ているが…

その後の流れに身を任せて話を聞いていると、やはりというかその女性も第一級、その中でもほぼ頂点、今の時代では最強の一角らしい。

滅茶苦茶速く動いていたのだが、アレで魔導士だとか。とにかく「アルフィア様が味方にいる」という事実はとてつもなく頼もしかった。

自分の立場では気軽に頼れる存在ではないが…とにかく敵に回す可能性がないだけ喜ばしい。

 それからの暮らしは目まぐるしかった。

早速神の恩恵(ファルナ)を授かったら、やはりというか自分のステイタスはかなり恵まれている方らしかった。

一番嬉しかったのは最初から魔法スロットが3つあり、1つはすぐ発現したことだが。

同郷(極東出身者)がいたことも良かった。【ヤマト(ミコト)】…ミコちゃんは自分から見ても才能があった。

純粋な剣の腕は流石に自分の方が上だったが、それでもゴジョウノ(ウチ)には及ばなくても充分な腕前があった。

まあ彼女の本領はどちらかというと魔法だろう。重力魔法はかなり希少(レア)らしいし。というか発動許したら普通に負ける。

才能があり、努力家で、人格も申し分のない、良い仲間だ。

 タケミカヅチ様がオラリオに()り、自身まで弟子入り出来たことは運が良かった。マリー様は1人で何でも出来る能力があるのに他人との繋がりを大事にする。いや、この場合は主神(ヘスティア)様の縁のお陰か。

それにしてもマリー様が既に弟子入りをしていて下地があったからすんなりといったのだろう。極めた()()()でいた剣の更なる深奥にも触れることが出来た。所詮「つもり」は「つもり」でしかなかったというわけだ。

というか剣士としての純度は幼い頃から学んでいる自分の方が遥かに上のはずなのに、身体能力の差を除いても単純な剣技でマリー様が既に自分に比肩するくらいなのがおかしい。

本格的に学びだしたのは冒険者になってかららしいのに…そうしていつの間にか【イシュタル】と抗争して戦利品らしきサンジョウノの娘(春ちゃん)が転がり込んできた。

家柄も近いし、すぐ仲良くなれた。というか経緯を聞いてみると鈍臭いとか以前に騙され易過ぎだろこの娘…「私が守らねば」と護衛を買って出た。

正直【ウチデノコヅチ】単体ではそこまで凄いと思えなかったが【ココノエ】は確かに凄まじかった。この頃にはぼ確信していた。

普通じゃない人材が次々と集まり、異端児(ゼノス)やらとも関わるこのファミリアは大当たりで間違いなくこの時代の中心だ、と。

人造迷宮(クノッソス)とかいう千年単位で築いていたというけったいな迷宮でその制作者の1人だというバルカとかいう木偶(デク)の首を飛ばしたことでランクアップもした。

手応え的にはレベル4くらいはありそうだったが、明らかに戦闘者の気配じゃなかった。あんなの1人殺ったくらいで上がるとはちょろいものだ。

所要期間約2ヶ月でお二方のレコードには及ばないにしても、【剣姫】の旧レコードより圧倒的に早い第3位だ。

 要するにだ。彼女は少し調子に乗っていた。というか才能と実績を考慮すれば彼女はかなり謙虚な方だった。

圧倒的な光(マリー)遥かな高み(アルフィアとタケミカヅチ)が身近な存在になった彼女からすれば、慢心をし過ぎることなど出来るはずもなかった。

だが、()()()()()調子に乗っていた彼女は今日───産まれて初めての挫折感を味わっていた。

リリルカ・アーデ、先日までは唯のレベル1のサポーターだったはずだ。正直初期メンバーだから優遇されているのだと思っていた。確かに頭の良さ、機転は目を見張るものがあるが、他の初期メンバーのように、

代わりの効かない圧倒的なオンリーワンのようなものはないと思っていた。何回か指揮下に入り、的確な指示だとは思っていたが、所詮及第点レベルといったところだろう。

そもそもの話、大事に育てられた彼女ら新人達は本当の窮地に陥ったことがなかった。だからリリルカの頭脳の「本気」も見たことがない。非常事態でもなければ普段は、手堅く、ありきたりの指示をするのが当たり前だろう。

零細だった頃の初期メンバー達は皆窮地に陥った経験はあるが、そもそもマリーは「鍛錬を積みまくって万全の実力と自信を持って臨めば良い」という考えだったので、わざわざ無駄な危険を侵させる気はなかった。

というか充分な実力を身に着けず博打紛いのダンジョンアタックする多くの冒険者達を見下していた。

実力も精神力も充分に身に付いたと判断したら、自分達圧倒的上位者が「絶望」を味合わせれば、どんな窮地でも最期まで諦めない、胆力と冷静さを身に着けられると思っていたからだ。

亜夜(あや)小人族(パルゥム)を蔑視するような差別意識は特になかった。恩恵のない一般小人族(パルゥム)なら単純に小さいので弱いのは当然だろう。

だが、冒険者となったら、神の恩恵(ファルナ)を得たらあらゆる種族の者が超人になるということが、幼い頃から鍛えられた上で自身もそれを得た後だから容易に理解出来た。

そんなだから「身体が小さく元々は非力」と言った程度でバカに出来るわけない。ただでさえ今の時代には【勇者(ブレイバー)】という傑物も居るのだから。

だが、彼女は、リリルカ先輩は、元々の種族通りに非力で、頭脳労働以外取り柄がないと思っていた。

サポーターの重要さは理解しているし、自身もファミリア上位層の探索に早めに着いていけるようにと彼女からは様々なことを学んでいたが。

だから決して何の取り柄のない木偶(デク)とまでは思っていなかったのだ。だが武力はからっきしだと思っていた。今日マリー様から「手合わせをさせる」と言われた時は「何の冗談か、戯れか」と思ってしまったのだ。

───それが。最大の間違いだと気付かずに。

数日ぶりに会ったリリルカ先輩は最初誰だか判らなかった。双子の姉妹か、【勇者(ブレイバー)】あたりを変身させているのかと思ってしまった。

ランクアップしたなんて話は聞いていないが───というかランクアップした程度でここまで在り方が別人のように変わるわけがない。1レベル程度の変化じゃない。

 

「さて亜夜(あや)様───せっかくマリー様がセッティングしてくれたのです。リリと遊んでくれますよね?」

 

寒気がするほど鮮やかに槍を振るう彼女を見て「この場での挑戦者は自分(こちら)」という意識に切り替えていく。

 

そうしてその場のレベル2とレベル1は激突した。

───

 

「アレは亜夜(あや)とリリルカっ…?」

 

リュー・リオンは闘技場を訪れていた。近々行われる【遠征】を目前に、彼女自身も調整をしていたからだ。

予定しているバロール戦には不参加の彼女は本来【遠征】にも不参加のはずだったのだが、【ヘスティア・ファミリア】の大まかな予定を聞いて自身も参加することにしたのだ。

目前では、今は同じファミリアの仲間である、かつての仲間の妹と、サポーターの小人族(パルゥム)が戦っている。

残像さえ霞むリリルカの高速の刺突。それを亜夜(あや)は防戦気味に刀で捌き続けている。

「槍使いに剣で勝つには三倍の技量が必要」という定説がある。だが、それは常人レベルでの話だ。或いは達人同士にも当て嵌まるのかもしれないが、そもそも恩恵を授かった冒険者たちは(すべから)く超人である。

そして超人同士の戦いにはそんな定石は関係ない。亜夜(あや)も散々、尋常の勝負で槍使いを斬り捨ててきた経験がある。

リリルカは当初刀の間合いに入らせないようにと槍の間合いで射殺すように振るっていた。だが、苛烈な攻めはどんどん増していき、今は亜夜(あや)がどんどん後退していっている。

【ヘスティア・ファミリア】の面子も呆然とした様子で観戦している。

 

「今のリリの攻撃を凌げるなんて流石亜夜(あや)ね…」

 

「姉さん…()()()?」

 

「マリー…まさかっお前っ…」

 

「【施術】はしてないわよ?そもそもいきなりあんなに強くなれるような便利なものじゃないもの」

 

「じゃあアレはなんなんだよっ!?」

 

「変な改造したとかじゃないから安心なさい。アレはリリの中に元々あった力…私のやったことはそれを目覚めさせただけ…」

 

「アレがっ…今のリリ殿っ…」

 

「凄いですリリ様…」

 

「リリちゃん嬉しそうですね…良かったわ…」

 

「ああ…良い表情(カオ)している…」

 

驚いてはいるが、仲間の躍進には皆祝福している。やがてリリが出力を抑えて、2人の攻防は互角程度に落ち着いてきた。リリの【魔眼】の力はここ数日で研究が進んだ。

力を多く引き出すほど眼の赤さが濃くなっていくようだ。現状最低出力の2割で、かなり継続的に使える。これくらいだと眼の色の変化はかなり判りにくい。

3割くらいでほんの少し赤みが増す程度だ。見た目じゃ殆ど判らない。それなりに力を使う5割程度で眼がピンク色になる。

全開の10割だとフィンさん以上に真っ赤に染まり、単独でならほぼ2レベル以上のブースト状態になるが、後に続かないので、仲間が居ない状況やダンジョンではほぼ使うことは有り得ないだろう。

レベル1の身体にはまだまだ負担が大きく長続きしない。そこが解決しても精神力(マインド)の消耗もそれなりなので、考えなしに使うと力尽きてしまう。

自己管理が出来る者が使い手なら滅茶苦茶使い勝手が良いスキルだろう。私も欲しいくらいだ。というかフィンさん的にもこっちの方が良いに違いない。

 

───そうしてその日を迎えた。

いい加減ウラノス様でもギルド上層部を抑えきれなくなってきたので行うことになった私達の遠征だ。

今回の明確な目的は主に3つ。

リリと春姫のランクアップ。これは上層か中層で行う。ベルとアーシェのランクアップ。これは深層のバロール討伐で狙う。

リュディは【偉業】達成扱いになるかもしれないがまだまだアビリティが上がりそうなので、帰還後にすぐにランクアップするということはないだろう。

そしてジャガーノートとの戦闘記録を録るためだ。ロイマン(ブタ)主導で進めているという立杭(シャフト)計画…

それを中止にさせるためのものだ。「ダンジョンの抗体」とも呼べるソレの存在を知らないからそんな恐れ知らずのことが出来るのだ。

現状隣り合っている人造迷宮(クノッソス)にはなんの反応もしていないのだから、そちらの方を迷宮要素を排除して通路だけを拡張し続けるほうが大分安全だろう。

身体の側面に少し穴を空けるのと、身体の中にでっかい異物を貫通させるのとではワケが違う。

「ジャガーノート常駐」くらいのことは普通に起きそうである。だからウラノス様に許可を得てジャガーノートの情報をギルド上層部と

攻撃の破壊力で召喚出来る可能性のある団員が在籍するSランク派閥にのみ流した。

それでも微妙に止まらなそうだったからジャガーノートそのものの恐ろしさを目の当たりにさせよう、というわけである。

【フレイヤ】【ガネーシャ】は微妙だが、リヴェリアさんやレフィーヤがランクアップし続ければ【レア・ラーヴァテイン】の高温でダンジョンの床に大穴を空けるということが、

この先起きてもおかしくない。ということで特に【ロキ】との情報共有が必要だと判断したのだ。

その様子をギルド上層部と【ロキ・ファミリア】、ウチの居残り団員に向けて配信するつもりだ。

 

【折れない魔剣】を完成させたヴェルフもついていく。バロール戦には参加させるつもりなので、彼にもランクアップの芽があるかもしれない。

おばさまやレヴィス達は留守番だ。【フレイヤ】関連を片付けたら、全戦力を投入して70階層以降の完全未踏階層へ探索することも可能だろうが、

「精霊浄化」の目処が立たない限りはまだ60階層以下までは潜りたくない。チンタラしていると【ロキ・ファミリア】が精霊本体を討伐してしまうかもしれないので、なるべく急ぎたいところではあるのだが。

まああの2人がいれば、【フレイヤ】も迂闊には攻められない。本来ならおばさまもベルの【偉業】を見届けたかっただろうが、

【水晶】があれば鑑賞するのにわざわざ現地に行く必要もないのである。深層への引率は私1人で充分だ。

というかレベル5が4人居る時点で私が居なくとも潜れなくはないのだが、万全を期すために、私もついていくのだ。

私は基本サポーターに徹するつもりだ。階段もすんなり上り下りできるように改造した、特別性の荷車を引いて歩く。

 

「さてリリ、春姫、それぞれの【課題】は覚えているわよね?」

 

「インファント・ドラゴンかミノタウロスの単独(ソロ)討伐ですね、リリは【眼】を使わず5体以上ですか」

 

「私も1体、出来たら2体以上ですか…」

 

「そそ、今のリリは1体倒すくらいワケないでしょうから、『小さい偉業』を複数重ねる感じね、同時に出たら纏めて倒してもいいけど」

 

ちなみに春姫はレベル1の中ではかなり動けるようになってきている。

今や剣士としてもそれなりである。極東(同郷)出身者2人の影響もあるのだろう。

魔力の成長に応じて持続時間が少しずつ延長していっているのは確認出来ているので、彼女の成長がそのままヘスティア・ファミリア(ウチ)の成長にそのまま反映される。

ランクアップの方法を色々と考えていたが、自身の武力でのランクアップが見込めるのなら手間が省ける。今回は当然【ウチデノコヅチ】はなしだ。

並行詠唱も習得しつつあるので、大分使い易くなってきている。

そうして辿り着いた12階層…

 

「【ヘスティア・ファミリア】だぁ!お前ら!押し付けろ!」

 

何やら7体もののインファント・ドラゴンに追われる一団がいた。

 

「あら、珍しい」

 

こんなに一度に出るモンスターでもないのに。

 

「リリ、丁度いいわ、あれ全部貴女が片しなさい」

 

私がそう言うとリリが槍を片手に即座に駆け出す。()()()()前の彼女なら悪態の1つくらい()いていただろうが、今のリリは結構好戦的なので反応が早い。

接敵するやいなや、1匹目の喉を素早く切り裂き、2匹目の胸の魔石を穿って倒す。

残りは5体かと思いきや後方から更に沸いてくる。

 

「ええいっもうしゃらくさいっ!」

 

リリがそう叫んで槍を投擲すると纏めて6体ほど薙ぎ払って灰にしてしまった。

 

「うわすっご…」

 

「残り2体…春姫、お願い」

 

「はいっ…ふっ!」

 

1体の首元を抜刀術で斬り裂き、返す刀で2体目に斬りかかる。

動きの鈍った1体目と併せてやがて2体目も討伐に成功した。流石に無傷といかなかったが、その傷も私が治した。

 

「貴方達…私が居た時だから今回は見逃しますが、ウチのレベル1だけのパーティとかに同じことしたらきっちり報復しますからね?」

 

魔力に殺気を乗せて威嚇する。抑えていてもレベル8の威嚇だ。レベル2前後に過ぎない怪物進呈(パス・パレード)した連中は即ビビってあっという間に逃げる。

 

「じゃあ…フィルヴィス。リリ達と地上の方はお願い。2人共…報告期待しているからね」

 

「ああ…そちらも…気を付けて、な」

 

リリと春姫をフィルヴィスに任せ、別れる。

 

その後はリヴィラの街や巨蒼の滝(グレートフォール)でマリィと交流したりして、37階層の白宮殿(ホワイトバレス)にも立ち寄ってウダイオスを瞬殺して大剣をゲットしたりしたが、

少数精鋭の速めの行軍をしたからか、3日で49階層にまで辿り着いた。眼晶(オクルス)からの報告でリリと春姫のランクアップの報告も聞いた。

基本私が寄ってくるモンスターをほぼ不動で魔法だけで迎撃していたので皆殆ど消耗していない。折れない魔剣こと【始高・煌月(かづき)】を完成させたヴェルフは、

それを完成させたあと、積極的に振らせて、魔力を成長させた結果【ウィル・オ・ウィスプ】の射程がかなり伸びた。

ちなみに私も似たような武器を作成した。今引いてる荷台にも応用している。

 

「緊張しているのベル?」

 

「うん。姉さんはイマイチ理解ってなさそうだけど階層主って普通にヤバい相手だからね?ウダイオスとも戦ったこと無いのにいきなりバロールだなんて…」

 

「ウダイオス相手にレベル5が3人がかりじゃランクアップ出来なそうなんだから仕方ないじゃない。それに前に戦った時の”彼”の方が強いと思うわよ?何回か単独(ソロ)討伐しているらしいし……ヴェルフがいるならかなり楽出来るだろうし……」

 

アステリオスを引き合いに出したら目に見えてやる気に満ちてきた。

バロールは大型の強力なモンスターで、知能が高く、その象徴的な単眼から強力な光線(ビーム)を撃ってくるという情報まで知れていたから、

当然魔力攻撃なのでヴェルフのカモになった。1回目潰ししてのたうち回っているところを、ベルとヴェルフとリュディとアーシェの4人がかりでタコ殴りにした。

トドメはベルだった。上手くハメ殺した感が強いが全員でそれなりに削ったのでレベル差も考慮すると恐らく全員ランクアップは出来ただろう。

───そうして、4人を引かせ、準備を整える。荷台を端に寄せ、ギルドと【ロキ・ファミリア】への配信準備を整える。

ちなみにバロール戦までは、ホームの方には流していた。それと信用度の高い一部の連合所属のファミリアにも。

だが、ここからは情報共有したいその2つにも流す。

 

「こんにちは、オラリオの地上の皆様いかがお過ごしでしょうか?ご存知【ヘスティア・ファミリア】のマリーベル・クラネルです。深層からは初めてですが…」

 

「仲間達がバロール討伐を達成しましたのでこのままこの49階層で【ジャガーノート】の召喚を行います。

道具なしの自力で”これ”が可能なのは私にウチのおばさま(アルフィア)とフィルヴィス、【ロキ・ファミリア】のリヴェリアさんとレフィーヤくらいでしょうが、

明確な目的があったとしても、ダンジョンに負担をかける行為なのでギルドの許可なしには絶対に真似しないでください。それではいきます。──────【レア・ラーヴァテイン】」

 

その灼熱の魔法で49階層に大穴が空く。レベル8の彼女が使用するモノなので、リヴェリア(オリジナル)のものより威力は高い。

「抹殺の使徒」を戦うためだけに呼ぶなど正気の沙汰じゃないのだが、魔法が効かなくても彼女にはいくらでも対抗手段がある。

 

ダンジョンの構造物、岩石の床を広範囲に渡って、溶かして穴を空けるほどの超高熱───。そして次の瞬間に()()()()()()()()

 

「骨のような竜…確かにそう呼ぶしかないような外見ですね…生物とは思えない威容だ…」

 

そうしてリュー・リオンにとってのトラウマ【ジャガーノート】が意図的に再召喚される。

 

「それじゃあリューさん、まずは私が一当てしてきますのでっ」

 

そう言うとヴェルフの【煌月(かづき)】を片手にマリーがジャガーノートに躍りかかる。

途中色々な魔法を試すがその全てが、反射されて【静寂の園(シレンティウム・エデン)】にかき消されていく。

そうして今はベート・ローガを凌ぐ速度で斬り結んでいる。

 

「聞いていたのより強い気しますねー、速度だけならレベル7にも届いているように思えます。やはり階層によって強さが変わるのか……。

煌月(かづき)】もいい武器なのに、結構傷んでしまいました。あの爪はマトモに身体に入ったら第一級でも無事では済みませんね……。

リューさんどうします?過去に貴女が見たものより強そうですし、自信ないならもっと上の階層で……」

 

「抜かせッ!」

 

リュー・リオンは吠えた。正直メチャクチャ恐かったが、ここで背を向けたら二度と冒険者に復帰出来ない気がする。

何よりここでの戦闘はアストレア様や、リヴェリア様を始めとした複数の同胞達が視ているのだ。彼女らに情けない姿を見せるわけにはいかない。

新たに提供された武器は第一等級武装ともいえるランクのものだ。あの破爪(はそう)とも打ち合える。

近頃は対ジャガーノートを想定して、レベル7級の速度に合わせたマリーとも斬り結んでいたのだ。

どのみち仕組まれていたこととはいえミノタウロス(トラウマ)を自力で乗り越えたベルのようにここで超えなければ、リュー・リオンに未来(さき)はない。

しかもあの時とは違って今ここには、最悪の時には助けに入れる力量の仲間が複数いるのだ。

そんな益体もないことを考えてリューはジャガーノートに斬りかかった。

ベート・ローガや魔法なしのアレン・フローメルをも凌ぐであろう速度。このサイズのモンスターとしてはこれ以上の速度を誇るモンスターは今のところ確認されていないだろう。

だが、彼女はレベル5の性能(スペック)でなんとか渡り合えていた。マリーの剣技も取り入れた彼女は着実に力を付けていた。

 何よりマリーの、これ以上の速度と人の技が入り乱れた斬撃に比べれば、最速効率でこちらの命を()りにくるだけのジャガーノートの攻撃は(すこぶ)る読み易い。

5年前(あのとき)のようにあまりにも性能(スペック)で突き放されていれば、その機械的に高効率な攻撃もとてつもない脅威だっただろうが、今の彼女ならなんとか追いすがれる。

一番の脅威の斬撃を剣で凌ぎながら足技等も混じえて、そこまで高くない耐久力のその装甲を徐々に砕いていく。

(よしっ戦えているっ…あの時とは違うっ…爪は6本でも腕は2本だけ、充分剣1本で対処出来るっ…)

勝機を見出したリューはその第3魔法を得意の並行詠唱で使用する。斬り結びながら。防戦で凌ぎながらでなく積極的な白兵戦をしながらの詠唱。

マリーは割と最初からしていたから、感覚が狂いそうになるが、魔法剣士の極みと言ってもいいレベルでの並行詠唱だ。

その場で観戦していた同胞(エルフ)達は思わず息を呑む。同時に誇らしくなった。どんな汚名を被ってもアレこそが、強く誇り高い自慢の同胞なのだ、と。

同族意識の高いエルフだからこその感覚だ。ムダに数の多い人間(ヒューマン)には理解らない感覚だろう。

 

「【使命は果たされ、天秤は正される。秩序の砦、清廉の王冠、破邪の灯火。女神の名のもとに、天空を駆けるが如く、この大地に星の足跡を綴る。正義は巡る】」

 

その魔法を詠唱しながら、打撃で砕いていた身体の部位に剣を突き立てる。

 

「【炎華(アルヴェリア)】!」

 

その言葉と共に装甲の剥がされた身体の内側から炎が爆発のように(ほとばし)って全身に燃え広がり、灰になる。

元々短かった寿命だったがそれよりも更に早くダンジョンに還っていく───

 

「アリーゼ…みんな…アストレア様…やりましたよ…」




バロールはナイツオブフィアナで知能が高めでなんかすっごい光線(ビーム)を撃ってくることくらいしか覚えてなかったのでダイジェストにしてしまいました。

ベル君のアルフィアの呼び方

  • おばさん
  • お義母さん
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